東京都心。 県庁地下に広がる、大型の司令室。
日本の霊的防衛の要であるその巨大施設を一手に預かる人物…美神美智恵は、椅子に腰掛けながらそう呟いた。
「つい30分前…あんなにぎゃーぎゃー討伐だの物騒なこといっていたくせに…」
今の今まで向き合っていた、最新型の通信機に肩肘を乗せる。
手の甲にあごを乗せ、美智恵は余計なボタンを押さないよう肘の位置を微妙に調節した。
『美神令子の魔族化が始まっている』
この報告が魔界軍のワルキューレから入ったのは、今から3時間と少し。
それと同時に入ってきたGS協会からの指示を受けた彼女は、すぐに東京地下にあるこの施設へと向かった。
待っていたのはあの時と同じスタッフ達の顔ぶれと…GS協会の、ある程度予想の付いいていた命令。
『美神令子の捕獲、もしくは抹殺』
しかも『出来うる限りは抹殺の方向で計画を進めよ』と言うありがたくないおまけ付き。
およそ実の母親にさせることとしては最低としか言いようのない、職員全員が沈黙する命令内容だった。
最悪アシュタロス級かそれ以上の魔族が誕生するのだから、その対応は間違ってはいない。
むしろこれは相当な緊急事態だ。
恐らく自分でも、その命令を出していただろう。
だが彼女は、自分の娘がわざわざ何者かに害をなすようなタイプの人間ではないことを熟知していた。
守銭奴で基本的に冷めているようには見えるが、中身はなかなかしっかりしている。
『あの子なら、大丈夫…』
ならば、まずはこのばかげた命令をとりあえず『完了』させた事にして、協会を納得させその後の事を調節する…
美智恵は、上層部のだみ声を耳に通しながらそう考え、あくまで『捕獲』…『保護』の方向を強調して作戦を展開させる。
万が一の可能性を考慮して、アシュタロス事件以来使われていなかった大型霊札も東京中に配備させた。
最初はとにかくここへ彼女を連れてこれれば『保護』という目的は完遂される。
あとは交渉次第…かなり難しいだろうが、やるしかない。
本当は自分自身が真っ先に赴いて娘の側にいるべきだと思った。
だが…母親である自分が先走ればGS上層部がどんな動きをするか解らない。
協会が余計なことをしないように、自分が動くわけにはいかなかったのだ。
表向き冷静に命令を発しながら、ともすれば司令室を飛び出しそうになる自分を何度も押さえつける。
『いざというときは『前線に立って指示をする』という名目で向かえばいい…』
そう自分に言い聞かせながら、この間まで元気だった娘の姿を思い浮かべていた美智恵。
だが…大まかな計画を決め、いざ大型霊札の起動準備と東京都民の避難を実行に移そうとしたその時。
GSからの、信じられないような連絡が入る。
『美神令子に対するすべての捕獲、殺害計画を中止。
現行で監視体制を維持せよ。』
という、最初の命令とは明らかに異なる…いや180度裏返った命令。
GSライセンス等に関しても、事によっては多少の変更はあれど消去はないというおまけ付きで…
「まさか上層部がそっくり入れ替わった…まさかね」
あり得ないとも言い切れない。
なんだかんだ言いつつ、『連中』は全員ではないが霊力はないに等しい人物が多い。
ただ権力があるだけの人間が殆どなのだ。
『ま、いっそ入れ替わってくれた方が楽なんだけどね…』
もし上層部の人間に聴かれたら、即座に首をはねられそうな台詞を心の中で呟く。
「一体どういう事なんでしょうか…」
口元を小さく歪ませた美智恵の横から、若い男性の声が掛かる。
「あ、西条君」
そこに立っていたのは、長身長髪のスーツを着込んだ男性。
娘が兄のように慕っている自分の部下、西条輝彦だった。
「まるで鏡にでも移したみたいに逆の内容…ここまで来ると、ありがたいを通り越して不気味です」
「というより、何かないほうがおかしいわね」
今度は口にして小さく笑うと、「ですね」と西条も同意する。
「…もしくは、もっと上の何者かが働きかけたというのが自然かしら」
先ほどの入れ替わりの可能性を捨てれば、もうこれ以外残らなくなる。
だが…世界中に支部を置いた大組織、GS協会にそんな事が出来る人物…
どこかの国のお偉いさん…
「ザンス…かしら?」
真っ先に浮かんだのは、GSに取って欠かすことの出来ない精霊石の産出国ザンス。
あそこなら、協会へのアプローチも可能かも知れない。
「いえ、ザンスはまだ令子ちゃんの事は知らないはずです。
仮に知ったとしても、GS協会にこれだけの無茶を通すことは出来ないと思いますから…」
「そうね…じゃあ、一体誰が…」
頷いて、再び手の甲に顎を乗せる美智恵。
『GS協会にアプローチ…しかもこれだけの大事にもかかわらず、命令を撤回させられるような人物…』
過去に出会ったりデーターにあった人物を高速でピックアップしていく。
だが、どんな人間…いや魔族や神族であろうと、そんな事を出来る人物は存在しなかった。
主神級の神魔族も候補に挙がったが、お互いの種族ならともかく人間の構成する組織へわざわざ命令を出すとは流石に思えない。
「一体…誰なのかしら…」
美智恵は、姿の見えない『人物』を軽く薄めた視線の先に描きながら、未知の相手に小さな恐怖を覚えたのだった…
そして…。
人間界へのゲートに集結していた神魔族の軍勢が、突然退去したと言う連絡が彼女たちの元に入るのはその数分後だった。
GS美神極楽大作戦
『エイエン』
第6話 影舞踏
「なんじゃこりゃぁ!!」
叫ぶと同時に、横島は横へ飛び退いた。
樹海の草木が身体をしたたかに叩くが、気にしている場合ではない。
その証拠に、今まで自分がいた場所に…
『オー』
という感情のない声を上げながら、巨大な馬面の岩人形が拳を轟音と共にたたき付けていた。
「これは…ゴーレム?」
ワルキューレはその岩で構成された姿を見て呟き、周囲を円描くように動き回っていた。
…ちなみにヒャクメは、先ほどから周りを探索して敵がいるかどうかを随時チェックしている。
そのおかげで今のところ、敵に背後から攻撃されるという致命的なミスを犯さずにすんでいた。
コントの様な自転車で樹海までたどり着いた所で、いきなりこのゴーレムが現れて襲ってきた。
森の木々まで届かんばかりの、3メートルほどの巨大な岩人形。 しかも4体。
ただ、この程度のゴーレムならば横島も何とか倒せるし、ワルキューレや小竜姫様にとってはなんら倒すのには苦労しない…はずだった。
地面と同じ茶色いボディを、図体とは裏腹に異様な程の速さで動かしながら攻撃を繰り出してくる。
「このゴーレム、信じられないくらいに堅い…!!」
小竜姫様のそんな台詞と一緒に、甲高い金属音…剣がはじかれる音が聞こえてくる。
視線をそちらに向けると、小竜姫様が返す刀で同じ場所を斬りつけていた。
そう、この茶色い岩を組み合わせて作ったかのようなゴーレムは、信じられないくらい堅い。
ただの岩ならなます切りに出来るはずの小竜姫様の神剣や、ワルキューレの弾丸もあっさりはじいているのだ。
流石に小さな傷は付いているのだが、決定的なダメージになっているとは到底思えない。
加えて、ゴーレム達は素早いとまでは言わないが、かなりの速さ動き回って肉薄してくる。
避けられない程の速さではないが、正直一撃もらったらただでは済まないだろう。
「もしそうなら…どこかに文字が…!」
ゴーレムには、その命を維持するための文字『emeth』か、もしくはそれの元となるヘブライ語が刻まれている。
伝説では額か唇か、もしくは胸にそれは刻まれるか羊皮紙に文字を書いて貼り付けてあるかなのだが…
「昔股間に書いた奴いたからなぁ」
横島はワルキューレ同様に、手に霊波刀『ハンズオブグローリー』で攻撃を捌きつつ、ゴーレムの弱点を探す。
以前ゴーレムを初めとしたオカルト兵器を売り出そうとしていた連中が、そんな事をしていたのだ。
曰く、「女性ならそこをさわるのをためらい、男性なら叩くのはちょっと躊躇ってしまう」。
……結局、上司である美神に『思いっきり激しく』ひっぱたかれたのだが…
「股間にはない…じゃあ何処に…」
その時のゴーレムは前掛けを付けていたのだが、この馬面のゴーレムにはそれがない。
だが何処を見ても文字はおろか、『いちもつ』さえ存在していないのだ。
「横島さん…あまりその言葉を連呼するのは…」
小竜姫様は…流石に女性としてこの単語は恥ずかしいのだろう。
顔を赤くしながらも、ゴーレムの弱点を探していた。
「あ、すんません。
でも…一体何処に…早くしないと…」
見た感じ髪の毛や布などの身体を隠すパーツなどはないから、どこかに隠れると言うことはないはずなのだ。
「早く美神さんの所に行きたいってのに…」
文殊を使えば一発で倒せると思うが、この先にいるであろうフォロフスという魔族に対して、最も有効な攻撃手段を失うのはいろいろまずい。
無論万が一の場合は即座に使うが、そこまで危険な状態ではない。
だがいつまでも、ここで立ち往生するわけにも…
「相変わらず悪趣味なゴーレムだ…」
焦りを感じ始めた横島の横で聞こえる、オウル卿の呆れたような声。
「横島君、今から私がゴーレムを横倒しにする。
そしたら、『右の足の裏』にある文字を攻撃したまえ」
「足の…裏?」
「あいつはいつもそこに文字を書いている。
場所がわかればいくら素材が堅くとも、文字一つを消すくらいなら何とかなるだろう?
…おっと」
振りかぶられた拳を器用に避けながら、「いいかね?」と確認してくるオウル卿。
「解りましたっす」
小竜姫様とワルキューレも攻撃を避けながらも、「解りました」「了解です」とそれぞれに答える。
「では…」
オウル卿はさっとその場にしゃがみ込むと、片方の手の平を地面に置き、「行け」と小さな声で呟やく。
すると攻撃をするゴーレムの足下から…
「手?」
正に「にょっきり」という音さえ聞こえてきそうなくらいに、水で出来た腕が生える。
それぞれが対峙しているゴーレムの足下に、それぞれ一本ずつ。
「そう。 あとは…」
腕は素早く側にあるゴーレムの足をがっしりと掴むと、走っている方向とは反対側に思い切り引っ張った。
いきなり足を捕まれ引っ張られ、なおかつ重量の大きなゴーレムはあっさりと地面へ倒れ伏してしまう。
「あとは足の裏にある文字を消すだけだ」
言いながら足下へ移動したオウル卿は、持っていたステッキの先をゴーレムの足へ伸ばす。
そして僅かに腕を曲げ…一気に突き出された。
ゴーレムは一瞬びくりと身体を震わせた後、がくりと力を失い、全身が土山を崩すかのように形を失ってゆく。
この土地の物を利用したのかどうかは解らないが、もしそうならある意味幸せだったのだろうか?
横島は同じように倒されたゴーレムの足の裏に刻まれた、命の意味のある文字を霊波刀で削りながらそう思ったのだった。
「所でオウル卿…!!」
ゴーレムが土になったのを確認し、美神の場所を訪ねようとした横島の顔が引きつる。
なぜなら…
「オウル卿!! 後ろに!!」
今正に背後から、自分たちの仲間を葬った相手に全力で拳を振りかぶるゴーレムの姿があったのだ。
「ん? ああ…」
だが、慌てる横島とうらはらに、オウル卿は後ろから迫り来るゴーレムに、何気ないと言う風に呟いた後…
「ほっ…」
ゆるりと突き出された拳を紙一重で避ける。
ぎりぎりのように見えるが、戦い慣れた人間には…
やっと最近その領域に踏み込めたかと言うくらいの横島にも、その動きは熟練された動きだと言うのがはっきりと解った。
「砕!!」
続いて「ひゅう」という鋭い吸気の後、信じられないくらいの速度でしゃがみかけ声と共に掌を真上…ゴーレムの馬面に向け突き上げる。
口を無理矢理塞がれ、ゴーレムは「ぶぎぃ」というブタの鳴き声にも似た声を上げた。
「射!!!」
その止まった瞬間を狙い、風を切るかのごとき後ろ回し蹴りを岩の身体にたたき込むオウル卿。
一瞬横島はすごい勢いでゴーレムが吹っ飛ぶのではとその姿を想像したが、目の前の現実の光景は異なっている。
ゴーレムは…全くその位置から動いていない。
まるで時が止まったかのように、梟紳士の足はゴーレムの岩肌に『1センチさえもめり込まず』止まっていた。
「ふむ…」
軽く呟き、長い足が下ろされると…そこで初めて、時が流れ始める。
まるでビルの倒壊シーンを見るかのように、ゴーレムの身体に無数のひびが入り、地面に崩れ落ちていくという未来をつれて…
「力はただ使えば良いわけではない。
無駄な力を使わず、必要最『低限』の力を最『大限』に活用し、目標を効率よく粉砕する…
人間の専売特許ではないんだよ、拳法というのはね」
そういい、服を正したオウル卿は(梟の顔でも解るくらい)にこりと自慢げに微笑んだ。
「さ、早く行こうか」
「はい、では美神令子に関してはそのようにお願いします。
はい…いえいえ、こちらこそ無理を言ってすいません。
え? …あ、はい、解りました。 伝えておきます。
それでは…」
東京都庁。 その屋上にたたずむ、一人の女性。
奇しくも直下に美智恵達のいる施設のある建物の天辺で…強風が吹きすさぶその場所で、女性は携帯電話を切った。
「ふぅ…とりあえずこれでGS協会は押さえた、と…
後は神魔族両方ですけど…これはミーティアがやってくれているわよね。
でも何で私達が、こんな雑用を…」
風に激しくなびく、昼の光を吸い込んでしまうような長い黒髪に手櫛を入れながら小さくため息をつく女性。
「それは仕方ないだろうコメット…
マスターと『彼女』とは友人の間柄だ。
たっての頼みとあれば、断るわけにも行かなかったのだろう…」
どこから現れたのか、歩み寄りながら声を掛けるスーツ姿の女性。
「あ、柚葉」
女性…柚葉は、「そっちは終わったのか?」と問いかけながらすぐ側で立ち止まる。
「ええ、GS協会はとりあえず問題はないみたい。
何かあったら織命ちゃんか桃華が連絡をくれると思うわ…そっちは?」
「魔族の方は『彼女』からの伝言だと伝えたら聞いてくれた。
シールドの方には、うまく命中させたのか?」
「その類の問いは、私に対して無意味だと思うわよ?」
柚葉の問いに、コメットは不適な笑みを浮かべ手を横に伸ばす。
するといつの間にか、その手には1メートルほどの長銃が握られていた。
「ここから約○○キロメートル。
弾丸は重力その他に影響されない物を使って、役目を終えたら即消滅。
東京都庁屋上から青木ヶ原樹海のポイント○に発射○分後、瞬間的に美神令子の霊力と魔力の波動を確認…
後はあのヒャクメって娘かそのあたりが位置を関知する…完璧でしょう?」
軽く銃をいくつかの方向に構えた後、コメットは再びどこかへと銃を消す。
「確かに無意味だったな、お前に銃関係で問うのは…」
「まあ、マスターの『絶滅王』の射程には負けるけどね。
銀河数個分ぶっ貫くし…威力・命中率全部、私の『アミュテイゼン』じゃ比べものにならないわ」
肩をすくめ苦笑するコメットに、柚葉は頷く。
「さて…これであとは神族…ミーティアが行っていたな。
…まあ大丈夫だろうが…」
「はい、大丈夫でした」
柚葉の声を繋げるように答えたのは、振り向いたコメットの背後から近づいてくる女性。
深い緑色の髪を風になびかせ、にこりと微笑みながら女性は二人に歩み寄ってきた。
側には、2メートルは優に超えているであろう巨大な馬。
一切無駄のない筋肉を覆う血の色を濃くしたような赤毛は、側にいる女性の深い新緑のような髪の毛と不可思議なくらいマッチしていた。
「そうか…ん? ミーティア…その両手のビニールは何だ?」
ふと柚葉が、ミーティアの両手にある少し大きめのビニール袋に気が付き問いかける。
足を軽く「かぽかぽ」動かす馬をなだめていたミーティアは、すぐに気が付き…
「これは主神様からのお土産です。
右手の方は私達で食べて良いそうです」
と言いながら、右手のビニール袋を持ち上げた。
「そしてこっちは…『彼女』に渡してくださいとのことです」
残った左手のビニールを持ち上げ、同じ形にふくらんだそれを二人に見せる。
「中身は…」
「シュークリームだそうです。
奥方様が気に入られている物だそうですよ、柚葉」
持ち上げていた袋を下ろして、ミーティアは小さく笑った。
「ではシールドを張って置かねばいかんな。
帰り道、真空でクリームが凍ってしまう。 …一つ持とう」
手を伸ばした柚葉に、「ありがとうございます」とミーティアは左手の袋を手渡した。
柚はは小さく「ガサリ」と数回音を立て揺らして、手に持った袋の感じを確認する。
「さて…では一度『ウルザルト』へ戻るとしよう。
…そういえば桃華はここにこないのか?」
周囲を見渡す柚葉に、ミーティアが顎に指を当て「確か…」と中を見上げる。
「あ、確か今マスターと血央様と一緒に大気圏です。
一応美神令子の様子を確かめて、万が一の時は降りて調停すると言っていました。
まあ、大丈夫だと思いますけどね」
「血央様まで…」
呟きながら、柚葉は顎に手を当て唸る。
「血央様はマスターのストッパーです。
フォロフスという坊やにマスターはかなりお怒りでしたし、下手をすると突っ込んで行きかねないから…ということらしいです。
そこがマスターの良いところではあるのですが、今は彼女たちに接触するのはいろいろまずいですからね。
出来る限り、自分たちの手で解決してもらいたい所なんですけどね…」
ミーティアも柚葉同様に、袋を軽く揺らしながら答える。
彼女の性格を表しているのか、音もどこか小さく上品な感じがした。
「では…」
「ああ…」
「そうね…。
そういえばミーティア、今更だけどミニスカートで馬に乗ると中見えるのよね…」
コメットの言うとおり、今は大丈夫だが少し動けばそのまま彼女の足の間が見えてしまいそうになっている。
大きな馬に乗っているため、足を開かなくてはならないからだ。
「ですね。 でも昔も今も裸で乗っていますし…いまさら見えても、と言う感じですね」
だが当の本人は、しれっと答える。
「そういえばそうね」
上を僅かに見上げて何かを思い出したコメットは、くすくすと笑う。
「ふふ…では行きましょうか」
「そうね。 変なことを聞いちゃってごめん」
「いいえ。
さ、早く『ウルザルト』を使って『彼女』にこれを渡しに行きましょう。
いくら凍結してあるとはいえ、生ものは早くお渡ししないといけませんし…」
そんな会話を最後に、全員と「いきますよ…」とミーティアが優しく命じた馬が軽く足を曲げる。
そして次の瞬間。
全員が、まるでバネ仕掛けのように上空へと『飛んだ』。
衝撃波も音もなく、3人の女性と馬だけが空へと飛び上がる姿はあまりにもシュールで、不可思議きわまりない光景だった。
コメットと柚葉は直立し上を向いた状態で。
背にミーティアを乗せた馬は空に顔を向けた、どこか勇壮さを感じさせる状態で…
物理法則のすべてをちらりとも見ないかのごとく無視した3人は、恐ろしい速度で全員が真っ青な青空の向こうへと飛び去り見えなくなる。
都庁の屋上に、再び風の音だけが聞こえるだけになった。
最初から、そこには何もなかったかのように…
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