これの続き。 火影って立場は便利だ。そう気づくのに随分と時間がかかってしまった。 ご意見番達がどんなに騒いでも喚いても、せっかく立てた大戦の英雄ってラベルつきの看板を下ろしたがらないことを知ってしまえば―欲が出た。 だってねぇ。これからずーっとあいつがこの後を継ぐまではここに座っていなきゃならないんだし、ここから降りても多分死んでも忍を辞めさせてもらえるってことはない。だって俺にはそれだけの利用価値がある。英雄の名の重さを背負わされて自滅にまで追い込まれた人を父に持つ俺が、それを知らないはずがない。 それなら多少の我儘ぐらいは言っても構わないでしょ? おねだりという名の脅しは、苦虫を噛み潰したような顔をされつつ受け入れられた。 「ん、じゃ、これ、決定ね?」 「長らく忍の教えを統括する立場にあった火影を、むざむざと上忍でもない忍に譲るなど嘆かわしい…」 「ふん。もし支障がでれば即変更させるからな。わかっておるじゃろう?」 グチグチと煩いけど、それも気にならないくらい浮足立っていた。 これできっと、色々変わるだろう。…ほんの少しだけ私欲交じりの決定は、この里をより安定させてくれるはずだ。 あの人ならそれができる。 「うみのイルカを呼んでください。…なんてったって任命権は火影にありますからね?」 足腰の弱った老人たちは悪態をつきながら暗部に護衛されるって体で執務室を追い出された。後輩たちの手際の良さとさらにその後輩たちへのしつけが行き届いていることに満足して、深く椅子に座りなおした。 「…あいたいなぁ。はやく」 ずっとずっと我慢してたんだもん。ちょっとくらいいいよね? 教育は里を支える要だ。血族がどうのと騒ぐ時代は…多分もうすぐ終わる。少なくとも今の形で存続することはできない。 里外からの血の流入も、里の主だった忍たちの里を跨いだ婚姻が続いたのもあって、今や羨望をもって迎えられることすらあるんだから、この同盟関係は少なくとも俺が生きている間くらいは維持できるかもしれない。ま、大分希望も含んでるけどね。 だから、それを後押しする一手が欲しかった。それが適任な人なんて一人しかいない。 次代火影の師にして、英雄たちを支えた教師。なーんてね。自分じゃあの人は言わないし、多分それがすごいことだと思ってさえいないだろうが、里のそれなりの立場にある連中は、未だにこそこそあの人を利用できないかハイエナみたいに狙っている。 あの人の性格が幸いして今はまだ無事でいてくれるけど、放っておくのは得策じゃない。 「頑張ってもらわないとね。校長せんせ」 任命権を火影に残したのは、アカデミーへの干渉ができなくなることをご意見番が恐れたのと、俺自身、完全に目を離せば確実に狙われる場所だと判断したせいもある。 その理由にほんの少しだけ、あの人に会いたいって感情がなかったかなんて言われたら、ね。 「あいたいなぁ」 もうすぐあえる。それが最後には…多分ならない。システムを変えるってのは、そう簡単にはいかないもんだしね。 あいつの担当だったころだって相当苦労したはずだ。その人に、また無理を強いている。あの人じゃなきゃできないと確信しているから。 そのどこまでが里のためで、どこまでが私情なのかなんて、もう俺にだってわからない。 「六代目。本日、日没までにはこちらに来るように伝えてまいりました」 「うん。ありがと」 そうだね。あの人の性格からいって、仕事をすっぽかしてくるなんてことはできないだろう。もう教頭だっていうのに真面目だよね。 お茶は幸いやたらと上等なのがそろえられてるし、茶菓子も何かを察した後輩たちが買い込んできてくれている。 できれば少しゆっくり話せればいいんだけど。 太陽はいまだ高い位置にいて、里を隅々まで見渡せるほどに照らしてくれている。まるで、あの人みたいだ。 曇り一つなく磨き上げられた窓ガラスには、自分でも一瞬驚くほどやけに嬉しそうな顔が映り込んでいた。 あの人の大好きな子どもみたいに。 ******************************************************************************** つづき。後ろ向き上忍祭。 |