夜。
天上を覆う漆黒の下に、人の住まう街がある。
その街の中央、線路の束の集う場所に地上八階建ての駅ビルがあった。
向かいのビルの時計は午後十時。まだ終電には遠い時間だ。
だが、駅に人影はない。
駅だけではなく、駅周辺の全てに動きがなかった。
静かな夜の異様な静寂。
そこで、戦いが行われている。
○
駅ビルの向かいのビルの屋上に、男が一人、空を見上げていた。
闇に包まれた都会の空に、大きな光が灯っている。
月だ。
「いい月夜だな……」
呟き、月を見上げる彼は、ポケットから手を出して額に巻いたバンダナを締めなおす。
『横島さーん!』
と、通信機からノイズ交じりの声が響いた。
彼は自身の首元、通信用のフォンマイクを見て、
「ヒャクメか、どうだ?」
『下級神魔・七、中級神魔・二を確認ー。あと、雑魚妖魔の類が数十なのねー』
「了ー解。――んで、佐山の方はどうだ?」
問いかけ、彼は右手を軽く振った。その動きで、男の右手が淡く光る篭手に包まれる。
『向こーは人型・十五、重武神・三……今までの中ではいい感じに久し振りの大規模なのね』
「だな。――そういや、小竜姫様とマリアが空中戦やってたが?」
『下級神魔相手だから問題ないのね。――攻撃過多でビルが二棟倒壊したけど』
「小竜姫様、熱くなると周りが見えなくなるからなあ……。少しはワルキューレや神無を見習って欲しいと思う事もある」
『直接言ってあげると良いのねー』
「はっはっは。言っとくがな、ヒャクメ。――俺はまだ死にたくない」
苦笑を浮かべつつ言った瞬間、上空から光が落ちてきた。
霊波砲だ。
霊力による力の光条は、神魔族の一般的な攻撃手段。
見上げる。光条の数は四本。敵の数も四だ。
いきなりの攻撃に、男は慌てずに右手を振った。光が手先に集まり、刀身を形成する。
同時、男の声で通信が入る。
『――諸君!』
聞こえた言葉の主を思い、彼は口元に笑みを浮かべて上空四体の下級神魔に言葉を投げる。
「悪役の御言葉だ。――しっかり聞いとけよ!」
四条の霊光落墜に男は右手の霊波刀を振りぬく。
その一振りで、四条の霊波砲が弾かれ、淡い光を夜闇に散らせた。
蛍が飛び交うような光の乱舞に、一瞬だけ目を囚われる。
が、今は戦闘中だ。男は首を一振りして思考をクリアにする。
『今こそ言おう。……佐山の姓は悪役を任ずると!』
「……静かな夜よ、清し夜よ――」
聖歌の一節を口にしつつ、男は右手の霊波刀を床に突き刺した。
そして跳躍。
霊力に定型はなく、伸縮は意思次第だ。
ぐん、と伸びた霊波刀で上空に飛び上がった彼は、左手にも霊波刀を生んだ。
『私はここに命令する! いいか? 彼らに失わさせるな。そして彼らを失うな。何故ならば、誰かが失われれば、その分、世界は寂しくなるのだから』
その通りだ、と一つ頷き、彼は右手の霊波刀を基点にして身体を一回転させた。
独楽の様に回ったその動きで、勢い良く振られた左手の霊波刀が四体の下級神魔を打ち落とす。
『解るな!? ならばアヘッド、アヘッド、ゴー・アヘッド、だ! 馬鹿が馬鹿をする前に強く殴って言い聞かせろ! そしてこちらに連れて来い! ――それが解ったら言うがいい!』
解る。
だから言う。いや、叫ぶ。
テスタメント
「契約す!!」
呼応して、通信機から、周囲の空間からも叫びが連なる。
Tes.Tes.Tes.と。
霊波刀を元に戻して着地した横島は、墜落し、しかし抵抗の気配を失わない下級神魔達と相対する。
周囲に気を配れば、雑魚妖魔が集まってくるのが解った。
しかし横島の表情は笑み。両手の霊波刀を構え、泰然自若とした態度で口を開く。
「来いよ馬鹿ども。――この世界に集った答えに背くなら、テメエらの答えを言ってみろ!!」
○
……話は二年前――アシュタロス大戦より五年後の二○○五年・春にまで戻る。
○
こちらに投稿するのは初めてになります。伏兵です。
さて、今作はGSと終わりのクロニクルのクロスオーバーです。
アシュタロス大戦後の横島が、ふとしたことで概念戦争を知り、全竜交渉部隊と関わっていくストーリーです。
ちなみに、今話で名前が出た方々の選出基準は特にありません。マイナーキャラを出したいな、とか思ってますが。
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