イチゴ(適当)

これの上忍視点。
真っ赤ないちご。それも蕩けそうに熟れたそれを、口の中に放り込む。
押し付けてきた男は、下らない猥談をやけに熱っぽく語った。
「いちごって柔らかいでしょう?潰れて赤いのが零れちゃう所なんてすごいですよ?」
わざわざ報告前の俺を捕まえて待機所に連れ込んだと思ったら…体調を崩した恋人の見舞いのいちごを持っていって、美味く食べられなくて口元を汚した恋人も一緒に食ったっていう下らない惚気話をされた。
体調を崩した方も知っているだけに、気が咎めるというほどでもないが、多少思うところがあったのは確かだ。
顔には出ていなかったはずだが、男は普段はクールだなんだとはやし立てられている顔ににやにやといやらしい笑みを浮かべて言ったのだ。
「いいから、カカシさんもやってみてくださいよ」
体が弱いせいか世間知らずな所があって、恐らくそういった方面のことに疎いというのに、この男の相手ではひとたまりもなかっただろうことを同情したが、どちらも好きあっているのもわかっているから放っておくコトにした。
口出しして飄々としていかにも遊んでいるように見えるくせに、本当は誰よりも情が深い男の恨みなど買いたくない。
相手の方も一途なだけに悲しませるコトになるのは避けたかった。
互いに相手の思い方が違いすぎるというのに、よく付き合っていられるなぁと思いはしたけれど。
「やるたってねぇ?」
思い人はつれない。
どれだけ愛を囁いてもどれだけ視線で訴えても、ふざけているとしかとってくれないのだ。
幾度目かの告白は済ませたつもりだが、いつも通り「はいはい」で流されるばかり。
諦めるつもりなど欠片もないが、周りが気付くほどあからさまなアプローチをあそこまで自然に流せるのはある意味才能だろう。
もういっそ、常識などかなぐり捨ててみるのもいいかもしれない。…ま、既に受付で付き合ってくれって言ったりとか、結構なことはしでかしてるんだけど。
言葉だけじゃなくて、もっと分かりやすく俺の思いを受け取ってもらうのも悪くないんじゃないだろうか。
「そうそう。後悔なんてやってからすればいいんですよ」
いちごの包みを抱えて立ち上がった俺に、男はそういって笑った。
…うっすらとだが腹を庇うように歩いていた理由が分かった気がしたが、見なかったフリをしてやろう。
ふわりと漂う香りだけを残して、俺は手を振る男を背に待機所を後にした。
思い人にどうやってこれを食べさせようなんて思いながら。
*****
その日の俺はえらく機嫌よく見えたらしい。
あとで何があったのか聞かれたくらいには、俺の様子はおかしかった。
それもそうだろう。なにせ今度こそ、絶対に引くつもりなどなかったのだから。
今更適当な言い訳などしても、この人には気付いてもらえない。ソレが分かっていたから直球で勝負した。
困惑しながらもはっきりとは断らない。
子どもたちが絡めば別だろうが、この人は自分のことになると酷く鈍感だ。
そういう所が心配で、でも好きだと思う。
どこまでも誠実なのに鈍感で…不実な人。
好きだっていって、もし上手くいってたとしても、きっとこういうところは治らないだろう。何かある前にしっかり全部俺のものにしてしまわないと。
そうして、仕事に託けて誤魔化す気満々だった思い人の思惑などまるで無視して、俺はいちごを押し付けた。
卑猥だという意味が分かる。
溺れる人のようにもがき、驚きに見開かれた眼は生理的な涙で潤み、滴る雫は口元を、喉をよごして伝っていく。
赤いソレはなんとも卑猥で、拒む姿をずっと見ていたいとすら思った。
でも耐え切れずに僅かに喉を鳴らしたのを見たら、そんなことなど頭からすっ飛んでしまった。
いちごごと深く口づけて、やわらかいそれが潰れていくのに構わず、もっとやわらかくて甘い肉にすいついた。
軽く歯を立てて味わい、もがく人の背を抱きこんで呼吸さえ奪うほど執拗に貪った。
潰れたいちごと俺とこの人の唾液の全てが飲み下されて、やっと開放してあげたら、放心とも困惑ともつかない顔でへたり込んでいたから。
いちごなんかとは比べ物にならないほど美味しそうな何よりも誰よりも大切な人を、さっさと持ち帰るコトにしたのだった。
*****
怒鳴るというよりなだめてすかして、それでも時折感情が高まるのか声を荒げるのをずっと聞いていた。
喉が痛まないといいけど。
そんなことを思うが、そういえばこの人の声も好きになった切欠だったんだと思い出したらそれにばかり気をとられてしまう。
名前を呼ぶ声、それから遠慮なくしかりつける声、…優しく誉めている声。
いいなぁと思って、それから声だけじゃなくてその全部が欲しくなったのはいつだったか。
とにもかくにも一生懸命なこの人は愛おしい。
どうこうしたいと思わない訳がないけど、強引な行為で嫌われるつもりもない。
キスは、したけど。我慢できなくて。
申し訳ないなぁと眉をしかめたら、しかりつけていた声がトーンダウンした。
そしてしょうがないなぁって顔で、俺をなでてくれている。
「いいですか?えー…受付所はああいった行為をするための所じゃないってことだけは、しっかり認識してくださいね?」
「はい」
今度からはあんなに可愛い顔、外で見せるわけがない。
「わかったんならいいです…」
やっぱりちょっと掠れた声で、それがまた卑猥だと思った。
「俺、お休みです。イルカ先生もお休みですよね?」
「あー…ああああ!?こんな時間!?」
「とりあえず、泊まってってください」
「いやでも!?」
「だめですか…?」
俺も取って置きの声で囁いたら、なんだか照れてるのと困ってるのとを混ぜたみたいな顔をしてくれたから、後は強引に布団に引っ張り込んだ。
「なにもしません。でも一緒に寝て?」
「…ううぅうぅ…!変なマネしたら怒りますから!」
「はい!」
…で、暖かい布団に包まれると、一世一代の告白で思ったより疲れてたらしい俺と、説教ですっかり体力を使い果たしたイルカ先生はすぐに眠りの世界に旅立った。
それから、まあ。
「なんで…いつのまに…!?」
なんて往生際の悪いことを言ってるけど、イルカ先生は俺の恋人になってくれた。
時々、「アンタ凄腕上忍のはずなのになぁ…」とか言われるし、なんともいえない視線を向けられるけど、それはそれだ。
「あーん」
「う!…えーっと。その、あーん」
差し出したいちごを頬張る恋人は、確かに卑猥だ。
その点だけは感謝しなくちゃいけないから、今度いちごをくれた男には礼に行こうと思っている。
…とりあえず、いちごはすばらしいってことを男の恋人にでも言ってやるかな?
照れくさそうにいちごを食む人を、ウットリと眺めながら、そんなコトを思った。


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適当ー!
で、なぜか上忍視点がセットでついてきます!
とりあえず、げんこー終わったらイチゴ買いに行くんだ…!

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