独占欲9(適当)




これの続き。 



「暗示か刷り込みかねぇ?」
コトンと頭を預け、寝入ってしまった人は、明らかに何かに囚われている。
それもちょっとやそっとじゃない。
こんな風に苦しんで耐えなきゃいけないほど強く、この人を縛り付ける何か…正体が分からなくても、厄介なものであることには間違いない。
しどけない姿を眺めているのも楽しいけど、流石にそろそろ風呂から出ないとマズイだろう。
こうしてみると自分でも気づかないうちに執着心を暴走させていたのかもしれない。随分とたくさん痕を残してしまった。
「…逃げそうなんだもんねぇ」
ある意味本能に駆り立てられるかのように、この人は必死で逃げようとする。
そのくせ腕の中に閉じ込めるとこうして安心仕切った顔でしがみついてくるんだからタチが悪いというかなんというか。
俺のモノだと無意識に主張したくなったのかもしれない。
男で、体もしっかり忍らしく鍛え上げられているし、どちらかといえば精悍な顔をしている。
…守られるより守る方だというのは、普段の姿から見ても分かっていた。
それが俺の前でだけ、その意志の強さを感じさせる瞳を潤ませ、頼りなげな光を浮かべるのだから、我慢できるはずがない。
仲間を守る義務感とちがって、庇護欲なんてものが自分にあったなんて驚いたが、この人は木の葉の忍らしい強さと逞しさをもちあわせている様でいてどこか危なっかしい。
怯えて押さえ込んでいるモノは、どうやらこの人にとって相当恐ろしいものなのだろう。
おれのもの。そう言っていたか。
その衝動はむしろ自分だけにむけられているなら好ましいものだ。それに既成事実もできた。
怯えの正体。…今なら。この瞳で頭の中を覗くことができなくもないんだが。
「教えてもらうまで待ちますよー?危なくなったら無理やりにでも全部暴きますが」
もう少しだけ紳士を演じる余裕はある。
自分でも笑えるほどに純情だ。
…ま、でもあんまり嫌がられるようならすぐに非常手段に訴えるつもりだけど。
術も薬も、いくらだってどんなに抗ってもこの人の中を全部覗く手はある。
できればこの人の方から教えて欲しいんだけどね。
見込みがなきゃこんなまだるっこしい手順は踏まない。…どんどん壁は薄くなっている。
この人に自分のものだという印を刻んで、中までたっぷり俺で汚した。
そして何よりこの人はそれを悦んでいた。
あんなに気持ちよくて溺れる程に快感に酔って、欲しがっていたんだ。もう他の誰かのモノになんかなれないんだから諦めてくれればいいのに。
普通なら同性に懸想された時点で拒んでいるはずだ。
この人にそっちの気がない可能性が高いってのも知ってて仕掛けたんだ。拒まれても受け入れられても、それがどんな理由であっても諦めるつもりはなく、当然、その全てを見込んで策はいくつも考えてあった。
その予想のどれにも当てはまらなかった辺り、意外性ナンバーワン忍者の師だと思わずため息がもれそうになったんだけどね。
とにかくこれだけの執着を拒まない時点で、俺の思いを受け入れてくれていることは間違いない。
痛みと経験したことがない行為への怯えではありえない。少なくともむしろ俺を欲しがっていた。
知りたい。何をそんなに怯えているのか。
…怯えられるともっと苛めたくなっちゃって、やり過ぎる俺も悪いんだけどねぇ。
ため息ばかりついても、愛しい人は健やかな眠りから戻ってくる気配はない。
「とりあえず、飯か」
着替えさせて飯を作って、それから話をしよう。
時間はたっぷりある。俺にも、この人にも。
告白から逃げられる可能性の方が高いと踏んでいたから、当然捕まえた後の事も想定済みだ。
単独任務はしばらく後輩に任せておけるし、それ以外は他の連中に押し付けた。
問題はこの人だけど。
…その気になれば住み心地のいいこの部屋のなかで、いつまでだって閉じ込めておける。任務扱いにしてもいいし、この人ちょうだいで上手く行けばそれでもいい。
「起きたらどんな顔するかなー?」
自分は世話焼きのくせに、他人に何かされるといつも戸惑うのを知っている。
服を着替えさせたなんて知ったらきっと楽しいことになるだろう。
それともまたさっきみたいにうっとりした顔で…。
「…ヤバイ。勃ちそう」
ケダモノの腕の中で眠り込む危うげな人。
早く起きないと食っちゃいますよと呟いて、目覚めるのを待つことにした。

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適当。
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