武将の人10(適当)



これの続き。


「…いい匂いがする」
不思議な匂いだ。
昔側にいてくれた人も、匂いのタチは違えど同じように、いつもいい匂いを漂わせていたような気がする。
初めて出会ってからどうしても欲しくて、強引に手に入れようとして…それでも彼女は俺を受け入れてくれた。
笑ってといわれれば笑ったし、無理をするなといわれれば、今まで気にもしなかった休みとやらをとるようにもなった。
彼女が笑うと、それだけで満たされる気がした。
…そのくせどうしようもなく欲しくなって、組み伏せて自分のものだと知らしめるためのそこらじゅうに印を刻んで、それでも安心などできた試しがなかったのだが。
すぐに生まれた息子を、彼女はとてもとても大切にしていた。
彼女の生み出したものだと思うと、自分にとってもそれはどんな宝物にも勝る大切なものだと信じることができた。
そうやって彼女を自分のものにしたつもりで、逆にその手にからめとられたのだと知ったのは、いたずらっぽく笑う彼女を失ってからだったかもしれない。
喪失感が大きすぎて、なにもかもが等しく価値を失くした。
…忍であった彼女が唯一つだけ残してくれた、忘れ形見を除いて。
抱きしめてくれたその腕の柔らかさを、穏やかな声を、ぬくもりを…全てを失ってしまって久しい。
外見は俺に生き写しだと言われる息子だが、どうやら中身は彼女に似てくれたようだ。
もう大事な人を見つけたらしい息子は、俺のように不甲斐ない真似をしでかすことはないだろう。
それに安堵し、それから…そろそろもういいかと思い始めていた。
息子はもう一人で立てる。早々と伴侶も得て、忍としてもすぐに俺を超えていくだろう。
現に、俺はあの年の頃には両親を失い、一人戦場に立っていた。
それなら…それなら、もう彼女に会いに行っても許されはしないだろうかと。
伴侶にするのだとつれてきた子供を愛しげに見つめる息子は、もう俺のことなど必要としていないだろう。
カカシを、里を守れと言われてはいた。彼女はきっと怒るだろう。
それでもどうしようもなく寂しかったのだと告げたら…彼女に抱きしめてもらえないだろうか。
そんなことばかり考えるようになった頃、あの人は現れた。
怒鳴り散らす声よりも、その身から漂う匂いにばかり気をとられていた。
怒りに顔を紅潮させると、その分だけ匂いも強まる。
彼女とはまるで違うのに、それは酷く魅力的で抗い難く俺をひきつけた。
女にするように組み敷いて、当然のようにその肌に顔をうずめて、そこが平らであることに何の違和感も感じなかった。
…ただ、それは俺だけのようだったが。
怒鳴り散らすあの人に殴られて、面倒だなと思ったのは覚えている。
捕縛用の縄を手にした段階で逃げられてしまったのは、それが正常な思考ではないと今更ながら気づいたからだった。
そうだ。あの人は彼女ではない。
…それなのに酷く俺を惹きつける。
「近づいて、くる」
あの匂いがするたびに、手に入れなくてはと体が勝手に動いてしまう。
今度こそ、失うわけには行かないのだと。
「おい!ケダモノ!貴様自分の息子に!」
ああ、もうどうしようもできない。
怒声と、その魅惑的な匂いを振りまきながら、あの人が俺の前に立っている。
「ウミノサン」
すぐに抱きしめて俺を狂わせるその匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。
腕の中で怒りに震えている人の顔など、気にも留めずに。
「いい加減にせんか!この馬鹿モノ!」
振り下ろされる拳が空を切る音すら、どこか心地よいと感じた。


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とりあえず子カカイル祭り継続中。
白い牙は獲物を前にご機嫌です(*´∀`)
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