世界がモノクロに変わってゆく。
目の前に迫る如意棒がコマ送りとなり断続的に映る。
その世界では圧殺せんとする意思さえ明確な形を持っているかの様に見えた。
体は、動かない。
抵抗する事など、できやしない。
ただ動かぬ体で写真の様に切り落とされ、連続する風景を眺めるだけ。
動けない、抵抗できない。ただそれだけで諦められはしない。
だが、そんな俺の思いよりも、目の前に迫る死の方が遥かに現実であった。
駄目…なのか?
終わり…なのか?
ルシオラに逢うことさえできずに終わるのか?
一瞬が引き延ばされた長い時間を漂う意識。
その時、深く暗い底
わからない場所から声が響くのを感じた。
―終わりじゃないわ
え?
―私を助けてくれなきゃ
ルシオラ…
―嫌だからね
暖かい波動
伝わってくる心
重なる気持ち
全て、弾けた。
「ぅああああああああああああああああああ!!!!」
今のが幻聴でもいい!
あの声の元にたどり着くまで…俺は終われないっ!
振り下ろされた如意棒を受け止める。
足が地に沈み込む。
砕かれていた骨が、壊されていた体がもう無理だと悲鳴をあげる。
うるせぇ!俺の体なら耐えやがれっ!
「ぐ…ぁ…ぁ…」
受け止め…きったぁ!
「むぅ…ようやく目覚めよったか。危なかったの」
称賛の声が聞こえるが…答える余裕はない。
即座に『癒』の文字を刻みこんだ文珠を使う。
「霊力を足し算ではなく乗算で引き出す。二つの魂を宿す小僧しかできぬ業よ。」
確かに…今までとは比べ物にならない霊気が溢れている。
俺とルシオラの霊基構造から生み出される霊気が交わり、昇華して俺の体を流れている。
今まではルシオラからの力を借りて使っていただけだが、これは違う。
二人の力を重ね合わせているのがわかる。
「どれ、その力試させてもらうぞっ!」
老師が向かってくる。
今までと同じ圧倒的な速度で俺に迫りくるっ!
俺は即座にサイキックソーサーを展開しその攻撃を受ける。
「ほう、この攻撃に耐え切れるか。やるのぅ」
感心したように呟く老師。
だがその最中にも風を裂き、地を揺るがす連撃は止まらない。
冗談じゃない、あんなものをまともに受けてなんかいられない。
そして今の俺ならアレが生成できる筈だ。
手に意識を集中し、文珠を生み出す。
できあがったそれは深い蒼と、燃えるような赤、二つの色にわけられていた。
―双文珠
ルシオラに力をかしてもらっていただけのさっきまでとは違う。
二人の力で同時に文珠を生成したのだ。だからこんな事もできる。
生み出した文珠を使う。
『加/速』の二文字
迫る如意棒を前にして、俺は一瞬でその場を離脱した。
「ぬぅ…中々速いの…そこじゃ!」
だがすぐに俺の姿は捕捉される。
突き出された如意棒は俺の体を捉え―
「何っ―幻影じゃと!?」
―られなかった
「俺はこっちだぁぁぁ!」
俺がいるのは老師の背後。
『栄光の手』を霊波刀に変換し、老師の腕を斬りつける!
―切ッ
さっきまで、まったく刃が通らなかった嘘の様に切れる。
しかもコイツは…
「毒刃とは小賢しいっ!」
ルシオラの力も合わせもっている。
これなら行けるっ!
『切/断』の文字を入れた文珠をナイフにいれる。
続く俺の攻撃を受けようとした老師の如意棒を切断する。
「これで…どうだあぁぁぁっ!」
老師の頭に裂帛の気合とともに切りかかった瞬間。
俺は―気を失った。
体がバラバラに砕けそうな痛みと共に目がさめた。
「ここは…?」
「ふん、目をさましたか小僧」
俺が寝かされてる布団の横に老師が立っていた。
「あの…俺は一体…?」
「ワシの如意棒を切り落とした後にぶっ倒れたんじゃよ」
どうして…?
まだ霊力には余力があったはずだし、傷も無かったはずだ。
「わからんか?霊力中枢がズタズタになってるんじゃよ」
不可解な顔をしている俺を見て、老師が答えてくれた。
「そんな…どうして…」
「あれは人の身には過ぎた力だということじゃよ。いかに『鬼(擬)神法』を用いて肉体を強化しようとも、霊力中枢には耐えられん力だったんじゃ」
「あの、老師?きじんほうって何スか?」
戦いの最中にも言っていたが一体何のことなんだ?
「なんじゃ、そんな事も知らんで使っておったのか」
と、呆れながらも老師が教えてくれた。
あの二人…基本とかいいながら、そんな難しい事教えてやがったのか。
まぁ、感謝こそすれ、恨むことではないが。
「小僧、おぬしの内に何故二つの魂があるかは知らん。だが軽々しくあの力を使うことはやめておく事じゃ」
忠告してくれる老師。
だが…俺は
「どうしても使わざるえない時は…?」
「こうなるだけじゃよ」
無情な答え。
なんとか…なんとかできないのか
「無論、修練によって多少の時間は耐えられる様になるじゃろう。だが最後には必ずこうなる。ま、ワシが訓練してやろう」
「老師…ありがとうございますっ!」
礼なんぞいらんから早くその体を治すんじゃな、と言い残して老師は部屋から出て行った。
この力…この力があればきっとルシオラを助けられるはずだ。
たとえこの身が砕けちろうともルシオラだけは絶対に助けてみせる。
そして修行の終わりであるGS試験までの期間もあと僅かだ。
残された短い時間でなんとかしなければ。
だから早く体を治そう。
そう考えを纏め、俺は瞼を閉じた。
<後書き、という名の言い訳>
横島君スーパーモード。だけど諸刃の剣です。
イメージ的には美神さんとの同期合体状態と大差ないかと…
各所から強くしすぎだと石投げられそうで怖いです。
この状態でようやくベスパ達に勝てる強さと設定しております。
前回の訓練シーンで小竜姫に勝てたのは体術訓練だったからなのです
超加速を使われれば横島君などふっとばされちまいます(笑
さて、次の話で修行は終わり。
GS試験の一回戦までやろうか迷っている所ではありますが、ゆっくり書いていくつもりです。
それでは…
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