ああ、どうしたら宜しいんでしょうか。 
私はベッドの中で息を殺しながら、様々な考えを巡らせます。 

きっかけは、スペインさんがあの日の事を謝罪しにきてくださった事でした。 
それから一緒にいらしていたベルギーさんと夕飯をご一緒して、話が弾んで。 
せっかくだからと、お二人を泊めて。 

……なんでこうなったんでしょうか。 

私の隣で寝ているベルギーさんの元に、スペインさんがいらっしゃって。 
所謂、夜這いってやつですよね。 
体に触れられるたび、彼女は切なそうな声をあげ。 
声を抑えているのはよくわかります。 
それでも気持ちよさそうに身をよじらせ。 
……スペインさんの手はとても気持ち良かったですもの。私だってあんなに…… 
……あ、この感覚は…… 
ズボンの中に手を差し入れ、違和感のあった下半身に下着の上から触れてみました。 
……恥ずかしながら、濡れてしまったようです。 
しっとりと下着が濡れ、指でなぞると小さく水音がして。 
それと同時に、快楽が私の頭の中を駆けめぐります。 
……駄目です。こんな事…… 
お二人は起きているのに。 
衝動に必死に抵抗を試みましたが、どうにも止められません。 
お二人から隠れるように、シーツに潜り…… 
それは逆効果でした。 
目の前で行われている行為に目が釘付けになってしまいました。 
ベルギーさんがスペインさんの下半身をしゃぶっていました。 
後ろ姿しか見えませんが、顔を動かし、それを舌で刺激をしているのでしょう。
それだけではありません。 
ずらされた下着の隙間から指が侵入し……自らの手で慰めているのです。 
……今の私と同じように。 
水音が部屋に響いているのがわかります。 
この音はベルギーさんのでしょうか、それとも私の? 
溢れそうになる声を押し殺し、指で弄び。 

――ああ、そういえば、ドイツさんはどうなさっているんでしょうか。 
最後に会ったのはいつの事でしたっけ? 
喧嘩が始まってしまってから、会えなくなってしまい…… 
懐かしいです。あの方の腕は強くて暖かくて。 
初めて口付けをくださった時は、顔を真っ赤にして…… 
優しい腕はいつも私を包んでくださって……でも、それ以上はしてくださらずに。 
……会いたいです。ドイツさんに。 
会ってぎゅっと抱きしめて貰って。たくさん口付けもしてもらって。 
それ以上の事も……

――もう我慢できません――

「ん……うぅん……」
小さくうめき声をあげ、数秒。
ばたばたとシーツをかぶる音。これで顔を合わせる事はないでしょう。
そっと起き上がり、彼女達を踏まぬよう、足元からベッドにおりまして。
少しだけ振り返り……そのまま部屋を後にしました。

お兄様に気がつかれないよう、足音を殺し、家の外にでました。
そして向かう先は……愛おしいドイツさんの元。
とにかく顔を見たい一心で夜道を駆け出しました。

懐かしいドイツさんの家の前にたどり着きました。
度重なる喧嘩で随分とぼろぼろになってしまったドイツさんの家。
話には聞いていましたが、ここまで酷くなっているものだとは思いませんでした。
荒れ果てた庭を通り、扉を数回ノックします。
その瞬間、こんな時に来てしまった事に少々後悔を覚えてしまいました。
きっとドイツさんは怪我も治っていないでしょう。
それなのに、私のわがままで押しかけてしまって。
慌てて踵を返そうと、扉に背を向けた時でした。
「……誰だ?」
ゆっくりと扉が開き、顔を出したのはずっと会いたかった人です。
酷く疲れた顔をし、覇気の無い瞳で辺りを見回しました。
それから、私の存在に気がついたのか、驚愕の表情。
それから、柔らかい笑みへと変化しました。
「リヒテンシュタイン……どうしたんだ?
こんな夜中に」
無意識でしょうね。
私の全身を隈無く観察し……何故か顔を真っ赤にさせました。
その原因を探るため、自らの状態を確認し……
……顔から火が出るかと想いました。
その……お二人にあてられて、自らを慰め……
パジャマのズボンと下着を下ろしていたのを忘れて。
えっと、つまり、下半身は何も付けていない状態なのです。
幸い、お兄様用に作ったパジャマを着ていたので、
かなりぶかぶかで脚ぐらいしか見えませんが。
「とにかく、家の中に!
あ、いや、こんな時間に婦女子を招き入れるのは……
だがしかし……」
戸惑った様子で家の中と私を交互に見て。
……脚に視線が止まった気がするのはきっと、私の勘違いでしょうね。
ごくりと生唾を飲み込む音。
すぐに頭を横に振り、それを振り払い。
「仕方がない。中に入ってくれ。
安心してくれ。何もしないから」
生真面目な彼の言葉に、私の心は複雑でした。
……何かして下さってもよろしいのに……
口に出したかった言葉を飲み込み、ドイツさんのおうちにお邪魔しました。

荒れた室内。
あの几帳面なドイツさんがこんな状態にしていると言うことは……
やっぱりかなりこたえているんでしょうね。
「あー、適当なトコに座ってく……」
そこまで口にしながら、ソファーの上に荷物が散乱していることに気がついたのでしょう。
どこかだるそうに、ソファーの上の荷物を床に落とし……
不意に瞳が陰りました。
何かと思い、手元を覗き込んでみました。
床に散らばった数冊の日記。
その文字はドイツさんのものではありませんでした。
きっと、兄であるプロイセンさんのものなのでしょう。
……そういえば、プロイセンさんは、ロシアさんの元に連れて行かれたと言う話を耳にしました。
 
だから――

拳で瞳を拭う。何度も何度も。
私の視線に気がついたのでしょう。
背を向け、軽くソファーの埃を払い、無言でソファーへと誘いました。
ソファーに沈み込む身体。二人並んでソファーに座り込み……そして沈黙。
沢山、お話したい事はあります。
でも……あまりに辛そうなドイツさんの姿を見ていると、どう言葉をかけていいか思いつきません。
ちらりとドイツさんの顔を覗き込み……泣きそうな瞳に自然と身体が動いてしまいました。
立ち上がって、彼の頭をぎゅっと抱きしめ……
「り…リヒ?」
戸惑うドイツさん。最初は私の腕を振りほどこうともしましたが、すぐに動きは止まりました。
震える肩。胸元が濡れる感触。微かな嗚咽。
「情けない……いつもイタリアを怒鳴りつけている俺が……こんな事で……こんなこ……とで……」
「こんな事ではありません。悲しいのは、寂しいのは当たり前です。だから」
腕の力を少々強め、私も彼の頭に瞳を押し付けました。
「……いいんです。泣いても。私の前だけでも泣いてください」
その言葉に、彼は何か小さく呟き……
「ああああああああっ!!」
押し殺していた声を解放し、彼は感情のまま、涙を零しはじめました。


どれくらいの時間がたったでしょうか。
落ち着かれたドイツさんは、ぽつりぽつりと様々な事を話してくださいました。
喧嘩が始まり、会えなくなったあの日から、今現在の事まで。
時折震える手を優しく包み込み、静かに耳を傾け。
子供のように寄り、身を委ねてくださるのはとても嬉しいです。
自分の事を話すのがあまり得意ではないドイツさんは、粗方話し終えたのでしょうね。
無言で私の瞳を見つめてきました。
……私も正直に話さないといけませんね。
――あの夜の事を。


話終えた後、ドイツさんは顔を俯け、沈黙されました。
ソファーに二人で腰をかけたまま、長い沈黙。とても息苦しい時間です。
「……それで」
やっと発してくださった言葉に、握り締めた手に汗が滲んできたのがわかりました。
軽蔑されるのも覚悟しています。あんな事をしてしまったのですから。
でも、それより怖いのは、ドイツさんがスペインさんに負の心を向けてしまう事。
もしもそうなったら……
「それで……お前はどっちが好きなんだ? こんな情けない俺と……スペインと」
彼の瞳が私を真っ直ぐに見つめてきました。
まるで捨てられた子犬のような眼差し。
すぐに抱きしめてあげたい衝動に襲われてしまいましたが、
彼の問いにしっかりと答えないといけません。
ドイツさんの瞳を見返し、息を吸い込み。
「お二人とも好きです」
私の返答に肩を落とし、あからさまに落ち込んだ表情を浮かべました。
ですが、私は彼の手をとり、頬に擦り付けます。
温かな大きな手。その体温を頬に感じながら。
「スペインさんは好きです。友達として。
ドイツさんは……愛してます。心から。
できればずっと側にいて欲しい。ずっと側にいたい。
そんなわがままな私を出してしまいそうなほど……愛してます」
ソファーに膝をつき、私から顔を近づけ、彼と唇を重ねました。
少しだけ息を止め、軽い口付け。
「でも、嫌われたくないから、そんなわがままな私を押し殺していましたが……もう限界です。
今夜だけはわがままになります。私の側にいてください。愛してます。ドイツさん」

「リヒテンシュタインっ!!」

強い腕が私を包み込んでくださいました。
懐かしい腕の感触に瞳を閉じ。
とさりとソファーの上に押し倒されました。
荒々しく唇を奪われ、手が私の胸へと伸びてきて。
「リヒテンシュタイン……愛してる。愛している」
あまりの寂しさに我を忘れているのでしょうか。いつもの優しさが無い荒い動き。
パジャマのボタンを外す事すらまどろっこしかったのでしょう。力で前をはだけ。
ちぎれ、飛んでいくボタン。露になる私の胸。そして何も身に着けていない下半身。
一瞬だけ、驚いた顔で下半身を見入り……でもすぐに唇が私の胸に触れました。
「やっ……んぅ」
ふくらみの乏しい胸を大きな手で揉み、つんと立った突起を唇に含む。
ちろちろと舌先でくすぐられるたび、頭の中に白い光が増えていく感覚に陥ります。
首筋に口付け。それから強く吸い上げられ……何箇所も何箇所もキスマークをつけられて。
征服された証が増えれば増えるほど、私の体の熱が増していくのがわかります。
それと同時に……体液が溢れ出していくのを感じていました。
こんなにドイツさんを求めていた事に気がつかされ……
恥ずかしさに足を閉じたかったんですけれども。
「ダメだ。ここも俺のだ」
無理に足を開かされ、股間に顔を近づけまして……
「ふぅ……んっ、やぁ…いやで……うぅ…そんな……とこ」
抵抗はしてみましたが、殿方の力は強く、抑えられてしまいました。
くちゅりと指が泉に沈み込み、更なる水が溢れ出し。
それを唇をですすり、時折、尖らした舌先で奥の奥まで侵入されて。
何度も何度も水辺を舌が行き来し……尖った敏感な所に舌が触れ。
「やっ!」
大きく肩が震えました。身体に押し寄せる激しい快楽の波によって。
そんな反応に気がついたのでしょう。
彼の舌はそこを重点的に攻め立て。身体を震わせる私の反応を楽しみながら。
「やぁ…んんっ、そこ……にも……う……んっ」
限界まで高められた私は、ドイツさんの顔をじっと見つめ。
それ以上の刺激を潤んだ瞳でお願いしていました。

――ああ、私はこんなに淫乱になれるのですね。
これもドイツさんを心から求めているから。

「リヒテンシュタイン……」
言葉少なめに、それでも情熱的な瞳で私を見つめてくださり。
ズボンが下ろされ、熱いソレが顔を出し……
ソレを見た途端、泉の水は熱さを増しました。
やっと二人が一つになれる。その喜びで。
「お願い……ください」
腕を伸ばし、彼の首に腕を回し。
「ん……っ」
貫かれる悦び。そして甘い痛み。
初めてではないのに、身体を襲う痛みに腕の力が強まり。
背中に爪を立ててしまった感触がありました。皮膚が爪に食い込む。
小さな彼のうめき声。きっと痛みに耐えているのでしょう。
「はぁっ……んぁ…ご、ごめんなさ……んっ、傷をつ……つくってし……まって」
彼の背中を傷つけたという後悔で、私の瞳からぼろぼろと涙がこぼれてきました。
あんな傷だらけだったのに、私のわがままで更なる傷を作ってしまって……
「謝るな。お前は悪くない」
優しい口付けで言葉をふさがれました。溢れ出す涙を唇で拭ってくださいまして。
それでも快楽を失わぬよう、腰を強く打ち付けて。
ドイツさんの優しさ。そして砕けそうになるほどの快楽。
「ふ……ぁん……やぁっ」
もう一度、彼に向かって手を伸ばし……手を優しく包み込んでくださいました。
頬にあて、私のぬくもりを感じ、手の甲に口付けを一つ。
「く……でるっ」
小さなうめき声とともに、胎内に何かが注ぎ込まれました。
壁を打ち付ける熱い液体。それが私の快楽を高め。
「……んっ!!」
今まで感じたことの無い感覚が押し寄せ、私の頭の中を白い光が占領し、
視界が白くなりドイツさんの顔がそれから…………


………………
目を開けたとき、目の前に広がったのは、心配そうな瞳で覗き込んでいたドイツさんの顔でした。
不安げに眉をひそめ、私の額に手を当てていました。
えっと……もしかしてあの時、私意識を失ってしまったのでしょうか。
幾度かまばたきをすると、ドイツさんは目を見開いて動きを止め。
「……よかった。お前まで消えてしまうかと……」
私の頬の上に何か温かいものが落ちてきました。
そのものの正体を探ろうと、空を見上げ。
すぐにわかりました。ドイツさんが流した涙だったのです。
「俺が弱かったから……兄さんはいってしまって……
民も苦しめてしまって……一人に……なって……
……お前が来てくれたのに……それも壊してしまったかと……」
「大丈夫です。私はそう簡単に壊れやしません」
手を伸ばし、彼の頬に触れました。
「だって、ドイツさんの側にいる事が……私のわがままですもの。
だから、壊れません」
「あ……ああ……そうだよな」
笑ってみせてくれましたが……涙は止まらなそうです。
溢れ出す涙が視界を邪魔しているのでしょう。
何度も何度も涙を拳で拭いとり。
「……すまないが……もう少し」
私の胸の上に顔を伏せ……肩を震わせて涙を流し始めました。
ただ、彼の肩を優しく撫で続け……少しだけ私も涙を零しました。

 


――それから、何度身体を重ねたかわかりません。
心のまま、欲望のまま、何度も何度も。
会えなかった時間を埋めるかのように。
でも、この時間もあまり長くはありません。
横で眠りはじめたドイツさんを起こさぬよう、そっとベッドを抜け出して。
床に脱ぎ捨てられたパジャマを羽織り、小さく息を吐き出しました。
そろそろ夜明けです。
こっそりと家から抜け出してきたから、夜が明ける前に帰らないといけません。
眉に皺をよせ、眠るドイツさんの頬に口付けをし……ふふっ、少しだけ皺が消えました。
それから、家に帰ることにします。
今日はお別れの挨拶は無しです。どうせ、またすぐに会えるでしょうから。
お別れの挨拶代わりに……
「愛してます……ドイツさん」
小さな愛の言葉だけを呟くと、私はドイツさんの家を後にしました。


『はぁ……』
朝食の時、私のため息がベルギーさんのため息とハモってしまいました。
顔を見合わせ……頬が赤くなるのがわかりました。
だって、ベルギーさんたちも私があの時見ていたのもわかっているでしょうし、
シーツを洗濯していた時、私の脱ぎ捨てたパジャマのズボンと下着を見つけてしまったでしょうし……
こんな事、お兄様に知られるわけもいかないので、どうにか笑みを浮かべ、微笑を向けます。
彼女も何も言わずに理解してくださったのでしょう。笑みを返してくださいました。
「えっと、お邪魔しました。そんじゃ帰るから。いろいろありがとな」
沈黙を破るかのように、ベルギーさんは帰る支度を始めました。
スペインさんの耳をつかみ、席を立つと、私にウインクを一つくださいました。
きっと応援してくださっているのでしょうね。
「あーもう、わーったから。帰る帰る。んじゃ、またな。スイス」
「あ、はい、お二人ともまたいらして……くださいね」
スペインさんの彼女を見つめる熱い視線に、昨晩の事を思い出してしまい……
少しだけ口ごもってしまったこと……
お兄様に気がつかれていなければよろしいのですが……
そして、本当ならば、ちゃんと礼節をもってお客様を送りしないといけないでしょうが。
昨晩の行為で足はがくがくで動けそうにありません。
ですから、座ったまま、幸せそうなお二人を見送って……

長い沈黙。
お兄様も何かを悟っているのかもしれません。
あまり長く一緒にいるとぼろを出してしまいそうですし、何よりも今日はもう少し眠りたいです。
なので、そそくさと席を立ち、お兄様に一礼をします。
「えっと……その、今日は訓練はお休みしてよろしいですか? 私、少々用事がありまして」
今回だけはお兄様の返事を待つ事もせず、自室へ戻ってしまいました。

新しいシーツが敷かれたベッドの上に横たわり……


昨晩の事を思い出し、身体が火照ってしまって、寝る事もできず、
一人でその……楽しんでしまったのは、私だけの秘密だったりします。







書き下ろし
ドイツ×リヒテンシュタイン
雨シリーズの雨降って地固まる?のサイドストーリー。
スペインとベルギーがいちゃいちゃしている間、リヒが何をしていたかの話でした。
ドイツ童貞設定を入れたかったけれど、流れ的にこうなった。
……初々しいドイツのを書きたいなぁ……





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