「ほんますまんな。リヒちゃん。うちの親分が迷惑かけたようで」
手土産の高級チョコを差し出しながら、ベルギーは深々と頭を下げた。
一方、差し出されたリヒテンシュタインはすまなそうな表情で
彼女と彼……親分であるスペインを交互に見た。
最初は不安げな眼差しで。でも、彼女の隣で幸せそうに微笑むスペインの姿に、安堵のため息を一つ。
「いえいえ、スペインさんが元気になったのですから、それだけで嬉しいです」
リヒテンシュタインはにっこりと微笑んでは見せるが、
隣で刺すような視線を向けてくるスイスが気になってしょうがない。
あの日の事は、スイスは知らないはずなのだから。
だからこの謝罪が何のことなのかわからないのだろう。
スイスは原因となったスペインの顔を鋭い瞳で睨みつけ、無言の圧力をかける。
そんな空気を読んだのだろう。空笑いをうかべ、頬を指で掻き、
「まぁ、皆の喧嘩の最中、寂しすぎて怖くて。そんでリヒちゃんをお…」
「あっとその、親分たらリヒちゃんとこでお酒飲んで暴れちゃったんやって。そんで」
スペインの言葉をさえぎり、ベルギーが慌てて言いつくろう。
さすがに妹馬鹿なスイスの前で『妹を襲いました』とは言えはしない。
頭をフル回転し、言い訳を考えようとするベルギー。
ちらりとスペインの顔を見ると、たまに見せる意地悪そうな表情が浮かんでいた。
きっと慌てる彼女が見たくて、あえてそういったのだろう。
「……親分の意地悪……」
隣に座る男にしか聞こえぬよう、口の中でぼそりと呟く。
そんな彼女が可愛かったのか、スペインは柔らかな金髪の髪をくしゃりと撫で、軽く叩いてやる。
その姿に、リヒテンシュタインは眩しそうに二人を眺め、スイスは居心地悪そうに視線を逸らした。
「ま、つーことで、ほんまにすまんかった。リヒちゃんには迷惑かけた。
お詫びの品って事で、トマトとかワインとか生ハムとか持ってきたんよ」
「私とこからチョコとワッフル持ってきました。これをお二人でどうぞ」
机の上に山になった食材の数々に、リヒテンシュタインは目を輝かせた。
ぽんと手を打ち、にっこりと微笑む。
「こんな一杯食べれませんから、今宵はご一緒に夕飯いかがですか?
この前、美味しいチーズを頂きましたし、チーズフォンデュと……」
「あ、そんなら私も手伝うん。親分とスイスさんはちょい待っててな」
大量の食材を抱え、二人はパタパタと台所へと向かった。
残された男二人はしばらく沈黙のまま。
現状をあまり理解し切れていないスイスは、
原因となったであろうスペインの顔を睨みつけるかのように見つめ。
「んー、女の子二人が台所にいるのって、むっちゃ天国やなぁ〜」
緊張感の欠片もないスペインの発言に、張り詰めていた空気が壊れる感覚に陥った。
一人だけが肩肘張っているのが馬鹿らしくなり、ため息をついてから、スイスも台所を見つめる。
段々と空腹を促す良い香りが辺りに漂い始め……
女の話というものは、どの時代も長引くというのが定番だ。
夕食後、話は盛り上がり、夜遅くまで続いてしまった。
だからリヒテンシュタインは二人を家に泊める事を提案し、スイスはしぶしぶながらも承諾した。
二人で住んでいるのだからそんな大きな家ではない。しかし、お客を泊められぬほどは小さくない。
だから、リヒテンシュタインはベルギーを同室に。
スイスはあまり使われていない客室へとスペインを放り込んだのだった。大きなベッドで二人が横たわる。
「すみません。私のパジャマでは小さいでしょうから、それしか無くて……
あ、大丈夫です。未使用なので」
すまなそうに頭を下げる少女に、ベルギーは朗らかに笑ってみせる。
「大丈夫よ。泊めてくれただけで嬉しいから」
男物のシャツを羽織り、シーツをかぶる。
洗い立てなのだろう。爽やかな石鹸の香りが鼻をくすぐる。
「ほんま、リヒちゃんは家庭的やな。あ、そうや。リヒちゃんの好きな人は……」――女三人集まれば姦しいとはいったものだ。
女二人だけでも、恋の話から、可愛い服の話と話題は尽きそうにない。
それは夜が更けるまで続き……「ん……ふぁ?」
身体を何かが這い回るような感触でベルギーの目は覚めた。
リヒテンシュタインと女同士の話が続き、どちらからともなく眠りについてしまっていたのだ。
隣に眠る彼女かと思い、そちらに目を向けたが、彼女は目の前で安らかに眠っている。
眠たさで働かない頭でしばし考え……
気のせいという事にして、もう一度眠りにつこうとした時だった。
「……んっ、ひゃっ」
今度は明らかな感触。それは滑らかな足をなぞり、細い腰へと向かっていた。
それは確実に覚えのある動き。隣で眠る少女を起こさぬよう、向きを変える。
「……親分、何やってんの?」
呆れ声半分で、いつの間にか横にいたスペインに声をかける。
そう、先ほどの感触は彼の手であり。
「あんな、リヒちゃん隣にいるんやよ。おうち帰るまで我慢しぃ……んっ」
幼子を諭すかのような感じで囁く。
しかし、肝心の幼子は衝動に勝てないらしく、手の動きを止めようとしない。
あの日から毎日のように……いや、目を覚ませば身体をあわせていたのに。
尽きぬ性欲にため息一つ。
頬にキス。それから彼女から唇を合わせた。
「ここではダメ。帰ったら……」
「嫌や。ベルは別に寝ててもいいんよ。勝手に楽しませてもらうから」
にんまりと浮かべた笑み。その笑みの意味を彼女は嫌というほど理解している。
少々Sのスイッチが入ってしまったのだ。こうなってはとめようが無い。
「しょうがないなぁ。処理はしてあげる。だから……なぁ」
彼女の手が彼の下半身へと向かう。ズボンの上からでも、すでに熱くたぎったモノがよくわかる。
触れた途端に、頬を赤く染める。許しを請うように彼の顔をちらりと見て。
覚悟を決める。ここで隙を見せたら、遠慮なしに食われてしまうだけだろうから。
盛り上がったズボンの膨らみを手のひら全体を使ってゆっくりと揉む。
恥ずかしさと緊張で顔が熱くなっているのがわかる。
少女が隣で寝ているのに、彼女は男と愛の行為をしようとしているのだ。
それに、あまり奉仕には慣れていない。
大抵は彼が襲ってくるから。
ぎこちなく手を動かし、もう一度彼の瞳を見つめる。
「な、なぁ、ほんま止めん? リヒちゃんいるし。帰ったら一日つきおうてあげるから」
「嫌や。よし、わかった。襲って欲しいやな。リヒちゃんの隣でってのが興奮すんな」
意地悪な彼の言葉に頬を膨らませる。
少し唇をかみ締め、ズボンの中へと手を差し入れた。
びくびくと手の中で反応を示す陰茎。何度かは触ったこともある。
しかし、ここまでじっくりとは触ったことが無い。
「う…熱い……」
「そうや。えっちなベルのお手々でこんな熱くなったんよ」
耳元で熱い吐息と共に囁かれ、背に震えが走る。
指を動かすたびに、自然と息が荒くなっていく。まだ彼にはあまり触れられていないのに。
ぬるりと指に絡まる液体。手を引き抜いてソレを確認した。
手のひら全体が男の匂いに犯されている。
でも嫌いではない香り。指先を口に含む。更に早まる鼓動。
「な、お手々もいいんやけど、シーツ汚すと後で煩いやろ。だからお口で」
お願いなのか命令なのかわからぬ彼の言葉に、彼女の身体は自然に動いてしまった。
シーツに包まったまま、彼の下半身へと顔を近づける。
ぷるりと顔を出すモノに一瞬戸惑いながらも、先端を舌先で突っついてみた。
気持ちよさそうに目を細める彼を確認してから、全体を口の中に入れてみる。
大きくて全ては入りそうにも無いが、できる限り含み、軽く吸い上げる。
「……んっ、んぐぅ」
じんわりと下着が濡れてくるのがわかった。
男のモノを咥えている姿を彼女に見られたら。きっと軽蔑されるのだろう。
そんな背徳感が胸を占め……それでも口の動きは止められそうに無い。
唇をすぼめ、彼のモノを擦り揚げる。濡れた音が部屋の中に響き渡っているのはわかってる。
「ふぁんっ…親分…の…すっごい」
押さえていた声が出てしまう。自然と片手は自らの下半身へと向かう。
下着を下ろし、濡れきった蜜壷を指で触れる。
「いやらしいなぁ。これがベルのオナニーなんや。ほんま……えっちやな」
ぽつりと呟く彼の声に、彼女の身体は素直に反応してしまう。
「いやや。意地悪ぅ。親分のせいやぁ……」
それでも口の動きは止めない。雄雄しくそり立つモノを唇全体で受け止め。「ん……うぅん……」
少女のうめき声で我に返った。慌てて顔の位置を戻し、スペインにシーツをかぶせる。
しばらく息を殺し、彼女の動向を探る。
寝返りを打つ音。それからシーツをはがす音。彼女の足元が沈み込む。
薄目を開けると、床に下りる少女の姿が確認できた。
少しだけ頬が赤い気がするのは気のせいだろうか。
一度、少女は振り返って彼女……いや、彼女達のベッドを見つめ……部屋を後にした。
遠ざかる足音に、スペインがシーツの中から顔を出した。
「ありゃばれてるな。しゃーないか。ベルの声が煩いから」
「しょうがないやん。親分が意地悪するか……やぁっ」
その言葉はにこやかに微笑む彼によって途切れた。
問答無用で押し倒す。今度は誰に遠慮する事はなく。
「と、言うわけで、遠慮なくやれんな」
「あーもう親分は! どう言い訳すん。リヒちゃんに嫌われてしまうん」
「俺がベル好きだったら問題なしや」
根本的な解決になっていない彼の言葉に、何度目かのため息をつき。
「どうせ何言っても今の親分には無駄やね」
呆れきった声で呟き、彼に身を委ねた。
「ほら、もうとろとろやん。こんなやと前戯必要ないな」
手際よく彼女のパジャマを剥ぎ取り、腰を高く持ち上げさせる。
白い尻が露になる。白い白い肌。
男は大きく手を振りかざし、その白い肌に向かって振り下ろす。
「ひゃっ!」
乾いた音と彼女の悲鳴。じんわりと尻に広がる熱。赤く残る手形。
「やっぱベルの肌は魅力的や。軽く叩いただけでこんな綺麗な赤」
二度、三度と手を振り下ろす。その度に広がっていく赤み。
膝が震えだす。瞳に浮かんだ涙が溢れ出す。
「いややぁ…親分、叩くのはいやぁ」
痛みに耐えてはいたが、明らかに声に熱が篭ってきた。
足をすりあわせ、快楽に耐える。白い腿を伝い、蜜がシーツを汚していく。
「そない事いっても、こんなにぐちょぐちょになって。ほんまは欲しいんやろ」
そそり立ったモノをその蜜へすりつける。
丸いカーブに沿って。決して中には侵入せず、表面だけを擦りあげた。
先端が敏感な所を激しくつつき、彼女は切なそうに吐息を漏らす。
しかし、彼は気がつかない振りで身体全体で彼女を包み込む。
腕をのばし、豊かな胸に触れる。すでに尖っている先端を指先でつまみ、軽く引っ張る。
「ひぃ、やぁっ、あぁぅ……やぁ、親分、許してぇ」
「許さん。……俺を置いていったベルが悪いんや」
感情の無い声に、びくりと身体を震わせた。
どうにか後ろを振り返る。彼女の瞳に映ったのは寂しそうな顔をしたスペインの姿。
その瞳は『太陽の沈まぬ国』と呼ばれた者には似つかわしくない光が宿っていて。
たまらなく愛おしくなる。拗ねた顔を見せるのは彼女の前だけだから。
「もう、親分……そんな甘えたいんなら素直に……な」
寂しがり屋の親分の頬にキス。
身体の向きを変え、彼と対峙する。首筋に腕を辛め、彼女から身体を押し付ける。
唇を重ね、深く侵入する。
舌が絡まりあう。唾液が交じり合う。呼吸する暇すら与えぬほど、深く深く。
「んふぁ……親分、愛してる。愛してるんから……」
快楽に流されないうちににっこりと笑みを浮かべ、彼の前に指を一本立てた。
「ここでは一回だけよ。スイスさんが起きちゃうと大変やし」
「あーもうしっかり者やな。ベルは」
呆れた笑いを浮かべ、今度は彼から唇にむさぼりついてきた。唇を重ねたまま、熱くなったモノを身体の中へと押し込む。
じんわりと広がっていく感触に、彼は眉を潜め。
「ふぁ……んもう、親分の限界はどいっちゃったんやろ。このままじゃ身体がもたんわ」
軽い口調でおちゃらけては見るが、壁を擦る水音に彼から視線を逸らした。
「限界? んなもんあるわけないやん。ベル相手だったら絶倫や。なんたって俺は親分や」
腰を強く打ちつけ、奥の奥まで攻め立てる。
「んっ……親分やったら……やっ、もうちょい子分の希望も聞いて……くぅっ」
たくましい胸板に身体を押し付ける。快楽から逃れるために。
だが、身体が揺れるたびに、胸の突起が擦れることになってしまい、快楽は更に高められる。
「聞いてるつもりやけどなぁ。ベルの希望はこれやろ……っと」
腰を引き、モノを浅い所で止める。ちらりと彼女を見れば、切なそうに彼を見つめ。
「……意地悪ぅ…やぁよ。こんなトコで止めちゃ」
こつりとおでこが重なり合う。顔が近い。膨れ面をしていた彼女の顔に笑みが浮かび、
お互いに声を上げて笑い出した。
「意地悪はベルやろ。ベルはこんな可愛いんやから、俺が止められるとでもおもってんのか?」
再び中へと侵入し、擦れる感触を。締め付ける感触を味わう。
「んっ……もうだ……ダメぇ」
身体を震わせ、彼の身体を強く抱きしめる。
更に強く締め付けくる彼女の身体に限界を感じ、奥深くまで押し込んで。
「くっ……ベル!」
「あぁっ……あぅっ」
蕩けるぐらいの快楽に、二人はほぼ同時に絶頂に達し。
『はぁ……』
女性二人が同時にため息をついた。
二人とも少し頬が赤くなっているのは気のせいではないだろう。
顔を見合わせ、何かを悟ったのかお互いに笑みを返し。
その横でしまりの無い笑みを浮かべるスペインと、不機嫌そうなスイス。
唯一、まだ現状を把握できていないのだから仕方が無いだろう。妹の部屋で妹が隣にいる状態で始めてしまったことも、
一度では足りず、ほぼ朝までやり続けたことも、
そのため、シーツが酷い事になり、そっと洗濯した事も、
洗濯している最中に惚けた表情の少女が朝帰りした事も、何一つ知らないのだから。
まあ逆に幸せなのかもしれない。
あの夜の事が知れたら、きっとスイスは憤死してしまうだろうから。「えっと、お邪魔しました。そんじゃ帰るから。いろいろありがとな」
沈黙を破るかのようにベルギーは一礼をし、帰る支度をはじめた。
コーヒーのおかわりに手を伸ばしかけたスペインの耳を掴み、席を立った。
「あーもう、わーったから。帰る帰る。んじゃ、またな。スイス」
「あ、はい、お二人ともまたいらして……くださいね」
言葉の途中、何かを思い出したのだろうか、
少し口ごもりながらも別れの挨拶をするリヒテンシュタイン。
いつもならばきちんと席を立って見送る所だろうが、
何故か膝ががくがくとして立つのはしんどそうだ。
それを同じ女性のベルギーは理解したのか、苦笑を浮かべ、
もう一度深々と一礼し、出口へと向かった。
途中、耳元で何かを囁くスペインの頬を引っ張ったりもしながら。残された二人はただ沈黙し……
「えっと……その、今日は訓練はお休みしてよろしいですか? 私、少々用事がありまして」
そそくさと席を立つ妹の姿に、スイスはひそめていた眉を更に深くひそめ。「……誰か、我輩に説明するのである」
ぽつりと呟いた彼の言葉に返事が返ってくることは無かった。
書き下ろし
拍手返しのスペベル。
もっとやれといわれたからヤってみた。後悔はしてない。
多分、スペベルは続かんが、この話でのリヒの裏話は書きたいと思ってたりします。
……だから、何で親分がSになるんだろ。おかしいなぁ。
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