もちろんその該当シーンを知らなくても楽しめるようにしたつもりですが、知っているとなお楽しめたら良いなと思います。
横島がルシオラとの結婚を仲間に打ち明けると、彼らはすぐさま結婚式の準備に取り掛かった。
婚約していたこともあり、今までも半同棲状態であったため実情にやっと形式が伴うという所だろう。
とはいっても結婚まで一ヶ月というのは唐巣神父の教会で式を挙げその後の結婚披露宴しか行わない予定だとしても、準備だけでもそれなりに忙しい。
今日も今日とて横島とルシオラは仕事のあいまに百合子と共に結婚に向けての準備に忙しく行動している。
そんなある日、横島とルシオラが結婚の準備に忙しいのを尻目にカオス、雪之丞、そしてなぜかケイはカオスの部屋で酒を酌み交わそうとしていた。
GS美神if外伝8 お幸せに・・・。
〜ある想いの終わり〜
「それにしても・・・」
「なんじゃ、雪之丞」
「いい酒ってのは分かるんだが、こうなんかな」
「何が言いたいんじゃおぬしは」
「ちゃぶ台の前に胡坐かいて飲む酒じゃないだろこれは」
それなりに高い、ウイスキー、ブランデー、ワインが所狭しとちゃぶ台の上に乗っている。
確かにこのような酒はテーブルとイスの方があっているかもしれないが。
「それじゃ安楽イスに座って猫を出しながらブランデーを飲み葉巻でも吸うか」
「「・・・それって」」
このときケイと雪之丞の脳裏には悪役然としたカオスの姿が浮かんだ。
「では何に乾杯します?」
「そうじゃな。とりあえずめでたい横島とルシオラの二人の結婚、でどうじゃ?」
「まあそれで良いか」
そして三人はグラスをあわせた。
「それにしてもお二人共強いですね」
二人に付き合ってはすぐに酔い夢の世界にいってしまいそうなのでサイダー等でかなり割って飲んでいるケイ。
本来ならまだアルコールの取れる年齢ではないのだがそこは妖怪。
こういう時だけ人間の法なんか関係ないと割り切って二人に付き合っている。
「もう千年も飲んでいるからな」
「かおりの親父さんが強くてな。付き合っている内に鍛えられたんだ」
そんなこんなで飲み会は続き、皆が良い感じで酔いが回り始めた。
新たに注いだ酒を一口飲んだが強すぎた為、薄めながらケイは気になったことを聞いてみた。
「さっきとりあえずめでたいと仰いましたが、なんでです」
「そりゃ愛し合う二人が結婚するのじゃ。まことにめでたい。
何しろワシが千年生きていた中でも結婚式を一人で行ったモノとは出会ったことが無いしの」
「どうしてとりあえず、なんて保留をつけるんです?」
理由が分からない、とケイ。
「結婚適齢期に来ているものにとってこの結婚はそれなりに自らの結婚について考えさせられるじゃろうな。
彼氏彼女持ちにとってもそれは同様じゃろう」
と雪之丞を見る。
「確かに。ルシオラのウェディングドレス選びに付き合ったかおりも帰ってきても興奮さめやまぬ、って感じだったな」
それだけでなく自分達もそろそろ、とかおりは言外に匂わせたつもりだったのだがこの手の事に鈍い雪之丞はこれっぽっちも気づかなかった。
「横島は意外と言うかなんと言うか、ともかく人気があるからの。
皆が皆それぞれ自分の気持ちに決着はつけているとはいえ婚約から結婚となればそれなりに思うところがあるじゃろうて」
「そんなもんですかね」
雪之丞以上にこの手のことに疎いケイはぴんと来ないようだ。
「そうじゃな、例えばケイ。お主は二人が結婚すると聞いてどう思った」
「えっ?」
「ただ素直におめでたいとだけ思ったか? ほかに何も感じなかったのか?」
問われてみてケイは初めて考えてみた。
横島は自分と母親の住む場所を守ってくれた。
結局は美神がそうしてくれたのだが、そのきっかけを作ってくれたのは紛れも無く横島だった。
だからあこがれた。
その彼に再会できた時、その横にいたのが横島の婚約者ルシオラだった。
彼女は自分にも優しくしてくれた、横島を兄とするなら姉のような女性だった。
そんな二人がついに結婚する。
祝福する以外に何か感じることなどあるのだろうか?
自問自答してみる。
ふとケイは自分の胸にちくりと、本当に小さいが痛みがはしるの感じた。
それは失恋の痛みとまでもいかない、例えるならば仲の良い姉がお嫁に行ってしまう寂しさを隠せない弟の気持ちに近いものがあるかもしれない。
簡単に言えばルシオラにあこがれていたのだろう。
「そうですね。ちょっとだけ寂しいかもしれませんね」
自らの想いに気づいた瞬間、その想いは行き場を失った。
自嘲気味にケイはカオスに答えながら思う。
自分って鈍かったんだな、と。
そしてウイスキーをコップに注ぐと軽くかかげ、ストレートのままそれをあおった。
今までも薄めいていたとはいえそれなりに酔っていた為、ケイはそのまま酔いつぶれた。
カオスは何も言わずケイを寝かせ、毛布をかぶせた。
酔いつぶれたケイの介抱が済んだ後、雪之丞はカオスと差し向かいで酒を飲み続けた。
「それにしてもカオスの爺さん、よくケイがルシオラにあこがれているなんて気づいたな」
「伊達に千年は生きておらんさ」
「そんなもんか?」
「そんなもんじゃよ」
こうして夜はふけていった。
ただ彼らが飲んでいるとき、寝言か
「お幸せに・・・」
とケイが呟いたのが二人に聞こえた。
一人の少年の初恋は、自覚したときに終わりを告げた。
だがそれは少年を少しだけ成長させ、大好きな二人の結婚を心から祝うことを可能にした。
あとがき
いかがだったでしょうか?
参考にしたシーンは銀河英雄伝説六巻のユリアンとキャゼルヌの会話です。
シロといいケイといい失恋させてしまいました。
そのうち彼らにも良い相手が見つかると良いな〜。
WEEDさん、御指摘ありがとうございました。
さっそく修正しました。
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