▽レス始▼レス末
「せめて異なる可能性を(GS)」け〜ご (2004.11.23 19:19)


―妙神山―


「相変わらず凄い所にあるもんだな」

「ええ、そうね」



人里離れ、異界とも言えるこの場所に来たのは訳がある。
過去から帰り、血清のおかげで令子は助かった。
だから今日は妙神山に来たのは

「小竜姫様には本当に感謝しなくちゃね」

そう、過去への移動なんて規律にひっかかる事をやったのだ。
小竜姫様が神界、魔界に掛け合ってくれなければ時間移動はできなかっただろう。
だから今日は御礼を言いに来たのだ。



「よう、鬼門達」

「む、お前達か。どうやら無事に治療できたようだな」

「ああ、おかげさまでな。小竜姫様いるか?」

「おう、いるとも。今こちらに向かっておられる。」
と、重い音をたてて門が開かれる。

「よく来ましたね。横島さん、みか…じゃなくて令子さん」

「まだ私を令子って呼ぶのに慣れてないのねぇ小竜姫様」

俺の隣で令子がコロコロと楽しげに笑う。

「ええ、まぁ、とにかく中へお入りください」

僅かに苦笑して小竜姫様は中へ招いてくれた。







「本当にありがとうございました。小竜姫様」


俺と令子は揃って頭を下げた。


「いえ、いいんですよ。各界の長達もアシュタロス戦の後、何も褒美を与えられなかったからって気に病んでおられましたから」

お茶の用意をしながら小竜姫様がにこやかに答えてくださった。
どうでもいいが神様にお茶の用意なんてさせていいんだろうか?

「それにしても横島さんには驚きました」

ん、何の事だろう?

「はい?」

「文珠ですよ、14個同時使用なんて離れ技を行うなんて」

「無我夢中でしたから…」

「愛の力って奴ですね」

クスリと微笑みながらそんな事を言う小竜姫様。

「ちょ…小竜姫様…」

顔を赤く染める令子。

「いいじゃないですか。…それと少し話があるのですが」

今までの和やかな雰囲気を取り払い、真面目な表情になる。

「なんなの?また厄介事?」

「いえ、横島さん…ルシオラさんに関する話です」

その名前を聞くだけで涙がでそうになる。
そんな俺を気遣ってか令子が身を寄せてきてくれた。
ありがとう、目線だけで礼を言い、意を決して聞いてみた。

「ルシオラ…がどうかしたんですか?」

「時間移動する前にした検査覚えてます?」

何か時間移動するからには云々なんて胡散臭い理由をつけてした検査の事か。

「ええ、あれが…?」

小竜姫様は顔を曇らせ、言いづらそうに話しはじめた。

「その検査の結果なんですが…。以前ルシオラさんが横島さんの子供に転生するだろう、と話しましたね?
 それがどうやら無理そうなんです」

小竜姫様が悪い訳でもないのに本当に申し訳なさそうな顔をして話してくれた。
だから俺も崩れ落ちそうになる体をなんとか支えて聞けた。



曰く―
俺の魂はあの時―アシュタロス戦―で使った「合体」の文珠の影響なのか、元からなのかわからないが。
なんでも非常に親和性が高いらしい。
故に俺は少しずつだがルシオラの霊基構造を取り込んでしまっているらしい。
だから―ルシオラが転生できるだけの魂は―残っていないそうだ。





その後はどうしたかは覚えていない。
ただ気付いたら妙神山をおりていて、事務所の屋上にいた。
街の明かりにも負けず、煌々と輝く星をぼんやりと眺めていた。
よし、決めた―


「過去に飛ぼうなんて馬鹿な事考えているんじゃないでしょうね」

「令子?」

挑むようにこちらを睨みつけ、つかつか歩み寄ってくる。

「それなら…私も連れていきなさいよね…」

俺の胸元に顔を埋め、思い詰めた目でこちらを見つめてくる。
俺は令子の体を強く抱きしめて答えた。

「そんなことしないぞ」


「――――はぁ!?」

なによソレ、思い詰めた私が馬鹿みたいじゃない、などと呟く令子。

「俺には令子がいるからな、大丈夫だ」

優しく抱きしめる。

「でも可能性くらいはあってもいいだろう?だから、こうする」

俺は文珠をストックしていた物と合わせて呼び出す。合わせて十個、なんとかたりそうだ。

「ちょ…あんた何する気なの?」

「見てればわかるさ」

まず、俺の中に僅かに残ったルシオラの霊基構造を「模写」する。
そして俺の「記憶」の一部を文珠に写す。
残りの文珠は六個。

「時空」の文珠。
「転送」の文珠。
「継承」の文珠。

これで、よし。

「あんた…他時空にそれを送る気なの?」

「ああ、この時空の俺は令子と幸せになる。だけど他の可能性があったっていいだろ?
 それにこれなら時間移動するわけじゃない。規律にもひっかからんよ」

裏技も裏技、反則ギリギリの行為だ。
「さ、行け…」

「時空転送」の文珠を起動させた。
それは残った文珠を巻き込みながら流れ星の如く夜空を駆け上がってゆく。
真逆に落ちる流星を見上げながら、俺は令子を強く抱きしめた。


―さよならルシオラ…そして何時か何処かの俺よ、頑張ってくれ。


<後書き>

はじめまして、け〜ごと申します。
GS美神は全巻立ち読みしただけというバチ当たりな輩であります。
こんなけ〜ごの拙く、穴ぼこだらけの文章ではありますが、読んで頂けて幸いです。
どうぞ生暖かい目で見守ってください。よろしくお願いします。

>NEXT


△記事頭
  1. はじめましてテルヨシと申します。
    この横島たちとは違う世界、所謂並行世界では横島の娘として、もしくは復活できてルシオラも幸せになる。こういう可能性もありですね。
    この世界に残る選択をした横島とそれを決めさせた令子の二人のつながりが良いですね。
    テルヨシ(2004.11.23 20:16)】
  2. よく考えると、過去の時点で美神が血清をうって治ってる時点でこの未来には続いてないんですよね。記憶を消したとかそういうのじゃなく。その時点で未来が分岐してるのは間違いない。
    だから歴史が時空からの干渉で枝分かれすることは確認済み。それを知ってる横島ならその可能性にかけるってのも選択の一つでしょうね。もちろん、10個同時制御なんてやってのけるほどの令子への愛もあってですけどね。
    題名の『せめて』ってのがすごく納得でした。
    九尾(2004.11.23 22:00)】

▲記事頭


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