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『姉ちゃんのおっぱいを搾って助けてあげて!』




   ≪1≫

 今日も扉は閉まっている。
「姉ちゃん。これで、もう三日目だぜ……」
 生真面目で成績優秀な姉が、部屋から出てこなくなって三日が過ぎていた。
「何やってんだよ……姉ちゃん」
 姉の部屋の前で、三上浩次はガックリと肩を落とす。
 浩次の姉──英里のことが心配でたまらない。
 いつも冷めた態度を装っている姉だが、何があっても浩次の味方でいてくれる存在だった。胸がペッタンコなところと運動が苦手なこと以外は、特に欠点のない姉だ。
 そんな英里が、部屋に閉じこもってしまった。
 浩次はあせった。
 姉の身に何かあったかと思うと、じっとしていられなくなった。
「姉ちゃん! もう出てきてくれよっ……」
 感情を抑えきれなくなった浩次の拳が、扉をドンドンと打つ。
 いきなり部屋に閉じこもった娘に、両親はうろたえるばかりで何もできない。部屋の前に食事を用意しておくだけで、娘と対話する勇気もないようだった。
(俺が……俺が、姉ちゃんを助けてやらなきゃ……力になってやらなきゃ……)
 そう決意した浩次は、授業を終えて家に帰ってくるなり、行動を開始したのだ。
 とはいえ、たいしたことができたわけではない。
 二階にある自分の部屋と並んだ、すぐ隣。姉の部屋の前で扉をたたいて、呼びかけただけである。さすがにまだ三日目ぐらいでは、扉を壊そうと思うほど思いつめていない。
 しかし、すべては無駄だった。
 どれほど呼びかけても中から返事はない。扉は固く閉ざされたままだ。
「姉ちゃん、姉ちゃん……開けてくれよっ! ……頼むよ。話し合おうぜ」
 こうまで頑なに会話を拒む以上、姉に何かあったに違いない。
 きっと英里の心は深く傷ついている。
 そう思うと、浩次はもうじっとしていられなくなった。
「……姉ちゃん! なんか辛いことあっても、俺は姉ちゃんの味方だから……」
 扉を打つために、拳を振り上げる。
 と、そこでいきなりドアノブがカチャリと回った。
「うるさいぞ。なんだ……キミか」
 細く開いた扉の隙間から、寝巻き姿の英里が顔をのぞかせる。赤いチェック模様のパジャマはズボンタイプで、こざっぱりとした感じだった。
 冷めた口調によく似合う、感情をあまり浮かばせない美貌はあいかわらずだ。
 サラリと長い黒髪は、眉のあたりでキッチリと揃えられている。部屋に閉じこもっていても、紙の手入れだけは欠かしていないらしい。
「姉ちゃん!!」
 姉の姿を見るなり、浩次の口から自然に大きな声が出る。
「大声を出すな。私に何か用か?」
「姉ちゃん……ケガとか、何かひどい目にあったんじゃないの……?」
「はぁ?」
「いや……だから、イジメられたとか……その、男たちに数人がかりで乱暴されたとか……」
 口の端をつり上げ、英里がシニカルな笑みを形作った。
「キミは何をワケのわからないことを言っているんだ。やれやれ……」
 肩をすくめて、軽いため息。
 あっさりあしらわれた浩次の前で、無情にもドアが閉じられそうになった。
「とにかく。私は忙しいから、邪魔をしないでくれないか」
「忙しいって……何やってんだよ」
「キミには関係ないな」
「関係ないってことはないんだろ! オヤジもオフクロも……俺だって……」
 浩次はドアノブをつかんで、必死の表情で呼びかける。
「みんな、姉ちゃんのこと心配してるんだぞ」
「たかが二、三日部屋から出ないくらいで大げさだな」
「ふっ、ふ……風呂とかどうしてんだよ」
「夜中にこっそり入っているよ。キミ、そんなこと気にするなんていやらしいな」
 ジト目で蔑み、薄笑い。
 小馬鹿にしきった目を弟に向けながら、英里は面倒くさそうに手をヒラヒラさせた。
「わかったらお姉ちゃんを一人にしてくれないか。キミがいると集中でき……」
「そんなことできるかよ!」
「わっ……ばかっ。勝手に入るな!」
 浩次が力いっぱいドアを押す。
 負けじと英里も押し返すと、二人の間で蝶番がギシギシと軋んだ。
「や、やめないかっ。キミ、何を考えているんだ。おかしいぞ……」
「おかしいのは姉ちゃんだよ!」
 ここぞとばかりにふんばって、浩次は腕に力をこめる。
「わひゃぁっ!」
「うぉ……」
 押しきられた英里が尻餅をつくと、同時に浩次が部屋の中に転がり込む。
 姉弟まとめて重なって、床の上に倒れた。
「いたた……あいたたた……」
「ご、ごめ……ん!?」
 英里の上に乗った浩次が、起き上がろうと手をついたところで、目を丸くする。
(姉ちゃんの胸が……なんで……なんだ? この……ボインは!?)
 浩次は信じられないものを見た気分で、指を動かしてみた。
 妙にやわらかい感触の膨らみに指先が沈む。
「うぉ……これ、すげえ……やわらかい……」
 感動にうち震えそうなくらいのマシュマロ感覚。まぎれもない乳房の感触に驚き、浩次は声も出ない。
 最後に見た英里の胸元は、服の上からでもわかるまな板そのものだったはずだ。
 成長ホルモンがストライキを起こしていたような姉の胸に、何が起きればこうなるというのだろうか。
 今にもパジャマの布地を引き裂いて飛び出してきそうな、ボリューム満点の超巨乳が目の前にある。生まれてから一度も見たことがない奔放なサイズを前に、浩次の思考は完全に停止状態だ。
 のしかかった体勢で固まっている弟に、英里が湿度の高い目線を向けていた。
「キミ……勝手に触らないでもらえるかな……」
「え? あ、いや……これは……」
「は、な、せ、よ」
「んぎゅ」
 首がねじれそうなほど顔面を押される。
 押しのけられた浩次が、服の乱れを整える姉にたずねた。
「姉ちゃん、それ……」
「ん……ちょっとワケありでな」
「……豊胸手術?」
「キミは想像力が貧困だなあ。発想も最悪だ。下品きわまりない」
「わ、悪かったな」
 姉のニヒルな笑みに、浩次の顔が赤くなる。
「っていうか、どうしたんだよ。それ」
「どうしたと言われても、説明が難しいな」
 英里は下唇をつき出させて、ちょっと考え込む様子を見せてから口を開いた。
「じつはな……」
「何が、どうなっているんだよ。なんか病気なのか」
「私にもよくわからんが胸が大きなくって、そのうえ母乳が出るようになってしまったのだ」
「は……それって、妊娠したってこと……?」
 すごくあたりまえの発想をする浩次に、姉の冷笑が返される。
「フン……。キミは本当に頭の悪い弟だな」
「う、うるせえ! 不純異性交遊で妊娠した姉ちゃんに、バカ扱いされたくねえな!」
「だから違うと言ってるだろうが。不純異性交遊も妊娠もしてない。男と手を握ったこともないのに妊娠なんかするわけないだろ」
「だったら、なんなんだよ」
 ヤケ気味の口調で話す弟に、英里は冷静な声を返した。
「妊娠していないことは、調べてわかっている」
「どうやって?」
「キミはちょっと黙っていてくれないか。話が進まない」
「チッ……」
 姉の冷たい言葉に、浩次は舌打ちして黙り込む。
 フテくされている弟の前で、英里の説明が続く。
「妊娠を検査する薬ぐらいは、薬局で売っている。心当たりはないが、一応は確認した。その限りでは、私は妊娠していない。だが、もちろん私はセックスなんて一度もしたことがない。一度もだ。処女だっ……つまり、結論を言うとだな。理由はまったくわからないが胸が大きくなって、処女なのに母乳が出るようになってしまったのだ。処女膜がついたままなのに」
「そ、それって……」
 生々しい単語がずらずらと出てきたせいで、姉の顔がまっすぐ見れない浩次。
「さっき言ってたのと同じじゃん」
「キミは同じことを二回も説明されて、ようやく理解できたというわけか」
「……くっ。イヤミな姉ちゃんだな」
 口では悪く言う浩次だが、内心では姉が無事であることに安心していた。
(しかし、こんないきなり……胸がデカくなったり、母乳が出るとか……あったりするのか、普通……)
 これはこれでおかしな事態かもしれない。
 心配がひとつ消えたかと思うと、またもや不安になってきた。
「それで、病院とか行ったのかよ」
「いや。行ってない」
「え? 母乳が出るんだろ。どうしてるんだよ?」
 弟の質問に、英里の頬が赤く染まる。
「自分で……搾ってる」
「は? 自分で?」
 目をそらしている姉に、浩次はポカンとした顔を向けていた。
(姉ちゃんが……自分で、自分のおっぱいを……乳搾り……)
 白黒のツートンカラーで塗り分けたビキニ姿。
 牝牛のようなコスチュームに身を包み、自分の乳房を搾っている姉の姿浩次のが頭に思い浮かぶ。
 そんな妄想を思い描く弟に、英里が嫌そうな顔で言った。
「キミ……なんか、目つきがいやらしいぞ……」
「ち、違うよっ!」
「キミは、自分の姉をどういう目で見ているんだ」
「どど、どういうって……別に姉ちゃんのことなんか、なんとも思ってねえよ」
「あっそ」
 動揺する浩次の前で、姉の唇が三日月状の弧を描く。
「キミとは姉弟だしな。それが普通だろうな。だが、なんとも思ってないなら、ちょうどいい」
「何がちょうどいいんだ」
「ちょっと手伝ってもらおうか」
 そう言いながら、英里はパジャマのボタンに手をかけた。




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