これの続き。 逃げて逃げて、つかまったから絶対に思い通りに出来ない姿になってやった。 本当はただそれだけのことなのに、この人はいつだってこうして悩んでいる。 …俺のことだけを考えて。 「イルカせんせ!」 昼間の俺はすっかり全てを忘れて、大好きな人のことだけを考えて過ごしている。 沈み込んだ自我は困ったような顔で笑う愛しい人をずっと見つめてはいるけれど。 過去を全て封じた俺を、上層部が切り捨てる可能性はもちろん考えた。 ただ、それをしないだろうという自信もあった。 なにせ偉大なる火影は情に厚い。そしてそれゆえにかつての弟子が人の道を違えるまで気づけず、気づいてもなお追うことすら満足に出来なかった男だ。 とはいえ、なにもかもが思い通りになるはずもない。 木の葉の里の生温さに眠る陰湿さを、俺は誰よりも知っている。 他里に比べて穏健だと思われているが、異質なものたちをより合わせて作ったはずの里は、だが誰よりも異質なモノに対して敏感で閉鎖的だ。 それにそむくものを排除し、自らの安寧ばかりに気をとられ、本質を見ることが出来るものなどほんの一握りに過ぎない。 …そのうちのほとんどが私欲を優先しているのだから、当然か。 この里は見た目ほどは美しくはないのだと随分幼いころに悟った。 ここは思い出が降り積もり眠る場所に過ぎない。 俺を残して逝ってしまった人の思いを果たすために戦い、いつかは使い捨てにされるのも悪くない。 もう大事な人など誰一人として残っていないのだから。 そう思っていた俺を変えたただ一人の人さえ、この里は奪おうとした。 なら俺がその全てを捨てて何が悪い。 捕らえようとしたものが唐突に消えてうろたえる連中をみるのは楽しかった。 今はもう、誰もあの人の命も、体さえ傷つけることができない。 二人をつなげるために幾重にも掛けた術を解くことができるモノはとっくの昔に逝ってしまった。 そのために時間稼ぎもかねて派手に逃げてやったんだから、今更慌てても騒いでも無駄なんだよねぇ。 あわよくばこのままあの人と一緒にと思わなくもなかった。だがあの老人が逃がしてくれるとも思わなかった。 執念深い老人たちを出し抜くために、任務でもやらない位に周到に手を打っておいて正解だ。 二重三重に張り巡らされた罠にはまった連中は、いまさら子を為せなどと戯言を口にする位には取り乱しているようだ。 身に着けた用心深さはそれなりに役に立ったものらしい。 この人の下に返したのは、一縷の望みを託してか、それとも単なる老人の感傷か。 どっちでも構わない。そんなことはどうでもいいことだ。 俺が抱くのはこの人だけ。この人にも…もちろん俺以外の誰にも触れさせない。 もう少し、この人が俺のことを思いすぎて壊れてくれるまでは。 それまではこの姿でいようと決めている。 「この間は失敗したけど…諦めるつもりなんてないんだよ」 触れると無意識に俺を感じてふわりと笑うこの人が、どれだけ追い詰められていたか知っている。 失うことを誰よりも恐れているからこそ、自分さえ殺そうとしたこの人の苦痛を、甘いと感じる自分が疾うの昔に狂っていることも。 「だって愛してるからね?」 深い眠りに落ちた恋人に愛をささやいて、うっとりと目を細めた。 一緒にどこまでも落ちてくれるまできっともうすぐ。 そうしたら、誰の手も届かない所にさらって逃げればいいだけだ。 その日を待ちわびながら、俺もゆっくりと瞳を閉じた。 ********************************************************************************* やっぱり薄ッ暗い感じで一つ。 愛ゆえに留めようとしたり、愛ゆえに逃げようとしたり…。 逃げる代わりに夜の間だけ帰ってくる恋人との愛に溺れた生活はじまったりはじまらなかったり。 ニーズは…あるのか…。 続いたら微妙だろうか…。 ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |