これの続き。 人生何が起こるかわからないもんだ。そうやってしみじみと浸る暇もないほどに目まぐるしく事態は変わっていく。 例えば目が覚めたら昨日まで怪我人だと思っていた人が、色気を垂れ流して人のことを抱き込んでたりな。しかも別の意味での怪我は昨夜の俺が増やした。 心配していた怪我も、まだ生々しい傷痕こそ残っちゃいるが、十分に動けるほどに治っていたらしい。そこはいいんだ。そこは。 事後ってのがこんなにも恥ずかしくて生々しいものだと思わなかった。 お互いやることやったんだし素っ裸なのはともかくだ。同性の裸にしっかり反応しかけた己にまず驚いて、そういやさっきやたら抱き心地のいいものがあったなってことと、目が覚めたらこの人が顔覗き込んできたんだよなってことと、昨夜何をしたかってことと、まあとにかく、いっぺんに記憶が甦ってきて思わずこのまま意識を手放したくなった。 だってな。いるんだぞ?惚れた相手が蕩けそうに甘ったるい声で朝の挨拶だぞ?狼狽えてるうちに昨日の名残をありありと感じさせる素肌の感触に反射的に身構えて、その挙句とんだ粗相まで。 出したものは出てくる。そりゃそうだ。当たり前の話だ。だから今更恥ずかしがってどうするって、頭じゃわかってるんだよ。だがそれとこれとは話が別なんだ。 もうな。いたたまれないってのはこういうことを言うんだと俺は思う。尻だぞ?しかも口にできないようなモノでどろっどろにされて散々色々された痕が、自分の体に残っていて、その上垂れ流しなんて最悪だ。そのくせ体はそんな刺激にさえ疼いて、朝っぱらから妙な気分になりかけた。ショックなんてもんじゃない。 これを泣かずして何を泣く。好きな相手だからこそそういうみっともないところは見せたくないもんだろ?普通。気持ちいいのが怖いなんて言ったらこの人が泣くだろうから言えないし。 昨夜散々もっととんでもなくみっともない姿を見せた可能性が高いってことは置いておいて、とにかくこの状態を何とかしたくて、飯という魅力的な提案の前に風呂を希望した。いう前に風呂場に運び込まれてたけどな!ははは!…はぁ。 そこまでは良かったんだ。足腰の状態が怪しかったから、運んでもらえたのはありがたかった。シーツもどうせ洗うつもりだったし。 そこから先がもう色々と、本当に色々とおかしかった。まず粗相の痕跡をまじまじと見られるのも辛かったし、謝られるのもいたたまれなかったし、赤ん坊を世話するみたいに甘やかされるのも尻が痒くなりそうだった。まあ実際は痒いどころか指を突っ込まれて散々…うぅ…! 綺麗にしなきゃって言葉は多分嘘じゃなかったはずだ。ただそれについつい反応したのは、綺麗にすべき箇所以外に歯を立ててきたり、キスしてきたり触ってきたりするから悪いんだ。 本人は悪びれるどころかやたらと真剣な顔でやってくれるからこっちも怒り辛い。 多分無意識なんだろうなーってのは察しがついた。だからさっさと体を洗って逃げたかったんだ。どれもこれも叶わなかったけどな。 体を洗う前にシャワーを奪われるし、だからってこっちから洗ってやろうとしたら今度は手ぬぐいも奪い取られるし、石鹸の泡でぬるぬるしたままどっちも奪い合ってたら唐突に興奮した声で、一緒にシようとか言いだしてなんだよって視線を下げたら大変元気な下半身がだな…。 しかも自分の方もだ。手ぬぐい奪うのに必死なのが色っぽいとかかわいいとかやっぱり好きだとかそういうことは考えてたが、まさかこっちまですっかりやる気とまでは思わないじゃないか。 手で、なんて。 自分のならともかくとして、他人のなんて触ったことがない。もたくさしてる間に握らされて一緒にとかかわいいとか余計なことばっかり言われて気づいたらあれだけやった後だってのにすっかり盛り上がってまた風呂場のタイルを汚す羽目になったんだった。 人生ってのは本当に何が起こるかわかんないもんだよなぁ。 「はい。お味噌汁。ごはんも炊けたし、こっちは卵焼きね。カカシ風」 「おおお!美味そう!」 「召し上がれ」 「いただきます!」 炊きたての飯ってのはそれだけで美味そうに見えるが、味噌汁に卵焼きにおかずなんかの燦然と輝く飯たち…なんてすばらしい朝なんだ!普段はパンと牛乳か飯と納豆とかそんなもので済ませていた。この人が怪我をして転がり込んできてからは多少は気を遣って野菜を増やしたつもりだったけど、こんなに美味そうな飯が作れるなら、俺の用意した粗末な飯は口に合わなかったんじゃないだろうか。 それにこの短時間でこの量、この質。もう料理が得意とかそういうレベルじゃないよな。これは。風呂上がり…というかまあ余計なこと込みではあったが、とにかくそれから少しの間ぐったりしてただけなのに、これだけの量の飯を作れるってすごいよな。卵焼きなんて誰が作っても一緒かと思ってたが、こんなにも味に違いがでるもんなんだなぁ。香ばしさも塩加減もまるで違う。俺が作るとよく真っ黒になるのに、この人が作ったのは甘いのに焼き色まで美しい。 「美味い…!」 「いっぱい食べてね?」 笑顔がまぶしい。さっきまでその手が何をしてたか思い出したら憤死しそうだ。なんでこんなことになってんだかわからないが、とにかく飯はどれも美味い。 「…カカシさんの味噌汁なら毎日だって飲みたいなあ」 誓って言う。他意があったわけじゃなくて、ただひたすらに飯が美味かったからついぽろっと言っちまっただけなんだ。 たったその一言だけで、この料理すらも完璧な上忍が目をまん丸くして驚いて橋を転がすなんて思いもしなかった。 「毎日、作りますよ」 手を握りしめられている。振りほどけないのはその指の力強さのせいだけじゃなくて、この人があまりにも真剣な顔をしているからだ。 そう。世の中何が起こるかわかんないもんだ。 例えば好きな人が手を握ってくれて、その勢いのまま自分から恥ずかしいセリフを口走っちまうなんて想像したこともなかったのにな。 「お願いします」 「ん。よろしくね?」 その時だ。頭の中で高らかに鐘が歌い、その微笑み一つで花が咲き乱れるように輝いて見えたのは。 プロポーズかっこ良かったと惚気られて死にそうになったのはさておいて、俺の人生の中で一番輝く光景は、あの時の笑顔だったかもしれない。 ******************************************************************************** 適当。 ご意見ご感想などお気軽にどうぞ(`ФωФ') カッ! |