愛の拳(U-side)





一人きりの部屋で、目が覚めた。
窓から差し込む日差しは朝のそれで、一体どのくらい眠ってしまったのだろうと ウソップはぼんやり思う。
両腕に繋がれている管にうんざりしつつ、枕元にあった水差しで喉を潤した。
満身創痍。その言葉がここまでピッタリくる状況もそうないんじゃないかと思う 程ぐるぐるに巻かれた包帯。
けれどアラバスタの時ほどではない。
折れたと思った胸も今はさほど痛まず、腕から伸びる管が鬱陶しくて仕方がない くらいだ。

死ななかったのが不思議なくらいの戦いだった。
何度も死ぬと思った。
それでもこうして生きている。

「あれだな、意外と大丈夫なもんだ。さーすーがーはオレ!だははははは…!!」
「は、は、は…」
「…………」
「……はぁ…」

一人で笑い、けれどもそれはすぐに溜息に変わる。

「…これから、どうすっかなぁ…」


何事にもタイミングというものがある。
あの日、メリーの最期を見送った直後、ルフィは気を失って倒れてしまった。
あれだけの激しい戦いだったのだからそれも当然で、クルーも皆、ガレーラの船 に移るや否や一斉に倒れ込んでしまった。
もちろんウソップもそうだ。けれど、ウソップはそのまま倒れる訳にはいかなか った。
外野がどう思っているかは知らないが、少なくとも一味の中ではウソップは離脱 をした身。
そこのところのケジメもつけずに一味と一緒に扱われたのではたまらない。居た 堪れない。
なので薄れゆく意識をなんとか保たせ、一味と別行動を取らせてもらうようアイ スバーグに告げることをウソップは忘れなかった。
それは男の意地であり、海賊としてのケジメでもある。
さすがは男ウソップと自分を褒めてやりたい一方、これは少し方法を間違えてし まったかもしれないと、ウソップはまた一つ溜息を吐いた。
全てはタイミングなのだ。
そしてそのタイミングを完全に逸してしまったような気がするのは、決して気の せいだけではないのだろう。


「2日!?」
「ああそうじゃ、お前さんはまるまる2日寝ておった。が、怪我は言うほど酷く ないし、そして何より凄まじい回復力じゃ。
若いというのはええのぅ。」

老医師はそう言うと、ウソップの背中をバシッと叩き、ガハハと笑った。

「イデェ!!!」
「お前さんの仲間も皆そうじゃ。ガレーラの奴らも相当タフじゃが、あんたらに は到底敵わんの。全く凄い連中じゃわい。」
「じいさん、ルフィ達も診てんのか?あいつら今どうしてる?」
「もうみんな起きておるよ。ああいや、まだあの麦わらの坊主がおったな。」
「……!!あいつの怪我そんなに酷いのか!?」
「いや、単に疲れておるんじゃろう。もう少しすれば元気に目覚めるじゃろうよ 。なにしろ信じられんくらいの生命力じゃからな。」
「そうか…」

ホッとした。
あいつなら心配ないとは思っても、やはり目の前にいないと不安になる。
無茶ばかりやるからな、あいつ。

無意識のうちに表情が緩んだ。ルフィが無事だと聞いただけでこんなにも嬉しく なる。

「な、なァじいさん。もうコレ外してもいいだろ?おれもう完全復活してっから さ!」


◇◇◇


老医師のお墨付きを得て久々に歩いたウォーターセブンの街は、アクアラグナの 被害により見るも無残に荒れ果てていたが、
人々は皆一様に陽気だった。
市長を襲った悪漢は一夜にして街の英雄となり、エニエスロビーからの奇跡の生 還を果たした海賊達を快く迎えてくれた。
そもそも政府も海賊も皆等しく客という街だ。懐の広さは他に類を見ないだろう 。
沈み行く運命のこの土地に住み、毎年の災害に耐え、それでも明るく働く人々を 、強いな、とウソップは素直に思った。

オイモとカーシーも既に復活し、早くも復旧作業を手伝っていた。
でかいでかい巨人族。
それは身体だけでなく、全てのスケールがとにかく巨大なのだ。
足元のほんの小さな石ころにでも躓くような自分には、その大きさがとても眩し く映る。
特に、今は。

これからどうするのか。
どうすべきなのか。
迷うばかりで時間が過ぎる。巨人の肩の上に乗っているだけの小さな自分。
けれど。

「エルバフが好きなら連れてってやってもいいぞ!」

そのセリフを聞いた瞬間。

『いつか絶対に!エルバフへ、戦士の村へ行くぞ!!』
『よしウソップ!必ず行こう!!いつか巨人達の故郷へ!!』

あの日の映像が鮮明に浮かび上がった。

「………!!」
「おれは……」

そうだ、おれは。
行かなければ、アイツと一緒に。

目覚めてからずっと、ウソップは躊躇っていた。
ルフィに会うことも、クルーと会話を交わすことも。
巨人達に言われるまでもなく、自分の居場所はここにはない。けれど踏み出せな かった一歩。
しかしいつまでも小石に躓いてばかりの自分でいるいるわけにはいかない。
石だろうが岩だろうが山だろうが、飛び越えなければ。
まずは…まだ寝ているというルフィの見舞いがてら、みんなの様子でも覗いてこ よう。

そう考えながら、ウソップは巨人の背からひらりと飛び降りた。

「あ」
「お」

巨人達はその時、確かに見た。
ウソップの背に揃う、誰よりも自由で誰よりも力強い翼を。

「ありがとう。気持ちは嬉しいけど、おれには約束した奴がいるんだ。そいつと 一緒に行かなきゃならねェから…あんた達とは行けねェよ。
で、でもさ!!でも絶対行くから!!みんな揃って、いつの日かエルバフへ!! 絶対!!」

そしてウソップは駆け出した。
自分の持つその翼には、まるで気付きもしないで。


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『432−433』(U-side)



のぼのき
ドラ様

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