独占欲10(適当)




これの続き。 



「はいどーぞ」
湯気を立てる飯に、胃袋が先に反応した。
間抜けにも盛大に大きな音を立てた腹をさすると、下肢の違和感までありありと感じてどうしていいのかわからない。
「うぅ…」
自分の部屋の小さなちゃぶ台と違って、キッチンにあるシンプルなテーブルや椅子はどこか落ち着かない気分にさせられる。
…これをもらえたら、もしかしてこの人のことは我慢できるだろうか。
そんな埒もないことを考えてしまうから。
その上を埋めつくす美味そうな料理の数々のせいもあるのかもしれない。
所詮男の一人暮らしだ。白い飯に漬物と残り物でもかきこむのが精々で、酷いときなど生卵をぶっ掛けただけの飯や、カップラーメンなんてこともある。
まるで正反対だ。
そういえばナルトにも野菜を食えと勧めていると聞いた事があったが、なるほどこれだけのものを毎日作っているなら気になるだろう。
上忍というのは、皆これほど食事に気を遣うものなんだろうかと関係ないことを思ったりもした。
「食べて?夕ご飯食べてないし、おなかすいたでしょ?」
そう言われてみれば食事をした記憶はない。
満たされて幸福で、それを手放したくないと駄々を捏ねる自分を、何とか押さえ込むのに必死だった。
浚いたくて閉じ込めたくて、むしろこのままここにいたくて、でもそんなことは許されない。
この食事は貰ってもいいものだ。俺のモノにしてもいいこの人の欠片。
それはきっととても俺を幸せな気分にしてくれるだろう。
一口食べて目を見張った。
「おいしいです」
お世辞や、この人が作ってくれたからじゃなく、本当においしかった。
この人はこんな所まで業師なのか。
うらやましいというより嬉しい。俺の好きになってしまった人は、こんなにも素晴らしい人だ。
うっとりしながら空腹を満たす作業を続けた。
これは全部俺のモノにしてしまってもいいものだから、誰にも渡したくなくて、せかされるように片っ端から口に放り込んだ。
「よかった」
粗方平らげてから、この人は何を食べたのだろうと考える余裕が出てきて、青くなった。
貪欲すぎる。…この人には一片の苦痛すら与えたくないのに。
「あの、ごはん。カカシさんの」
「一緒に食べてたでしょ?」
不思議そうに言われて、自分が夢中になりすぎていたことに今更ながら気がついた。
いつもそういえば食事の速度は速い方だったかもしれない。
とにかくこの人を空腹なままにしないですんだらしいことにホッとした。
「俺ばっかり食べてすみません!洗物は俺が…!」
「無理だから座ってなさいよ。ここまで俺が運んだの忘れちゃった?」
くすくす笑いながら頬杖をついて、俺を見ている。
そうだ。着替えさせられていることにうろたえて、違和感はあるものの、当然残されているはずの残滓の感触さえなくて、一体何がどうなっているのか分からないうちに抱き上げられていた。
「ご迷惑をおかけしました…」
しっかりしろ!それでも中忍か!
いっそこのまま消えてしまいたいほど恥ずかしかったが、この人はそんなことを許してはくれないだろう。
変わった人だ。俺みたいなのを欲しがるなんて。
手に入れていいものと悪いものの区別を必死につけようとしていても、どうしても間違ったものまで欲しがってしまう。
この気狂いのような独占欲を除いたとしても、狐憑きなどというありがたくない通り名まである。それでなくても厄介ごとの塊なのになぜ。
「いーえ。かわいかったです。一応体拭いたけどお風呂入りたい?おなか落ち着いたら入りましょうか?」
風呂は好きだ。そしてその口調からして、俺を一人にしてくれるつもりはないらしい。
しかも体を拭くなんて…やはりそんなことまでさせたのか。俺は。
「いえ、俺はその、帰ります」
「あ、それはだーめ。おなか落ち着くまで、ちょっとお話しませんか?俺と」
否を言わせぬとばかりに鋭い視線が俺を貫く。
俺の内側を満たすどろどろしたなにもかもを見透かすような美しい瞳で。
「…何を、話せば」
「んー?そうね。たとえば…先生って誰か、とか?」
その笑顔が酷く恐ろしかった。

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適当。
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