山本と別れ、アーカムビルから出た横島とタマモは、その足で美神除霊事務所まで来ていた。
ちなみに、気絶してタマモに引きずられていた横島は、ドアを出た所で復活していたりする。
「ここがあのナイスバディな美女の事務所か。」
「・・・・いきなり飛びかかるんじゃないわよ。」
二人はそうやって軽口を叩き合いながら入り口に向かって行き、ドアを開けようとした瞬間に、
「くそったれが! こんな給料で、あんなあぶねえ仕事やってられっかよ!!」
などと叫びながら、一人の男が出ていったのだった。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・へ?」」
それを見た二人は呆然としていたが、なんとか正気に返り、顔を見合わせて現状の認識を開始し始めた。
「えっと、 ・・多分今のはここの従業員だったんだよな。」
「あの発言からして、そうね。 で、ここの待遇があまりにも過酷だから逃げ出した、と。」
この瞬間、横島の顔には爽やかな笑顔が宿る。
そして、一言。
「さて、帰るか。」
「駄目に決まってるでしょが。 ドグシ 」
爽やかに言った横島を、タマモはまたもどこから出したのか分からない鉄バットにて一撃。
気絶した横島を引きずり、先程男が飛び出してきたドアを開け、中へと入っていった。
* * * * * *
その時、美神令子は困惑していた。
まあ、雇っていたバイトが逃げて行ったドアから、次の瞬間には少女が入ってきて。
しかも、その少女が鉄バット片手に一人の男を引きずってきて、自分たちを助手として雇ってくれないか、等と言い出すんだから、それはしょうがないだろう。
「・・・・・・え〜〜〜〜〜っと、つまりバイトの面接に来たのね?」
「うぃ、その通りであります、美人のお姉さん。」
美神の質問に、何時の間にか復活していた横島が答えた。
横島はその瞬間に、美神の手を握ってたりするが、美神の方は目の前の光景に少々気後れでもしていたのか、それに反応できていない。
それに反応したのは、横島の後にいるタマモ。
またかとため息を吐きつつ、鉄バットを一閃する
「 ドゴス ハンブラビッ!?」
「話が進まないでしょうが、馬鹿たれ。」
それを見た美神は、額から冷や汗を垂らしつつ、一言言った。
「・・・・・あんた達、漫才しに来たの?」
「ちがうわよ、面接に来たって言ったでしょ。 ほら、忠夫。 とっとと起きなさい。」
タマモはそう言いながら横島を足蹴にして、叩きおこした。
その際、蹴り起こされて立ちあがった横島の首が、蹴られ所が悪かったのか90度傾いてたりしていたが、タマモの鉄バットの一撃で元に戻ったというエピソードがあったりする。
そしてその後、もう一度ため息をついた後に気を取りなおした美神に応接間に案内され、そこで面接が開始された。
「さて、まずは名前。 後、この世界に入ろうという動機があったら言ってちょうだい。」
さすがと言うべきか、この時点で美神は先程の馬鹿騒ぎは一切頭から外し、一経営者の目つきで横島達を見ている。
横島とタマモもその美神を見て、一応真面目に面接を受けようという姿勢を取った。
まあ、横島の方は途中で暴走しかねないが。
「え〜〜〜っと、横島忠夫 16歳。 動機に関しては、となりのこいつの保護者としては必要だからって事です。」
その横島の言葉に、美神は訝しげな顔をした。
隣りの少女の保護に必要とはどういうことか、と。
その事を問いただそうとしたが、その前にタマモが手で制し、自分の自己紹介を始める。
「私は横島タマモ。 一応この馬鹿の、血の繋がらない禁断の関係になる予定の妹。」
ちなみにこの時点で、隣りの横島が騒ぎ出していたが、鉄バットを付きつけられて黙らされてたりする。
「私の保護の為に必要ってのは、こういう意味よ。」
そう言いながら、首にかけていたネックレスを外す。
その瞬間、美神は今まで感じていたタマモからの霊波の感じが変わったのを感じ、はっとした顔になった。
「気付いたようね。 そう、私は妖怪でね、このネックレスでちょっとそれを隠してるのよ。 でも、このネックレスだと制限時間やら色々あるから、忠夫は私の保護の為にGSになってくれるって言ってくれたのよ。 ・・・ああ、私は忠夫に妖術をかけるなんて事はしてないわよ。 私を身内にしてくれたのは、忠夫の意思だから。」
「へ〜〜〜〜、そうなの。 でも、あんた達の様子から見て、もう結構長い事一緒に居たみたいだけど、GSにちょっかいかけられなかったの? 結構、妖怪に対して問答無用って奴もいるけど。」
タマモが言った事に対しての、その美神の疑問には横島が答えた。
「ああ、知り合いに引退した元GSのばあさんがいたんで、その人に今までは協力してもらってたんですよ。 んで、その人にいつまでも人に頼るなって言われて鍛えられて、試験に合格できるくらいの実力は身につけたんでって事で、今回ここに面接に来たんですよ。」
横島のその答えに美神は一度は納得したが、その後すぐにあれっと言う顔をして、横島に再度疑問をぶつけた。
「だったら、その元GSの人に後見人になってもらって試験を受ければよかったんじゃないの?」
それを聞いた横島は、苦笑いを浮かべた。
どうやらその師匠の事を思い出しているらしいが、嫌な事まで思い出したのか、目尻に涙が浮かんでいる。
「嫌、俺も一度そう言った事があるんですけど。 面倒くさい、そこまで人に頼るな、って蹴りとばされたんすよ。 んで、そんな事言わずにってもう一度言ったら、しつこいって言われて問答無用に霊波砲をブチかまされました。」
「そ、そう。 そりゃ凄い人ね。」
横島のその様子に、その元GSの人柄の一端を見たのか、美神は冷や汗を一滴垂らし同じく乾いた笑いを見せる。
二人してしばらくそうしていたが、話が進まないと判断したタマモがそこで割り込んだ。
「っで、結局どうなの。 私達を雇ってくれるの、くれないの?」
そのタマモの言葉で美神は正気に返り、腕組みをして考え込み始めた。
タマモの方は妖狐であり、それなりの能力も持っているだろうが、この男の方はなんとなく力を持っているようには見えない。
そう考えた美神は、とりあえず横島の力を見てから決めようと結論づけた。
「ん〜〜〜、じゃあ、横島君。 なにが出来るか見せてくんない?」
「へ? ・・・あ、ああ、はい。 わかりました。」
未だに乾いた笑いを続けていた横島は、その美神の一言で正気に返り、そのまま手の平の中に光る六角形の盾のようなものを作り出した。
「これが俺の能力の基本で、“シールド”です。 こいつをいくつも出して組み合わせたり、形を変えたりして、攻撃や防御に使うのが、俺の得意技です。」
そう言って横島は、シールドを2,3個出したり、細長くしたりして見せる。
それを美神は、へーっと感心したような声を上げながら、その様子を観察した。
「ん、合格ね。 その盾の霊力の収束具合はたいしたものだわ。 元手なしで除霊できるってのも気に入ったわ。 んじゃ、契約しましょっか。」
それを聞いた横島は、うしっと言ってガッツポーズをしながら喜んだが、美神が持ってきた契約書を見た瞬間に顔をひくつかせた。
「あら、どうしたの、そんな顔して。 時給は2,000円も出してるし、高校生って事も考慮して色々優遇してあげたはずだけど。」
「いや、そこらへんは良いんすけど。 ここに小さく‘二人で’って書いてあるのは、なんですか。」
そう言って横島が指を指したのは時給に関する所で、本当に注意して見なければ気付かないほど小さく‘二人で’と言う文字が書いてあった。
「あ、あはははははははははは。 ジョークよ、ジョーク。 それに、それくらいの事を見抜けない様じゃあ、立派なGSになれないから、試験のようなものだったのよ。」
「ああ、そうだったんすか。 あはははははははははははは。」
「ははははははははははははははははは。」
「ははははははははははははははははは。」
この時点より、横島と美神による第1次交渉合戦の幕が上がる事となった。
後に、この様子を見ていたタマモがこう語る。
「傍で聞いてるだけで神経が磨り減るわよ。 っつーか、一銭とかの単位まで交渉するなっての。」
ちなみに、二人合わせて時給3,851円68銭になったらしい。
* * * * * *
その後、横島とタマモの帰宅中の一こま
「忠夫、なんで“フリーダム”の方は言わなかったの。」
「いやな、俺の中のゴーストが騒いだんだよ。 それは黙っとけって。」
「・・・ちなみに元ネタなに?」
「・・・確か、甲殻機動隊。 でもまあ、当たりだっただろ。 あれは主に接近戦用だからな。 しられたら、あの人の場合、特攻かけろとか言われかねん。」
「知らなくても特攻かけろとか言いそうに見えたんだけど。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・実は俺も。」
「・・・・・ ぽんっ (無言で肩を叩いた音)」
「ちくしょーーーーーーーーー、なんで俺の周りには無茶ばっか言いそうな人間ばっかが集まるんやーーーーーーーーーーーー!!」
「運命よ。」
「一言で言うなーーーーーーーーーーーーーー!! ちくしょーーーーー、ちくしょーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
余談では有るが、横島のこの悲しい叫びに、隣り町の野良猫のタメ五郎も涙したそうな。
「ちくしょーーーーーーーー!!」
後書き
うぃ、ほんだら参世です。
今回はプロローグの続きって感じで、事務所での面接の話にしました。
大部分の人達は分かってるでしょうが、ばあさんとは幽白のあの人のことです。
優が朧と戦って一皮剥けた様に、横島に対しても一皮向けさせる敵が欲しいと思って、幽白からある敵を引っ張ってきたんですけど、それだったらこの人もってことで横島の師匠になってもらいました。
次回は数ヶ月後に進んで、タマモの視点での話になって、次々回から色んな依頼やらなんやらの話に入る予定です。
基本的に、スプリガンの方の話主体になりますが、妙神山やGS試験などの山場は出す予定です。
ではこれにて、また次回と言う事で。
さいならでさーー。
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