今夜も眠れない12(適当)



これの続き。

 もうすぐで受付業務の交代時間だ。まあまだちょっと時間があるんだが、俺にとっては仕事が終わることより楽しみなことがある。
「イルカ先生。あとちょっとでしょ?」
「はい!ええと交代がくるまで少し待たせちまってもいいですか?」
「もちろん。じゃ、ここで待たせてもらいますね?」
「はい」
 お迎えなんてこっ恥ずかしくも嬉しいことが、任務で里を出ている時でもなければ毎日だぞ?これで脂下がらない訳がない。目下の悩みはそこなんだよなぁ。無意識ににやけちまうってのを止めるのが難しいんだ。
だっていい子で待ってますって態度なのに、愛読書で視線を隠しつつ、チラチラこっちを見てくるんだぞ?仕事が本気で立て込んで遅れそうなときでも、本読んでますからとかいうのに視線は文字を追わずに俺のことを見ている。待たせるのが申し訳ないなと思うのに、そわそわしながら待っていてくれてるってのがな、胸がときめくってこういうことなんだなって毎回思う訳だ。
 もちろん無駄に待たせたくないから仕事をいつも以上に能率を考えてとっとと片づけるようにもなった。それに確実に仕事が終わらないときは前もって報せておくことにしてるけど、一緒にご飯が食べたいからって弁当持ってきてくれたりするし、俺はもしかしなくても五大国一の幸せ者なんじゃないかと思う。
 要するに幸せすぎて困ってるってことだ。
「へへ」
「…おい。イルカ。気持ちは分かるがそろそろいい加減にしろよ?そういうのは家でやれ。家で」
「お、おう。すまん。ついあの人がかわいくてなぁ」
「…素なのはわかってるけど、本当にお前いい加減にしろよ?」
 同僚の苦言はもっともだ。職場でへらへらするのは、特に受付は危険な任務を終えた忍が集まる場所なんだから失礼だってのは分かっているつもりだ。
 ただどうしても視界にあの人がいると頬が緩んじまうんだよなぁ。困ったもんだ。
 まあ困ったことは他にもあるんだが、それは、うん。
「…おい。今度はどうした?」
「えーあーその。なんでもないぞ?」
「そ、そうか?はたけ上忍が殺気…いや、心配そうにしてるから、お前本当にほどほどにしろよ?」
「おう!」
 そうだった。マズイ。カカシさんに心配なんてかけられないもんな。それでなくても俺をガラス細工かなんかと勘違いしてるんじゃないかってくらい心配する人だ。敵陣に一人で突っ込んで活路を開いたことだってあるし、捨て駒よろしく激戦区に取り残されたこともあるし、仲間だと思ってたヤツに裏切られて背中に大穴空けられたことだってあるんだけどな。無理しないでねとか、お前が言うなって思うけど、本気で言ってるのがわかるから心配されると胸があったかくなる。
 そうなんだよなぁ。あの人は色々と矛盾の塊なんだ。
「はぁ」
「お前さ、もう帰れよ。そんで色ボケた頭なんとかしてもらってこい」
「うるせーよ。まあうん。カカシさんとはこれから飯一緒に作って食ってイチャイチャするけどな」
「真顔でそれ言えるところはちょっとだけ尊敬するわ…。がんばれよー」
「またなー」
 そそくさとその場を後にしつつ、音もなく側に立ってくれている人の手を握った。
「帰りましょう」
「ん」
 そっけないようでいて、ぎゅうっとこう手を握り返してくれるんだよ。そこがまたたまらん。かわいい。なんなんだもう。
 なんだかんだ言いつつ応援してくれる同僚に感謝しつつ、連れ立って歩く。さりげなく俺の食べたいものを探ってくるカカシさんの優しさを堪能し、かつカカシさんが食べたそうにしているもののチェックも怠らない。ポーカーフェイスなんだけど、好きなものは目で追っちゃうんだよな。さんまとかナスとか。料理の腕はからっきしな分、下ごしらえは俺が手伝っている。切るだけならできるんだ。切るだけなら。切りつつ煮たり焼いたり混ぜたりってのが苦手なだけで。なんでできないのかは、調薬は割と得意な方なだけに、自分でも疑問だ。粥は作れる。うどんとか麺類もゆでればいいだけだからなんとかなる。そこから先は全然できない訳じゃないが上手いとは決して言えないレベルだ。
 カカシさんは俺が作るからいいよって言うけど、俺だって美味いもんを食べてもらいたいから少しは頑張らないと。
 二人で買い物をするのにも慣れ、はじめは見知らぬ覆面男は誰だとか言われてたのが、今はイルカ先生んちのカカシさんって呼ばれるくらいに親しまれている。料理に詳しいのが特におばちゃんたちのツボだったようで、よく井戸端会議みたいなのを開いては教えてもらった新しい料理を作ってくれるんだよな。すごいですねって言ったら、イルカ先生には美味しいもの食べてもらいたいからなんて言ってくれて、思わず抱きしめちまったくらい嬉しかったっけ。
 いいよな。こういうの。こんなかわいい人絶対他にいない。
どさくさに紛れてモノにしてしまった気がしないでもないんだが、これからも好きだって言ってもらえるように頑張らなきゃな。
 決意はするものの、カカシさんがいちいち可愛すぎてついつい顔のしまりが緩くなることについても気を付けようと心に誓った。
*****
 何だかんだとおすすめ品の山をかいくぐりつつ買い物を終え、一緒に台所で料理を手伝い、風呂の支度なんかもすませてとびっきり美味い飯を堪能した。
 飯ときたら次は風呂といきたいところだが、ここが問題なんだ。
 皿洗いがあるのと俺の方が長風呂だからといつも先に入ってもらってるんだが、最近それが上手くいかなくなってきつつある。
「イルカせんせ」
 甘ったるい声で距離を詰めてくる。こういうときだけ眠そうな目が獲物を狙う獣のように鋭くなるから不思議だ。
「カカカカカカシさん!あの!まず、皿!」
「ん。後でね?」
 洗いかけの食器は盥の中に沈んだままだ。それなのにすっかりその気になったカカシさんが腰を擦りつけてくる。
 今までだって飯の支度をしてたことも一緒に飯を食ったこともあるはずなのに、こうなってからはすっかりタガが外れたらしい。俺だって気持ちいいのは好きだけど、こうも毎日毎日ってのは普通なんだろうか。内容が内容なだけに誰にも聞けないままだ。
「…ッん!あ、ダメで、ここじゃ」
 台所でなんてできれば止めていただきたい。初めてこうされたときは何が起こってるのか把握しきれなくて押し倒されてさんざんやっちまったが、新妻の料理姿をみてときめくような気持ちでいたはずなのに一瞬にしてエロ本に載ってるようなことを実体験しちまう羽目になった。
 風呂の後ならまだいい。でもこうやって急にスイッチが入ることも多くて困っている。
 何にってそりゃあ。…俺もこんな色っぽい顔でくっついてこられたら止まれなくなるからに決まってる。
「ベッドの上がいーい?お風呂でもいいよ?でもすぐしたい」
「…べ、ベッドがいいです…」
「りょーかい」
 お許しを貰ったとばかりにもつれあうように寝室に転がり込んで、服も競い合うように脱がしあってそこから先はもう。いけるところまでお互い突っ走る以外にないだろ?
 一難去ってまた一難になるのか。これも。
 新たなる悩みは、カカシさんから誘われるとついつい俺にも火がついて、お互い盛って歯止めが利かないことだ。こっちの仕事は気合でなんとかなるが、カカシさんが心配なんだよ。…とはいえ、回数を減らせないのは確実に俺のせいもあるから何も言えないんだが。
「イルカせんせ。好き」
 せわしなく口づけを交わしながら、続きをそそのかすように背に腕を回した。

 そして今夜も眠れない。


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適当。
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もうちょいで引っ越しゆえ、荷詰めやら仕事やらネット環境の関係で更新速度が落ちまくっております。もうちょいがんばりたい。

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