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タイフーンなカノジョ・続 by Riko







さて。三蔵の伯母である観音の出現により、正に嵐の如き一日となったその日
も終わりになりつつあった頃。愛しい恋人との甘い夜を過ごす為に向かった寝
室に「どうだ」とばかりに鎮座していた、過剰なまでのゴージャスさを誇る、
とんでもない趣味の布団は、少し上向きになりつつあった三蔵の機嫌を一気に
マントル核まで急降下させるに充分な演出小道具であった。
達筆な文字で綴られた書置きを力の限り握り締めたまま、暫しの間怒りで全身
を小刻みに震わせていた三蔵だったが、おもむろにその書置きを投げ捨ててか
ら目の前の布団を乱暴な手つきで捲った。
「ちょっ…三蔵、どうすんの?」
背後から焦り気味に声をかけてきた悟空を剣呑な目付きで振り返った三蔵は、
不機嫌の最頂点といった表情で口を開いた。
「洗いざらいひっぱがして、このまま全部捨てるに決まってんだろっ…ったく
あのババァ、フザケやがって…」
既に向ける相手のいない腹立ちをぶつけるが如き荒々しさで、三蔵は鶴と亀が
華々しく舞う布団を放り投げ、同じ柄で揃えられたシーツを今にも破りそうな
勢いで剥がし始めた。悟空は小走りに三蔵の元へ駆け寄り、その手を懸命に押
し止めた。
「捨てるってそんな…いくら好みに合わないからって、せっかく相手がくれた
物を、丸ごとゴミ扱いしちゃうなんて悪いよ。第一勿体無いし…」
デザインの趣味はともかくとして、布団そのものは悟空が見ても一目でわかる
くらいの紛うことなき高級品である。それを三蔵は一片の躊躇もなく廃棄する
と言っているのだ。
「じゃあ何か?テメェはこの悪シュミ極まりないモノを、延々と俺の部屋に置
いとけってのか。」
ギロリと音のしそうな視線で睨みつけられて、悟空は「う…っ」と言葉に詰ま
る。確かに三蔵のスタイリッシュなデザインの部屋には、どこをどうやっても
この布団はミスマッチにしかならないし、そもそも何事もシンプルな物を好む
三蔵にとって、このとんでもない代物が部屋にあるということ自体、我慢なら
ないことなのだろう。だからといって、人からもらった物をそのまま捨ててし
まうというのは、悟空の性格上どうしても抵抗感があるのだ。
悟空がそんな思いを巡らせている間、三蔵は三蔵で何事かを考えていたらしく、
乱暴にシーツを剥がしていた手が途中で止まっていた。
「三蔵…?」
様子を窺うような悟空の声に、三蔵がふと我に返る。再び悟空へと目線を戻し
た三蔵の表情は、平素の冷静さを取り戻していた。
「…お前が捨てるなって言うなら、不本意だが暫く置いといてやるよ…だが、
くれぐれも忘れるなよ?勿体無いっつったのは、他でもないお前だからな。」
ひどく意味ありげに念を押されて、それでも「うん…」と悟空は頷く。三蔵は
何処かに思惑を潜ませているような笑みを微かに浮かべ、頷き返した。
しかし「こんなモノで落ち着いて寝られるか」との三蔵の意見により、結局豪
華布団一式は全て剥がされ、部屋の片隅に追いやられた。いつもどおりのアイ
ボリーのシーツを敷き直した三蔵はこの一連の出来事にどっと疲れたらしく、
悟空の小柄な身体を胸に引き寄せただけでそのまま眠ってしまった。
こうして幸か不幸か至って清らかなまま、二人の夜は更けていったのだった。


そして次の週のこと。悟空の休みの前日に、三蔵は悟空を部屋へと誘った。日
付けが変わってからやって来た悟空に、三蔵は先に風呂を使うよう勧めた。
「え…い、いいって。三蔵だってまだなんだろ?先に入りなよ。」
見れば三蔵もスーツのジャケットをソファーの背もたれに無造作にかけ、ネク
タイを緩めただけの状態である。おそらく彼も、仕事を終えた時間はこちらと
大差ないのだ。
「俺は大半がデスクワークで、お前ほど身体を使ってるワケじゃねーからな…
いいから、先に使え。」
仕事時間中はほぼ立ちどおしの悟空を気遣っての三蔵の言葉に、悟空は小さく
笑って「ありがとう」と呟き、浴室へと向かった……が。
甘い言葉には必ず『裏』というものが存在することを、この後悟空は自らの身
を持って知ることとなる。

三蔵より一足先に入浴を済ませ浴室から出てきた悟空は、バスタオルで身体を
拭いながら訝しげに小首を傾げた。
(…!?)
悟空が三蔵の部屋に泊まる時、大概の場合は悟空が風呂に入っている間に三蔵
が着替えを用意してくれている。それはバスローブだったりパジャマだったり
時によって違うこともあるのだが…今、目の前に置かれている『ある物』に、
悟空は不可思議そうな表情で首を捻るばかりだった。
「なぁ三蔵…コレ、何…?」
結局悟空はそれに袖を通すことなく、腰にバスタオルを巻いた状態でリビング
に戻ってきた。きちんと折り畳まれたままのそれを目の前に差し出しながら問
い掛けてくる悟空に、三蔵は軽く目を眇め、だるそうに前髪をかき上げた。
「何って…バカかテメェは。風呂場の前に置いてあったんだから、寝間着に決
まってんだろ。」
「寝間着って…だってコレ、着物じゃん。」
悟空の反応に、三蔵は何処か馬鹿にしたような表情で肩を竦めてみせた。
「近頃のガキは物事を知らねぇな…世の中には、そういう形の寝間着だってあ
るんだよ。」
「そんなコトは俺だって知ってるよっ、でも…」
無論悟空だって温泉旅館で浴衣を着たことはあるし、それとは少し状況が異な
るが、病院へ見舞いに行った時などに浴衣風の寝間着を着ている人を見たこと
だってある。だが今悟空の手にある物は、明らかにそれらとは質感が違うし…
もっとはっきり言えば、問題はその「色」と「柄」なのだ。
三蔵が寝間着と言い張るそれは、ふわりとした淡い朱鷺色。そこには光の加減
によって浮かび上がって見える、細かな桜の花模様が散っている。更に添えら
れていた少し細めの帯は、目にも鮮やかな緋色。これを寝間着だと渡されて、
ハイそうですかとあっさり袖を通せる十代男子はそうそういないだろうと、悟
空は思う。
「何だお前、着方がわかんねぇのか…しょうがねぇな。」
途中で口篭もってしまった悟空の様子から何をどう解釈したのか三蔵はそう答
え、あくまで「寝間着」と言い切ったそれを手に取った。
「え…?い、いや、そーゆーコトじゃなくてさぁ…っ」
焦って反論する悟空をキレイに無視して、三蔵は実に手馴れた様子で着付けを
始めた。三蔵のような年頃の青年で和服の着付けが出来るというのも何とも珍
しい話だが、彼の亡き義父は日常の大半を着物で過ごしているような人物だっ
たし、観音もまた改まった席には和装で出かけることが多い。そんな二人を幼
い頃から見ているうちに、いつしか習うともになしに覚えてしまったのだ。
結局反論の余地すら与えられず、文字どおり「あっという間」に悟空は問題の
寝間着をほとんど押し切られた形で着せられてしまった。
「さてと…じゃあ俺も入ってくるか。言っとくが、これだけ手間掛けさせとい
て勝手に脱ぎ散らかしたりしたら、承知しねぇぞ…まぁもっとも、それを脱い
でも他に着るモンはねぇけどな。」
口の端を僅かに上げて意味深に笑ってみせた三蔵は、妙に軽快な足取りで浴室
へと消えていった。悟空は困惑と怒りが入り混じったような表情でその背中を
睨みながら、それでも大人しくソファーへと腰を下ろした。そんな風に釘を刺
さずとも、クルクルと器用に巻かれた帯が背中でどのように結ばれているのか
すらさっぱりわからない悟空には、如何にそうしたくとも脱ぎ散らかしようも
ないのである。数分の間は拗ねた子供のように頬を膨らませていた悟空だった
が、ふと三蔵の一言が引っかかり、バッと立ち上がった。
(他に着る物が…無い?)
ハッと『何か』に思い至った悟空が、駆け足で洗面所へと向かう。洗面台の横
に置かれた洗濯機の蓋を開けた悟空はその瞬間、我が目を疑う光景を目にする
こととなった。
(…信じらんねぇ…ココまでするか?フツー…)
洗濯機を覗き込んだままの状態で、一気に悟空が脱力する───洗濯槽の中に
はつい先刻まで悟空が着ていた服一式が、しっかりと水に浸かっていた。
一方的に手玉に取られているようで何とも腹立たしいが、こうなってしまえば
どれほど不本意でも、この格好のままいるより他ない。
どうにか気合で身体を起こした悟空は、トボトボと元いたリビングへと戻って
いった。

暫くして、入浴を終えた三蔵がリビングに戻ってきた。全く自分本位な勝手を
押し切られてしまったことに、山ほど文句を言ってやろうと顔を上げた悟空は
───ポカンと大きく口を開けたまま、実に間の抜けた表情で固まってしまっ
た。風呂上りの濡れた髪を無造作に拭きながら近付いてきた、この何とも馬鹿
馬鹿しい策略を実行した男に…不覚にも、見惚れてしまったのである。
三蔵が身に付けていたのはいつものバスローブでもパジャマでもなく、深い藍
色の浴衣。それがしっとりと湿り気を帯びた金の髪と映えていて、非の打ちど
ころのないくらい似合っているのだ。
「何を呆けた面してやがんだよ…いつまでそこに座ってんだ、お前は」
呆気に取られたように大きく瞳を開いたままの悟空に、三蔵はいつもと変わら
ぬ口調で悪態を吐く。まだ半ばボーっとした様子で、それでも促されるままに
ソファーから立ち上がろうとするより一瞬早く、悟空の身体はまるで荷物のよ
うに三蔵の肩へと担ぎ上げられてしまった。
「なっ…ちょっ、何すんだよ三蔵っっ!」
ひっくり返った視界には三蔵の背中しか見えないという状態で、ギャンギャン
と悟空が騒ぐ。それを「ウルセェ」の一言で受け流した三蔵は、寝室へと足を
進めたのだった。


ドサリとベッドの上に下ろされた悟空は、目の端にチラチラと映り込む何とも
違和感のある周囲の色合いに、慌てて視線を巡らせた。
「…コレ…って…」
茫然とした様子での悟空の呟きに、覆い被さるようにして顔を覗き込んできた
三蔵がその口を開いた。
「ンなに驚くこたぁねぇだろ…他でもない『お前』が『せっかくもらった物を
ゴミ扱いは悪い』って言った、あの悪シュミ極まりねぇ布団だよ。」
そう、悟空がいつもとは異なる違和感を覚えた三蔵のベッドには───朱色の
地に金糸で刺繍の施された、例の布団が敷かれていたのである。
「…こんな胸クソ悪ィモン、割り切って遊びでもしなきゃ阿呆らしくて使える
かよ」
「だからって…わざわざここまでしなくたって…んっ…」
耳朶に緩く歯を立てられて、悟空がむずがるような声を上げる。
「『勿体無いから捨てるな』っつったのはお前なんだから…文句言わずに付き
合えよ?」
明らかな確信犯の笑みを向けられて、悟空は上目遣いに三蔵を睨みつけた。
(キタネェッッ…つーか、あの時点でこんなコトまで考えてたのかよっ)
着物の合わせからスルリと忍び込んできた手に、悟空の薄い肩がビクリと震え
る。宥めるようなキスを前髪に落としてから、三蔵は耳元に唇を押し当てた。

「…悟空…」

静かな囁きに、未だあどけない頬がほの紅く染まる。少しの間を置いて、悟空
は「ズルイ」とポツリと呟いた。
「…こんな時ばっかそんな声で呼ぶの…ズルイ…」
拗ねた子供のような悟空の声に、三蔵の瞳にそれまでとは意味合いの異なる、
淡い笑みが滲む。愛おしくてならない腕の中の恋人に、三蔵はとびきりの甘い
キスを送った。


(マズイな…)
重ね合う吐息すら溶けそうな甘い熱に酔いながら、三蔵の胸の内にはそんな思
いがよぎっていた。
これだけの手間をかけた甲斐あって、今回の趣向は二人の夜を盛り上げるのに
予想以上の効果を上げた。いや、寧ろ…上げ過ぎなのだ。
(…下手すると、抑えが効かねぇぞ…)
独特の光沢を放つ朱色の布と肌の色のコントラストも、しどけなく乱れた裾か
ら覗く頼りなげな脚も、いつもと違う気恥ずかしさから潤みを帯びた金の瞳も、
抑えようとしても堪えきれずに小さな唇から零れる甘さを含んだ声も。
その何もかもが、三蔵が漠然と思っていたよりも遥かに煽情的で。
いつもの三蔵なら、まず悟空の体調を気遣うことを最優先にするのだが、今の
状況では何処までそんな冷静さを残していられるか、自分でも怪しい。
結局この夜───朧になった意識を手放すところまで、三蔵が悟空を解放する
ことはなかった。


濃密過ぎるほど濃密な一夜が明けた翌朝のこと。日が高くなってかなりの時間
が経ってから、ようやく悟空は目を覚ました。当然のことながら三蔵はとっく
に仕事に出かけており、ベッド脇のチェストの上には『ゆっくり休んでろ』と
だけ記されたメモ書きが残されていた。悟空は不貞腐れ気味の表情でそのメモ
をクシャリと丸め、ゴミ箱へと投げつけた。
もそもそと起き出した悟空がキッチンに向かうと、コーヒーサーバーには三蔵
が淹れたらしいコーヒーが残っていた。
(…また朝メシ食わずに行ったな…ったくぅ…)
大体、三蔵が起きたことにも気付かないほど疲弊しきっていなければ、きちん
と朝食を作って二人で食べるつもりだったのに。そんなことを考えていた時に
ふと、あられもなく彼に縋っていた昨夜の自分の姿が思い返され、脳みそが沸
騰しそうなほど一気に体温が上昇した。
「…三蔵のバーカ…」
自らへの照れ隠しのようにポツリと呟いた悟空は、コーヒーをカップに注いで
ダイニングの椅子に腰を下ろした。無論悟空の格好は、昨夜のままである。
…が、正確には『全く昨夜のまま』というわけではなく、寝乱れた為に衿は大
きく抜け、帯はようやく結ばれている状態で、誰がどう見ても朝の光溢れるダ
イニングテーブルには違和感ありまくりの艶めかしさを漂わせていた。当然な
がら一刻も早くこんな物は脱いで普通の服装に戻りたいのは山々なのだが、そ
の為には洗濯機で水に浸かっている己の服を洗って乾かさねばならない。
しかし今の悟空にはまだ、それをするだけの気力が戻っていなかった。

悟空がぼんやりと座り込んでコーヒーを飲んでいると突然、チャイムを鳴らす
ことなく玄関のドアを開ける派手な音が響き、続いて全く遠慮のない足音がこ
ちらに近付いてきた。
「観音のお姉ちゃん…」
該当者は他にありえないという人物の名が、悟空の口から紡がれる。目の前ま
で歩いてきた観音は、最初に会った時と同じように「よぉっ」と軽快な調子で
挨拶をしてきた。
「何だ、来てたのかよチビ…しかしドえらい格好だなぁお前…遊郭にでも売り
飛ばされそうになったのか?」
「なっ…元はと言えば、お姉ちゃんのせいなんだぞ…っ!」
珍しいものを見るようなマジマジとした視線を向けられて、悟空は顔を真っ赤
にして怒鳴り返す。観音は「ハ?」と言いたげな表情で悟空を見下ろした。
「聞き捨てならねぇな…何がオレのせいだって?」
単刀直入に切り返されて、悟空は「うっ」と言葉に詰まったが、この格好を見
られた後ではもはや中途半端なゴマカシは通用しない。悟空は実に不本意そう
な表情で渋々ながらも、観音に事の顛末を(都合の悪いところは適当にボカシ
つつ)語った。

「そうかそうか、オレ様の愛を込めたプレゼントが役に立ったわけだな…で、
コスプレごっこは堪能できたか?」

上機嫌な声での観音の言葉に、悟空がガタンッと椅子から立ち上がる。あまり
と言えばあまりの言われように、わなわな震えながら口をパクパクさせていた
悟空だったが、そのまま何も言わずにキッチンへと向かった。何しろ目の前の
相手は、あの三蔵ですら徹底的にやりこめられてしまったような人物である。
どう考えてもこちらの方が分が悪い。一方の観音は涼しげな表情で、悟空の向
かいの席に腰を下ろした。
「おうチビ、オレにもコーヒー入れてくれ。あと朝メシまだだから、トースト
厚めでな。」
「…っ」
当然といった態度での観音の要望に悟空は一言も反論することなく、あきらめ
にも似た気持ちで二人分の朝食の用意を始めた。


何やらわからぬうちに二人で囲むこととなった食卓は、それでも和やかで。
穏やかな笑顔でこちらを見ている観音に気付いた悟空がトーストを皿に置き、
その口を開いた。
「お姉ちゃん…何?」
「いや…まさかあいつが他人をテメェの部屋に入れるようになって、しかもそ
の相手とオレが向き合ってメシを食う日が来るとはな…」
静かな声でそう答えた観音は、平素の彼女のものとは少し異なる、僅かに苦い
ものを含んだ笑みを悟空に向けた。
「おそらくもう聞いてると思うが、亡くなった弟とあいつの間には、血の繋が
りは無い。あいつは捨て子でな…それを弟が拾って育てたんだ。そんな生い立
ちのせいか、あいつは今一つ他人を信じきってないところがあってな…弟には
よく懐いていたが、それ以外には実にイヤなガキだったぜ…?特に弟が死んじ
まった直後はひどかったなぁ…正に『世の中は全部敵』って面してた。」
「……」
「そのあいつに、傍で見てる方がバカらしくなるほどベタ惚れの相手ができる
とは…人生ってのは、わかんねぇもんだな。」
「まぁ、わかんねんぇから面白ぇんだけどよ」と、鮮やかな唇がニッと笑う。
いつも尊大な態度で人を食ったような物言いの彼女だが、その根底にある包み
込むような暖かな気持ちは、間違いなく本物なのだと悟空は思う。観音の言葉
に小さく頷いてみせた悟空は、何処か面映そうな笑みを返した。

「あのさぁ…俺は今日休みだからいいんだけど、お姉ちゃんはこんなゆっくり
してて平気なの?」
キッチンで後片付けをしながら、悟空が観音に問い掛ける。先日彼女は自らを
『多忙な実業家』と言っていたはずだが、今はソファーでくつろぎ、テレビの
ワイドショーなどをのんびりと見ていた。
「ん?あぁ…ウチには細々した後始末が三度の飯より好きって番頭が一人いて
な。よほどの用じゃない限り、オレ様がいなくてもどうとでもなるんだよ。」
ソファー越しに振り返った観音は、緊張感のカケラもないお気楽な口調で答え
る。彼女が『番頭』と言い表した人物の気苦労を察するに、どうにも涙を禁じ
えない思いであったが、悟空はぎこちない口調で「そ、そうなんだ」と返事を
するに留めた。
「そっか、お前今日休みか…よし、じゃあ二人で出かけるか。」
そう言った観音はテレビのスイッチを切って立ち上がった。しかし片付けを終
えキッチンから出てきた悟空は、怒ったように口を尖らせていた。
「お姉ちゃん…さっきの俺の話聞いてた?服乾かさないと、何処にも行けない
んだよ俺。」
「ハァ…?服なんて途中で買えばいいじゃねーか。車ン中でタオルでも被って
りゃわかんねぇよ。ンなモン、あいつに責任持って洗わしとけ。」
不満たらたらの悟空の声を一刀両断した観音は、グイッと悟空の手を引いて歩
き出した。
「ちょっ…出かけるって、何処行くの?」
「そうだなぁ…いっちょ浜名湖に行って、鰻でも食うか。」
焦り気味に問う悟空に、観音は明るい声で答える。
「へ…?鰻食う為だけに、わざわざ浜名湖まで行くの?」
「バーカ。人生ってのは、大いなる無駄にこそ意義ってモンがあるんだぜ?」
呆気に取られている様子の悟空の方をクルリと振り返り、観音はそれは艶やか
にニコリと笑った。
「帰りに箱根で温泉てぇのも悪かねぇな」などと呟きながら、観音は半ば強引
に悟空の手を引いて、三蔵の部屋を後にした。


『小僧の身柄は預かった。返してほしけりゃ、気合い入れて探せよ。』


勤務中はマナーモードにしている携帯電話の画面を開いたその時───
そこが商談先の応接室であったが故に「あのクソババァ~~~~ッッ!!」と
叫び、手の中のそれを叩き壊したい衝動を懸命に堪えるという、涙ぐましい努
力を重ねた三蔵の姿が…あったとか、なかったとか───…。


                            …HappyEnd?


《戯れ言》
何でオマケ話的な後日談でこんなにかかってんだよ自分…?と思うことしきり
ですが(苦笑)どーもコイツはコレをやりたかったらしいのでご勘弁を。
そしてやはり最後まで最強なのは、この御方でした(笑)何だかもうすっかり
主役の二人が霞んでしまいましたね…本編・続編ともに(^^;)




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