イジメダメゼッタイ。 * 11

 自分がこうしてアヌスに指を入れているのは、やりたいからではない。強制されているからなのだ。それはもしかしたら、自身に対する言い訳のようなものだったのだろうか。気がつけば佐伯は、再生されるビデオの動きに合わせて指をぐちゅぐちゅと動かしていた。
「はあっ、あっ、あっ……!」
 腰が激しく突き込まれているときは、指の挿入も深く、そして激しく粘膜を掻き回す。奥だけを深く素早く突かれているときにも指を根元まで入れてぐちゅぐちゅと音を立たせる。浅いところを、角度をつけて犯されているときにはある程度まで抜いたところで指を傾ける。
「ん、っあああっ、んっくうっ!」
 知らないうちに映像内の自分と同化した声を上げさえした。まるで、精神の上では過去に戻ったかのようだった。何も考えることができずにただ、映像内の動きと同じように指を抜き差しし、挿入されたペニスをうっとりと見つめて喘ぐ――。いつしか性器も勃ち上がってきていた。肛門にしか触れていないというのに!
 すっかりオナニーに耽ってしまった佐伯を我に返らせたのは、冷酷な松原の一言だった。
「全力でオナってんじゃねえよ。ケツ穴狂いの淫乱野郎が」
「ひぐっ!」
 吐き捨てるような冷たい言葉に佐伯は、唐突に現実へと帰ってきた。それまでは周りすら見えないほどに、まるで普通に自慰をするときのように行為に没頭してしまっていたのだ。けれどこうして声を掛けられたことで、周囲には人がいて、このオナニーが強制されたものであることを思い出したのだった。
 あ、あと戸惑ったような声が出る。それでも手は止まらなかった。
(俺、いつの間にこんな、耽って……! ああっ、でも、止まらない!)
 激しく指を動かすうちに、じわじわと体内に快楽が蓄積されていた。もう少し。前立腺とか、奥のできるだけ深いところとか、その辺りを擦ったらもっと気持ちよくなれる。これまでイったときみたいに、意識が遠くに持っていかれるような、快感のことしか考えられないようなほど深いものが来る! そう思ったら指の動きは収まらなかった。
 どうせ、イかなくてはならないのだ。だったらこのまま達してしまって、早く終わらせた方が――。その思いが余計に動きを激しくさせていく。
「んんんうっ! ぐうっ!」
 気持ちのいいところを指が掠めた。自分で触れるのが初めてだから分からなかったけれど、いつも、亀頭の張り出した部分で擦り上げられるたびによがってしまう部分を探り当てたのだ。
「ふーっ! んふうう!」
 鼻息を荒くし、体を折り曲げてまで佐伯はそこを擦る作業に夢中になった。無論、ビデオに映る強姦映像をオカズにしてだ。ああ、あんなペニスが入ったら、気持ちがいいだろうな。今内部を擦っているのは、あのペニスだ。そう思い込むことにより、一層快感を高めていく。
 一度声を掛けられてからというもの、この自慰を見届けている松原と木戸の視線も痛いほど感じていた。だがそれすらもぞくぞくとする刺激に変わっていく。乳首が異様に固く凝っているのが自分で分かる。触りたい! 乳首をコリコリして、もっと気持ちよくなりたい! その気持ちを必死で押しとどめる。
『どうだっ、気持ちいいんだろ!? 犯されて感じてんだろ、このケツマンコ野郎!』
 ビデオ内での卑猥な言葉に、性感が余計に高められる。二人は佐伯の尻穴のことを頻繁にいやらしい名称で呼んだ。
(ケツマンコっ、はああっ、ケツマンコおおおっ……!)
 男である自分が、そんな風に言われちゃってる。マンコなんて言われてズコズコ抜き差しされてる。その倒錯感がどうしようもなく良かった。これが世界で一番エロい単語なんじゃないだろうかと思い、その興奮に息が荒ぐ。
「んっ、んっく! んぐうう!」
 指を奥に奥に、少しでも奥に! そう思うあまり体は思い切り曲がり、それでも顔はモニタを見るために上げられて、どこからどう見てもオナニーに熱中しているだらしない姿だった。分かっていてもやめられない。むしろ、その羞恥で更に気持ちよくなる。
「あああっ!」
 体が、びくっ、びくっと痙攣し始めた。指を動かす速度が増し、内部に当たってうまく動かなくなり、そのもどかしさに苛立って余計に激しく掻き回す。絶頂はもうすぐだった。
 最後の瞬間、佐伯は指をできる限り奥まで押し込んだ。二本では足りずに、三本。
「っああーーっ! ふっ、ああっ! ああああっ! ひうう!」
 びくびくっ、びくっ。アヌスがそうして激しく蠢いているのがよく分かった。単純な射精とは違って、肛門での絶頂は体全体で達しているように思うほど強烈なものだ。精液を噴き出し終わっても、達して10秒ほど経ってもまだイきっぱなしだった。強い快楽に佐伯はその場で身悶えし始める。
「んっ、ひいっ、ひいあっ! あふう、んっくう! ……はあっ、ああ!」
 声を上げ続けなければ、強い快感をやり過ごすことはとてもできそうになかった。佐伯は自身がレイプされている動画を見ながら、肛門だけを使った自慰で激しく絶頂してしまったのだ。
「……っはあ、っああ、……はああっ…!」
 未だ痙攣する体。それでも、時間が経過するうちようやく絶頂感が収まっていった。何も分からない。頭が真っ白になってしまったみたいだ。
 そうして、ぼんやりとして倒れ込んでいるとき。……唐突に、穴に思い切り大きなものが押し入ってきた。一撃でその長大な熱い棒は根元まで入ってきた。
「んあああっ!」
「ったく。ケツの穴でイってんじゃねえよ!」
 衝撃に佐伯は声を上げる。何も考えられないほど気持ちがよくて気づかなかったが、いつの間にか木戸が背後へやって来ていたらしい。全く気配すら感じ取れていなかった佐伯は、不意打ちとすらいえるその深い挿入に乱れた。
「ひいっ! はああっ、ああっ!」
 木戸が、大きさも堅さも著しいペニスを遠慮なしに中へ収めてきている。たった今佐伯はアヌスで絶頂したばかりなのだ。そこに一切の遠慮がない激しい挿入。達している最中での結合は強すぎた。佐伯の体は限界を訴え、ぎゅうぎゅうとこれ以上異物をくわえ込みたくないように肛門を閉じようとする。だがそれを押し広げて、熱い粘膜を掻き分けて木戸は入ってきているのだ。
「んぐううう! んあっ、んんあっ、ぎゃあっ!」
 ビデオの中では相変わらず佐伯が犯されている。今、現実の彼も、同じように挿入を受けている。佐伯は画面に映る大きなペニスを見た。それと同じ風に挿入されている。あんなに大きなものが、この瞬間、体に入ってきている。
「っあ!」
 びゅるっと再び精液が噴き出された。あまりに早い二度目の絶頂だった。いや、達し続けていたと言った方が良いのかもしれない。
「っわ、ケツしか触られてないのに二発目。もうあんた、どうしようもないな。ハメられ狂ってイき続けるケツマンコ奴隷だな、これじゃ」
「ひううっ! ああっ! け、ケツう! ケツいいいっ! ケツ、いいーーっ!」
 何を言っているのかも分からず、佐伯は叫ぶ。全て埋め込まれていた性器が限界まで抜かれ、そして再び一気に入ってきた。
「ひいうっ! あっ、あっ、あああー!」
 体の中でどんどんペニスが容積を増していく。角度がついて、穴の奥が持ち上げられる。こんなに反り返ったものに体内を犯されていると、どんどん肛門が広がっていってしまうみたいだ。
 絶頂しているところで挿入された佐伯の快感は、消えてくれることがなかった。ペニスを入れられてどうしようもなく気持ちいい。卑猥なことを言われても、興奮する。途中で木戸が動きを止めたり、ゆるゆると焦らすように動くようになってからは、もう本当に奴隷だった。逆らえない。言うことを聞くしかない。
 ずっと触りたかった乳首をいじられ、突き抜けるような快感が走る。ぎゅうっとペニスを締め付ける。佐伯は自分で腰を動かした。だが、必死に前後させてもなかなか思うような刺激を得られない。
「ひいうっ、う、動いてっ、くれええ! んああああ、イイっ!」
 涎を零し、腰を振りながら佐伯は叫んだ。
「『イイ』? あんた分かってんの? これ、合意じゃない強姦なんだよ? レ・イ・プ」
「はあっ、あああっ! レイプいいっ、気持ちいいっ! チンコ気持ちいいいっ!」
 もはや自分が言っていることすらも分からない。めちゃくちゃに佐伯は乱れた。ぬるりと中で木戸のペニスが動く。その快楽に佐伯はまた叫んだ。呂律すら回らなくなってきた。
「どうしても動いて欲しい?」
「あっ、っぐう! 動いて、くれえ!」
「……じゃあ、動いてやる代わりに、さっきの動画アップすることにするか」
「ひっ、あ! そ、それは……!」
 さすがに無理だ。絶対にそんなの、嫌に決まっている。けれど断ろうとした瞬間、木戸が一度だけペニスをゆっくり抜き差しした。体がばらばらになりそうな衝撃。それきり木戸は止まった。あ、あ、あと佐伯はじたばた体を動かして悶える。
 気持ちが良すぎた。ケツにペニスが入るの、気持ちいい。でっかいのが感覚で分かる。大きくて熱くて、灼けそうだ。動かれるたび今までに味わったことがないほどの快楽が走って、肛門の中がぐじゅぐじゅになっていく。
 佐伯はあっさり屈してしまった。
「いひっ! いい、アップしていい、よお! だからチンコ動かしてくれえ! ケツの穴擦ってえええ!」
 遠くから笑い声が聞こえてきた。松原だ。彼は、あれだけ動画のアップロードを嫌がっていた佐伯が、アヌスの快感に屈して絶叫しながら許可を出したことを滑稽に思っているのだった。
 かち、かちとマウス音。そして非情な宣告。
「よし、アップロードしたぜ。……お、リロードするたびにダウンロード数が上がってく! コメントがつくのも、じきだな」
「ひっ、ひああっ! ううっ!」
 その瞬間にはさすがに後悔が快楽を上回った。自分は今、とんでもないことを言ってしまったのではないか。だがその思いは即座に掻き消される。再び木戸が腰を動かし始めたからだ。
「あっ、あっ、あああー!」
 ぐちゅぐちゅという激しい音。何度入れられても一向に慣れない、大きなペニス。その全部が佐伯から思考力を奪っていく。
「いいっ、あーっ、いいい!」
 あまりに気持ちが良すぎていっそ恐ろしくなるほどで、佐伯は叫びながら快楽から身を逃がそうとした。口では気持ちいいと言っているのに、体が勝手に離れようとするのだ。木戸のペニスを抜こうとして暴れるのだ。しかし木戸は離してくれない。腰をがっちり掴んで、逃げようとするたびに深く深く突き込んでくる。
「ひいいっ!」
 突かれるたびに気持ちよくなっていく。訳が分からないほどに。
「見ろよ、だんだんコメントもつき始めたぜ」
 そう言って松原が、パソコンを佐伯の眼前に持ってきた。書き込まれているのは先ほどと同じ、卑猥な言葉や罵倒の言葉。ダウンロード数もこの短期間でかなりのものになっていた。
 ――画面の中で、色んな人が見てる。自分が犯されている姿を。こんなセックスを。
 そう思うと体がびくびく跳ねて、佐伯は、あああと鈍く低い喘ぎ声を洩らした。一連の衝撃が大きすぎて、ついに頭が、その羞恥すらをも快感として捉えるようになってしまったのだった。
 白目を剥いて佐伯はイき狂った。気持ちがいい。良すぎてもう、解放して欲しかった。乳首が舐められる。そうするとまた、体がビクンとなる。過ぎる快感に頭がチカチカする。
 木戸はじきにイくだろう。いつもみたいにまた、最大まで膨らんだペニスを思いっ切りはめ込んで、肛門の一番奥にびゅっびゅっと射精するのだ。今日はどのくらい出るんだろう。どのくらい、自分の穴を満たしてくれるのだろう。激しく穴の奥に精液を浴びせかけられたら、佐伯はまたイってしまうかもしれない。だけどそれで終わりじゃあない。木戸が達したら今度は松原だ。彼のズボンも張っている。きっと、木戸が萎えた性器を抜いてすぐ、間髪入れずに松原は自分のことを犯してくるのだろう。
 佐伯は思った。
 ――そんな、休ませてくれる暇すらない強姦って、乱暴なレイプって、……気持ちいい…。
 しまいには佐伯は、だらだらと涎を零しながらあうっ、あうっ、と小さく狂ったような声を上げるだけの人形になっていた。

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