彼の人のごとくありて(適当)

「追いかけてきてね?」
それだけ告げてある日突然姿を消した男が、まさかこんな形で戻ってくるとは思わないじゃないか。
「カカシさん…」
「はーい!イルカせんせ!」
てとてと軽い足音は、本来のあの人ではあり得ない。
いや、そもそも足音立てること事態が不自然なほど、この人はいっそ生まれながらにして忍であったかのように、人らしさを持たなかったはずだ。
それがどうして。
細い手足も、俺の腰にも届かない背丈にも、違和感ばかりが残る。
ここにいるのはただの幼子だ。それも忍としての能力などかけらも持たない普通の。
幼い頃から俺が想像も付かないほどの任務に就き、長じてはビンゴブックに載るほど名の知られた忍となったあの人が、こんな姿になった理由を俺は知らない。
どうせなら、別人だと思い込めたらよかったのに。
「カカシさん。今日は何か思い出せましたか?」
「わからないです…でも、イルカ先生が泣いてる夢を見ました」
「そうですか」
この問いかけを、幾度繰り返したかわからない。
いつも決まって何も思い出せないと告げる子供が、この所少しだけ違う話をしだしたことに期待もしたが…正直諦めてもいる。
この子供がそんな夢を見ているのは、俺のせいなのかもしれない。
何かを思い出したわけじゃなく、人の感情に聡い子供が、俺の苦痛を感じ取っただけなんじゃないだろうか。
最初は隠し子でも作っていたのかと思ったが、この子は間違いなくあの人そのものだ。
奇妙なことに、あの人につけた傷も、指輪代わりに交わした術印も、そっくりそのままこの小さな身体に残されたまま、その赤い瞳だけが封印でもされているのだろうか、開くことなく眼窩に収まっているらしい。しかも、その原因は白眼で見てもわからないと言われた。
俺に打てる手などもうない。
追いかけろといったその人を、切りつけてでも俺の側に留め置こうとした俺には。
「イルカ先生!ご飯作る?」
「…そうですね。おなかが空いたでしょう?ちょっと待っててください」
「はぁい!お手伝いします!」
かわいい返事に、ご意見番が下した結論を伝える日は随分と先になるだろう。
忍としての才を残せるように子をなせといわれても、この幼子にできるはずがないのだから。
それに安堵している自分に反吐がでる。
…この人が、こんな姿になっても俺は。
いずれ俺以外の手をとって、幸せになるこの人を見るくらいなら、そのときに自分も消そう。
追って来いと言ったあの人は、この姿になったときにきっともうずっと先で待っているだろうから。
ぼんやりとうどんでもゆでるかと鍋に水を溜め始めたとき、幼子が後ろからしがみついてきた。
「これで、俺だけのもの」
うっとりと酔ったような声で笑う子供の顔は見えない。
幼さゆえの拙さなどどこにもないその話し方はまるで…あの人のようだ。失ってしまったはずのあの人が、睦言をささやくときの声そのものだ。
「カカシさん」
「イルカせんせ」
幼子のものか、それともあの人のものか。
判然としない甘い声が酷く恐ろしかった。
…どちらにしろ、俺を支配する存在であることに変わりはないのに。
しがみつく細い指に、とっくの昔に捕らえられている。
引き剥がし、抱きしめた途端、幼子が笑う声がした。
…この悪夢に終わりなどないのだと告げるように。


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薄ッ暗い感じで一つ。
なににしようかなー?次。
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