今夜も眠れない11(適当)



これの続き。

  心地良いひと時だけ与えられた憩いの場は、いつの間にか俺の帰る場所になっていた。
 勢いでやっちゃった翌日にプロポーズされちゃうとか、ホントこの人といると新しい発見ばかりだ。
 自分の弱さも、それから堪え性のなさもこの人がいなければ気づかないままだっただろう。好きだなんて言えないまま静かに色々諦めたまま、指を銜えてみているのが精いっぱいで、それから気づかないうちにすり減って弱って、そのうち全部諦めたまま生きることを止めていたかもしれない。
 そう思うと今の状況が信じられない奇跡のように思えて、ついついにやつくのを止められない。
「ねー?いい加減気持ち悪いわよ?何か悪いモノでも食べたの?」
 同僚に不審がられるほど感情を表に出したことなんてあっただろうか。それだけ今の生活が得難いものだってことだよね。
 幸せだと訝し気に随分と失礼な質問を投げかけてきた女にも優しくできる。イルカ先生に秋波でも送られたら一瞬で血祭かもしれないけど、それ以外のことだったら応援だってしちゃうかもね。それくらい舞い上がっていた。
「俺のお手製だから悪いモノってことはないと思うよ。イルカ先生も元気だし」
 そう。すごく元気だ。昨夜は夜の任務が入って帰還が大分遅くなったけど、寝ぼけ眼で抱きしめてくれてそのまま雪崩れ込んでたっぷりかわいがらせてもらったから、多少の疲労なんて気にもならない。
「そういえばアンタイルカ先生にかわいがってもらってたんじゃないの?お手製ってなに?もしかして上手くいったの?」
 腰を据えて聞き出す気になったらしいくノ一が獲物を見る目でニヤニヤと真っ赤な口紅を塗りたくった唇を歪めているが、今なら鼻歌交じりにこたえられそう。俺の恋人がどんなにすばらしいかなんて俺以外が知る必要はないけど、どんなにかわいいかくらいなら教えてやってもいいよね。ちょっとだけなら。
「一緒に住んでるしもうプロポーズもされたし?料理は俺の方が得意だから俺がやってるの。すっごく美味しそうに食べてくれるんだよねぇ。幸せそうに」
「…へ、へー?」
「それにね。すっごく優しいの。怪我なんて日常茶飯事だし、痛いとかそんなの気にしてられないと思ってたのに、里にちょっとでも怪我して帰るとものすごく心配してくれちゃうんだもん。たまんないよね」
「…イルカ先生も大変ね」
 ちょっと昨夜の痴態…もとい、かわいいイルカ先生のことを思い出して多少顔に出ちゃってたかもしれないけど、何その態度。失礼しちゃうよねぇ?
 もっとイルカ先生の良さを分かってもらいたいけど、魅力をわかりすぎて取ろうとなんてされたら手加減とかできないしそういう意味では困っちゃうかも。
「イルカ先生はさ、俺を守ろうとしちゃうんだよね。俺、上忍じゃない?それもそこそこやれる方だと思うんだけど、俺を守ろうとするときのイルカ先生はスゴイよ?本気で俺より強いかもって思った」
 心意気が違うっていうのかな。あの時の無鉄砲さと躊躇いのなさには心臓が止まるかと思うほど怖かった。でも、俺を安心させようとして笑ってくれたところとか、絶対に守るつもりでもっと頼っていいって言ってくれたところとか、もうね。最高に恰好良かった。
 最後まで諦めるなって、笑って一緒に戦ってくれる。そんなところもすごく好き。
「そう。幸せみたいね?」
「うん」
 その質問なら即答できる。俺は多分自分史上最高の幸せを手に入れた。
 優しくて強くてかわいくて無鉄砲で、ほっとけないのに俺のことをほっとけないなんて言っちゃうかわいい恋人を。
「ゴチソー様。ちゃんとイルカ先生のこと大事にしなさいね?」
 溜息とセットってところはいただけないけど、どうやらこれ以上面倒なことは起こらないらしい。それならそれでいいんだけど、一応釘は刺しとかないとね。もともと男が好きって訳じゃない人だし、いまだにヤった後色々葛藤してるし、今こんな女にちょっかいかけられたら厄介だもん。
 ま、指一本触らせる気はないけどね。
「当たり前でしょ?俺のだから上げないよ?」
「間に合ってるからいらないわ。あの子はすごーくいい子なんだから大事にしなさいね?下手なことしたら親代わりが山ほど出てきちゃうわよ。って言わなくてもわかってるでしょうけど」
「んー。そうね。…独り占めしたいし、頑張るかなぁ」
 あの人を大事に思っている人が多すぎて、時々全員蹴散らしたくなる衝動に駆られる。懐が大きいところがあの人の好さではあるんだけどねぇ?誰彼構わず俺の大事な人に触るなって思う気持ちも本当で、ただの友人を装っていたときより束縛したい気持ちが強まったのは事実だ。友達面して側にいたときも、こいつら全員殺せたらなーって思ってもいたけどね。
 最近はだって好きなんだもん。って、開き直っちゃったら大分楽になった。
「ほどほどにね。じゃあ」
「ん。またね」
 言いたい放題言って颯爽と去っていく背中を見送った。俺もそろそろ行かないと。
 今日の晩御飯は何にしようかなー?毎回毎回まん丸にしたキラッキラした目でたくさん食べてくれるから腕の振るい甲斐がある。
 一緒に食事をして、一緒に眠るだけでも幸せで、それだけで我慢できると思ってたのに。すぐに手放すはずだった幸せな時間は今も俺の手の中にある。
 時々、手に入ってしまったこの幸福が信じられなくなるときもあるけど、そんなときも側にいて大丈夫だって言ってくれるから平気だ。
「さてと。行きますか」
 今日は受付任務だけど、あとちょっとで終わる頃だ。待ってるとそわそわしてちらちらこっちを見てにこーって笑ってくれるんだよねぇ。思い出すだけで胸があったかいもので満たされる気がする。
 緩みっぱなしの頬は一緒に洗濯した顔布が隠してくれた。

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適当。
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