武将の人―温泉編4(適当)


イベント会場で読みたいとおっしゃってくださった方がいらしたのでこそっと連載予定。
前のお話はこれ⇒武将の人-温泉編3の続き。



どうやら作戦は成功したみたいだ。
「そこへ直れクソガキめ…!うちのイルカにちょっかいを掛けることは許さん!」
すさまじい怒気を放ち、眼光も射抜かれそうなほど鋭かったのに、それは一瞬で霧散した。
「父ちゃん!温泉!すっごく楽しみなんだけどさ!カカシは温泉行ったことあるけど任務でなんだって!だから色々教えてあげないと!温泉たまごと温泉まんじゅうと、あと枕投げもするしあとえーっと!色々一杯!」
「お、おお。そうか!そうだなぁ!温泉饅頭は外せんな。温泉たまごも…!寒酒も美味いが流石に銀髪小僧にはまだ早いか」
「あとさ、あとさ、折角の温泉だからいっぱい温泉入らないとだよな!いっぱいいーっぱい!」
「おお!朝昼夕はもちろん、夜も入るぞ!だが湯疲れを起こすこともあるから水分補給と睡眠も大事だからな!」
「父ちゃんの背中も流してあげるね!」
「イ、イルカ…!」
ぎゅうっとイルカを抱き締めてて、ちょっとだけうらやましい。父さんと俺とじゃ、こんな風に色々話したりはできないから。
凄く懐かしそうに遠い目で俺をみてることはあっても、触ってくること事態が殆どないもんね。
ま、一番うらやましいのはイルカにあそこまで信頼されてることだったりもするんだけどね?
それはまあしょうがない。だって俺はまだガキで、中忍で、だからイルカに愛されてはいるけど、あそこまで頼ってはもらえない。
でもいつかは。イルカにとっての誰よりも何よりも一番になりたい。
そう密かに決意を固めて、二人してしきりに温泉について語り合っているのを観察した。
なんていうか…こうしてみるとほんっと似たもの親子かも。
イルカの方がすっごくすっごくかわいいけど、うみのさんも温泉ってなると物凄くテンションが高い。舞い上がってるって多分こういうことをいうんだと思う。楽しそう。
温泉、好きなんだなー。イルカもだけどうみのさんも。収入は少なくないんだから福引がんばっちゃったのは、きっとイルカのためなんだろうけど。
どっちにしろ今後の対策に使える情報はきちんと集めておかないといけない。
舞い上がってるイルカを見てるだけでも楽しい。あとうみのさんは怒り狂ってたけど温泉にはしゃぐイルカに釣られてくれてて、ここまでは想定してなかったんだけど今のところ作戦は成功しそうだ。多分父さんもある程度がんばってくれたんだろう。
うーん。それにしても放っておいたらずーっと温泉の素晴らしさについて語ってそうだから、そろそろ止めようかな。何事にも一生懸命っていうか…親子ってこういう感じが普通なのかもしれない。
父さんはこの人の天真爛漫?な所がいいのかなぁ?
「うみのさん。おやつ一緒に食べませんか?天気がいいから外で食べるとおいしいって、前にイルカが教えてくれたんです」
「ッ!そ、そうか…仕方があるまい。イルカ。父ちゃんのこっち。右側にきなさい。小僧は左側だ!」
…間に挟まって、多分イルカを守ってるつもりなんだろうなー。ちょっとさみしいけどおもしろいって思う自分もいる。後ろで手を繋ぐくらいならできるしね!
イルカが教えてくれたっていうと、哀れみに満ちた視線をくれる。…多分、俺の育った環境はうみのさんにとっては普通じゃないんだろう。それを寂しいと思ったことはないけど、うみのさんの反応はわかりやすくて、一般的な生活ってやつの参考になった。
普通なんて知らないで、任務ばかりこなして生きてきたけど、父さんが消えてしまうことばかり恐れていた気がする。
だから今の生活が気に入っている。だってイルカが側にいてくれて、うみのさんから色々学ぶことも多いし、父さんが一緒にいて、しかも生き生きしてるんだもん。イルカのお母さんをみてると、母さんのおぼろげな記憶が蘇って、改めて母さんの偉大さを思い知ったりすることだってあるしね。
「おいしいね!」
「温泉にもオヤツ持ってこうな!一緒にいっぱい色々食べるんだ!あと皆で浴衣着てさ!父ちゃんと母ちゃんとサクモさんも!」
「ケダモ…サクモ、さ、ん、も?」
あ。うみのさんが固まっちゃった。
んー?この感じだとチケットに舞い上がって深いことを考えずに受け取って、でも俺は連れてってくれるつもりだったかな?俺がイルカを連れ出しちゃったから、チケットだけ持ってきちゃったとか。
ここでちょっとダメ押ししとこう。
「父さんも、温泉なんて任務でしかいったことないし、でもたまに一緒の任務になることがあって、そういうときに一緒に温泉は入れたんだ」
うみのさんのキリッと釣りあがった眉があっというまに下がった。眉間にも深い深い皺が刻まれている。…それからわしっと頭を掴まれてぐりぐりと撫で回された。
「よし。小僧。貴様の分の宿と休暇は任せておけ。別室を確保してやる。あのケダモノめ…っとお前の父親といっしょにたっぷり温泉を満喫しろ。温泉の楽しみ方の極意…きっちり貴様にもあのダメ親にも叩き込んでやるからな!」
ちょろい。…そう思ったことは秘密だ。
これできっと大丈夫。だってあの宿の他の部屋が空いていないことは確認済みだ。ちょっと根回しもしてあるし。
これであとはうみのさんちで父さんがきっちり作戦通り動いてくれていれば…ほぼ作戦は成功するだろう。
「えー?カカシも同じ部屋がいい!」
「ダメだ!万が一があったらどうするんだ!こんな銀髪小僧を嫁になど…!」
うーん。伏兵がいたか…。イルカだったらそう言ってくれるって想定しておくべきだったかな。さて、どうしようか?
「父ちゃんとサクモさんが一緒になればいいじゃん!そしたらさ、いっぱいいっぱい温泉の極意勉強してくれるよな!」
「そ、それはできん。色々大人の事情というものがあるんだ。小僧にも親子水入らずの楽しみというモノをだな…!」
「じゃあみんな一緒にお泊りしようよ!楽しいよ!きっと!父ちゃんは俺と、サクモさんはカカシとで母ちゃん審判な!枕投げチーム!」
「…アレと、大っぴらに戦う…」
うみのさんがすごーく迫力ある顔でにやりと笑った。わー。俺なんにもしてないけど、もしかして上手くいっちゃいそう?
「オヤツ片付けて、温泉の話もうちょっと聞かせて欲しいな?あ、の。俺も一緒にいってもいいんですか?」
「もちろんだ小僧…!合法的な…ククク…!」
ダメ押しの一言は、ものすごい笑顔のうみのさんにあっさり承認された。
枕投げチーム…?集団模擬戦みたいなものなのかなもしかして。うみのさんもおもしろい戦い方をするって父さんがいってたから、ちょっと楽しみだ。
「じゃあ行こうぜ父ちゃん!母ちゃんにも色々相談しなくちゃ!」
「そうだな。…ククク…!だが同室は…まあ色々と…」
悪人みたいな笑い方をするうみのさんを挟んで、こっそり手を繋ぎながら家路を急いだ。
タイミングがしっかり合うことを祈りながら。

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適当。
父ちゃんと息子は温泉が嬉しすぎて舞い上がりすぎて色々と危険。
ご意見ご感想お気軽にどうぞ。

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