第一話 【闇夜の狐】
木の葉隠れの里を、二つの影が疾風のごとき早さで駆けていた。一人は白い狐の面を着け、もう一人は黒い狐の面を着けている。
200メートルほど後方からは、同じような獣の面を着けた者たちが、額に汗を浮かべて必死についてきている。
「・・・・・くそっ、これだから新人は嫌なんだってばよ」
愚痴をこぼしている白い狐の名は、“うずまきナルト”
「仕方がないでしょ、報酬につられて引き受けた“空月”が悪い」
優しく諫めるのは、黒い狐“日向ヒナタ”。またの名を、“明月”
忍者アカデミーに通う二人はその名の通り忍者候補生だが、かなりの落ちこぼれである。ナルトは勢いばかりで基本忍術さえこなせない“万年ドベ”だし、ヒナタは内気で何事にも自信のない“日向の甘ちゃん”だ・・・・表向きの姿は。
そんな落ちこぼれ二人組の正体は、僅か3歳で暗殺戦術特殊部隊、通称“暗殺戦術特殊部隊・“刹那”に所属するプロだ。二人の正体を知るのはごく僅かで、ありもしない噂話と片づけられているが。
“所属している”といっても、刹那はこの二人しかいない。
当人たち曰く、『他は役立たずの足手まとい』だそうである。
三代目火影・猿飛は、二人に何度も部隊を組んで新人育成を手伝って欲しいと言っているが全く聞く耳を持たない。
馬耳東風、柳に風、豆腐に鎹、あほに学問とはこのことだ。
しかし、今夜はたまたま了承した。始めに言ったとおり、提示された報酬につられたためだが。噂の刹那を間近に見られると新人たちは張り切っていたが、これだけの実力差を見せつけられると意気消沈してしまっていた。
因みに、二人の任務経験は−
Aランク・20回。Sランク・200回である。
任務はすべて国家機密の奪取や要人暗殺、S級犯罪者追跡殲滅など高額報酬を見込めるものだけに限っている。そうしなければ、二人の“野望”を達成できないからだ。そして今回の任務は、火影邸から盗み出された禁術の巻物を奪還することだった。この巻物は初代火影が木の葉設立と同時に書き記し、長い間封印されていた。それだけに他里の興味を引き、奪おうとする輩が後を絶たない。そんなにやばい代物なら捨ててしまえばいいのだが、文化的に希少価値が高く、一部は上忍が扱う基本忍術を記してあるのでおいそれと処分することはできなかった。
時間にして数分、二人は演習所の近くの森にターゲットを確認した。
「空月、いたよ」
「やっぱり、ミズキ先生か。あの、くそ中忍・・・・ん?取引相手は、滝隠れの忍者か。弱小国が涙ぐましい努力してるってばよ」
すべての気配を消して、二人はターゲットに近づいた。
『動くな・・・・裏切り者。火影の命により、貴様を処刑する!!』
「な、何だ?!貴様ら・・・狐の面・・・まさか、“刹那”か!!」
ミズキは明らかに動揺していた。無理もない。噂話かと思われていた“刹那”が自分の目の前に存在している。その任務達成率はお墨付きで、狙われたら絶対に助からないと言われている。
だが、自分の他には滝隠れがついている。弱小国といえどもその忍術や活動には定評があり、このごろ頭角を現している。そんな里からの派遣者、そう簡単に殺されはしない。ミズキは自信を取り戻して言った。
「ふん・・・どうやら、俺も年貢の納め時らしい。だがな・・・そう簡単に死ぬと思ったら大間違いだぞ!!ここには、俺の他に滝隠れの忍者が!!」
『ふ〜ん・・・あなたが言っているのは、このゴミのこと?あんまり弱くて話にならないんだけど?』
「な?!何だと!!そ・・そんな馬鹿な?!」
『いや・・・これは紛れもない事実、現実だ』
明月の足下には、苦悶の表情を浮かべてのたうちまわる滝隠れの忍者がいた。どす黒い血反吐を吐きながら、救いを求めて空月の足下に這ってきた忍者は頭を踏み砕かれて絶命した。ミズキに為すすべはなかった。
「ま、待て!!頼む、助けてくれ!!一時の気の迷いなんだよ。こいつらが、どうしても欲しいって言うから仕方がなく!!」
『『裏切り者に・・・弁解の余地はない!!』』
その言葉が発せられたのと同時に、二人の姿が霞のように消えた・・・と思った次の瞬間、ミズキの首が地面に転がっていた。恐怖に歪んだ 表情のまま・・・・
『運命だと思って、あきらめなさい』
首のない死体に向かってヒナタは吐き捨てる。首をはねたクナイにほとんど血は付いておらず、その鮮やかさを物語っていた。
やがて、遅れてやってきた新人たちがチラホラと顔を見せた。
『お前ら・・・全員暗部やめろ!!』
『口ばかりで役に立たない輩は、暗部に所属する資格なし・・・・明日の朝、辞表を提出して消えなさい』
新人たちは少しも反論できず、その場に立ちつくすしかなかった。
火影邸では、三代目火影・猿飛と御意見番の三人が二人の帰りを待っていた。
「猿飛・・・かまわんぞ。わしら二人が報告を聞いておくから、お前はもう休め」
水戸門ホムラが気遣うように言うが、猿飛は首を横に振った。
「いや・・・あやつらの報告を聞くまで、わしの公務は終わらんのだ。ホムラ、コハル。お前たちこそ休んでいいぞ」
うたたねコハルは、しわくちゃの顔をほころばせながら言った。
「ふふふ・・・言葉を返すようじゃが、お主の魂胆は見え透いておる。自分だけでも、あの二人の労をねぎらってやりたいのだろう?素直じゃないのぉ。子供の頃から変わらんものよ。ほほほほ」
猿飛は決まり悪そうに顔を赤らめた。何だかんだ言って、三人ともナルトとヒナタがかわいくて仕方がないのだ。それだから、心の内では二人の負担を取り除けないかと悩んでいるのだ。
その時、見知った気配が戻ってきた。
「戻ってきたようだぞ?猿飛」
「ほう・・・今日も無事に戻ってきたか」
室内に、暗部装束と狐の面の二人が姿を現した。無論、ナルトとヒナタである。
『任務完了。“刹那”、ただいま戻りました』
「ご苦労であった。して、取引相手は誰であった?」
『はっ、滝隠れの連中です。ミズキを懐柔して、禁術の巻物を手に入れようとしておりました』
ホムラは顔をしかめた。
「滝隠れか・・・同盟国として友好関係を保ってきたが、これはいただけんの。猿飛、どうする?」
「コハル・・滝隠れに伝えろ。友好関係を絶ち、経済制裁を執行するとな」
「ふむ・・・あそこの名産品がしばらく食べられなくなるのはきついが・・・仕方があるまい。二人ともご苦労で・・・おや?もうおらんか」
ナルトとヒナタは報告も早々に切り上げると、二人の家に帰っていった。
続く!!
次回予告
独善的恋愛・第二話
【二人の時間】
暗部という血なまぐさい仕事。
それを忘れさせてくれるのは、あなたの胸だけ
まずは、申し訳ありませんでした!!しばらく用事が立て込んでしまい、パソコンが誇りをかぶってしまいました!!
遅筆ですが、よろしくお願いします。
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