所変わって人間界は日本、東京都某所
「なっがっい髪なびかせて〜♪悩ましげな〜ボディイ〜♪」
少し調子っぱずれな鼻歌交じりで道を歩いている軽薄そうな少年。名を横島忠夫と言う。ジーンズの上下にTシャツ、バンダナとラフな格好をしている上に年相応、もしくはそれより肉付きの足らない体をしているがこれでも立派なGSである。現役高校生で出席率が悪く、さらに成績も悪い劣等生であるが半年ほど前に起こったアシュタロス戦役という事件において際立った活躍をした英雄である。
彼の向かう先は美神除霊事務所。彼のバイト先である。元は繁華街にある雑居ビルの一フロアを借りていたが天界の王子を巡るトラブルで失われ、現在は元渋鯖男爵邸であり彼の生み出した人工幽霊により管理されていた洋館に現在の事務所を置いている。
「ちわ〜す」
『こんにちは、横島さん』
彼を最初に出迎えたのはこの洋館の管理をしている幽霊「渋鯖人工幽霊一号」である、ちなみに二号はいない。V3も人工幽霊マンも幽霊Xも(以下略)。
それはともかく。
『皆さん、すでに集まっていますよ』
「りょ〜かい」
今日は久々に大掛かりな依頼だ。横島は珍しく気合を入れて応接間のドアの部に手をかけた。
「ちわっす!」
応接間の扉を開けるとそこには4人の女性が座って打ち合わせをしていた。ただの女性ならばあえて特筆すべきでもないかもしれないが4人が4人、街ですれ違えば目を引く美しさを持っている。
まず最初に声をかけたのは銀の長髪に頭頂部に赤いメッシュが入った少女である。
「あ、先生、おはようでござる!!」
横島を先生と呼ぶ少女、名を犬塚シロといい、その名のとおり犬(ジャキン)もとい、半獣人である人狼である。彼女は横島や美神たちと会う事件の折に横島を尊敬をすることになり、それ以来、彼を「先生」と呼んでいるのである。
ちなみに彼女は朝にすでに会っている…というか彼女の日課である散歩(という名のクロスカントリー)につきあわされる。
「遅いわよ、すでに打ち合わせが始まってるんだから」
パタパタと尻尾を振っている(風なそぶり)のシロの横にいるのはツインテールならぬナインテールという不思議な髪形をしている見た目、シロより1,2歳年下風に見える少女、タマモである。除霊事務所では最も日が浅い彼女は、かつて中国の王朝を滅ぼしたとも鳥羽上皇に取り入り、保元の乱を招いたとも伝えられる妖狐玉藻の転生でもある。もっともその言い伝えも誤って伝えられたものであり、一時期追われていたが美神が保護をすることになっている。かつては追われていた時期のせいで人間不信になっていたが最近ようやく仲間と打ち解けるようになっている。
「あ、おはようございます、横島さん。今、コーヒー入れてきますね」
座席でいくとシロの前に座っている巫女装束の少女、氷室キヌが立ち上がろうとしている。
「あ、砂糖はひとつね、おキヌちゃん」
彼女、実は元幽霊でこの事務所では幽霊状態で横島の次に入った。大妖を封印する要として肉体と霊体を切り離した状態で存在していたが、封印を破ったその大妖が滅びることで自らの体で取り戻し、現在は現役女子高生である。先の二人と同じようにこの事務所兼住居に居候している彼女はこの家の家事の一切を取り仕切っている。
「おキヌちゃん、横島君に出すのはあとにしておいて。今は打ち合わせをつめておくことのほうが重要よ」
おキヌに待ったをかける女性。彼女がこの美神除霊事務所のオーナーで横島を含めて全員の雇用主である美神令子である。美人でスタイル抜群、GSにおいての才覚は世界でも1,2を争うほど、資産もすさまじいほどであるが、さすがに天も彼女にいろいろ与えすぎたと考えているようであり、性格においては超強気で高飛車の上守銭奴、情け容赦がないという外見の美点を隠してしまいかねない性格の持ち主で(ゴスゴスゴスッ!)。
「それ以上言ったら殴るわよ」
御免なさい御免なさいもう殴らないで御免なさいorz
「誰に言ってるんすか?美神さん」
それはともかく、今回の仕事は旧日本軍の基地跡に立てた工場予定地の除霊である。広範囲で大量の悪霊のために一人二人では効率が悪いことがあり、久々の全員出動である。愛車であるコブラで現地に向かう美神たち一行。運転席の美神と助手席のおキヌ、おキヌのひざの上で狐と小犬(だから狼で(略))の状態に化けたタマモとシロ、哀れ横島は除霊道具といっしょにトランクの中である。
「俺っていったい…」
工場予定地についた美神たち。
「ねぇ、美神さん…」
横島が美神に声をかける。彼女は当初の説明との違いにすぐに気づいたようである。
「この臭い…山のサルのような臭さでござる」
「サルならいいけど、この陰気、どこかで…」
シロ、タマモもその臭いに嫌悪感を表す。
キィッ!!
建築中の防音幕を破って襲い掛かってくる!
それをすかさず愛用の神通棍で叩き落す美神。
「…やっぱりね…、どうやら悪霊につられて妖魔も現れたみたいよ!」
床に叩き落された妖魔が動かなくなり、消滅するのを皮切りに大量の妖魔が現れた!
「なんなんすか、こいつら!サルみたいなんすけど!」
美神、シロとともにその霊力の刀、霊波刀をもって近距離戦が不向きであるおキヌとタマモをかばうために前線に立って妖魔を切り払う横島が美神に問う。
「狒々(ひひ)よ!まったく、何でこんな面倒な奴らがここにいるのよ!」
狒々、山によく現れる妖魔であり、ほかの妖魔に比べて余り力を持っていないが群れを作ることが多く、その数をもって他の妖魔を圧倒する。かつては猿神と称し、生贄をを求めることもあった。
おキヌはネクロマンサーの笛を取り出し妖魔をコントロールを試み、タマモも得意の幻術を使用して狒々を同士討ちを狙わせたりして混乱させようとする。その中で特に激しい戦闘を繰り広げようとしていたのがシロである。古来より犬猿の仲とも言うように狒々は人狼にとって不倶戴天の敵である。自然と体が前に出る。
狒々もとてもうまそうな人間の女(横島は殺害の対称にしか見ていない)の中に人狼がいることに気づき、攻撃を集中してくる。
力量以上の数の狒々の波状攻撃にだんだん攻撃が捌ききれなくなったシロに気づいた横島は左手で霊気の盾、サイキックソーサーを繰り出して相手の攻撃を押し返して一瞬の隙を作り、霊波刀を消した右手を強く握る。霊力を右手の掌中に集めて一粒の宝珠を作ると、それに文字をイメージする。
『炎』
「シロッ!!」
宝珠に文字が入ったのをちらと確認した横島はそれをシロに襲い掛かる狒々に対して投げつけた。
宝珠は最後尾の狒々にあたるとその妖魔を中心に大きな炎が巻き上がる。次の瞬間に火は消えたが、シロに押し寄せていた妖魔はそのほとんどが失われたようである。
「キャイン!」
熱波はシロにも届いたらしく、シロ自体も前髪の先が少し縮れたようである。
文珠、横島の必殺能力であり、美神除霊事務所、ひいては人類の対超自然に対する切り札のひとつである。霊力を持った宝珠にイメージをこめた文字を打ち込むことでさまざまな効果を生み出す万能技である。ただ、欠点として文字を連想できなければ発動しないことと、横島の霊力を超えるものには不意をついた攻撃以外が通用しにくいことがである。
「すまん、シロ!大丈夫かっ?!」
文珠の熱で悲鳴をあげたシロに対して気遣いを示す横島
「大丈夫でござる、先生。それより奴らを」
シロの窮地を救った横島だが、狒々はまだ圧倒的な数が存在している。美神はおキヌに指示を出す
「おキヌちゃん、あいつらのコントロールはどう?!」
それに対しておキヌは否定のコメントを返した
「だめです!!あの妖魔、誰かに操られているようです!!」
それを聞いた横島、一計を案じて美神に声をかける。
「美神さん!確か預けてた文珠、確かまだ3つか4つ使ってなかったっすよね!」
「何!文珠?!ここに有るけどあれでどうするの?!」
「ちょっとそれ、返してください!」
美神から受け取った文珠をそれに書いてある『盾』『護』などの文字を
『柿』『之』『木』
と刻んで少し端の場所に3つ一緒に投げつける。
少しするとその部分から芽が出、それがたちまち木となり、大量の柿の実を成らすことになった。これによって本能を揺さぶられた狒々が柿の木に集まったところで『爆』の字をイメージした文珠を投げつけた。爆風で柿に集まった狒々はこれであらかたが消滅し、残りもそれぞれの力によって倒されていった。
「これで全部ね」
「やー、依頼の説明と違っていたんで大丈夫か心配だったっすよ〜」
「妙ね…」
「得、何がですか?美神さん」
「確かに妙でござる。本来狒々は単体の力は他の妖魔より劣る存在で力のある妖魔の出やすい街には下りてこないはずでござる。昔から旅の修行をした者も狒々とは山でしか戦わなかったそうでござる」
「それが街にきたってことですか…、美神さん」
「…まさかっ!」
何かに思いついた美神が奥に走り出す。「もしかするとこの異変の原因があるはずよ!みんな、ついて来て!」
それを聞いた4人もそれについていくことになった。
工場予定地の奥にたたずむひとつの影、本来の依頼であった悪霊をすべて狒々の糧とさせ、狒々が大量に繁殖することになった張本人である。
狒々がすべて倒されるのを観察していた。無論、文珠に関してもしっかり見ていた。予定には邪魔になるかもしれない。
「さて、ここにもうそろそろ来るころか」
そういう彼の耳に5つの走る足音が聞こえてきた。符を手元に引き出す。
美神たちが奥にしばらく進むと広めの空間に出た。どうやら建設予定のビルのホールにでもなるようだ。
「…みんな、気を引き締めたほうがいいわよ」
美神がほかの4人に声をかけた。ホールの奥に人影が見えたからだ。
「なんなんすか、あの妖気…」
横島がつぶやく。この中においては一番そういうのに鈍感な横島であるが、それでもその人影から感じる禍々しさに気づいたようである。
パチパチパチ
不意に人影が拍手をしてくる。「なるほど、あの数の狒々を退治してくるとはどのくらいの力量かと思ったら大した力を持っているではないですか。なかなかの物ですよ」
野太い声、どうやら男性のようだ。よく見ればどこかで見たことのある服装である。
「あら、お褒めの言葉、ありがとうと言っておこうかしら。あれだけの狒々をこんなところまで連れてきたあなたにもその言葉を返しておくべきかしら?」
言葉とは裏腹に神通棍に霊気を送る美神。後ろを見れば全員動けるように体制を整えている。
「こっちの妖魔がどのくらい使えるか試してみたかったんですが意外と大したことがなかったようですね。やはり妖魔はあちらのものでないと」
「どういう理由か知ったことじゃないけど、私の前で堂々とそんなこと言えるとはね。このゴーストスイーパー美神令子が」
びしっとポーズを決めて啖呵をきる。
「極楽へ逝かせてあげるわ!!」
啖呵が決まったと同時に動き始める横島とシロ。シロが霊波刀で斬りつけると同時に横島が文珠を生成して投げつけようとする。文字は『縛』。力量が上と気づいて搦め手を使うべきと判断したからだ。
だが、その文珠を使うことができなかった。
「破っ!」
男は斬りつけて来たシロを気迫一発で跳ね飛ばし、横島の方面に飛ばしたからだ。横島はシロを受け止めて男の姿を探す。どこへ行ったか、シロの影になって姿を一瞬見失ったからだ。
「横島君!後ろッ!!」
不意を衝かれた横島をシロごとボディーブローで吹き飛ばす。圧倒的な力である。
「君の力がいささか邪魔なのでね。封印させてもらうよ、少年!」
その言葉と同時に接近をしてきた男は横島の額に符を貼り付ける。虚を衝かれた横島がそれを取ろうとするより早く、
「禁術則不能使術(術を禁ずればすなわち術を使うことあたわず)!」
と叫ぶ。その瞬間、符を中心に横島の体が光に包まれる。
「横島君!!」
「横島さん!!」
美神と横島が叫ぶが次の瞬間にはその光は消え去っていた。
「今日は君たちと会う予定ではなかったのでね、私はここでおさらばさせてもらうよ。また会うこともあったらそのときはもう少し楽しませてもらうよ!」
フロアの屋根の工事途中の吹き抜けに向かって高く飛び上がる男。彼に向かって何処よりか大きな鳥が舞い降りてくる。
「くそっ、待ちやがれっ!!」
横島がまだ持っていた文珠を投げつける。使用する機会が無かった為である。
だが、その文珠は発動することがなくそのまま虚空に消えていった
「それではサラバだ、諸君!フハハハハハッ!!」
怪鳥に乗った男は姿が見えなくなり、その場には美神たち一行のみが残された。
「大丈夫ですか、二人とも!」
横島とシロにすぐに駆け寄るおキヌ。ヒーリングをかけようとしてだ。
「拙者は大丈夫でござる。先生は…」
「…一応無事だけども…あれ?」
横島は立ち上がろうとしたが足に力が入らなかった。横島の額から剥がれた呪符を拾い見た美神が顔を青ざめる。
「まさか、横島君!!」
駆け寄った美神はその額に触れながらこう切り出した。
「…横島君、文珠出してみて」
「…いいっすけど・・・・・・え」
緊急時のように短時間で出さないといけないときと違い、通常時に生成するように手を開いて胸の前で力をこめる横島。しかし、通常生成されるときの感覚もなく、実際文珠自体も生成されなかった。間違いともおもって何度も繰り返すが、結果は変わらなかった。横島の顔が青くなる
「…文珠、作れなくなったみたいっす」
文珠が作れるようになって初めて自給が大幅アップ(とはいっても、実際は時給+100円であるが、その前から比べると昇給額が20倍である(前回昇給額5円))したので多少暮らし向きが楽になっていたのだが、それも先行き怪しくなってくる。
「やっぱり…。あいつ、横島君の文珠の力を封印したみたいだわ」
あの男は何かたくらんでいる。そう確信した美神であったが、捕まえるには遺留物が足りない。いきなり暗礁に乗り上げた美神だった
そのとき、美神たちがきた道の方の空間に何者かが現れた。ショートカットにヘアバンド、頭の両側には何か飾りのように見える少女。美神、横島、おキヌには見知った人物である。とうぜんハモった。
「「「小竜姫様ッ!!」」」
「もうすでにここにはいないみたいですね……おや、あなた方は」
あたりの空間を見回して誰かを探しているようだが既にいなく、代わりに美神たちがいたようであった。
「お久しぶりです、元気していましたか?」
続く…
あとがき
よーやく第1話が書ききったドンペリです。2次物はたまに書いたりしてんですがもとのストーリーがシリアス物が多かったためにギャグベースを書くのにあまりなれてなかったみたいで、「らしさ」が出せていたかどうかがいまいち不安なところです。
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