武将の人―温泉編1(適当)


イベント会場で読みたいとおっしゃってくださった方がいらしたのでこそっと連載予定。
前のお話はこれ⇒


武将の人の続き。



「ウミノサン」
「なんだ?ケダモ…いや、サ、サクモさ、ん」
ああくそ。こんなケダモノをケダモノ以外の名で呼ぶなど、今にも口が曲がりそうだ。イルカや銀髪小僧がいなければいくらでもケダモノと罵倒してやれるというのに、教育に悪いからと妻に言われてしまえば、確かに一理あるのも事実だからな…。
嫌々ながらも、一般的な上忍同士の会話を心がけるほかない訳だ。
…クソッ!こんな輩が上忍を名乗っていいのか!どういうことなんだ!里長たる火影さまに、やはり一度は直訴してみるべきではないだろうか。
だが…妻には無駄だから止めたほうが良いわよと止められているからな…。
名を呼ぶだけで満足したのか、相変わらず真意の読み取れない無駄に整った顔が、見た目だけは穏やかそうな笑みを浮かべている。
居候というには筆舌しがたいほど厄介なイキモノが我が家に居座るようになってから、早数ヶ月。
かわいいわが子が銀髪小僧の毒牙にかからぬよう見張りやすくなったのと引き換えに、この所俺の生活から平穏という単語が消えて久しい。
朝起きて、妻の作ってくれる味噌汁の匂いを楽しみながら、かわいいかわいい一人息子を起こして一緒に食事を済ませ、任務に行く。
掛け替えのない大切で幸福な時間は、朝っぱらだろうが深夜だろうが、じっとりと様子を伺ってはちょっかいを掛けてくるケダモノのおかげで失われてしまった。
まず朝はゆっくり眠れたためしなどない。最初の頃こそ律儀に家に帰っていたものだったが、イルカが銀髪小僧を泊めたいと言い出して大喧嘩をして、結果的に銀髪小僧だけならと許可を出したのが失敗だったのだろう。
一応夜だから見送りに来てもらったと主張する銀髪小僧を、俺は責める事が出来なかった。あの年で母を亡くし、しかも父親がアレ。…縋る物としてかわいいわが子を選んだ慧眼はいっそ褒めてやるべきかもしれない。
常識が歪んでも仕方がない環境で、それでも忍として研鑽を忘れず、たゆまぬ努力でこの幼さで中忍となったのは…生き残る術が他になかったからではないだろうか。
イルカは優しくて親の欲目を抜きにしてもかわいらしい顔立ちをしている。いずれ育てば男らしくはなるだろうが、銀髪小僧がイルカに母の面影をみたのだとしたら…それを無碍に排除するのは躊躇われる。
だからといって、わが子をくれてやるつもりなど砂粒一粒分もないが。
成長すれば、己の過ちに気付く日がくるだろう。いずれよき友となるくらいなら許してやってもいい。
母を亡くし、唯一の肉親が…コレだからな。
「ウミノサン」
「…用件を言え。なんの用だ?」
触るなと命じればしばらくは我慢するが…手をもぞつかせてじぃっと見つめられると寒気が襲ってくる。
あくまで今は我慢しているだけで、このケダモノの前では決して油断できない。
風呂場やトイレでイルカや銀髪小僧の目が届かなくなると、一瞬でその理性を捨て去ることは証明済みだ。
妻には何故か妙な遠慮をみせるのだが…まさか俺の伴侶にまで手出しする気じゃないだろうな?指一本でも触れようものなら細切れにして火遁で焼き尽くした後、山にでも捨ててきてやるんだが。
確かかつて部下だったと言っていたが、どちらかというとうちの嫁の方が強そうに見える気が…?まあ俺の妻は強さも美しさも折り紙つきだからな。流石のケダモノも、多少は気遣いもどきくらいはするのかもしれん。
あの凛とした姿勢と何事にも動じない強い意志と、それから時折魅せる寂しげな瞳に恋をしたのは…もう随分と前になるのだろう。
今も、愛している。母となり、一線を退いてなお、忍としての技を磨くことを怠らないその気高さも、すべて。
イルカの成長の目覚しさを思えば、二人で歩んできた人生はなんと素晴らしいことか。最良の伴侶と可愛い息子を得たのだ。多少の障害があろうとも、乗り越えてみせるとも。
それにうちの嫁さんは最強だからな。…ケダモノ如きがどうこうできるはずもないか。何故か俺だけにその手の欲求を発露させるのは心底理解できないが、妻と息子さえ守れるならばそれでいい。
まあ、コイツもおそらくは碌な環境で育ってこなかったんだろう。俺も二親を亡くし、一人で生き抜いてきたが、コイツの周りにはマトモな大人がいなかったのではないだろうか。
そうでなくては、こんな頭のネジが丸ごと全部すっ飛んだような男が出来上がるはずもない。
そう思えば少しばかり同情してやってもいいのかもしれんが…。
「ウミノサン。温泉」
そしてそんな気遣いなど、このケダモノは毛の先一筋ほども気付いてはいないようだが。
相変わらずマトモに会話も出来んのか。
苛立ちを感じつつも、まだ居間にいるはずの息子たちのために、譲歩してやることにした。
「…温泉がどうした?」
作戦遂行時はきちんと言語によるコミュニケーションが取れるというのに、我が家にいるときのこの男は、幼児並に言葉が通じない。
コイツ息子の方がずっと口が回る。…というかだな、あの耳が腐りそうに甘ったるい口説き文句はどこのどいつが吹き込んだんだ…!あんなガキにろくでもないことを教え込んだヤツは見つけ出し次第制裁を加えてやらねば…!
「これを」
「おおお!これは…!」
ぺろりと差し出された紙切れ。…これはたしか商店街のお年玉福引の特賞…!
…イルカが欲しいというから、米や日持ちする食材を多めに買い込んで何度も挑戦し、妻に叱られたばかりだ。
大量にやってきたカップラーメンと、それからモチ、それから景品のラップとティッシュとチョコレートに喜んで、どうやら特賞のことは忘れてくれたようで安心していたのだが、一抹の悔しさを味わったというか、多少落ち込んでいたのは確かだ。
あの時確かこの男は任務中だったはずだが、どこかで見張られていたのか?
背筋を走った寒気に身を震わせながら様子を伺うと、男がじぃっと俺を見つめながら様子を伺っている。
なんだ?普段なら飛び掛ってきそうなものだが、今日に限って様子がおかしい。
「カカシが。これを渡せばいいと。俺には不要なモノだから」
にこっと笑う姿は、子もちの男には到底見えぬ幼さを漂わせる。
そうか。銀髪小僧の差し金か。…あの子どもは子どもらしくなさ過ぎる。まあ殆どがコイツのせいなんだろうが、大人として、男として、少しは子どもらしい楽しみを与えてやるべきだろう。
幸いこの券は確か一部屋6名まで。銀髪小僧一人くらいならなんとでもなる。
「有難く受け取っておく。…銀髪小僧はどこだ?」
「カカシ?カカシならイルカ君と出かけている」
「なんだと!?」
あのクソガキ…!気遣いを褒めてやって損をした気分だ。油断した隙をつく腕からして、上忍になる日も近いだろう。 そうなれば…同僚として先達として、徹底的に…!
「ウミノサン?」
「温泉に関する話は後だ!どこだー!イルカー!クソガキめ…!」
イルカの身の安全を図ることに夢中になっていた俺は、ケダモノを放置して家を飛び出した。
コイツの頭の中身は忍術以外のものは収まっていないに等しいのだということを、すっかり忘れたままで。

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適当。
というわけで。武将の人がちょこっと続く…かも?ニーズ次第で。
ご意見ご感想お気軽にどうぞ。

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