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『Darlin’,Darlin’』 byRiko

 

「しつこいなぁっ、さっきから何べんもイヤや言うてるやろ!?」

「だーかーら、おとなしくついて来りゃ悪いようにはしないって、なぁネェちゃんよ」

その日、悪路を走り継いで夕暮れに辿り着いた街でのこと。とりあえず今夜の宿を探そうと繁華街の大通りを歩いていた四人の耳に飛び込んできたやり取り。「ん?」といった表情で軽く目を眇めた悟浄が、咥え煙草を投げ捨てた。

「あーぁ、何処でもあのテのくだらねぇ連中っているワケね…ほんじゃちょっくら、美女助けに行ってきますか。」

「『美女助け』って悟浄、まだ顔見てねーじゃん?」

「バカザル、あれだけしつこく言い寄られてるおネェちゃんがブッ細工のワケねーだろ…ってほら見ろ、ビンゴだっ☆」

楽しげに声の調子を上げた悟浄が、他のメンバーより一足早く駆け出して行く。その先にはニヤケた面の連中に囲まれた、華奢な女性の姿があった。

「…いつもながらこういう時は素早いですよねぇ、あの人。」

「ったく、あの無駄なエネルギーを他のことに使えねぇのかアイツは…おいサル、テメェも夕メシ前のストレッチに行ってこい。」

「えー、俺と悟浄だけ?」

「あんな雑魚に全員は要らないでしょう。ほら悟空、少し運動しておいた方が、夕食を美味しく食べられますよ?」

「それもそうだな…了解!!」

初め不満げな様子だった悟空は、八戒の言葉に笑って頷き、駆け出して行った。何のかんの言ったところで、一日中移動で狭い車内から動けなかった分、鬱憤が溜まっていたのだ。その証拠に、5~6人はいた連中は容赦なく叩きのめされ、瞬く間に「夕食前の一運動」は終了してしまった。

「何だかなぁ~、肩馴らしにもなんなかったって感じ?か~の女、大丈夫だった?」

軽く服の汚れを払った悟浄が、女性向限定の笑顔で振り返る。呆気に取られた表情で突如起こった乱闘をその瞳に映していた女性は、悟浄の呼びかけにホッと息をつき、笑ってみせた。

「ありがとう。あいつらホンマしつこくて…助かりました。何かお礼を…」

「礼だなんてそんな…君、名前は?この辺に住んでるの?今夜ヒマだったら…」

彼女の言葉が終わる前にマシンガンのようなアプローチを始めた悟浄の後頭部に、一切の手加減の無い、三蔵の蹴りが飛ぶ。

「痛ェーな!!いきなり何しやがんだっっ!!」

「どーしてテメェはそう節操ってモンがねーんだ!?イイ加減にしとけよオイッ」

そんな二人のやり取りに、思わずといった感じで女性がクスクスと笑みを漏らす。

「ゴメンなさい…何だかすごく楽しそうやからつい…お兄さん達は旅の方?」

「ええ。たった今こちらに到着したところで、宿探しの途中だったんですが…」

「あぁ、だったらここから南へ2~3分歩いた所にある、王おじさんの宿がお薦め。部屋は広めやし、おじさんもエエ人よ。そうや!部屋に荷物置いたら、御飯食べに来てよ。宿の五軒先で、ウチとこのダーリンがお好み焼き屋やってるの。御馳走するわ。ね?」

明るい声でそう言った彼女は、四人それぞれの顔を覗き込んでニッコリと笑った。「必ず来てね」と再度念を押し、彼女はその場を去って行った。

「…『ウチとこのダーリン』…ね。オトコ付きかよ、あ~ぁ…」

一気に脱力した様子で、悟浄ががっくり肩を落とす。

「まぁまぁ、せっかくお薦めの宿を紹介してもらったんですから、行くとしましょうよ。いいですね、三蔵?」

「ああ」

四人は教えられたとおり、大通りを南へと歩き出した。

 

 

彼女に薦められた宿はその言葉のとおり、気の良さそうな主人の営む、ゆったりとした造りの清潔感のある宿だった。その夜の部屋割りを決めた四人は、悟空の「腹減った」の連呼に押され、件の店を訪れた。

「いらっしゃーい!来てくれてありがとう、座って座って。今日はウチらのオゴリやから、どんどん食べて、飲んでってな。」

店に足を踏み入れた途端、満面の笑みの彼女が彼らを迎える。四角の鉄板を囲むように腰を下ろすと、店中に広がるソースの焼ける香ばしい匂いに、悟空がクン…と鼻を鳴らした。

「うわぁ~うまそーな匂い…何にしよっかな、まずはブタ玉だろ、それから…」

「やっぱまずはビールだな。おネェさん、生4つね。」

てんでに注文の声を上げた悟空と悟浄に、彼女は笑って頷いた。

 

「お姉さーん、ミックス焼きそば2つ追加ね!」

「はいはい…それにしても坊ンはエライ食欲やねぇ…その細い身体の何処に入ってんの?」

悟空の食べっぷりを初めて見た人の大概がそうであるように、彼女は驚きに目をパチパチとさせている。

「お前なぁ…少しは遠慮ってモンをしろよ。」

「だって、どれもすげーうめぇんだもん。」

熱々のお好み焼きを頬張りながら、心底幸せそうに悟空が応える。そのあまりに無邪気な様子に、彼女も嬉しそうに笑った。

「遠慮なんてせんといて。沢山食べてくれた方が気持ちエエし、どれも美味いなんて、最高の誉め言葉やもん。なぁ坊ン?さぁ、どんどん食べて。」

そんな悟空を眺めつつ、至って常人のペースで箸を進めていた三蔵が、「八戒」と呼びかける。席を立って近付いてきた八戒に、懐から取り出したカードを渡し、二言三言何かを告げた。

「…わかりました。じゃあちょっと行ってきますね。」

カードを受け取った八戒は、小さく笑って店の外へと出て行った。

「…三蔵、八戒に買い物頼んだの?メシの途中なのに?」

「…ちょっとな。」

悟空の素朴な疑問にそれ以上は答えようとはせず、三蔵はビールに口を付ける。悟空も「ふぅん?」と呟いたきり、そのまま食事へと専念した。

 

 

「あ~、食った食った、ごちそーさん!」

山の如く皿が積まれる中、ようやく悟空が箸を置く。それを合図に四人は席を立った。それぞれが彼女に礼を述べ、店を出る。最後に店を出た三蔵が、見送りに出てきた彼女に袋を差し出した。

「世話をかけたな。あんたの連れにも、よろしく伝えてくれ。」

袋の中に入っていたのは、かなり値の張ることで有名な酒のボトル。彼女は瞳を見開き、袋の中身と三蔵の顔を交互に見遣った。

御馳走すると言って招いた以上、彼女は決して代金を受け取ろうとはしないだろう。譬え彼女の予測をはるかに上回る食材を、悟空が食い尽くしてしまったとしても。それを承知しているからこその、三蔵なりの謝意の示し方。そこに込められた気持ちは、充分彼女にも伝わったようだった。

「ありがとうございます…あの人、きっと喜びます…おおきに。」

穏やかに微笑った彼女に、三蔵は軽く頷き、その場を離れた。

「そっか。三蔵、この買い物を八戒に頼んだんだ。」

一歩離れた位置にいた悟空が彼女に近付き、ヒョイと袋の中を覗き込む。そんな悟空に、彼女は優しい眼差しを向けた。

「なぁ坊ン…坊ンのダーリンは、めっちゃオトコ前やね。」

不意にかけられた言葉に、悟空が顔を上げる。悟空にニッコリと笑いかけてから、彼女はその視線を三蔵に向けた。

今の彼女の言葉と態度から察するに、『オトコ前』というのは三蔵を指しているらしいのだが。

「?『ダーリン』て、お姉さんの恋人の名前じゃないの?」

悟空のあまりに見当違いな言葉に、彼女は一瞬きょとんとした表情になり、次に小さく声を上げて笑った。

「そんなんと違うわぁ…もしかして東の方って、あんまりこの言葉使わへんの?」

「…悟浄は知ってたみたいだから、そんなことないだろうけど、俺は初めて聞いたから…それってどういう意味?」

「意味、ねぇ…そうやなぁ、一番わかり易く言うたら…」

悟空の問い掛けに、彼女が小首を傾げながら出した答えは……。

 

 

宿に戻った四人は、三蔵と悟空、悟浄と八戒の二部屋に分かれた。悟空が風呂から上がると、三蔵はベッドヘッドにもたれかかって新聞を読んでいた。細かい水しぶきを散らしながら、ゴシゴシと乱暴に髪を拭いていた悟空は、まじまじと三蔵をみつめ、ふとその口を開いた。

 

「…えーっと…ダ…ダー…リン?」

 

ピタリと。新聞をめくりかけていた三蔵の手が止まる。ゆっくりと悟空の方へ向き直った三蔵の瞳は、臨界点寸前の怒りの色を放っていた。

「…悟浄か?」

地を這うような凶悪なトーンの声で発せられたのは、その一言。

「へ…?何が?」

「そのフザケた入れ知恵をしやがったのは悟浄かって訊いてんだ」

「!ちげーよ!そうじゃなくてっ…俺、その言葉の意味知らなくて、さっきのお姉さんに訊いて、そしたら…」

先刻の彼女の言葉を、悟空は思い出す。

『そうやなぁ、一番わかり易く言うたら…』

 

“愛おしい人”

 

一言そう呟いた彼女は、はにかむように笑った。

「そう言ったお姉さん、すごくキレイに笑ってて…だからそれは、すごく大事な人に使う言葉なんだって、そう思って…」

だからこそ、三蔵に向けた言葉。だが結果は、三蔵を不愉快にさせてしまっただけらしい。悟空はしょんぼりとうなだれて、それきり黙り込んでしまった。

無造作に新聞を畳む音と共に、三蔵の口から短い溜め息が漏れる。その微かな気配にさえ、悟空はピクリと肩を震わせる。そんな悟空の様子に、三蔵の口許に僅かな苦笑いが浮かんだ。

「悟空」

平素より少し柔らかな声が、悟空を呼ぶ。のろのろと顔を上げた悟空に、三蔵は視線だけでこちらへ来るよう促した。恐る恐るといった感じでベッドの横まで寄ってきた悟空を、三蔵は有無を言わさず膝の上に抱き上げた。

「さっ…三蔵?」

突然のことに戸惑う悟空の頬に手をあて、三蔵は正面から金の瞳を見据えた。

「…確かにその解釈はあながち間違いじゃねぇが、あまり一般的には使わねぇ言葉なんだよ…だからソレは、今回限りにしとけ。」

「う、うん…三蔵がイヤなんだったら、もう言わないけど…」

とりあえず、自分が決してからかいの気持ちで口にしたのではないことを三蔵が納得してくれたのだと安心し、悟空は小さな子供のようにコクリと頷いた。

悟空の小さな耳に、三蔵が軽く唇を押し当てる。その唇から、ほとんど吐息に近い、ごくごく微かな呟きが零れた。

 

「────…」

 

「今の…何?」

その言葉自体を知らない悟空は、目を丸く開いて三蔵を見上げる。三蔵は眼鏡を外し、軽い息を一つ吐いた。

「お前が言ったソレは、2つで1セットの言葉なんだよ…で、今のがその片われ。意味は…お前が聞いてきたのと、ほぼ同じだ。」

「意味は…同じ?え…?…あっ…!」

 

“愛おしい、人────…”

 

「へへ…」

うっすら赤く染まった顔に、自然と笑みが浮かぶ。三蔵は面映そうに、チッと舌打ちをした。

「ヘラヘラ笑ってんじゃねーよ、バカザル」

「笑ってねーもん」

「笑ってんじゃねーか…オイ、重いからとっととどけっっ」

「イヤだ、こっち来いって言ったの三蔵じゃんか…ねぇ、もっかい言って?」

「却下」

「ケチッ、いーじゃん、減るモンじゃないんだし」

「声帯が減る」

「何だよそれっっ」

 

 

こんな二人のやり取りを、開きかけたドアの隙間から聞いていた同行者、約二名。

「…ど~思います?アノ会話。」

「さぁ…最近めっきり暖かくなりましたからねぇ…脳神経シナプスの一本や二本、ブッちぎれてもおかしくないでしょう?」

「十本や二十本の間違いじゃねーの…?大体あのクソ坊主、どの面下げて『ハニー』なんて抜かしやがったんだ!?あの瞬間の俺様の体感温度、シベリア直下まで下がったぜ…」

「後でそれをネタにからかったりしちゃダメですよ?そんなことしたらあの人、豆腐に頭ぶつけて死にますよ、きっと。」

「俺だってそのぐらいは心得てますよ?第一、もうあのサムさを思い出したくもねぇし…」

「じゃあまぁ、カードゲームのお誘いはヤメにして、二人で飲み直しにでも行きますか。」

「賛成。このまま正気で寝られるかっつーの」

そんな風にして会話を締めくくった二人は、中の二人に気付かれぬよう慎重にドアを閉め、忍び足で階段を下りて行った。

 

 

ひとしきり戯れのような言い合いを終えた後、悟空は三蔵の首に両腕を回し、ギュッと抱きついた。

その耳元に唇を寄せ、そっと囁く。

 

唯一人の貴方に、精一杯の『愛おしさ』を込めて────…

 

 

                          END.

 

 

《戯れ言》

…何だかもう、コメントなんぞ付ける必要あんのか?ってくらいのバカップルぶり炸裂でこっ恥ずかしいんですが…(苦笑)

実を言うと、この話の大元となった、かなり私が触発されたお話がありまして…何を隠そう(?)オガワユイさんの『殺伐ハニー』というお話でございます(^^;)。「読んでいない」という貴方は、

今すぐリンクから 『STRANGE FLOWERS』様 へGO!

いえ、こちらはウチと違って大変愛らしいお話です。ハイ。

何でお好み焼き屋で関西弁なんだとツッコミ入れられそうですが、

一番初めに浮かんだのが「坊ンのダーリンはオトコ前やね」という台詞で、だからもう関西弁は動かせなかったのです…譬え真っ赤なニセモノであっても(爆)。ま、あの世界って原作自体も何でもアリだから許されるかな?と(苦笑)。

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