武将の人―温泉編11(適当)


イベント会場で読みたいとおっしゃってくださった方がいらしたのでこそっと連載予定。
前のお話はこれ⇒武将の人-温泉編10の続き。



あの小僧とケダモノが我が家の居候となってから、ケダモノの暴走を防ぐために、アレだけ別の部屋で寝かせて、イルカと小僧は寝るまで俺がこっそり見張ることで対処していたが、今日は久方ぶりに夫婦の寝室に直行した。
そして今、冷え切った空気の中、背を伝う脂汗に耐えている。
布団の上に正座する妻は輝かんばかりの笑顔だが、背後から滲み出る氷のように凍てついた空気に、心臓が切り刻まれるような痛みを訴えている。
「その、だな。ええと」
「お買いものお疲れ様」
小僧とお揃いであることを喜ぶ愛息子に少しばかり意地になっていたのは確かだ。
でもだな!うちのかわいいかわいいイルカに妙な虫がつこうとしてるんだ。戦うのは当然のことだろう?その上側には教育に悪いことこの上ないケダモノが、虎視眈々と…!
だからそのう、出発前にしていた約束を忘れた訳ではないが、つい。
「ケダモノなんて言っちゃダメって、約束したわよね?」
「うっ!あっ、そのだな。アレが…!」
「し・た・わ・よ・ね?」
「…うっ!その、はい」
「父ちゃんがたくさんケダモノーって叫んでたって、さっき聞いたわよ?」
「う、そうだった、か、もしれんが。その、だな。ええと」
「あの人は確かに色々と難しいから、多少はしょうがないと思うけど、イルカがケダモノごっこーなんていいながらカカシ君とじゃれあってたの、知ってる?イルカはプロレスごっこみたいなやつだよな?って言ってたけど、カカシ君は意味がわかっちゃうでしょうね」
「なにぃ!クソガキめ…!今すぐ天誅を…ぐえ!」
すさまじい勢いで頭に血が上ったのが分かった。素早く脳天に振り下ろされた拳を受けて尚、沸騰しそうな怒りは収まることを知らず、かみ締めた奥歯がギリギリと音を立てて軋んだ。あのクソガキめ、よもやうちのイルカに手をだしたりは…!ありえる。血は水よりも濃いというし、ケダモノよりは多少マシとはいえ、良く似た外見のあの小僧が、イルカをその毒牙にかけんと狙っている可能性はおおいにある。
む、むしろイルカを誘ったりなんかしてるんじゃあるまいな…!銭湯でもケダモノめが妙な色香を振りまいて…!
まだ間違いを起こせるような年でもないが、あのクソガキは変化もできれば幻術も使える。何かが起こってからでは遅いのだ。今すぐにでも教育的指導というかおのれイルカと楽しそうに遊んでいるだけでも腹立たしいというのに…!クソガキめは父親似似ず中々に弁が立つせいかイルカに妙に頼られていて、しかも庇われてもいる。
そしてイルカは優しい子だ。あの小僧が嘘八百で嵌める気になったら簡単すぎるほど簡単にことはなされてしまうだろう。
「子どもは楽しいことは真似しちゃうの。意味なんてわからなくてもね。だから言葉遣いには気をつけてね?」
「うっ!だがしかし!」
「気・を・つ・け・て・ね?」
「…は、はい…」
 確かに妻との約束を破ったのは俺が悪い。…だがこれもそれもあれも全てあのケダモノが原因ではないか…!くそ!だが殴るために近寄ったが最後、どこかに連れ込まれて…!このところその手の行為がエスカレートしているからな…。油断すればどんな目に遭うかわからん。う、うぅ…!何故ガキの頃ならともかく、こんな年になって変態に付けねらわれなくてはならないんだ。
ガキの頃とて、鋭すぎると評された目つきのおかげでその手の誘いをかけられることは他に比べれば少ない方だったと思う。だが身寄りのないまだまだ細いガキだった俺は、真っ当な誘いを掛けることのできないような下種にとっては、絶好の鴨に見えていたようではあったが。
妙な誘いをしてきた連中は、全員揃って妙な気を起こしたことを後悔させるついでに十分な制裁と辱めを加えてやったというのに。情勢が不安定になればそれだけ狂う連中も増える。誰でもいいからと襲いかかってくる下種も少なからず湧いて出て、俺の苛立ちも頂点に達していた。
その頃だ。そのあまりの鬱陶しさに髭を生やし始めたのは。同時にみるみるうちに伸びた身長とたゆまぬ修行で鍛え上げた筋肉のおかげで線の細さなど皆無になったが為に、妙な気を起こす連中はほぼいなくなった。逆に抱いてくれと言い出す連中が湧くようにはなったが、丁重にお断りすれば引き下がる連中ばかりだったし、何より俺が愛妻家だというのは羞恥の事実だったからな。
コレまでもれなく全員派手にぶちのめしてきた戦歴と、愛妻家であるという事実。…おそらくアレにはその全てが通用しないだろうことが想像できるだけに、暗澹たる思いで思わず重過ぎるため息をついていた。
「まあ私もあの人のお守りを押し付けてしまったから…ごめんなさい」
「いやその。謝るほどのことでは!」
妻が悲しそうな顔をしている。なんてことだ!
とっさに否定すると、正座していた俺を優しく抱き締めてくれた。
「カカシ君がいるから。それにあの子のお母さんは私の親友だったの。あの子が結婚してしまってからあまり連絡が取れなくて。それからすぐに…」
それ以上聞かなくても、伏せた瞳が教えてくれる。
そうか。ではあの小僧は母という存在を殆ど知らぬのだな。母がいないという話は聞いていたが、想像した以上に随分早い内に庇護する腕を失ったということだ。
それも、残ったのがアレ。非常識で理性が薄く、思いつきと衝動で暴虐の限りを尽くすアレ。
「よし分かった!俺が引き受ける。イルカのためにもあの小僧をアレに任せるのは危険すぎるからな。きっちり一から十まで叩き込んでみせるとも!」
「ありがとう。あなた」
 ふわりと笑う妻に鼓動が騒ぎ出す。今この部屋には妻と二人だけ。イルカの前では流石に口付けするのも躊躇われるが、今なら、少しぐらいなら、その。構わんだろう?
 妻を抱き寄せてその細い肩を掴む。しなやかさも美しさも出会った頃と変わらない。ただ穏やかさだけが日々その甘さを増して、一層やわらかく包み込むような雰囲気を醸し出している。
 俺の最愛にして唯一の女。
 久方ぶりに訪れた夫婦の時間に、少しばかり気を緩ませすぎていたのだと思う。
「ウミノサン」
 声は甘く、だが叩きつけられる気配は殺気染みていて、とっさに妻を背に庇った。
「ひい!ななななんの用だ!ケダモ…サササササクモさん!」
 言い直したがギリギリだった。思わず妻に視線をやるとにこっと笑って良く出来ましたとイルカに言うときと同じように、俺の頭も撫でてくれた。
 人前でその、少しばかり恥ずかしいが…なんてかわいいんだ!
「お預けが過ぎたかしら?」
「おい!貴様は小僧とイルカが寝付くまで見ていろと…!」
 小僧と共謀してイルカにちょっかいを掛ける可能性ももちろん考えたが、小僧がイルカにべったりだからな。父親といえども妙なマネを許すことはないだろうと、断腸の思いできちんと言いつけておいたというのに、何故。
 何故こんな良い所…ではなく、ここにいるんだ!
「小僧?カカシとイルカ君なら二人で楽しそうに話していたが。ずっと」
「なんだと!貴様!まさかそのまま放ってきたんじゃあるまいな!」
「?番が側にいて何か問題が?」
「イ、イルカー!無事かー!」
 まさか…まさか!俺にコイツをぶつけてその隙に不埒なマネを、なんてことを考えてるんじゃあるまいな?
 とっさに妻の手を掴んで寝室を飛び出した。背後に同じく当然の顔をして着いてくるケダモノを引連れたままで。

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適当。
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