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Mywish, Yourwish byRiko

 

すっかり秋の気配も深まったとある日の夕暮れ────華の都長安

随一の最高僧であらせられる玄奘三蔵様は、最大級のイライラを撒

き散らしながら、自室の長椅子で大量の煙草を消費していた。イラ

イラの原因はといえば、彼が三年ほど前から手元に置いている一匹

(?)小猿にあった。

 

 

悟空が、朝から全く姿を見せていない。三蔵が目を覚ました時には

既におらず、僧侶らも今朝は一度も見かけていないと口をそろえて

言った。三蔵自身も、当初は朝から山へ遊びにでも行っているんだ

ろうと、さして気にしてもいなかった。寧ろ珍しく溜まった仕事が

一区切りついて手の空いたこの日、あの小猿に「遊んで」だの「何

処かへ行こう」だのと煩わされることなくゆっくり自分の時間が過

ごせると、機嫌が上昇したくらいだ。

そして午前中いっぱいくらいは新聞を広げたり、普段は手に取る暇

もない書物に目を通したりと、のんびりと過ごしていた三蔵だった

が、昼の膳が並べられても悟空が戻って来ないに至って、その心境

に変化が現れた。

(あのバカ、何処でフラフラしてやがんだ!?

何せあの大食らいの悟空である。どんなに遊びに夢中になっていて

も、食事の時間に戻って来なかったことなど、今まで一度たりとも

ない。それに、朝から誰一人その姿を見ていないということは、朝

食も取らずに出て行ったということになる。その上昼食も抜きなど

ということが到底我慢出来る筈のない悟空が、姿を現さない。本来

なら考えられないことだ。

(…くだらねぇ、何をらしくもなくイラついてんだ、俺は…?)

振り回されている。たったこれだけのことで、あんなちっぽけな子

供一人に。

全くもって、『らしくない』。

そんな自分に尚更苛立たしさが募った三蔵は、それから極力悟空の

ことを考えないよう、頭の隅に追いやろうとした。しかしそう思う

ほど却って苛立ちは増し、眉間のシワは深くなり、立ち込める煙草

の煙は加速度的に部屋中を満たした。その凄まじさといえば、午後

の茶の給仕に来た小姓があまりの刺々しい雰囲気にたじろぎ、部屋

に足を踏み入れられなかったくらいである。

 

 

とっぷり日が暮れても姿を現さない悟空に、三蔵の怒りがピークに

差し掛かっていた、その時。

 

バターーンッッ!!と勢いよく、扉が開け放たれた。

 

「ただいま~!!あー、腹減ったぁ~っっ…うわっ!何、この煙!

…ったく、こんなに煙草吸ってんなら窓くらい開けろよなー…」

突然、嵐の如く帰宅した悟空は、三蔵を取り巻くただならぬ空気に

気付く様子もなくズカズカと部屋に入り、派手な音を立てて窓を開

ける。最初は何が起きているのかを呑み込めず呆気に取られていた

三蔵だったが、いつもと変わりない悟空の態度に沸々と湧き上がる

怒りを抑えきれず、いつのまにか握られていた左手のハリセンが、

小さなこげ茶色の頭にクリティカルヒットを炸裂させた。

「痛ってーーーっっ!!いきなり何すんだよっっ!!」

「うるせぇ、このバカザルッッ!!こんな時間に帰ってくるたぁ、

一体どーゆー了見だ!?

痛恨の一撃に涙を滲ませながらも噛みつかんばかりの勢いで叫ぶ悟

空に、三蔵も劣らぬ迫力で怒鳴り返す。三蔵のその一言に、悟空の

表情が止まった。

「え…あ、ゴメン、まだ帰って来ない方がよかった?」

「…ハァ?」

悟空の口から出たあまりに見当違いな言葉に、三蔵も思わず間の抜

けた声を漏らす。

「悪ィ、じゃあ俺、もうちょっと外で時間潰してくるっっ」

いかにも申し訳なさそうな声で謝った悟空が、扉の方へ踵を返す。

三蔵は慌ててその襟首を掴み、悟空を引き止めた。

「ちょっと待て、テメェは一体何を言ってんだ!?

「ん?だって今日はさ、三蔵の誕生日じゃん?」

「あ…?」

振り向いた悟空の更なる一言に、三蔵の声は困惑の色を濃くしてい

く。確かに言われてみれば今日は十一月二十九日。先代の光明三蔵

が、川に流されていた自分を拾い上げた日。“だからこの日を貴方

のお誕生日ということにしましょう”とあの御方が優しく笑った、

今は遠い、幸せの記憶。しかしその事と、今日の悟空の不可解な行

動とに、一体何の関係があるというのか。

「だからさ、何かあげられたらいいなって思ってて、でも俺がやれ

る物なんて高が知れてるし、三蔵ってあんま物とか欲しがんないし

…でさ、この間、溜まってた仕事のケリが着いたからちょっと暇が

できるって言ってたから…だったら今日一日、ゆっくりしてもらお

うって、そう決めたんだ。でも俺、一緒にいるとつい構って欲しく

て邪魔しちゃいそうだから、さ…」

(…だから、食事にも戻らず、わざわざ一日中外に出ていた…?)

「へへ…」

照れ臭そうに悟空が笑う。三蔵は予想もしていなかった驚きに目を

見開き、悟空をみつめている。

「お前…飯はどうしてたんだ?」

「えっと…実はちょっとおやつ持ってったし…後は果物採ったり、

池で魚捕まえたりとか…でもやっぱ、腹減っちゃったけど。」

再び「へへ」と悟空が笑ってみせる。そんな悟空の笑顔に、三蔵は

微かに目を細めた。

(…見縊ってたのは、俺の方か…)

 

いつまでも子供だと、思っていた この存在はいつまでも子供で

自分に手を伸ばして、自分の背中だけを追ってくるのだと

そう思い込んでいた

 

三蔵は手を伸ばし、子供らしい丸い頬に、そっと触れた。

「バーカ…冷えきってんじゃねぇか…」

思いがけない三蔵の気遣いが嬉しくて、その手に頬を擦り寄せる。

「ヘーキ。俺、丈夫が取り柄だし…なぁ、ゆっくりできた?」

鮮やかな金の瞳が、三蔵に瞳を覗き込む。三蔵は苦笑いを浮かべ、

小さく息を一つ吐いた。

「まぁ、な…」

「そっか…よかった。ねぇ、もう夕飯にしようよ。俺、ハラペコで

さぁ…」

先刻の少し大人びた様子が嘘のように、全くいつもどおりの悟空。

だがその幼い胸の内には、もう子供ではない部分が確かに存在する

ことを、三蔵はこの日初めて知った。

 

 

温かな湯気が立ち昇る食卓を、二人で囲む。悟空はいつにも増して

盛んな食欲を見せながら、今日一日の出来事を、三蔵に具に語って

聞かせた。出会った動物。初めてみつけた珍しい木の実。色鮮やか

な綺麗な落ち葉。そんなたあいのない話の一つ一つに、三蔵にして

は珍しく「あぁ」とか「そうか」とか、素っ気無いながらも相槌を

打ってやる。それが嬉しくて堪らなくて、悟空は箸を置くまで延々

と話を続けた。

「ご馳走様」と満足げな声で挨拶した悟空に、三蔵が視線を向ける。

「おい…風呂上がったら、こっちに来い。」

「へ?でもさ…」

予想外の三蔵の言葉に、悟空が丸く目を開く。そもそも三蔵は、一

人の時間を邪魔されるのを殊の外嫌う。ましてやそれが、ゆっくり

過ごせる夜なら尚のことだ。それを充分に承知しているからこそ、

悟空は戸惑った。

「…昼間トンズラこいてた分、夜はここにいろ。」

ぶっきらぼうな言葉。けれど“ここにいていいんだ”という、三蔵

の精一杯の意思表示。悟空はそれに、満面の笑みで応えた。

「…うん!!」

 

 

先に風呂に入ったにも関らず、その髪からポタポタと雫を垂らした

ままの悟空をベッドに座らせ、乱暴な手つきで髪を拭いてやる。

悟空は無理やり抑えつけられるのを嫌がり、大きく首を振った。

「イテテテッ…三蔵っ、自分で出来るってば!!」

「ウルセーよ、そういう台詞は俺が風呂から上がる前に、ちゃんと

拭き終えてからいいやがれ。ったく、手間ばっかかけさせ…」

ゴシゴシと悟空の髪を拭っていた三蔵の手が、ふと止まる。大地色

の長い後ろ髪の間から垣間見えた、細い項。日常陽に晒されること

のない『白』が、不意打ちのように瞼の奥に飛び込んできた。

「…三蔵?」

背後の気配が微妙に変化したのを感じ取り、悟空が三蔵を振り返る。

三蔵の深い紫の瞳が、静かに悟空をみつめていた。

「オイ…誕生日のリクエストは、まだ有効か?」

意外な三蔵の問い掛けに、悟空は大きな瞬きを一つしてみせた。

「え…?う、うん、もちろんっ…なーんだ、三蔵欲しいモンあった

んだ。だったら初めっから訊けばよかったな。俺、三蔵って物とか

欲しがんないだろうって、勝手に思ってたから…」

屈託のかけらもなく、悟空が笑う。三蔵は悟空の頭から、スルリと

タオルを落とした。

「…欲しいモノは、前からあった。でも、今はまだ手に入らないだ

ろうと思っていたから…その時が来るのを、待っていた。」

「…?もう待たなくてよくなったの?」

「あぁ…待つのは、もうヤメた。」

「…ふーん…?」

 

五行山から連れ出し 手元に置いて三年

子供だと思い込んでいたこの存在は いつのまにか

ただの無邪気な子供ではなくなっていた

 

不可思議そうに小首を傾げる悟空に、三蔵は口許だけで薄く微笑っ

てみせた。その三蔵の笑顔が嬉しくて、悟空も笑い返す。悟空から

視線を外さぬまま、三蔵は目の前の小さな身体を強く抱きすくめた。

「さっ…」

突然のことにビクリと身体を震わせた悟空の額に、瞼に、耳元に、

次々とキスが落とされる。負担を掛けぬよう注意を払いながら、抱

きしめた身体ごと、ベッドに倒れこむ。吐息が触れ合う程の距離で

真っ直ぐに悟空を見据え、三蔵は一言だけ呟いた。

 

「────お前を、くれ。」

 

「さん、ぞ…?」

三蔵の長い指が、寝間着の合わせを器用にはだけていく。何がどう

なっているのかさっぱりわからない悟空は、今にも泣き出しそうな

表情になる。それに気付いた三蔵が、きつく寄った眉間にそっと唇

を押しあてた。

「あのっ…あの、さ…その…俺は…どうしてたら、いいの…?」

ほとんど声にならない、小さな悟空の呟き。三蔵はそのあどけない

唇に、チョン、と触れるだけのキスをした。

「別に何にも。いつもどおりの、お前でいたらいい……」

 

 

 

緩やかに、限りなく緩やかに、時間は流れていった。一刻でも早く

繋がってしまいたいと思う自らの熱情と内なる葛藤を繰り返しなが

らも、三蔵は決して急がなかった。何一つわからない不安と、何も

かもが初めての甘い感覚に、金の瞳を朧に潤ませている悟空の頼り

ない身体を、少しずつ、ゆっくりと解いていった。

髪の生え際から、指の先から、か細い腰骨から、踝に至るまで余す

所なく、三蔵は口付けを落としていく。時折り感じる微かな痛みと

共に、皮膚の薄い柔らかな肌に、蘇芳色の小さな花びらが散った。

「んっ…あ…さんぞ…さん…ぞ…」

不馴れな快楽の波に翻弄されて、悟空は縋るように繰り返し三蔵を

呼ぶ。その名前だけが、強過ぎる毒のような甘い波に浚われそうに

なる自分を繋ぎとめる、唯一つの真実の言葉であるかのように。

三蔵は静かな囁きで、辿る指先で、熱を帯びた唇で、その声に応え

た。

 

身体の内側から侵蝕されるような圧倒的な熱が、悟空を襲う。苦痛

の色を見せる表情を解きほぐすように、三蔵の指先が前髪を優しい

仕草で梳いた。

「キツイか…?」

労わりを含んだ声にぼんやりと目を開けた悟空は、それでもなお、

微かに笑った。

「ん…ちょっ…と、キツ…イ…かな…でも…引かない、で…」

背中に縋っていた細い腕が、より深く三蔵を抱き寄せる。

「俺、は…逃げない、から…さんぞ…から…逃げないから…だから

さんぞう…も、引かない…で……」

悟空の苦しげな様子に暫し躊躇していた三蔵が、再び身体を押し進

める。二人を取り込んだ流れは、大きなうねりとなって互いの身体

中を満たした。全てが一瞬にして弾けた後、二人はひどく涼やかな

気持ちで、金と紫の瞳を絡ませ、笑い合った────。

 

 

起き上がることもままならない悟空を抱き上げてもう一度風呂に入

り、温まった身体を抱き寄せ、三蔵は眠りの体勢に入る。夢うつつ

の状態で三蔵の胸に顔を埋めていた悟空が、フゥ…ッと目を開いた。

「何だ…?」

静かに問い掛ける三蔵に、悟空は花が零れるような笑みを向ける。

「そういえば…まだ俺、ちゃんと言ってなかった気がする…誕生日、

おめでとう。それから……」

 

 

同じ時間を生きられるよう、生まれてきてくれたことに

心からの、感謝を────…

 

 

 

                              Happy End. 

 

 

《戯れ言》

「三空エロ同盟」様 にて、『三蔵BD企画』に一枚かませて頂いた

代物。「お誕生日にお初(爆)ってのもどーよオイ?」とも思った

んですが、結局はこんなベタなネタをやらかしてしまいましたι

当時コレをみかりんにメールで送った時、「連れ帰ってきた時から

ガマンしてたの?」とドえらいツッコミを受けましたが…もしそう

だとしたら、三蔵サマってば完全に犯罪者の域だろーよ(^^;)

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