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『彼方に瞬く光を目指せ』    by Riko





およそ「軽やか」とは言い難い足取りで、悟空は一人森の中を歩いていた。
少し外を歩いてきたいと言うと八戒と悟浄は当初渋い表情を見せたが、一人に
なって考えてみたいことがあるのだと告げれば、「くれぐれも無理をしないよ
うに」と釘を刺されながらも、不承不承了解を得ることが出来た。

ふと足下へと視線を落とす。風に飛ばされて落ちたのだろうか、まだ開きかけ
だった薄紅色の花が、踏まれて泥にまみれているのが目に入った。
ぼんやりと眼下の光景を金の瞳に映している悟空の脳裏を過ぎったのは、実際
には見ていないはずの、唯一人の後ろ姿。

『勝手に行っちまったんだっつーの、俺達とは逆方向にな』

離れていく背中。遠ざかる、眩い金の髪。
悟空はギリ…ッと下唇を噛みしめた。
(こんなに…)
こんなにも脆かったのだろうかと思う。
『確かにある』と信じていたモノ。
『決して途切れない』と、疑う余地もなく思っていた繋がり。
その全てが、自分一人の思い込みに過ぎなかったというのだろうか。
きつく噛みしめていた唇を解き、長い溜め息を一つ吐き出す。

全身を切り裂いた熱い痛み。その後の記憶は、自分の中には残っていない。
フラッシュバックのように断片的に甦った映像には、カフスを外した八戒の姿
と、鮮やかな血の『紅』。

余りの情けなさに吐き気すら覚える。結局、またしても自分は金鈷を外した状
態での己を制御することは出来なかったのだ。覚えていないなどというのは、
最早理由にはならない。

『強くなる』

そう心に決めたのに。自らが誇れるだけの強さを手に入れると誓ったのに。
どれほど強大なものであろうと、己の意思で凌駕出来ないような力を『強さ』
とは呼べない。

『だからこそ動揺しての事じゃないんですか?実際あのままでは、命を失って
ました』

自分が倒れたのと同時に、なりふり構わず駆け出して行ってしまったという彼。
不安な思いを、させてしまったのだろうか。
繋がっていた『何か』が、解けてしまうと。

何があろうと、何が起きようと、
全ての宿命に抗ってでも。

ただひたすら共にあろうと───それだけがたった一つの願いだったのに。
自分が乗り越えられない『弱さ』のせいで、かけがえのない人の心を苛んでし
まった。

握りしめたままだった拳を、ゆっくりと胸の辺りまで上げる。開いた掌へと目
を遣れば、紅く残った爪痕からは微かに血が滲み出していた。
暫し両の掌をみつめていた悟空だったが、一つ気持ちの区切りをつけるように、
両頬を思いきりよくパン!と叩いた。

(歩き出せ)

既に終わってしまったことにばかり気持ちを奪われるな
目の前に立ちはだかる現実から目を逸らすな
都合の悪いことを見えないフリはするな
ここで思いを巡らせるばかりで足を止めたままでは、
いつまで経ってもあの『光』には辿り着けない

クルリと勢いよく踵を返した悟空が走り出す。明確な意思の力を取り戻した金
の瞳は、今はもう只々前だけに向けられていた。

「ただいまー。腹減ったー、何かスタミナのつくモン食わせてよ八戒。」


歩き出せ
今ここから、次の明日へ───。



                               END.



《戯れ言》
…一応、6月号を読んでの私なりに思ったこと&こんな風であってほしいなぁ
という願望とがゴタ混ぜのSS(つか、ポエムもどき?)でした。
イメージしたのは中島みゆき様『泥海の中から』の

振り返れ 歩き出せ
忘れられない罪ならば
繰り返す その前に
明日は少しマシになれ

というフレーズでした。ほとんど自己満足に近い吐き出しですが、お付き合い
ありがとうございました。




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