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rules   by Riko







その日の午後。小学校から帰って来た三蔵はリビングのソファーに座りフルー
ツゼリーを食べていた。そこへ一足先に帰宅し友達と外へ遊びに行っていた悟
空が「ただいまー」と戻ってきた。玄関から上がった悟空はそのまま一直線に
洗面所へと向かう。父親の言いつけどおり『外から帰ったらまず手洗いとうが
い』を正しく実践した悟空は、パタパタと足音を響かせてリビングに入ってき
た。
「あ~、ゼリー食べてる~」
三蔵の姿に気付いた悟空が、手にしている器を指差す。三蔵はその言葉に特に
反応を示すことはなく、歩み寄ってきた悟空へと目を遣る。悟空の言い様だけ
を聞くと、まるで三蔵が悟空の居ぬ間に一人抜けがけをしてゼリーを食べてし
まったように思われるが、無論そうではない。そもそもこれは昨夜父親が土産
として二人に一つずつ買って来てくれた物で、食いしん坊の悟空は昨日の時点
で既に自分の分を食べてしまったのだ。三蔵は昨日自らの分に手をつけなかっ
た為、今日のおやつとして食べていたのである。三蔵の目の前に立った悟空は、
上目遣いで端正な兄の顔を覗き込んだ。
「俺も食べたい。」
無邪気な口調でねだられて、三蔵はスプーンを持っていた手を止める。前述の
とおり悟空は既に自分がもらった分は一人で食べてしまっているわけで、はっ
きり言えばそのねだり方は身勝手なワガママでしかない。だから三蔵としては
それを綺麗に無視してしまってもいいのである。しかし。
「…もう結構食ったから、あんまし残ってねぇぞ。」
三蔵はそう言って、食べ途中の器を悟空の前へと差し出した。父は味の異なる
ゼリーを一つずつ買って来ており、まずは悟空が自分の好きな方を選び、残っ
た方を三蔵が取った。とにかく食べることが何より好きな悟空のこと、昨日自
分が食べたのとは違う種類の物を三蔵が食べているのを見て、食べたくなって
しまったのだろう。ぶっきらぼうで言葉の少ない三蔵ではあるが、何のかんの
と言いつつこの小さな弟には甘いのだ。
しかし喜び勇んで器を奪うかと思われた悟空は、意外にもふるふると首を横に
振った。
「…?」
訝しげに軽く眉根を寄せた三蔵の更に間近まで歩み寄った悟空は、三蔵と向か
い合う形でピョコンとその膝の上に飛び乗った。驚きに目を開いている三蔵の
顔をくるくると動く丸い瞳で覗き込み、悟空はニッコリと笑った。
「一緒に食べたい。」
屈託のない笑みと共に告げられた言葉の意味を察した三蔵は、思わず絶句して
しまった。

先日のバレンタインデーのこと。ひょんなことがきっかけで二人はチョコレー
トを口移しで分け合った。三蔵としては咄嗟に思いついた言わば妥協案のよう
なものだったのだが、大好きなチョコレートを大好きなお兄ちゃんと仲良く半
分ずつ食べることが出来て、悟空はすっかりご満悦だった。
どうやらチョコンと膝の上に乗っている弟の小さな脳みその中では『仲良く半
分こ』の決まりごととして、それはすっかり定着してしまったらしい。内心弱
りきった三蔵がチラリと視線を向ければ、悟空は疑問のカケラも持たない笑顔
でこちらを見上げている。三蔵はあきらめにも似た短い溜め息を一つ吐き出し
てから、ゼリーを一匙口に含んだ。
「ん…」
三蔵の秀麗な顔が僅かに傾けられ、唇が重ねられる。ツルリと滑らかなゼリー
はスムースに悟空の口の中へと流れ込んでいった。小さな喉がコクン…と上下
し、三蔵の唇が離されると、悟空は「美味しいね」とそれは無邪気に笑った。
「言っとくけどな…余所でこんなねだり方すんじゃねーぞ。」
些か説教じみた口調で、三蔵が悟空を諭す。幾ら幼い子供とはいえ、外でやっ
ていいことと悪いことというものがある。このじゃれ合いに近いやり取りは、
あくまで『家の中』だからこそ許されることなのだ。一方の悟空はといえば、
きょとんとした表情で三蔵を見上げ、その口を開いた。
「何でわざわざそんなこと言うの?お兄ちゃん以外の人と、こんなのするはず
ないのに。」
ひどく当たり前のことのように言い返されて、今度は三蔵が不意を突かれる番
だった。軽く瞠目した三蔵の顔を、悟空は小首を傾げて覗き込んだ。
「お兄ちゃんは…他の人とでも同じようにするの…?」
「バ…バカ言うなっ、誰がンな気色悪ィことするかっ!」
ぽつりと落とされた悟空の問いに、三蔵は想像するのも耐え難いといった表情
で怒鳴り返す。途端に悟空は満面の笑顔になり、三蔵の胸へとぱふ…っと顔を
埋めた。
他の人へと同じようにすることを『気色悪ィ』と言い切っているということは、
自分とそうするのは三蔵にとって『イヤなコト』ではないわけで。大好きなお
兄ちゃんが自分を『特別』と思ってくれていることを確認出来て、悟空は上機
嫌だった。
「もう少し食べたい」
三蔵の胸から顔を上げた悟空が、上目遣いの悪戯めいた笑顔で再びねだる。
三蔵は「やれやれ」といった表情でゼリーを一匙口に含み、悟空の顎へと指を
かけた。

これらの出来事から暫くが過ぎて。野生動物の生態を特集したテレビ番組の中
で、親鳥が雛に餌を与える場面を見た悟空が「赤ちゃんみたいだからもうしな
い」と言い出すまで、この『仲良く半分こ』の決まりごとは二人の間で密やか
に続けられたのだった。


甘いお菓子を分け合う為でなく、二人が唇を合わせるようになるのは……
もう何年か先のこととなる。


                               …END.



《戯れ言》
何だかもうこの兄弟は書けば書くほどに『無自覚なまま、まっしぐら』という
様相を呈して参りました(爆)ホントにもう、どうしたものやら…(←オイ)
因みにこの話はオフの方で書いたバレンタイン物の後日談ということになるの
ですが、要はバレンタインデーに口移しでチョコを食べたことで、悟空はそれ
を『仲良く半分こ』の印と思うようになった…ということで、そちらを読んで
いなくても話は通じますので…ハイ(^^;)。




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