彼女の機体の腕は通常腕に換装され、そこには狙撃用のスナイパーライフルが握られている。
『ふ、不本意でござる〜〜〜。拙者、主武器はブレードが良いでござるよ〜〜〜』
「…言うな。俺だって別の意味で不本意なんだ、この依頼。…依頼っつーか強要?壊すなよ、それ。返却せにゃならんのだから。ったく妙な所でセコいし」
『諦めも肝心なのね〜。あはは…はぁ…』
『ま、がんばんなさいな』
ポチ達師弟コンビは、ルガ峡谷の崖上で、身を隠して待機していた。
彼等の機体は電磁波を遮断する偽装網で覆い隠されている。
互いの通信は、実はケーブルを引っ張って有線でやっていた。
オペレータとの通信は、多少離れた場所にセンサーにかからないような小型の中継機を置き、そこからケーブルを引いているのだ。
ここルガ峡谷では、良くミラージュ社とナービス社の小競り合いが行われる。
そう、小競り合いだ。
大きな戦いも無くは無いのだが、大概は小規模戦闘で終わってしまう。
それ故に、ここ絡みの依頼はよく新人…ホワイトウルフよりも更に経験が浅く、ほとんど実戦経験の無いようなド新人へと回されるのだ。
だが問題はそのド新人にあった。
『そんなに腕が悪かったんでござるか?』
「らしい。なんか雑魚のMTに袋叩きにされて、被撃墜こそ免れたものの、這う這うの体で逃げ帰って来たそーだ」
そう言って、ポチは溜息をついた。
最近彼はどんどん溜息をつく回数が増えている気がしないでもない。
スピーカーから、オペレータ達の声が聞こえる。
『…で、今回はソイツの汚名挽回のチャンスってわけなんだけど。…でもあんま信用置けないのよね結局』
『あんまり何度も何度も失敗されると、アークの信用にもかかわるのね〜。だから万一に備えて、アークの収支が赤字になるのを覚悟の上で、隠れて僚機を付ける事にしたんだけど…。
ちなみに汚名は返上、挽回するのは名誉なのね〜』
『う゛っ…』
ポチ達は、谷底が見えるように設置しておいたカメラの映像を見る。
そこではポチの栄光Ver.2に所々似ている黒いACが、通常モードから戦闘モードに切り替え動き出していた。
色は塗り替えているようだったが、それは明らかに新人が無償で供与される中古パーツの寄せ集め機体に違いない。
そして黒い中古ACの前方では、MT部隊が展開を完了していた。
ド新人が大音量で叫ぶ。
『うわははははははははっ!!先日のようにはいかんぞっ!!このドクター・カ…い、いやいや…こ、混沌博士の真の力を見よっ!!』
「『『ろ、老人っ!?』』」
『…そうなの。困ったものなのね〜。色々裏で思惑とか動いてるみたいなんだけど。…結局しわ寄せ受けるのはわたしたち下っ端なのね〜』
その御老体は中古のオンボロとは思えない妙チクリンな動きで被弾を最小限に抑えつつ、敵に接近していく。
ポチ達は驚きの声を上げた。
「な、なんだあっ!?老人でアレっつーのもワケわからんが、なんでアレでこの程度の任務失敗すんだよっ!」
『こ、この程度の敵であれば充分な実力ではござらんか!?』
『…見てればわかるのね〜。たぶんまたやるから…』
『ふはははは!ライフルをくらえっ!』
黒いACの右腕はピクリともしない。
かわりに右肩ミサイルポッドが起動した。
だがまだロックオンが完了していないらしく、ミサイルは発射されずにポッドの蓋が開いただけだ。
そう、ミサイルはロックオンに時間がかかる。
どうやら武器選択を誤って、右腕装備武器ではなく肩装備武器が現在の使用武器に選択されていたらしい。
『ぬおっ!?な、何故じゃっ!ならばブレードで…』
ばちゅん!と音がして中古ACの左腕からブレードがパージされる。
御老人は叫んだ。
『あ…あれっ!?おかしいな…!?操作ミスったか!?し、しかしこんな簡単操作で装備排除はされぬはずじゃが…』
『『『『………』』』』
『こ…こういう時は基本に戻って操縦法の再確認じゃ…!!ええと横移動は右ペダル左ペダル…ぬ?し、新方式じゃと左操縦桿じゃったかの…?』
ポチは混沌博士のボケっぷりに頭を抱える。
その間、御老人のACは取り囲まれて四方八方から集中砲火を浴びていた。
『うわっ!まてっ!こらっ!やめんかっ!ワシを誰だとっ!』
『せ、先生…。やられてるでござるよ…』
「ああ、まだいいんだ。っていうか、まだ出るわけにはいかねー。俺達への依頼はあいつの援護じゃねーから」
『でござるが…。肝心な御方が…。ぜんぜん戦況に気付いておられぬようでござるが…』
「…なにっ!?」
弟子の台詞に、ポチは泡喰って別の回線を開く。
するとそこから響いて来たのは、能天気にさえ聞こえる涙声だったりした。
『ううう……パトラッシュがかわいそう…』
「『あんたナニ絵本読んでるんスかあああぁぁぁーーー!!!』」
『きゃあっ!?』
ポチ達の怒声に、その相手は驚きの声を上げた。
さらにもうひとり、別の相手からも声が届く。
『すいません、すいません!お嬢様に悪気は無いんですっ!』
「いやフミさん…悪気無いったって…。それよか早くいかんと、あの爺さん撃墜されちまいますよ」
『そ、そうでしたっ!お嬢様っ!』
『え〜?何〜?』
のほほんと応えるその声に、その場の皆は叫んだ。
「『『『『さっさと出撃せんかーーー!!』』』』」
『きゃ〜〜〜!?』
ポチ達が待機している崖の反対側の崖上にあった偽装網が取っ払われ、その下から超重装のタンク型ACが出現した。
そのACはノコノコと前進すると、崖下へと降下して行く。
それを確認してから、貧乏師弟はおもむろに自機の戦闘モードを起動させ、偽装網をはぎ取った。
ホワイトウルフが師匠へ力なく語りかける。
『…しかし…『隠れ僚機』のそのまた更に護衛というのは…なんか何でござるな』
「仕方ねーって…。色々脅されたし…あの人の母親に。この業界、こういう事もあるんだって。…しくしく。
ま、まあ今回は全部あの人の手柄にせんといかんから俺達にポイント入らねーけど、代わりにいいパーツ貰えるっつーし…。
そのワリに、貸し出されたスナパとFCS返さにゃならんのがお役所的っちゃお役所的だが」
『そんなもんでござるか…』
そう、今回のポチ達の任務はかの御老人を援護することではなく、先ほどのタンク型ACのレイヴンをこっそり支援することだったのである。
無論、外部からは全て彼女の手柄に見えるようにしなければならない。
ポチ達の胸の中には、このミッションがとてつもなく困難であるような予感がひしひしとしていたのだった。
「『とほほほ…』」
…まあ頑張るしか無いね♪
本日のレイヴン情報:
レイヴン名:混沌博士(♂)
本名:カオス(姓は不明。ホントに本名かも不明。通称ドクター・カオス)
AC名:バロン
:全て初期パーツ
機体解説:ゲーム上で言う、いわゆる初期機体。
色は黒く塗られている。
備考:もともとは何処ぞの中小企業の引退した技術者、それも以前は重役クラスだったらしい。
彼はある日、音信不通だった息子夫婦の忘れ形見である孫娘達がレイヴンになったらしいと聞く。
息子夫婦に何もしてやれなかった事を悔いていた彼は、せめて孫を探し出し力にならんと欲した。
そして彼は、ありとあらゆるツテ、あらゆる手練手管を使って自分もレイヴンになった。
だがはっきり言って、それだけの事ができるならもっと別の手段もあるだろう。
ぶっちゃけた話、彼のビジョンは近視眼的に過ぎるという物である。
(あとがき)
えー、今回『あの人』が出てきました(笑)
状況によって12パターンの機体構成を使いこなすと表向き言われている『あのヒト』が。
何故表向きかって、使いこなしてないから(笑)
勿論それぞれに全部別の名前が付いてます。
ちなみに今回の彼女の役割は、最初の任務を二度も失敗すると『役立たずめ』って出てくるあのお方とか、某社駐屯地の防衛任務でしくじると二度目のとき『足手まといになるなよ』って出てくるあのお方とかと同じ仕事ですな。
なお今回、ポチ達の機体構成微妙に変更されてます。
栄光Ver.2:
頭部:CR−H84E2:60000C
FCS:CR−F91DSN:45000C
右肩:なし:0C
右手武装:WH02RS−WYRM:70000C
左手武装:WH02RS−WYRM:70000C
頭部パーツは本人が前回の儲けで買った物。
それ以外は、アーク内部にもかなりの影響力を持つ某実力者のオバサンが貸し出した物。
ようやく念願の暗視頭を買ったのはいいけど、その矢先に某実力者のオバサンからエラい任務を仰せつかってしまいましたとさ。
雪狼:
腕部:CR−A94FL:87700C
FCS:CR−F91DSN:45000C
右手武装:WH02RS−WYRM:70000C
左手武装:なし:0C
腕部パーツはSYURAの前、父親の時代に付いていた物。
それ以外は師匠同様に某実力者のオバサンが貸し出した。
ホントはこういう任務ってゲームじゃあ有り得ないんですけどね。
でもGSだとなんとなく有りそうだし。
ポチ達が選ばれた理由は、実力のある他のレイヴンはなんか扱いづらそうな奴等だから(笑)
で、前回ラストのレス返し
>Dr.Jさん
その疑問に関しては私も以前から考えていなかったわけではありません。
ただおそらくレイヴンズ・アークですと、レイヴンとオペレータの関係は戦場だけでは無く、マネージメント的な部分にまで及んでいそうな感じを受けたんですよ。
お互いの呼吸も阿吽というほどではなくともそこそこ分っている必要がありそうですし…。
そうなると有象無象のド新人ならばともかく、ランカー級やランカーでは無くとも目をつけてるレイヴンにはやはり専属を付けるのでは。
事務所がドル箱タレントには専属マネージャー付けるみたいな感覚で。
非効率とは言っても、レイヴン一人にかかる経費は大きいですし、デスクワーカー一人分の経費ならその中に計上できるのでは無いでしょうか。
それと、仕事時間がかち合うだけならばともかく、仕事それ自体がかち合った場合は目も当てられません。
先日までオペレートしていた相手を殺すためのオペレーティングを冷静にできるほどの超プロばかりでは無いでしょうし。
そういう事を防ぐためにも、最初からチームとして編成されていたりする場合を除き、複数人を1名がオペレートするのはどうかなあ、と。
ただ緊急時の代理オペレータは常時何人かストックされていそうですね。
ウェットな関係を嫌って、マネージメントは可能な限り自分でやって作戦時のオペレーティングは毎回人を変えるレイヴンもいたりして…。
ペスが急用や急病で出られなくなって代理がオペレーティングして、あまりの酷さに『ああペスはアレでもマシだったんだ』と見直すってオチも付けられそうだなぁ…。
ところで、もしよろしければ、設定に関する疑問や詰めなどメールで行いませんか。
こちらのメアドは、トップページ下のLINKから行けるサイト『CANIS MAJOR』様に投稿作品が置いてあり、そこにありますので。
あまりあちこちにメアドばらまくと怖いので、こんな形で申し訳ありません(^^;
BACK<