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『その光の、示す場所』 byRiko
「あぁ~、やっと腹いっぱいになったよ~っ」 久々の食事を終えて部屋に戻ってきた悟空が満足げに声を漏らし、 そのままベッドにダイブする。一歩遅れて部屋に入ってきた三蔵は、 そんな悟空を見下ろしながら向かいのベッドに腰を下ろした。 「大体さぁ、メシも食わずにぶっ通しで麻雀打ってたなんて、正気 じゃねーよな。」 「何言ってやがんだこのバカ猿、言い出しっぺはてめぇじゃねぇか。」 半ば呆れ気味の声を上げた三蔵を、枕に突っ伏したままの悟空が、 チラリと横目で見る。 「…ンだよ」 勢いをつけて起き上がった悟空は、子供のような満面の笑みを三蔵に 向けた。 「ホレ直した?」 「…コロスぞ。」 平素と変わらぬ三蔵の悪態にめげた様子もなく、悟空は変わらずに ニコニコと笑っている。 「なーんだ、残念…俺は、ホレ直したけどなぁ…」 「あぁ!?」 「三蔵が、『次は勝つ』って言った時。あぁ、やっぱ三蔵ってば すげぇカッコイイって思って、ホレ直したよ?」 微かに驚きの色を含んだ深い紫の瞳が、悟空に向けられる。その 眼差しを受け止める金の瞳は、あどけなさを残す笑みにはそぐわぬ 穏やかさを湛えていた。 ひとかけらの抵抗も適わぬ程叩きのめされて、命からがらで逃げて きた自分達。 これ以上はないトコロまでヘコまされた、カラダとココロ。 そんな中、他の誰より早くその瞳に強い光を取り戻した悟空が、 一言こう言った。 『麻雀やろ。』と。 一体コイツは何を言ってるんだ?と思った。馬鹿馬鹿しくてやって やれるか、とも思った。渋々始めた不可解な麻雀を幾ら打ち続けて も、そこにある意図はちっとも掴めなかった。 どれほどの時間が過ぎた頃だったか。不似合いなほど静かな声で、 悟空はこう告げたのだ。 『俺もう、負けるつもりないから』 その後、今まで抑えていた感情を一気に吐き出すように、悟空は 叫んだ。 『生きたいと思って何が悪ィんだよ、そんなん当たり前じゃん!! 死ぬのが負けなら勝たなきゃ意味ねーよ!!』 いきなり眼前に叩きつけられた、答え。馬鹿馬鹿しくても、カッコ 悪くても、あがいても、もがいても、「生きる」こと。「進む」こと。 ─────ふと気付けば、三人とも笑えるようになっていた。 真っ直ぐに視線を合わせたまま三蔵が立ち上がり、悟空に近付く。 ゆっくりと身を屈め、緩やかな笑みを浮かべている口許に、そっと 触れた。 幾度も幾度も、柔らかな口付けを繰り返す。悟空は変わらずに笑んだ まま、三蔵の肩に腕を回した。 (これ以上続けてると、歯止めが効かなくなるな…) そう判断した三蔵が、最後に軽く悟空の唇を甘噛みして離れようと した。が。 悟空の腕はそれを納得しなかった。 「引かないで。」 「…悟空?」 繰り返された口付けに淡く潤んだ瞳が、三蔵を見上げる。 「俺は三蔵に触れていたいし、三蔵に触れてほしい。三蔵も、そう 思ってくれたんじゃないの…?だったら、引かないで。」 肩に回された腕が、より近くへと三蔵を引き寄せようとしたその時。 ピクリと肩を震わせ、悟空が動きを止めた。 少し視線を下げた悟空の瞳に映った、三蔵の身体。痛々しいほどに 幾重にも巻かれた、白い包帯。 「…悟空?」 静かな声が、もう一度呼びかける。ゆっくり顔を上げた悟空が、 ぎこちなく笑った。 「悪ィ…やっぱ今のは、無し。身体、休めた方がいいもんな。また 今度…な?」 空気の流れを変えるように、殊更明るい声で悟空が告げる。その金 の瞳は、三蔵の身体に向けられたままだ。 四人の中で一番重傷だった彼。その気性故、決して口には出さない が、その身体には相当な負担が掛かっているはずなのだ。 “おやすみ”と呟いて離れようとした悟空の腕を、今度は三蔵が 捉えた。そのまま体重をかけられて、ベッドの上に抑え込まれる。 「さんぞ…?」 「今更遅せーよ、バカ。そこまで言われて引っ込むワケねーだろ。」 「でもさんぞ、ケガが……」 たどたどしい口調でなおも言いつのる悟空の顎をグッと掴んだ三蔵 が、瞬きすら許さないような眼差しを向け、口を開いた。 「────俺も、お前に触れたい。“今度”なんてダメだ。今の お前に、触れたい。」 普段なら天地がひっくり返ったって、こんなことは口にしない。 だが今なら。今なら目の前の相手に、少しくらい本音を晒しても いいと思ったのだ。 三蔵のその言葉に耳朶まで紅く染めた悟空が、困ったように笑った。 「…どーしよう…今オレ、ムチャクチャ嬉しいかも…」 三蔵は口の端だけで軽く笑って、瞼に口付けを落とした。 緩やかな風に包み込まれているような。例えて言うなら、そんな 感覚だった。 未だ少年らしさを色濃く残す細い身体は、確かな温もりを持って 三蔵を抱きしめる。視線が合わさるその度に、照れたように、嬉し そうに、笑顔が返される。薄く開かれた唇から零れる途切れがちの 声は、甘く、柔らかく、三蔵の名を呼ぶ。 そんな悟空の全てが、三蔵の存在そのものをゆったりと包み込む。 その心地よさに身を委ねていく中で、完膚無きまでの敗北で心に 生じたいびつな「尖り」が少しずつ、しかし確実に溶かされ消え 去っていくのを、三蔵ははっきりと感じていた。 不意に視界に入り込んだ、悟空の左脚に残る傷。 肉の内側まで喰いんだ数珠を、アノ男が『可哀想に』と唄うように 言って笑顔で抉り出した、その痕。 三蔵は引き寄せられるように、そこに唇を寄せた。 「三蔵…?」 今も生々しく脳裏に甦る場面。ブシュッ…と紅い飛沫を上げて抉り 出された珠。苦悶を訴える悟空の叫び声。指先を動かすことすら適 わず、それをただ見ているしか出来なかった、無様な己自身。 執拗なくらい繰り返し繰り返し、傷痕を舌で辿る。 「ん…さん、ぞ…なに……?」 まだ完全には癒えていない傷痕を這っていく熱い舌の感触に、悟空 の声に苦痛の色が混ざる。それでも三蔵は行為を止めない。何かに 憑かれたように、濡れた音を立てて舌を這わせ続ける。 「三蔵っ…」 少し強めの悟空の声に、三蔵がようやく顔を上げる。悟空はホッと 小さく息を吐いて、三蔵を招き寄せた。 「大丈夫、だよ。」 穏やかな光を帯びた金の瞳が、真っ直ぐに紫暗の瞳をみつめる。 額の深紅の印に、頬に、触れるだけの軽いキスを送る。 「大丈夫だよ。」 静かな中にも凛としたものを含んだ声が、もう一度告げる。その 口許が、ゆうるりと微笑った。 そうやって、それでもお前は笑うから 同じ剥き出しのイタミを抱えながら 目を逸らさずに笑うから 呆れるほどに柔軟な、この魂。「もう駄目かもしれない」と、思う 時。ふと惑い、暗き淵に陥りそうになった時。当たり前の笑顔で。 何気ない言葉で。何でもないことのように、ヒョイッと水たまりを 飛び越すような身軽さで、そうとは気付かない内に、掬い上げられ ている。 この魂の、果ての無いほどの『強さ』に。 ごく自然に笑みを浮かべている自分を、三蔵は自覚する。互いの 存在を確かめるように、二人はどちらからともなく抱きあう腕に 力を込めた。 熱を放出し終えた身体を投げ出し、ぼんやりと天井を見上げる。 「……喉痛ェ……」 ふと三蔵の口から漏れた呟きに、悟空が軽く身を起こす。 「下行って、何か冷たいモンもらってこよっか。何がいい?」 ベッドから下りようとした悟空の腕を、三蔵が掴んで押し留める。 「いい…ここにいろ。」 「…?すぐ戻ってくるよ?」 意外な三蔵の反応に、悟空が戸惑いがちに言葉を返す。三蔵は 悟空の腕を掴んだまま、再び口を開いた。 「────いてくれ。」 平素の彼なら到底口にしないであろう一言は、照れも怒りもなく、 驚くくらい、深く静かで。見上げてくる紫の瞳は、いつになく 真摯な色を宿していて。 はにかむような笑顔で頷いた悟空は、三蔵の頭を自らの膝に抱き 寄せた。金の雫をこぼしたような髪を、柔らかな仕草でそっと 梳く。 満たされていく甘い感覚に、三蔵の瞼がゆっくりと閉じていく。 最後にその瞳に映ったのは、真っ直ぐ自分をみつめる“金色”。 何度すっ転んでも 何度迷っても 何度間違えても その揺るぎのない瞳が向けられる限り きっと俺は何度でもやり直せるから 願わくば 遥か先の「明日」にも その瞳に映るのが この姿でありますように───── END. 《戯れ言》 『STRANGE FLOWERS』様 にUPして頂いたモノ。 私にしては非常に珍しい(オイ)原作の流れに沿ったエピソード。 あの麻雀の回を読んで、わりと自然に思い付いた話。 「死ぬのが負けなら勝たなきゃ意味ねーよ」という悟空の言葉は、 それこそ叫び出したいくらい嬉しかったです。「そう、そうだよ、 その言葉が聞きたかったんだ!」って感じでした。 タイトルの「その光」というのは、三蔵にとっての、悟空のそう いう魂の強さが放つ「光」のことを表した言葉だったりします… なーんて、ちょっとサムかったかしら?(苦笑) |
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