科学が発展しながらも、魔法も発展している世界
そんな世界に、ある一人の少年がいた
その少年は、生まれつき、ある特異な性質を持っていた
魔法使用回数限界、その回数を使い切れば、その人が死にいたるその限界値が
一般人でも、少なくとも十数回、多ければ数十万であるのに対し
その少年は、わずか八回だけであった
だが、その八回も、ただの八回ではなかった
ある時、少年は泣いている少女を慰めるために、魔法を使った
夏の日に、雪を降らせる、天候変化の魔法、『禁術』とされる魔法をだ
つまり、少年は使い方しだいでは、世界を崩壊させるだけの魔力を秘めていたのだ
だが、少年は、その少女の為に魔法を使った翌日、ある災難に襲われた
その災難は、少年の性質を捻じ曲げ、さらなる特異な力を与え
その代償として、少年から大切なものたちを奪い去った
少年は、その力を呪いながらも、それを操作し、ギリギリの生活を続けていた
今にも暴発しそうな、核弾頭のような少年・・・『式森和樹』は
魔術の名門学校、葵学園に入学し、そして、運命の分岐路にたった
この物語は、その少年の身に起こった、様々な出来事の記録である
葵学園 2-B
そこは、葵学園の無法地帯と呼ばれていた
その理由は、そのクラスに入る生徒のほぼ全員が、自らの欲のためだけに動いているからだ
その証拠に、クラスの標語は『他人の不幸は蜜の味、他人の幸せ砒素の味』である
しかも、そのクラスにいる生徒達全員が、何か一芸に秀でているから質が悪い
ちなみに現在は、魔法語の授業中であるのにかかわらず
2-B生徒の大半は、他人を陥れるための策を練ってばかりいたりする
そんな中で、唯一、無防備な姿で眠っている生徒がいた
その生徒の名は、式森和樹、一見して、どこにでもいそうな男子であった
「あ〜、式森、寝てるところ悪いが、この魔法語は何を意味している答えてみろ」
暗躍している生徒達を避け、魔法語の先生が、眠っている和樹に声をかける
和樹は、その声を聞くとゆっくりと立ち上がり、黒板の方へと歩いていき
眠そうな目をしたまま、先生が先に書いた魔法語の下に
その魔法語の詳細と、その魔法語が利用される典型例を書いた後に席に戻り
再び、机に突っ伏せると、目を閉じ、眠りに入っていった
「やれやれ・・・また先生が説明する部分がなくなってしまったな
この魔法語の意味、利用例は式森が書いたとおりだ
ブースト用の基礎的なものではあるが、これが重要になる事も多い
各自、この例以外の使い方を考えてみてみるように
時間もいいので、今回の授業はここまでにする
黒板はちゃんと写しておくこと、次回確認のテストをするからな」
先生はそこまで言うと、持ってきていた資料をしまい、教室から出て行った
流石にテストと聞いたせいか、暗躍していた生徒達も真面目に黒板を写していた
そんな中、一人の女生徒が、眠っている和樹に近づき、和樹を揺さぶり起こした
「ん〜・・・・・沙弓か・・・起こさないでよ」
和樹は、半分だけ開いた目でその自分を起こした女生徒
腰までかかるような長い髪をした、スタイルも良い、やや釣り目の女性
杜崎沙弓、和樹とは幼馴染の関係である女性だった
「起こさないで、じゃないわよ
特例で魔法演習試験免除されてる代わりに
今回は古文書解析に手を貸す契約だったでしょうに
私がお目付け役になってるんだから、さっさと起きて支度しなさい」
沙弓は、そんな和樹を見るとあきれたような口調で良い
もう一度揺さぶり、眠りそうな和樹を無理やりに覚醒させた
和樹の方も、流石にもう眠れないと思ったのか、ゆっくりと立ち上がると
鞄の中から分厚い本を取り出し、ゆっくりと歩き出した
沙弓も、それに続くように歩き出し、和樹の横に並ぶようにして、ある場所に向かっていた
和樹は、先に述べているとおり、魔法回数があまりにも少ない
そのせいで、課題の魔法の操作度を計測し、それを得点とする
魔法演習試験を受ける事が出来ないでおり、そのせいで、留年をしかけた事もあった
だが、魔法回数の少なさに反比例するかのように、魔法知識は豊富だったのだ
魔法の質問であるならば、6割の質問に、正確な答えが返せる程に
しかし、和樹本人に活気がなく、その知恵は飾りのようなものになっていた
だが、葵学園の養護教諭紅尉晴明が、和樹の秘めていた知恵に気付き
校長を説得し、式森和樹の魔法演習試験の免除をする代わりに
式森和樹に、葵学園教員が行っている研究の手助けをさせるようにしたのだ
和樹本人は乗り気ではなかったが、幼馴染達と離れ離れになる事を嫌ったために
渋々と、その条件を受け入れ、今回の様に研究の手助けをしているのだ
当初は、先生達の間にも異論があったが
和樹が単身で書き上げた『反作用』魔法理論のあまりの完成度の高さに驚き
今となっては、どうにかして自分の研究を手伝ってもらおうと考える人の方が多かった
そんな中、和樹は、半年毎に、自分が一番興味がある研究に手を貸すことにしたのだ
しかし、和樹は活力がない、お目付け役がいなければ研究中に眠るほどだ
しかも、和樹を起こすにはコツがいるらしく、騒音程度ではびくともしない
2-Bで時たま起こっている小規模戦争中にも、平然と眠り続けるほどであり
素直に起きるのは、授業で当てられたときか、幼馴染が起こすときくらいである
それ以外では、半目どころか、何事もなかったように熟睡を続ける
だから、和樹の幼馴染達が、授業免除の代わりに、お目付け役を受け持っているのだ
「あっ、やっときた〜、二人とも遅いよ」
和樹と沙弓が付いた場所、図書室の中には
2-Fの生徒であり、二人の幼馴染の女性、山瀬千早が一人で本を集めていた
「御免千早、和樹がまた歩きながら寝そうになってね・・・」
沙弓は、苦笑いをしながら、千早に謝っていた
和樹は、軽く手を上げると、近くの席に座り、本を開いていた
「あはは・・・・、まぁ、和樹君らしいか
それじゃ、今日もみんなでがんばろうね」
そう言うと千早は集めていた本の中から一冊を開き
沙弓も、頷くと千早が集めていた本から一冊抜き出して開き
和樹は、すでに開いていた本を、どこか眠そうだが、真剣な目で読んでいた
時折、和樹が集められていた本の中から一冊だけ抜き出し
即座に、あるページを開くと、そのまま机にその本を置き
千早と沙弓が、その行動に気付くとそのページを見て
持っている本の別ページを開いて、何かを紙に書き記していた
それから、結構な時間がたち、もうお昼の時間になっていた
「あら・・・もうこんな時間か」
ふと時計に目をやった沙弓が、そう呟いた
「ん〜・・・今回は予定より進んだね〜」
その声に応えるように、千早が伸びをしながら話しかける
「そうだね・・・、後少しで、合同研究の方に移れる」
本を読んでいるうちに目が冴えたのか、しっかりとした口調で和樹が応えた
「けど・・・流石に古文書解析とかは辛いわね・・・
和樹が適切なページ開いてくれてないと、直ぐに混乱しそうだわ」
「あはは・・・・それは私も同感
和樹君だったら一人で解析しそうなくらいだしね・・・」
「まさか、一人でやろうと思ったら何年かかるかなんてわからないよ
今回も、あくまで過去に解析された部分の実証の為の研究だからね
二人が資料を集めてくれているから、僕も集中できてるだけだし
いくら過去に実証されてる部分でも、単身だったら二年はかかるよ」
和樹は、笑みを浮かべながら、二人と話していた
「さてと・・・それじゃ、屋上にでも行ってお昼にしましょう」
沙弓も立ち上がり、体を慣らしながら、二人にそう話しかけた
「うん、今日もお弁当作ってきてるから、みんなで食べよう」
千早も、机の下においていたお弁当の重箱を出し、微笑みながらそういった
「そうだね、それじゃ、屋上に急ごうか」
本を返却していた和樹も、千早同様、微笑みながらそう返した
それから三人は、他愛もない話をしながら屋上へと向かい
彼等にとっての、普段どおりの昼食をとっていた
昼食の間も場は盛り上がり、笑みが絶えることはなかった
そして、昼食が終わり、一段落付くと、沙弓が真剣な目をして、和樹に話しかけた
「・・・・ねぇ、最近発作の方は大丈夫なの?」
急に、場が静まり、どこか重い雰囲気に包まれる
「あぁ、最近は大丈夫みたいだ、油断は出来ないけどね」
和樹も、真剣な顔をし、沙弓の問いに答えた
「和樹君・・・もぅ、自分で背負い込みすぎちゃ駄目だよ?」
千早が、心配そうな顔で、そう和樹に話しかける
「千早の言うとおりよ、もう少し、私達を頼りなさい」
沙弓も、どこか高圧的だが、心配そうな顔をしていた
「大丈夫だよ、いざとなったら・・・・二人にお願いするから」
千早と沙弓は、その和樹の言葉を聞くと、笑みを浮かべた
「で・・・昼からは魔力検診だけど、和樹はどうするの?」
「そうだな・・・・今日はおとなしく寮に帰るよ」
「先生にはいつもどおりでいい?」
千早の言葉に、和樹はゆっくりと頷いた
「うん、わかった、それじゃ、また後で部屋に行くね」
和樹は、再び頷くと、ゆっくりと立ち上がり、二人に手を振りながらその場から立ち去った
和樹が魔力検診をサボる事は、もはや暗黙の了解となっていた
先生達も、和樹に研究手伝いをしてもらっている以上強くは言えず
何より、その検診を受け持つ紅尉晴明自身が、和樹のサボりを認めているのだ
そんな事もあり、和樹はなんら負い目を感じる事もなく、自分の部屋へと戻り
ドアを開けると・・・・・そこには
下着姿の、少女がいた
「・・・・・・・・間違えました」
和樹は、何事もなかったかのようにドアを閉めると
一度寮の外に出て、深呼吸を三回した後に、自分の部屋の前へと戻り
慎重に、ゆっくりと扉を開けた
「お帰りなさい」
そこには、三つ指をついて深々と頭を下げている少女がいた
「あ〜・・・・とりあえずただいま、で、君の名前は?」
和樹は、とりあえず自分にとって害になる存在とは思わなかったのか
少女の言葉に律儀に返しつつ、質問した
「あっ、すいません、流石に覚えてませんよね
私の名前は宮間、宮間夕菜です
今日、葵学園に転校して、明日から通学する事になっています」
和樹は、その少女、夕菜の言葉に頷きながらも、即座に疑問点を見つけ
「・・・覚えてませんって、僕、君と昔あった事あったっけ?」
即座に、夕菜に質問した
夕菜は、悲しげな笑みを浮かべると、頷き、口を開いた
「えぇ、あの時は、名前も名乗ってませんでしたからね・・・
夏の雪・・・・それで、思い出せませんか?」
和樹は、その言葉を聞くと、記憶を探り始め、ある事を思い出した
昔、一人の少女を慰めるために、雪を降らせた日の事を・・・・
「・・・・あぁ、思い出した、あの時の子か」
「はい、覚えていてくれたんですね・・・・
後・・・本当に・・・・ごめんなさい」
和樹の言葉に、一瞬、喜びの顔を見せるも
夕菜は、即座に、悲しみの表情を浮かべ、和樹に頭を下げた
「何で君が謝るの?何か君、僕にした事あったっけ?」
和樹は、頭を下げた夕菜を覗き込むように、話しかけた
「私が・・・私があの時・・・我侭言ったから・・・
和樹さんは・・・・・和樹さんは・・・・・・・」
夕菜は、顔をあげる事もせず、ただただ、涙を流していた
その事に、和樹は何かを察し、夕菜に、優しく話しかける
「もしかして・・・君、あの事を・・・・」
和樹の言葉に、夕菜が何らかの反応を返そうとした瞬間・・・
『ドンドンドン』
遠慮のないノックの音が、部屋に響いた
そのノックの音を聞くと、夕菜は顔を上げ涙をぬぐうと
何かを決意したような表情をし、和樹とドアの間に立った
「ん・・・?誰かきたかな?」
「和樹さん、ちょっともめるかもしれませんけど私より前に出ないでくださいね」
夕菜はそう言うと、和樹の前に立ちはだかる様な姿勢をとり
ドアがゆっくりと開いていく様子を、睨む様に見ていた
「ちょっとお邪魔するわよ」
「邪魔するぞ」
そのドアの先には、金色の髪をした、モデルと言っても通用しそうな女性と
日本人形のような、黒髪の少女が、並んでたっていた
「玖里子さん、凛さん・・・まだ諦めてなかったんですか」
夕菜は、その二人を睨みつけながら、そう言った
ちなみに、金色の髪の女性が玖里子、本名風椿玖里子であり
黒髪の少女が凛、本名神城凛である
「別にいいじゃない、うまくいけば一回で済むんだし
それに、本人に何も聞いてないじゃない」
「・・・・私は軟弱者を良人にする気などありません
確かに、学力はあるようですが、気概のない男など興味はないです
しかし、本家を黙らせなければならない・・・・
それを最も簡単にする方法が、その男を切ることなのです
宮間先輩、じゃましないでください」
二人の言葉を聞き、和樹は頭をぽりぽりとかくと口を開こうとしたが
それよりも早くに、夕菜が口を開いていた
「ふざけないでください!!
そんな、自分勝手な、押し付けだけで、和樹さんに近づかないでください!!」
夕菜はそこまで言うと、魔法を発動しようとしたが・・・
「落ち着いて、宮間さん、話す余地はありそうだし
僕に関係もありそうだから、先に話し合いをさせてくれないかな?
本人が何も知らないのに、勝手に争いが起こるのは嫌だしね」
和樹が夕菜の肩をたたき、そう言うと、夕菜も詠唱を中断した
「それじゃ、お二人とも部屋の中へどうぞ、聞きたいことがありますので」
和樹がそう言うと、玖里子と凛は、改めて部屋の中に入っていった
夕菜は、和樹の言葉もあってか、行動にこそは出ていないが
玖里子達が何らかのリアクションを起こしたら、即座に反応できる体勢でいた
和樹も、そんな夕菜を見て、溜息をついたが、二人との話を優先した
どこか緊迫した空気が流れる部屋で、和樹と玖里子の話し合いが行われた
その内容を要約すれば・・・・
玖里子と凛、風椿家と神城家は、それぞれ自分の家の為に
和樹に詰っている、式森の先祖達、大魔術師達の遺伝子を取りに来たというのだ
玖里子は、夕菜、宮間家もその口だろうと言ったが
夕菜は、その言葉を徹底的に拒否、個人意思でここに来たのだと断言した
その言葉を聞き、和樹が玖里子と凛に反論をしようとしたとき・・・
異変が、起きた
今まで平然としていた和樹が頭を抱え、胸を抑えるように蹲ったのだ
それに、一番最初に反応したのは、夕菜だった
「和樹さん、しっかりしてください!!」
夕菜は、泣きそうな表情で、和樹に近寄り、声をかけた
「な・・・・いったい何なの?病気持ちなんて聞いてないけど・・・」
玖里子がそういい、何らかの情報漏れがあると認識している間に
「魔の気配・・・・この男から・・・・?
なるほど、人の姿をした魔物か
宮間先輩を誑かし、自分の人形にでもするつもりだったか!!」
凛は、そういうと剣を抜き、その刀に魔法を付加する
すると、鋼色だった刀が、虹色に輝きだした
これが、凛の家、神城の一族の間で生み出された、剣鎧護法であった
本来、唯の剣で、『魔』と呼ばれる存在に致命傷を与える事は難しい
だが、凛のように、魔法を付加することで、それを容易にするのだ
凛は、即座に和樹に切りかかった、夕菜は、その行動に反応しきれず
刃が、和樹に届くかと思われた・・・・だが
ガシィィッ
和樹は、その刃を、素手で受け止めていた
「なっ!!」
そして、和樹は無表情のまま、その刀ごと凛を振り回し
ブオォン!!
ドアの方に向けて、凛を放り投げた
その光景を見た玖里子と夕菜は、凛が叩き付けられると思い
思わず目を閉じてしまい、その音が鳴る瞬間に備えていたが
「・・・・やれやれ、本当に、和樹が関連すると千早のカンはすごいわね」
「あんまり、あたってほしくないときばっかり当たるんだけどね・・・」
いつの間にかドアが開かれており、沙弓と千早が、そこに立っていた
ちなみに、凛は千早に受け止められていた
「杜崎沙弓・・・・邪魔をするな、あの男は、私が退治する」
沙弓は、凛のその言葉を聞くと、凛を放し、地面へと落とした
「ふざけるんじゃないわよ、和樹を殺させなんてしないわ
和樹の事を何も知らない人が、口出しするんじゃないわよ」
沙弓は、殺気すらも伴う視線で凛を睨みつけると、和樹の方に向き直った
「和樹さん!!しっかり・・・してください!!」
そこで、沙弓は意外な光景を見た
夕菜が、和樹を背中から抱きつくような形で、必死に止めており
和樹も、振り払おうとはしているようだが、その動きに、勢いはなかった
「あの子も・・・・可能性がある・・・か」
「みたいだけど・・・沙弓、今回はどうする?」
沙弓の言葉に、千早が頷き、それに返す形で、質問した
「ん・・・いつもどおりでいいでしょ」
沙弓はそう言うと、特に警戒した様子もなく、和樹に近寄っていった
千早も、一歩遅れる形で、沙弓同様、和樹に近寄っていった
「えっと・・・そこの人、もう大丈夫だから、和樹を抑えなくていいわよ」
沙弓がそう言うと、夕菜は、沙弓の目を見た後に、和樹から離れた
そして、沙弓の言葉どおり、和樹は暴れることはせず、沙弓達を見ていた
「なんとか、自我はギリギリ残ってたみたいね・・・・
ほら、早く終わらせて、今回はギャラリーまでいるんだから」
沙弓はそう言うと、着ている制服の首の部分を緩めた
千早も、顔を真っ赤にしながらも、沙弓と同じく、首の部分を緩めていた
「グッ・・・・・わる・・・い・・・」
和樹が、何かに耐えるようにそういうと、沙弓の首筋に顔を寄せ
そこに口付けると、何かを吸い上げるかのごとくに、口を軽くすぼめた
「ん・・・・・・」
沙弓は、僅かに声を漏らしながらも、なんら抵抗しないでいた
和樹が沙弓の首筋に口付けて約一分後、沙弓から離れ
沙弓同様に、千早の首筋にも口付けし、同じく、口をすぼめた
千早の首筋に口付けて、約二分後、和樹は千早から離れた
「ふ・・・・ぅ、やっと落ち着いたか・・・二人とも、すまない」
「別にいいわよ、いい加減慣れたしね、
でも、もうちょっと発作周期が明確に解るとありがたいんだけどね」
沙弓は、そういいながら服装を整えていた
千早も、顔を真っ赤にしながら、僅かに頷きつつ、服装を整えていた
「さてと・・・・見られちゃったことだし、この場にいる人には説明しないとね」
和樹はそう言うと、未だに警戒している凛と
何が起こったのか、情報処理が仕切れていない様子の玖里子に話しかけ
改めて、話の場につくように促した
玖里子と凛は、おとなしく和樹の言葉に従い、思い思いの場所に座った
「さてと・・・・まず、二人とも疑問に思ってることから言うけど
さっきの僕の暴走、あれを、僕はヴァンパイアの吸血衝動からとって
吸魔衝動と呼んでいる現象なんだ
次に、吸魔衝動について説明するよ
まず先に、念のための確認をするけど
ヴァンパイアが、なぜ他者から血を吸うかは、知ってるよね?」
「えぇ、生存活動のためにでしょう?」
和樹の質問に、玖里子が返した
「そのとおりです、僕の吸魔活動も、平たく言えば生存活動のため
ヴァンパイアの吸血行為と違う点は・・・血を吸うのではなく
対象の魔力を、直接吸い上げる点にあるんです」
「直接魔力を吸い上げる・・・・!?
馬鹿な!!そのようなことが出来るはずなど・・・!!」
凛が、和樹の言葉に反論した
確かに、この世界の魔法の一種に、魔力無効化もあれば、吸収も存在している
だが、その効力は、あくまで対象からすでに放出されている魔力に発揮される
直接対象から魔力を吸い上げるには、かなり大掛かりな魔法陣が必要になるのだ
無論、それとて限界はある、器以上に水が入るわけがないのだ
だが、和樹は、ヴァンパイアの吸血行為のように
魔法陣を使用するわけでもなく、使い魔などを行使するのでもなく
直接、対象から魔力を吸い上げていると言うのだ
その異質さは、魔の存在を知るものであれば、なお理解できるものであった
「まぁ、神城さんが驚くのも仕方ないと思うけどね
僕が特異体質だから、って事で、あんまり深くは聞かないでね
後、千早と沙弓は、この事は中学三年から知っていたから
今回みたいに、僕が衝動に襲われたら、吸わせてくれてるんだよ」
「ねぇ・・・それって、一人だけじゃ駄目なの?」
玖里子が、なぜ千早と沙弓の両方から吸ったのか、その理由を尋ねた
「ん・・・あんまり吸いすぎると・・・ある反作用があるから
僕のほうは特にないんだけど・・・相手側に・・・ね・・・・」
和樹は、そういうと乾いた笑いでごまかしていた
「まぁ、とりあえず、自分達の家にこの事を伝えてくるといいよ
僕みたいな変な体質の人間を迎えようなんて思わないだろうからね」
和樹はそう言うと、有無を言わさぬ勢いで、玖里子と凛を部屋から出した
二人は、半ば唖然としながらも、和樹の誘導に従う形で、部屋から出ていた
玖里子と凛がでてしばらくして、和樹は、夕菜のほうに向き直った
「さてと・・・宮間さんは、詳細を知ってたみたいだけど・・・
どこで、知ったのかな?
この事を知る人は、僕が知ってる限り5〜6人のはずなんだけど・・・」
和樹は、どこか冷たい空気を纏って、夕菜にたずねた
「・・・この葵学校にいる、紅尉先生に・・・・聞いたんです
三年前に・・・御父さんと紅尉先生が、話しているときに
たまたま、その話しの内容を聞いて・・・・
昔、雪を降らせたことが原因で・・・和樹さんが・・・そうなったって聞いて
私、信じられなくて・・・紅尉先生に、何度も、何度も聞き返して
本当だって、実感した後・・・どうしても、知りたくて・・・
私が、どうやったら、和樹さんに償えるか・・・知りたくて」
「その後も、紅尉先生に何度も何度も質問しているうちに・・・
僕の今現在の状態について、詳しく聞いたって事・・・・か」
夕菜は、溢れて来る涙を拭おうともせず、コクンと、頷いた
和樹は、そんな夕菜を見ると、溜息をついた
「あのね・・・宮間さん、そんなこと気にしなくていいんだよ?
確かに、今の僕は異質な存在になっちゃったけど
僕は、そのことを気にしてないし、あの時のことも後悔なんてしていない
宮間さんが、罪の意識に囚われることなんてないんだよ?」
「でも・・・でも・・・・・!!」
「ふぅ・・・・それじゃあ、一つだけ命令させてもらうよ」
夕菜を見て、このままじゃあ埒が明かないと思ったのか
和樹は、もう一度溜息をつくと、そう言った
夕菜も、それを聞き泣き止むと、和樹の言葉を待った
「これから僕達は宮間さんの事を『夕菜』って、下の名前で呼ぶからね
ちなみに、拒否権は与えないよ」
和樹がそう言うと、夕菜は呆然とし、立ち直ると即座に口を開こうとしたが
「はいはい、落ち着いて夕菜さん、和樹が下の名前だけで呼ぶのは
本当の意味で信頼してる人だけなんだから、野暮言わないの」
「えぇ、それに、私達も、夕菜さんのことを信頼しますからね
和樹君が、認めた人ですから。
後、私達も信頼してくださいね、信頼の証は、下の名前で呼ぶことですからね?」
夕菜は、沙弓と千早の言葉を聞き、もう一度だけ涙をこぼすと
満面の笑みで、「はい!!」 と答えた
「それじゃあ、改めて自己紹介しようか
僕の名前は式森和樹」
「私は杜崎沙弓よ」
「私は山瀬千早です、よろしくね、夕菜さん」
「私は、宮間、宮間夕菜です、皆さん、よろしくお願いします!!」
和樹達は、互いに自己紹介を終えると、それぞれの趣味について話し合っていた
どこからともなく笑い声が聞こえ、微笑は絶える事がなかった
これから先、彼等は、様々な事件に巻き込まれていく・・・
だが、彼等は、それをきっと乗り越えていくだろう
心のそこから信頼しあえている限りは、何者にも負けることはないだろう
そう、笑みが絶えない限りは・・・・未来は、きっと明るいはずだから
あとがき
お試し版ということでちょっと微妙な幕切れでした(ぉぃ
評判がよければ、このまま本番に入りますが・・・・
まぁ、本番に入らなければ謎は謎のままという事で(マテ
鬼畜将ランスがどうにも書けないために書いた作品ですので
更新自体は遅れがちになる可能性もありますが・・・・
評判がいいようでしたら、連作にしてみたいと思います
ちなみに、夕菜は『キシャー』にはならない予定です(ぉ
凛と玖里子さんの扱いが悪いのは、序盤と言うことで勘弁を
では、ご感想お待ちしています
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