降りそそぐ追想の淡雪(GM-side)





ボクは『海賊船』ゴーイングメリー号。
無茶ばっかりするけれど、とても楽しい仲間達と旅をしてきた。
そしてこの一味には、珍しいことに『船長』と『キャプテン』の二人が存在している。
でも二人はとっても仲がいいんだ。まるで兄弟みたいに。
船長さんはボクを壊してばっかりで、いつもキャプテンさんに怒られてる。
ボクの頭の上に乗るのが大好きな船長さん。他の誰かが乗ると怒るんだ。
こればかりは船長さんの特権。キャプテンさんもしょうがねェなって顔でいつも見てた。
ボクも船長さんを乗せて走るのが大好きだった。
船長さんが見ている景色は、限りなく広く、果てしなく遠くて。
ボクも船長さんと一緒に、いつまでもどこまでも走っていける気がしたから。

キャプテンさんが海賊旗を描いてくれた瞬間、『海賊船』ゴーイングメリー号は生まれたんだ。
だから、キャプテンさんはボクの生みの親でもあるんだよ。
やんちゃな仲間達がボクを傷めてしまったり、厳しい航海であちこち壊れてしまった時も、
いつもキャプテンさんがボクを治してくれた。
キャプテンさんは本当は狙撃手で、だから船の修理も自己流で、ボクはツギハギだらけだったけれど。
いつも優しく気遣ってくれるキャプテンさんがいてくれたから、ボクはここまで走ってこれたんだと思う。

船長さんとキャプテンさん。
そして素敵な仲間達。
ボクはみんな大好きだった。いつまでもいつまでも一緒に旅をしたかった。
ボクの体はボロボロだけど、でもあともう少し。あともう少しだけ。


ある夜、船長さんとキャプテンさんがケンカをした。
いつもやってるような、じゃれ合いみたいなケンカじゃなく、命がけの決闘。
船長さんは、一味を守る為に。
キャプテンさんは、ボクを守る為に。
―ボクの為に…。

ボクがいくら叫んでも、二人にもみんなにも届かなくて。
高くなってきた波が、ボクの代わりに泣いてくれた。

ボクはとても悲しかった。
船長さんに見捨てられたからでも、からっぽになってしまったからでもなく、
二人がこんな、取り返しのつかないような大喧嘩をしてしまったから。
キャプテンさんの気持ちはとてもとても嬉しいけれど、ボクのせいで二人が別れてしまったことが、それ以上に悲しかった。




荒れ狂う海に投げ出され、いよいよ使い物にならなくなった体。
でもボクはまだ死ぬワケにはいかない。
最後までボクを信じてくれた人のためにも、もう一度だけでも走らなくっちゃ。
船大工のおじさん、ボクを助けてくれてありがとう。
おかげでボクは最後にみんなを、ひとりも欠かさずに、乗せて走ることができた。
おじさんに会ったらお礼が言いたいと思ってたんだ。
ボクはこれ以上走れないけれど、みんなのことをよろしくね。



…本当は!

もっともっと走りたかった!

どこまでも遠く、いつまでも一緒に…


でもそれは、もう叶わない願いだから。


仮面の下で泣いている、ボクの為に戦ってくれた優しい人に、最後のキスを。
降る淡雪に親愛と感謝の気持ちを乗せて、あなたに最後のキスを。

どうかお願い。ボクのことを想うなら。
あなたもどうかみんなと共にこの先の海へ。
そしてボクも一緒に連れて行ってください。

もう声にもならない小さな囁き。どうかあなたに届きますように。



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のぼのき
ドラ様

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