しかし一歩入り組んだ路地裏に入ると、大通りで人々が賑わっているのが嘘に思える。
そんな薄暗い路地裏に一組の男女が見詰め合っていた。
「あなたにまた会えるなんて夢みたい!!」
一人の女性が言うと、男はびくっと体を震わせた。
ゴミ箱の残飯をあさっていた猫はそれを見て、走って逃げ出す。
「どうしたの? まさか私を忘れたの?」
女は不思議そうに首を傾げ、男に近寄る。
大切な人に会えたみたいに、その顔は喜びに満ち溢れている。
「……………」
だが男の方は口を真一文字にして、押し黙っている。
それは感動で打ち震えている様にも、辛い事に耐えている様にも見える。
とうとう女は男に接近し、両手で抱きしめた。
「もう離さない」
女は歓喜に満ちた声で言う。
男の心は急速に沸き立つ。
「永遠にね……」
さらに女は耳元で囁いた。
男にはそれは、麻薬みたいに甘美だ。
「ヨコシマ」
男―横島はそれを聞いた瞬間に―
その日、シロとタマモはご機嫌だった。
ある事さえ、気にしなかったらだが。
キーンコーンカーンコーン……
「よし、今日はこれまでにしましょう」
担任で六限目の保健体育の藪月先生である。
日直は号令をかけ、今日の授業は終了した。
「藪月先生! また明日でござる」
「またね」
シロとタマモは教室から出る所で、藪月に別れの挨拶をした。
藪月はにこやかな笑顔で返す。
外見は二〇代後半で、黒髪を後ろで縛っている。
美形という程顔立ちは整ってはいないが、笑顔が魅力的な青年だ。
女生徒の間にも人気がある。
「犬塚くんと狐野くん、今日はご機嫌だね」
実を言うと藪月は純粋な人ではなく、人狼である。
と言ってもシロみたいに純血な人狼ではない。
遠い先祖に人狼が居た様で突発的な先祖帰りで人狼になってしまった。
年も一〇〇歳を有に過ぎている。
藪月は偶然にもシロの担任となり、人狼の里の事を知った。
その時、藪月はこう述べた「私の人生って一体……」と。
彼は長い間、自分と同じ人狼を探していた。
それは孤独からきたもので、藪月は普通の人間と馴染めなかったのだ。(それ事態はだいぶ前にとある男により解消されたが。)
探していた人狼、それも純血を保ったままの一族が日本に居たと知った時は喜びもしたが、落胆もした。
まあ、それは仕方ない事だ。人狼の里は強固な結界に守られ、滅多に表には出てこなかった。
そして狐野(こんの)とはタマモの苗字である。
苗字がないと不便という事で横島が考えたものだ。
タマモはどうもしっくりときていないが、ある意味横島からの贈り物という事で納得はしている。
「それはもちろん、これのお陰でござる」
シロは制服の胸元からネックレスを出し、藪月に見せる。
それには翠色の球が二つ付いていた。大きさはビー玉ぐらいか。
シロはそこで誇らしげに『先生から貰った』と説明をする。
前のが壊れた理由―『普通の人々』から襲撃を受けたせいとは言わない。
無論、一般には口外してはならないと言われたからだ。
「大切な人からのプレゼントですか、それは嬉しくてしょうがないですね」
「はい!」
シロは元気よく返事をするが、タマモはきょろきょろと周りを伺う様に見ている。
それを不審に思い、藪月はタマモに聞いた。
「どうかしたんですか?」
「……いえ、何でもないです。シロ、行きましょう」
「え!? タマモッ!?」
タマモはシロの腕を掴むと、半ば無理矢理外へ連れ出した。
それを藪月はどこか冷静な眼差しで見つめていたが、シロとタマモは気付かなかった。
「タマモ、どうしたのでござるか?」
近くの川がある所まで、連れてかれシロはタマモに聞いた。
「しーっ!」
タマモは唇に人差し指を当て、静かに!とジェスチャーを送る。
シロは頷き、ネックレスが淡い輝きを放つ、文珠を発動させたのだ。
見てみるとタマモの髪止めも淡い輝きを放っていた。
シロの文珠の輝きは銀で『念』、タマモは金の輝きで『話』とそれぞれ浮かんでいる。
彼女らの文珠はそれぞれ専用化されており、二人が協力すると最大四文字まで文字を書き込める。
それに使っても消えないし、霊力がなくなれば自動的に効果が消える様になっている。
霊力の補充も自動的に行いシロタマの霊気から、少しづつ貰う様になっている。
横島、会心の文珠だが、欠点はもちろんある。
一、二文字は霊力の消費が少ないが、三文字以上は消費が激しく使った後は立っていられない程だ。
「ねえ、シロ。今日の晩御飯どうしようか?」
(あんたも気付いているんでしょ? 朝から見られているって)
「拙者は肉がいいでござるな」
(無論、だからすっとぼけているでござるよ)
「あんたはそればかりねえ」
(おびき寄せるってわけね)
「タマモが油揚げが大好物な様に、拙者は肉が大好物なだけでござる」
(明らかにこちらに敵意を向けているから、隙を見せればくいついて来る筈でござる)
一見、単なる今夜の食事をどうするかと相談しているように見えるが、『念話』でお互いの意見を伝え合っていた。
「それじゃあ、油揚げの肉詰めにしようかな」
(気配からすると、私達と同じ妖怪ね。数は四かな?)
「拙者もそれでいいでござるよ」
(しかし拙者達は妖怪に、恨みを買う様な事はあったでござろうか?)
「それをメインとして、後は何をつけようかしら?」
(ない……と思うけど、逆恨みだったら考えてもしょうがないわ)
「味噌汁は必要でござろう。それに豆腐も欲しいでござる」
(むう、確かに。今、相手にするでござるか?)
「そうね。あとサラダもつけるわ」
(それもいいけど、タダオに相談した方がよくない? 黙ってケンカすると困らせるかもしれないし)
「えー、拙者、野菜が苦手でござるよ」
(そうでござったな。失念していたでござる)
この二人は横島を一番大事に思い、愛しているので迷惑をかけたくない。
横島の幸せがシロとタマモの幸せなのだ。
「そんなこと言っていると、便秘になるわ。そんな事になったらタダオが心配するわよ」
(!! 今、気配が動揺したわね。気付いた)
「うっ、確かに……。我慢して食べるでござるよ」
(しかも殺気が混じっていたでござる。これは早急に手を打ったほうが……)
二人は確かめる為に、会話の端々に「タダオ」「先生」といった横島自身を表す名詞を言った。
すると気配は動揺を伝える。
シロとタマモは頷き合い、相応しい場所に移動する。
どうしてこんな事をするかというと、もしかしたら横島の敵かもしれないからだ。
……だが、ここで二人は横島を大切に想い、なおかつ相手が妖怪だからと一つ失念する。
それは自分達の命が狙われているかもしれない事に。
「さて、出て来てもいいわよ!」
タマモは声を張り上げ、相手を呼んだ。
二人は川原で隙を見せずに立っている。
ここは広く見渡せ、人通りが少ないので戦いにはおあつらえ向きだ。
空間が歪んだかと思うと、四つの人影が出てきた。
「幻術でござるか……」
シロが言った通り、今のは幻術の一種で本当に空間を歪めて身を隠したわけではない。
それは幻術による迷彩と言うべきだろうか。
簡単に説明すると、目に映った物をないと思わせる術だ。
一見、高度な幻術に思えるが欠点も多い。
所詮目だけしか誤魔化せないので、シロやタマモみたいに嗅覚に優れているか、霊波に敏感な者には簡単に見破られる。
が、霊能者が数多く集う六道女学院で、誰にも気付かれなかったという事は幻術に長けていると証明している。
「お初にお目にかかります。クウカと申しまして妖孤です」
ぺこりとお辞儀をしたのは巫女服姿の少女。
白髪に近い、長い金髪を金色の玉で一纏めにしてある。
瞳も白に近い金色をしている。
「あたしの名はようこで、犬だ」
ぶっきらぼうに言い放ったのは、キャロットにノースリーブのシャツの上に半袖ジャケットを羽織った少女。
黒真珠の様な瞳、それに髪は肩のところで切り揃えてある。
姿が姿だけに体型がよく分かる。出てるところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。
中々のスタイルをしている。
「……私はライ。雷獣をしてます」
ぽつりと呟いた様に言ったのは、黄色のワンピース姿の少女。
瞳と髪は灰色で、やたらと長い髪を数えるのも面倒な程に三つ編みの束にしてある。
肌は病的なぐらい白いが、不健康そうには見えなかった。
「どうもー、私はフウでーす。鎌鼬ですよー」
とやけに元気がいいのは、短パンジーンズに真っ赤な半そでシャツの少女。
腰まである長い髪の色は茶、瞳は黒である。
肌も褐色に焼け、快活な性格のようだ。
四人とも、女子高生ぐらいに見える。
「で、何の様よ?」
タマモは不躾に聞いた。
ストーカーみたいに後を尾けてきたのだ。
これぐらいの態度はいいだろう。
「あなた方は横島さんの恋人ですね?」
聞き返したのはクウカ、その瞳には危険な輝きを放っている。
「そうでござるが、お主達は?」
シロは頷く、警戒は怠らない。
いつ戦いになってもいい様に、腰を落とし霊力を練る。
「私達は……」
クウカはここで一拍置く。
「「「「横島忠夫親衛隊!!!!」」」」
一斉に言い切った。
それぞれの表情は何かをやり遂げた様に、清々しかった。
「「はあ?」」
と首を傾げたのはシロとタマモ。
「私達はー、横島ちゃんに助けられたのー」
「そうだ。だから惚れた」
「……という訳であなた達とは、敵同士……」
フウ、ようこ、ライが次々に言う。
シロとタマモに敵意を向けているのがよく分かる。
「ちょっと待つでござる!! 結局、お主達は何がしたいのでござるか?」
シロは何となく察しが付くが、一応聞いてみた。
「率直に言うと、果し合いの申し込みです」
「それで今朝から尾けていたってわけね」」
タマモが聞くとクウカは肯定する。
「ええ」
クウカは頷くと、懐から封書を取り出しシロに投げ放った。
手裏剣の様に鋭い回転するそれをシロは受け取る。
「詳しい事はそれに書いてあります。それでは……」
クウカ達は言いたい事だけを言うと、その場から走って去って行った。
それぞれが獣人なだけに、あっという間に視界から消え去る。
「何だっていうのよ。一体……」
タマモが呟くがシロは「さあ?」としか言えなかった。
「はあ、いい迷惑ね」
「同意でござる」
あの後、シロとタマモは夕飯の買い物を済ませた。
荷物はシロが持ち、果たし状はタマモが読み上げたのだ。
内容は横島を賭けて戦う、となっている。
時間は明日の正午、場所はあの川原の近くだった。
「しかし、タダオを賭けて決闘って馬鹿にも程があるわ」
「そうでござる。先生は物ではござらん!」
「でも、相手をしないとストーカーされそう」
タマモがうんざりといった感じで言う。
「やはり明日、決闘は受けるでござるよ。武士は挑まれた勝負に背中を向けないものでござる」
「武士の事はよく分からないけど、決闘は受けるわ。馬鹿にはお灸を据えないとね」
二人はフフフ、と笑い合う。
その姿は少し不気味だった。
すっかり日が暮れた頃に二人はようやくマンションに帰って来た。
色々あったせいで、遅れてしまった。
「ただいまー」
「只今、帰ったでござる」
タマモがマンションのドアを開け、シロが続いて入る。
「あれ? おかしいでござるな」
「そうね。真っ暗だわ」
廊下は暗闇に包まれていた。
奥の方の部屋も、どうやら明かりをつけていないようだ。
鍵が開いているという事は、横島が帰っている筈なのに。
シロとタマモは暗闇の中を平気で歩いていく。
元々、夜行性な為に目が効くのだ。
寝室で横島の気配を感じたので、ノックもしないで部屋に入る。
シロは荷物を置き、タマモが明かりのスイッチをつける。
「先生?」
「んあ? お帰り……」
横島は上体を起こす。
シロとタマモは怪訝な表情で横島を見る。
どことなくやつれている様に感じた。
横島は立ち上がり、二人に近づくと唐突に抱きしめた。
「抱いていいか?」
これまた唐突な事を告げた。
シロとタマモはアイコンタクトで横島に何かあったと、確認し合い頷いた。
横島はシロを壁に押し付け、後ろから貫いていた。
シロの豊満な乳房は壁に押し付けられている為に楕円形に歪んでいる。
横島はシロを逃さない様に腰を両手で掴み、出し入れを繰り返す。
「シロ! シロ! いいか!?」
「んん、いいでござる! 先生のが奥まで!!」
肉棒を抜けるギリギリまで腰を引き、そこから奥まで一気に貫く。
貫かれた瞬間、シロはびくっと体を仰け反らせ嬌声を上げる。
快楽の為か、シロの尻尾は逆立っていた。
蜜壷は肉棒をしっかりと咥え込み、横島に快感を与える。
蜜壷の方も肉棒によって、敏感な所を抉られシロも快感に打ち震えていた。
徐々に蜜壷が収縮を始める。限界がそこまで来ているのだ。
横島の方も腰の辺りから、欲望が走り出すのを感じた。
「出る! 出すぞ!」
「うん! うん! 来てぇ!!」
その言葉を聞いた瞬間、欲望は暴走し白濁液をシロの最奥に放った。
シロは一際甲高い声を上げ、その白い液を受け取った。
ずるりと肉棒を引き抜くと、シロは崩れ落ちた。
シロの蜜壷からは、白濁の汁が零れ落ちる。
その量は尋常ではなかった。何故ならもう何回も膣内に放っているからだ。
横島は気絶したシロを抱え、ベッドに寝かせる。
隣にはタマモが物欲しそうに横島を見ていた。
「お待たせ、タマモ」
「早く、早くちょうだい! もう堪らないの!!」
手を広げおねだりをするタマモを、横島は可愛いと思った。
堪らず横島はタマモに覆いかぶさる。
「ああ。任せろ」
タマモの割れ目に肉棒を当て、刺し貫く。
タマモにも既に何回も解き放っているので、すんなりと奥まで挿っていった。
「ああっ!? いい! タダオのいい!!」
挿れらただけで、タマモは半狂乱になって叫んだ。
さっきからシロとタマモを交互に抱いている。
シロが気絶したらタマモへ、タマモが気絶したらシロへというふうに。
絶倫で済まされない程の精力だ。
横島は亀頭を奥底まで突っ込み、子宮口の感触を味わう。
ガツガツと当てたり、グリグリと回転を加えたりした。
「んん……あ、あ……んんー!!」
その度にタマモは淫らな声を上げ、更なる快感を求め腰を振るう。
横島は乳房を弄りだす。
基本である円を描く様に揉んでいき、親指と人差し指で乳首も摘んでいく。
「ああ……んん……あはっ」
タマモは鼻息を荒くし、眉を顰める。
横島は頃合を見て、話を切り出した。
「タマモ、狐になってくれないか?」
「狐? んん、あ、いいわ……よ。タ、タダオも好きね」
そこで一旦腰を止め、繋がったままタマモを半回転させ後背位にする。
ポンッと音と共にタマモは元の狐の姿なった。
出合った頃は子狐だったが、今ではすっかり大人の狐に近い姿となっている。
横島が腰の動きを再開すると、タマモは獣の声で喘ぎ始めた。
人の姿とは違う膣内の感触を楽しむ横島、その口は愉悦に歪んでいる。
これはシロとの初体験の時に偶然精霊石のイヤリングが外れ、繋がっている最中に狼の姿になってしまったのだ。
だが人とは違う快楽を横島に与え、偶にシロとタマモに頼んで今でもしている。
シロとタマモは例え、姿が獣でも変わらず愛してくれる横島に感謝さえしてた。
実際、横島は愛する女性が人間の姿をしてなくても気にならなかった。
それはシロとタマモを深く愛しているからだろう。
ふさふさとした九つの尻尾が横島に絡み付いてくる。
腋の下、乳首、臍と横島の性感帯に刺激を与え、快感が急激に高まってきた。
「イクぞ! イクぞ! うおおっ!?」
十数回目となる射精でも全く量と勢いは衰えず、タマモの膣奥に白い子種をばらまいた。
タマモは声を上げる事も出来ず、びくびくと体を痙攣させた。
「くぅ〜ん」
一息吐いたところで、横島は背中に重みを感じた。
しかも毛深い感触がした。
振り向くとシロは狼の姿になっていたのだ。
「分かってるって」
横島はシロの頭を優しく撫でる。
シロは嬉しそうに目を細めた。
「乱暴にしてすまん」
横島は裸のまま、土下座をした。
日付は既に変わっており、日は高く昇っている。
あのままぶっ続けでやり通したみたいだ。
「何で先生が謝っているでござるか?」
「さあ?」
シロは分からないとタマモに聞くが、タマモも分からないと首を傾げた。
二人は人の姿になっている。
顔や乳房、それ以外も横島の精液を浴び白く染まっていた。
膣口からはだぐだぐと精液が流れている。
シロは面白がって、下腹部を押すとマヨネーズみたいに白い液が流れ出た。
ベッドの方も精液や愛液、またはシロとタマモが快感のあまり放出した小便でグチャグチャになっていた。
すえた匂いも染み付き、これはもう全部取り替えるしかないだろう。
「あ、そうか。こんだけ出したから妊娠するかもしれなからじゃない」
「なるほど。でも先生との子ならいつでもおーけーでござるよ」
二人はそう言っているが、文珠で『避』『妊』をしているので万が一にも妊娠はしない。
子供を作るのは最低限でも、二人が高校を卒業してからと決めているのだ。
「あ、あのなあ〜」
横島は呆れた様に言う。
「辛い事があったんでしょ?」
タマモが言うと横島はびくっと体を震わせた。
どう見ても図星の様だ。
「よかったら拙者達にも話して欲しいでござる」
「ああ、昨日な……」
横島は苦虫を噛み潰した様な顔で語り出した。
横島は昨日、とある魔族を追っていた。
名前までは分からないが、ここ数日で起きている連続殺人の犯人としてオカルトGメンの捜査を手伝ったのだ。
魔力が現場に残っていたのだが証拠となっているが、その事件に不可解な事が二つあった。
一つ目は死体のどれもが満足な顔をしていた。
二つ目は死体から魂が綺麗さっぱり消えていた。
普通、殺されたら無念で悪霊になりやすいが、地縛霊さえ残っていなかった。
二つ目の方はある程度推測できた。
それは魔族が魂を食ったという事、それはあまりにもおぞましい。
魂が食われたら転生も出来ず、食った魔族の一部となり苦痛を受け続けなくてはならない。
一つ目の方は、横島自身が経験する事で納得できた。
「うあああああああっ!?」
ルシオラは腹部を押さえ、のた打ち回っていた。
何故なら横島が霊波刀で腹を貫いたからだ。
「いい加減にしろっ!!」
無造作にルシオラの顔を蹴飛ばす。
ルシオラは悲鳴を上げる。男の声で―。
「な、何故分かった!?」
変化を解き魔族の姿になる。
墨の様に真っ黒な体で、肌の色を除けばどこにでも居そうな顔立ちの男。
「演技が下手すぎ」
「そ、そんな!? お前の心を読んで完璧に化けたんだぞ!!」
魔族は有り得ないと驚き、顔を驚愕に染めた。
これが魔族の能力で、一つ目の謎の回答。
大事な人に出会ってしまったせいだ。
もう出会える事のない人、遠い昔の想い出―それを魔族が心を読み具現化させる。
そうすると二度と出会えないと思っていた人に出会え、被害者は微笑んだのだ。
殺されるとも知らずに―。
「だからだよ。あまりにも自分の理想過ぎなんだよ」
想い出は美化する。それがどんなに大事な想い出でもだ。
元来、横島は本質を見抜く目はある。
不良娘に取り憑かされたおキヌ、それにベスパが変身したルシオラというふうにすぐに横島は本質を看破した。
霊波刀を突きつけると、魔族は土下座をした。
「ゆ、許して下さい! ほんの出来心なんです。もうしませんから……」
横島は霊波刀をしまい、後ろを振り向き歩き始めた。
魔族はチャンスと思い、襲いかかろうとしたが―
「なっ!?」
爆っ!!
一歩踏み出した瞬間に、両足が吹き飛ばされ無様にも地面に転がった。
「な、なななななな!?」
文珠で『地』『雷』をセットしていたのだ。
「信じるわけないだろ。アホが……」
そう言って霊波刀で魔族を凪ぐ。
だが魔族は最後の力を振り絞り、
「また、私を殺したのね」
ルシオラの姿と声でそう言い残した。
魔族が消えた瞬間、食われた魂が開放され天へと昇っていった。
それは、儚げな蛍の光に似ていて。
横島はそれを見届け、西条に連絡しこの場を後にした。
それから自宅のマンションに帰り、ベッドで寝転んだ。
表面上は冷静だが、内面はドロドロとしていた。
俺は二度もルシオラを殺した……。
泣きそうになるも、瞼に手を当て必死に堪える。
何も気付かずに東京タワーにルシオラを残してしまった。
転生させようにも半人半魔となり、その可能井は下がってしまった。
鬱になり掛けたところでシロとタマモが帰って来た。
それを見た横島は無性にこの二人を犯したくなった。
無茶苦茶にして、屈服させたくなった。
そして―
「―そんな訳で無理矢理してしまったんだ。本当にすまん」
再度、土下座をする横島。
シロとタマモはお互い顔を見合わせ、やれやれといったふうで横島に寄りかかる。
「先生、腹いせに拙者達を抱いたと思ってはござらんか?」
こくりと頷く横島。
「そんな事ない。とても気持ちよかったわよ。タダオが優しくしてくれたからね」
「そうでござる。辛かったら拙者達に言ってくだされ」
「辛さ、悲しみは私達で三等分すれば軽くなるわ」
「それに楽しい事は拙者達で三倍になるでござるよ」
「……ありがとな」
横島は泣き出した。
鼻水や涎を流し、みっともなく。
だけどシロとタマモにはそうは見えなかった。
横島が泣き止むまで、三人は抱きしめ合っていた。
「ところでオカルトGメンから、その件でお金は出たの?」
唐突にタマモが切り出す。
「ん? ああ、いつもの西条からのポケットマネーだけど?」
「これから食べに行きましょ。私、お腹すいちゃったし……」
タマモはお腹に手を当て、言った。
そういえば昨日は夕飯も食べずにやり出したし、今日の朝も昼も抜きだ。
「そういえばてれびで銀座に、美味しいすてーき屋があると言っていたでござる」
シロは手を挙げ、意見を述べた。
「それいいわね。確かそこには一級品の稲荷寿司を出すお店もあったわ」
「善は急げでござる。お風呂に入ってから、行くでござるよ」
「後はベッドの新しいのを買わないと。これはもう洗ってもダメよね」
タマモはグチャグチャのベッドを見ながら言った。
「さ、先生、一緒にお風呂に入るでござる」
「早く、早く! でも襲っちゃダメよ。これから出かけるんだから」
「ああ、そう引っ張らなくてもいいだろ」
シロとタマモの勢いに押され、横島は返事をした。
何となく無理に明るく装っている気がしないでもないが、横島は嬉しかった。
この二人は絶対に守り通そうと新たに誓った。
もちろん自分の命も大切にしながら―。
「ねえ、シロ。私達、何か忘れてない?」
「へ? う〜ん、思い出せないなら大した用事ではないでござるよ」
シロはあっけらかんに答え、タマモは「そうね」と頷いた。
ちょうどその頃。
「遅いわ」
クウカがそう呟くと、一陣の風が舞う。
四人は待ちぼうけをくらっていた。
「……扱いが悪すぎる」
ライの一言は風に掻き消された。
あとがき
今回は前編で、シロ&タマモVS獣っ娘軍団との決着は次回でします。
何ていうかシロタマとのHシーンで狼、狐の姿でやるのはあまり(全く?)見かけないので今回やってみました。
しかしこれってやっても大丈夫ですかね?
取り合えずインモラルをつけましたけど。
獣っ娘を好きになるなら獣バージョンでしないといけないよな、と思ったのでしましたが……人として間違っているような気もしないです。
ではまた。
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