エミは走る。
唐巣も走る。
狭い空間を走りながら、もにゃもにゃとなにか唱えている。
角を曲がり、
そして、振り向きざまに、
「光よ、闇を砕きたまえ!!」
力を放った。
「ほほう、いい判断だね。
見えなくとも、絶対いると思われる空間に広域攻撃だね。
いい判断だね、え?」
声は後ろから聞こえた。
「しかしね、我々吸血鬼は足が速いのだよ。先回りだね」
「くっ」
「失敗なわけ、神父」
瘴気渦巻く地下道で、姿が見えない相手と戦うのは、
予想以上に、大変だった。
「しかし、筋がいい。強者だね」
再び走る。そして、狭い道に入ったときに、
今度は二人が別方向に、撃つ。
「はずれだね。我々は、みな得手不得手はあるが飛べるのだね」
今度は上から声がした。
そして、背筋に悪寒が走り、
唐巣とエミは横に跳ぶ。
ズダン
床に大穴が開いた。
こうして、姿を消したまま追いかけては、
なぶるように攻撃する。
しかし、どの一撃もが、当たれば死ぬだけの力がこもっている。
「これで分断だね。二人別れたね。どうする?」
床に穴が開き、それぞれ逆方向に跳んだ二人は、
完全に分断された。
しばらく目を合わせ、
そして、
「おや、また走るのだね。二人とも」
ふむ、と考え、
唐巣の方を追う。
くねくねと、適当に曲がりながら、
唐巣は逃げる。
「やはり、ひとりだと、もろいものだね」
逃げるだけだ。
そして前方に、エミがいた。
「なに?」
「おむにーす、のむにーく、その姿、縛らせたまえ!」
一定空間内が光ったあと、
初めて、吸血鬼の姿があらわになった。
「なるほど。一定空間内で透明化を防ぐ結界だね。
しかし、道がどこかでまた繋がっているのは解るとしてもだね、
なぜ、互いの位置が解ったのだね?」
「エミくんの呪術の一種でね」
呪を込めた相手の居場所を常に感じ取れる。
お互いの体に発信器をつけたようなものだ。
「なるほど。いい技術だね。いい頭だね。
でも、確かに私の姿は見えるが、どう戦うつもりだね」
「殴り合い♪」
「は?」
エミが思いっきり蹴飛ばす。
蹴って殴って、踏んで蹴って、殴って叩いて、
吸血鬼が持っていたステッキで反撃しようとすると、
後ろから唐巣がぶん殴り、蹴飛ばす。
「このっ、人間ごときの拳が痛いわけないのだね。おぶっ」
言ってるそばからタコ殴り。
おかしい、ありえない。
ありえない事態に焦り、暴れ、抵抗するが、
ボコスカ バコベコ ドカガス メキョガキョ
「な、なぜ、吸血鬼の私が殴られる?」
反応速度も筋力も圧倒的に上のはず。
「お疲れじゃないかな?」
唐巣が聞いた。
「なに?」
「ずっと、透明化した上、走り回り、飛び回り、
君の言う、人間ごときに、全力の攻撃を放っていた」
「そんなはずがない、現にこんなにも力があふれて・・・」
ぶわっと、圧倒的な魔力を吹き出すが、
それはすぐに消えてしまう。
なぜ、こんなにも消耗している?
「・・・走っていたのも、攻撃していたのも、君らも同じだね」
「いやいや、あれらの攻撃は派手だったが、
実は、ほとんど力は使っていないよ。
それにGSは体が資本で、こう見えて鍛えてあるのだよ」
はあ、はあと、息をする吸血鬼。
「あんたの攻撃パターンから、考えたわけ。
あんた、痛みになれてないし、殴り合いもしたことないわけ」
ぎくり、とする。
その通りだったからだ。
だが、ふと足元を見て気づく。
「お前ら、嘘言ったね。これ、力を吸い取る陣が描いてあるようだね」
「ああ、ばれた?」
使っている魔力を吸い取られたからこそ、姿を現すことになり、
この陣の中にいるから、筋力に魔力を上乗せできなかった。
しかも、人間にタコ殴り、というありえない状況が冷静さを失わせ、
陣の中で暴れることで、本当に魔力のほとんどを使い果たしてしまった。
「ばかな。吸血鬼はスタミナも・・・」
「なんとなくわかったけど、あんた吸血鬼になりたてなわけ?」
「ぐ」
またまた図星。
安易に力を求め、吸血鬼にしてもらい、
運良く透明化などというレアな能力を偶然得て、
それだけに頼り切り慢心していた。
「あんた、多分、吸血鬼の中でも特別、弱っちいわけ」
「体力配分など考えたこともなかったのだろう」
当然だ、吸血鬼は無敵なのだから。
気にする必要もないことだ。そう思っていた。
くそう、と逆上して、殴りかかろうとするが、
吸血鬼のくせに腰が引けている。
明らかに闘い慣れていない。
相手に殴られない場所からしか攻撃できない小心者。
「力でも、なんでも無駄づかいは良くないのだよ。
光よ、闇を浄化したまえ」
いっそ哀れみと優しささえ混じった唐巣の一撃に、
打たれ弱いその吸血鬼は、あっさりと吹き飛び、気を失った。
そしてエミの呪縛ロープで雁字搦め。
力の無駄づかいをしすぎた吸血鬼へ向けて、
「限りある資源を大切に」
そう言い捨てる唐巣にエミは、
「なるほど、説得力あるわけ」
唐巣の頭髪を見ながらつぶやいた。
令子もまた、神通棍を使い、
吸血鬼と殴り合っていた。
おキヌがフレ〜フレ〜と旗を振る。
っつうか、この娘、原作みたいに役に立ってないよな・・・
周りが強いから、いまいち活躍の場がない。う〜む。
「あんた、あんま、強くないでしょ?」
「まあな」
力は強くないが、しかし、剣の腕前はなかなかだ。
「私は、ダンピールでね」
「ハーフってこと?」
「そう、そのため、吸血鬼らしい力をまだ使いこなせないのだよ」
「ふん、だったらさっさと退いたら?」
言い合いながらも、
ばしばしと、攻防が続く。
たまに御札が飛び、光弾が飛び交う。
「しかし、ある特殊な能力は使えてね」
「へ〜」
「ふふふ、君との試合はなかなかに楽しかったが、
もう君は攻撃できまい、なぜなら私の能力は」
そして、吸血鬼の体が発光したあと、
徐々に形を変えていく。
「は〜い、令子」
「・・・・・・」
「びっくりしたわけ? 私の能力は特定の人間の、
姿や癖なんかを模倣できるわけ。
さっき、ちらっと見てたときに、写し取ったわけ」
胸を張る、エミの姿の吸血鬼。
「・・・・・・」
「あら、まだ呆然としてるわけ? 情けないわけ。
ふふふ、友人の私を攻撃できないでしょ?」
ご機嫌に笑う。しかし、
「あんたさ・・・ばかでしょ?」
「?」
とりあえず、もっとも力ある御札を投げつけた。
バチチッ
「ぎゃー、友人に何するわけ、あんたそれでも人間なわけ?」
「いい能力じゃない、それ」
そして、
殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る
叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く
蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る・・・エトセトラ・・・
「ふう、すっきりした」
令子のストレス解消は終わった。
後に残されたのは、
「人間は怖い、人間は冷たい、人間は酷い、人間は醜い・・・」
壊れた吸血鬼だけだった。
「しかし、エミくん。さすがに道が解らなくなってしまったね」
「そうね」
道に迷っていた。
それも仕方あるまい、あれだけ迷路のような地下道を、
走り回っていたのだから。
そのとき、にゅっと壁から顔が突き出る
「ひっ」
「わっ」
「あっ、エミさんと唐巣神父、見つけました〜」
また、壁の向こうに戻っていったのはおキヌちゃんだ。
心臓が、バクバクと音を立てる・・・
「さすが、令子くんが連れているだけはあるね・・・」
しばらくして、幽霊少女を伴った令子が歩いてくる。
「あら、エミ、けっこうぼろぼろね」
「あんたこそ、服が乱れてるわけ。血もいっぱいよ」
「ふふふ、返り血よ♪」
すっごく、清々しく笑う令子に、さすがのエミも引く。
エミのボコ殴り、快感だったわ〜♪
「で、先生、道、解ります?」
「いや、戦っているうちに、解らなくなってしまってね」
「わたしもですわ」
地下道から地上へ。
森には出たが、その後、途方に暮れる。どっちに城があるのかわからない。
下手に動かない方が良いのか、
それとも動けば、どこか道でも見つかるのか。
「誰かが、どかんと、狼煙でも上げてくれたらね〜」
ちゅど〜〜ん
激震。
そして、瘴気が満ちているはずの島の中で、
一方向から霊波が膨張している。
「「「「・・・・・・」」」」
「上がりましたよ、美神さん?」
少なくとも、その方向に行けば、
誰かと合流できそうだが・・・
「でも、激しく近寄りたくないわ」
「同感なわけ」
誰の霊波なのか、二人は正確に理解していた。
「いや〜ん、変態〜!!」
マリアに抱えられ、
地下道をおかまのミノタウロスから逃げていたカオスと冥子だが、
行き止まりに突き当たっていた。
「ふっふっふ。追いつめたわ〜、さあ、遊びましょう」
飛びかかってくる変態。
厚い胸板、もじゃもじゃの胸毛、割れたあごに濃いあごひげ。
そして、周りを飛ぶハートマーク。
「い〜〜〜や〜〜〜〜〜〜〜!!」
ついに冥子がプッツンした。
ミノタウロスに向けて、
十二体の式神たちが暴走する。それはもう、容赦なく。
ちゅど〜〜ん
頑丈が取り柄のミノタウロスも、
もはや、原形残さぬスクラップあるいはスプラッタとなり、
さらには、
「おお。城までまっすぐ道ができたの〜」
「あら〜、本当〜。じゃあ、行きましょう〜、カオスさん」
「うむ。ゆくぞ、マリア」
「イエス、ドクター・カオス」
なんか、だんだん敵が情けなくなっていくが、
まあ、所詮、ブラドーの仲間だし?
ってな具合で珍道中は続く。
〔あとがき〕
前話、タマモ&ジャンヌの戦いで、
なんとなく少しシリアスチックな空気を、流しておいて、
そして次で落とす。
う〜む、快感。
っていうか、ごめんなさい。
今のわたしの力量で、カオスと冥子を使って、
シリアスな戦いを書くなんて、とてもじゃないですが無理でした。
無謀でした。
今回は、どの戦いも、なんだか、あっさり終わってしまいましたねえ。
しかし、このブラドー編、
最大の功労者はなんとエミです。
一体、彼女がどういう手柄を立てたのか、以降をお楽しみに。
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