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5.多襄丸の白状 / #2

Update : 2006年11月8日
 
わたしは藪《やぶ》の前へ来ると、宝はこの中に埋めてある、見に来てくれと云いました。男は欲に渇《かわ》いていますから、異存《いぞん》のある筈はありません。が、女は馬も下りずに、待っていると云うのです。またあの藪の茂っているのを見ては、そう云うのも無理はありますまい。わたしはこれも実を云えば、思う壺《つぼ》にはまったのですから、女一人を残したまま、男と藪の中へはいりました。

藪はしばらくの間《あいだ》は竹ばかりです。が、半町《はんちょう》ほど行った処に、やや開いた杉むらがある、――わたしの仕事を仕遂げるのには、これほど都合《つごう》の好《い》い場所はありません。わたしは藪を押し分けながら、宝は杉の下に埋めてあると、もっともらしい嘘をつきました。男はわたしにそう云われると、もう痩《や》せ杉が透いて見える方へ、一生懸命に進んで行きます。その内に竹が疎《まば》らになると、何本も杉が並んでいる、――わたしはそこへ来るが早いか、いきなり相手を組み伏せました。男も太刀を佩《は》いているだけに、力は相当にあったようですが、不意を打たれてはたまりません。たちまち一本の杉の根がたへ、括《くく》りつけられてしまいました。縄《なわ》ですか? 縄は盗人《ぬすびと》の有難さに、いつ塀を越えるかわかりませんから、ちゃんと腰につけていたのです。勿論声を出させないためにも、竹の落葉を頬張《ほおば》らせれば、ほかに面倒はありません。

わたしは男を片附けてしまうと、今度はまた女の所へ、男が急病を起したらしいから、見に来てくれと云いに行きました。これも図星《ずぼし》に当ったのは、申し上げるまでもありますまい。女は市女笠《いちめがさ》を脱いだまま、わたしに手をとられながら、藪の奥へはいって来ました。ところがそこへ来て見ると、男は杉の根に縛《しば》られている、――女はそれを一目見るなり、いつのまに懐《ふところ》から出していたか、きらりと小刀《さすが》を引き抜きました。わたしはまだ今までに、あのくらい気性の烈《はげ》しい女は、一人も見た事がありません。もしその時でも油断していたらば、一突きに脾腹《ひばら》を突かれたでしょう。いや、それは身を躱《かわ》したところが、無二無三《むにむざん》に斬り立てられる内には、どんな怪我《けが》も仕兼ねなかったのです。が、わたしも多襄丸《たじょうまる》ですから、どうにかこうにか太刀も抜かずに、とうとう小刀《さすが》を打ち落しました。いくら気の勝った女でも、得物がなければ仕方がありません。わたしはとうとう思い通り、男の命は取らずとも、女を手に入れる事は出来たのです。
 
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