深い闇と黒き森・・・されど音は鳴り止まず。
都心にも森林公園というものは存在している。
昼間には多くの家族連れやカップルで賑わうその場所も、夜中の2時ともなると人の姿も無い。
ただ外の国道を走る車の音が遠く響くだけ・・・・いつもならば。
ボキッ!!
ぎゃあ!!
何かが折れるような音とその直後聞こえる悲鳴。
恐怖と痛みに顔を歪ませた男が大木に吊るされていた。
見ると右腕の関節がありえない方向に曲がっている・・・折れ曲がっている。
昼間ならば多くの人の背を休める憩いの場としてあるだろう大木に男が吊るされていた。
男の各関節ごとに糸で吊るされているのか、まるで操り人形のような様で宙に浮いていた。
大樹の幹が黒い背景のようになり、とても滑稽に。
「―――――後悔したかい?」
一人の青年が闇の中から姿を現して声をかけた。
とても冷たい・・・悲しみを含んだ声で。
身長は180以上はあるだろう、そのせいかどこか華奢な印象を受ける細身の体格。
服装は黒系でまとめられたスラックスにジャケット。
ただその顔に掛けられたノーフレームの眼鏡だけが月の光を反射していた。
顔つきは作りだけを見れば優しげで人の良さそうな印象を与えるかもしれない。
だが、今その青年の纏う雰囲気はそれとは異なるものだった。
冷たく何かをそぎ落としたようなモノは例え眼鏡を掛けていても、隠す事が出来ていなかった。
怒りでもない・・・殺意でもない・・・冷たいもの。
吊るされている男は青年の姿を目に捉えると更に顔を歪ませた。
そして叫ぶ。
「てめぇ何なんだよっ!!ふざけんじゃねえよ!!」
「よっぽど行儀良くしていたんだろうね。こんなに早く外に出てこられるなんて・・・」
男の叫びには答えずに言葉を紡ぎだす。
青年の纏う雰囲気は更に冷たくなり男は怯む。
そして青年の言葉に何かを思い出したかのように震えてしゃべりだす。
「ま、まさか・・・・・あの女のっ!?」
自分の言葉で更に表情に恐怖を張り付かせる。
「そう・・・・彼女の両親からの依頼さ。お前を『後悔と苦しみの中で殺してください』・・・そう言われている。」
ゴキンッ!!
ひぎゃあ!!!!
さっきと似ている音が響き男が奇声を上げる。
男を見ると右ひざが捻れている。
「いでぇぇよぉぉぉぉ・・・・・助けてぇ・・・」
涙を流しよだれをたらして懇願する男。
「『苦しみと後悔の中で』・・・・」
それを無視して男に背を向けて歩き出す青年・・・一言だけ呟いて。
痛みの悲鳴は公園中に響き渡るほどの大きさだったが・・・・数秒後、音が止んだ。
青年は歩き続け公園の入り口まで来て初めて足を止めた。
その顔には何も無い。
ポケットから携帯を取り出して短縮ダイヤルを押す。
3コールほどして・・・・
「ああ、僕だ。終わったよ・・・・別に疲れちゃいないさ・・・『後悔と苦しみの中で』との希望を確かに叶えたと伝えておいてくれ。ああ・・・」
ピッ・・
下校途中に暴行を受けた少女がいた。
その暴行した男は未成年で3ヶ月の少年院行きで少女は心身を病んで自殺。
その少女の両親からの頼み―――『男を後悔と苦しみの中で殺してください』
「ドラえもん・・・今の僕を君が見ていたとしたら笑うだろうか・・・」
その声が彼本来のものだったのかもしれない。
けれどその声は自嘲が多分に含まれていたのだが。
青年の言葉は暗い空に消えていった。
静かなくらい空に。
月が彼を照らす。
それは悲しげなもので癒すように。
『それは舞い繰る織糸のように』
続きます。
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