雨が降り、霊的に良くない日だと、いいわけして、
仕事を休んでいたある夕方。
ザー、ザーと、
地を叩くように、豪雨降りしきる中、
霊感などなくても、不吉なことが起こるのでは、と思ってしまうほど、
暗い空の下、その日、
思わぬ来客があった。
「令子ちゃ〜ん!! 式神が、式神が一匹いなくなっちゃったの〜!!」
ちゅっ どお〜〜ん
嵐である。颱風である。
ヒューマノイド・タイフーンである。
「え、えっと、落ち着いたかしら、冥子?」
「ぐす、ごめんね〜。なんかうろたえちゃって〜、
昨日から、暴走しっぱなしなの〜」
暴走する回数は大幅に減ったものの、
まだ、暴走を制御するまでは上達していないらしい。
しかし、基本霊力は思いっきり増えてる。
質の悪いことこの上なし。
隅の方から、タマモが出てくる。
どうやら、狐形態になって、逃げ回っていたようだ。
瓦礫の下から忠夫も出てくる。
まさに、人型災害。
おキヌちゃんは、直接的被害はないものの、目を回している。
「とりあえず、詳しく話してみなさいよ」
「えっとね、いなくなったのはマコラちゃんなの〜」
「へえ。変身能力の子ね、厄介だわ」
タマモには十二神将さえ、子、あつかい。
「いつ、いなくなったかわかる?」
「昨日忠夫ちゃんと会って〜、
そのときはまだ皆いたんだけど〜、その後気づいたらいなかったの〜」
「忠夫と別れたときには、全部いたの?」
「さあ? よくわかんないの〜。とにかく心配で心配で・・・」
「「「わー、探すから泣くなー!!」」」
願い虚しく、ちゅど〜ん!!
再び落ち着きを取り戻してから、
冥子の次に式神たちと親しく、
昨日会っていたという忠夫に聞いてみる。
「忠夫、心当たりは?」
「わからん。因幡はなんか気づいたか?」
「み」
ペッと、吐き出した。・・・なにを?
「「「「・・・・・・」」」」
「マコラちゃーん!?」
きゅーん
冥子に抱きつく。
だばだばと涙を流しながら泣く式神も珍しい。
ってか、仮にも十二神将を泣かせる存在こそが、珍しいのか。
「ッてことは、事務所崩壊の原因はお前かー!!」
「いい加減にしなさいよ、バカウサギー!!」
振り上げられる扇と神通棍。
「あれ〜、マコラちゃん、怪我してたのに治ってる〜」
「「え?」」
振り下ろされる直前に待ったがかかる。
「怪我してるのに気づいて、ヒーリングしてたの?」
「あんた、そのつもりで、口の中に?」
湧き上がった怒りが沈静化するが、
「でも〜、なんか二回りくらい、ちっちゃくなってる気がするわ〜」
「「・・・・・・消化したのかー!!」」
やっぱり喰う気だったらしい。
どっかーん
逃げ回る因幡を追って、タマモと令子が暴れ回る。
雨はただ、降りに降っている。
ピンポーン
ぴた、と暴れ回るのを止めた。
「また厄介ごとが来た予感ね。いやな感じだわ。激しく霊感がうずくもの」
「そう? わたしは、金の予感がするけど」
言いつつ、タマモと令子が扉を開けると、
コートに身を包む金髪の青年が立っていた。
「美神令子さんと葛葉タマモさんですね?
唐巣神父の使いで来ました」
青年の名はピエトロ。
すっと、手紙を差し出す。
すまないが、大変なことになった。
人手が必要なので、是非来て欲しい。
詳しいことは落ち合ってから話そう。 唐巣
「珍しいっすね、唐巣さんが頼ってくるなんて」
「そう?」
多分、金を取られるからだと思うぞ、
遠慮なく容赦なく多大に。
「それほど大事件ってことかしら」
「場所は?」
「地中海の小さな島、ブラドー島です」
「地中海〜、楽しそうね〜」
「いえ、楽しくは、ってあなたは?」
「六道冥子です〜」
「じゃ、じゃあ、あなたも依頼対象だ。是非よろしくお願いします」
「あい〜」
「すでに、一人に頼んであるのですが、
他に、もうひとり、女性のGSに頼みに行かなければならないので」
これで失礼、とピートは去っていった。
ちなみに、依頼料代わりに、オフィスの改築料の肩代わりを頼んだら、
金でできた彫像を置いていった。
「冥子も一緒に行くのね」
どこか、あきらめたような令子。
「もうひとり誘うんだってさ」
頬杖つくタマモ。
「・・・いやな予感ね」
「でしょ? そう言ったじゃない」
そして一行は、イタリアに向けて飛ぶ。
ただし、因幡はお留守番だ。残念ながら。
狛犬の右京、左門次といっしょに、帰りを待つ。
ウサギは飛行機に乗れないよねー。
そのうち、対策を考えよう。
カードにする手もあるけれど、まあ今回はキャラが多いので勘弁。
み!
いや、怒らないで、飴玉あげるから。
がぶり!
ぎゃ〜〜〜
「イタリアって、空港ってとこにそっくしですね」
「いや、ここも空港なんだけどね、イタリアの」
イタリアに到着し、今度は、
ブラドー島へのチャーター機に乗らねけらばならない。
乗り場の前で面子が集まるのを少し待つ。
「僕は他の方の迎えに行くので、少し待っていてください」
空港で出迎えてくれたピートがまた歩いていった。
まじめなやつだ。
そして、入れ替わりに、そこに現れたのは、
「げっ、令子!」
「なっ、やっぱりエミ!」
ゴーン、戦闘態勢。
お互い構えたまま、ぎゃーぎゃーと騒ぐ。
「言っとくけど、ピートには私が一等先に目ぇつけたわけ!
手ぇ出したらぶっ殺すわけ!」
「ふん、頭の軽い女が好きになりそうなタイプだわね」
「美形だからいーのよ。あんたこそレズをいい加減治すわけ。
冥子の次はタマモなわけ?」
「なっ! 根も葉もないこと、言わないでよ!」
がるるるる むきききき
ふーふーと、吐く息荒く、いがみ合う。
「レズは勝手だけど、私の弟分に悪い影響与えないで欲しいわけ」
エミの言葉に、それまで静観していたタマモも参戦。
「勝手に私までレズにしないでよ。
あ、令子、別にレズに対して偏見はないわよ?」
令子をフォロー。
「って、どういうフォローよ!!」
「そんなことより、エミ! 誰が誰の弟分よ」
三つ巴だ。
どうしようね、おキヌちゃん。
どうしましょうね、横島さん。
そんな感じで肩を落とす二人。
楽しそうね〜三人とも、と羨ましそうな冥子。
頼むからお前は混じるなよ。
「やかましい、いい加減にせんか! なにを騒いどるんじゃ!」
そう言って、現れたのは、
「ドクター・カオス!?」
先に頼まれてた一人ってのは、あんたか。
マリアを入れてあるのだろう大きなケースを引きずっている。
「あ、よぼよぼじいさん!」
「ぬあ! 幽霊小娘!」
ゴーン ここになぜか、もうひとつ戦いが。
そんな中、カオスと一緒に帰ってきたピート。
その状況に顔を引きつらせながらも、
「えっと、もう少し待ってくださいね。あとお一人来ますから」
「「「「「?」」」」」
そして、そこにやってきたのは、
「おう! 待ち合わせはここでいいんっすよね〜、
バンパイア・ハーフ君?」
修道服に身を包み、
「って、いきなり正体ばらさないでくださいよ!!」
高さ一メートル以上はあろうかという、重量感ある十字架を、
担ぐようにして歩いてくる、
「こういうもんは、先に言っとくもんっすよー」
不吉な人影。
「しかし・・・」
「なんすか? お仲間に隠し事は良くないっすよー」
聖職者とは思えない口調と、思考回路を有する、
「って、少年♪ ひさしぶりっすね〜」
「くっ、いやな予感はこいつだったか」
ヴァチカンの誇る最終人間兵器。
「ブラコン狐!!」
「イカレ修道女!!」
シスター・ジャンヌその人である。(序章第九話・十話参照)
令子対エミ、カオス対おキヌ、タマモ対ジャンヌ。
怪獣大決戦の予感である。
「「「「「「誰が怪獣よ(っすか)(じゃ!)(ですか!)」」」」」」
ナレーターがボコられることで、ひとまず事態は落ち着いた。
今日は厄日だ。
「えー、ナレーターから愛のこもった紹介を受けた、
シスター・ジャンヌっす。ヴァチカン本部から派遣されてきたっすよ」
ブラドー島に向かう飛行機の中でマイクを持ってしゃべるジャンヌ。
なぜか忠夫の右腕を抱えている。
残りの左腕は無論タマモが。
「今回の事件は、ヴァチカンも重く見てるっす。
強力な吸血鬼、ブラドー伯爵が数百年ぶりに目を覚ましたんっすよ。
まあ、そいつだけなら、時代錯誤したボケじいさんだし、
大したことないんすっけど、
他にも数名の凶悪な吸血鬼や怪人が島に集まってるって噂なんす」
まあ、吸血鬼になりたて、みたいなのも混じってるンすけど。
と、今回の事件について説明するジャンヌ。
なかなか大事になっているようだ。
中世のホラーの大集結といったところか。
「まあ、わたしとしては、空爆でもすりゃ片が付くと思ってるんっすけど」
「それは困ります!!」
「って、ピエトロ君も、言うもんっすから」
聖職者たり得ない発言に、
顔を引きつらせる一同。
「で、ピートは一体、どういう立場なのかしら?」
美神が聞く。
バンパイア・ハーフ君とジャンヌが呼んだのを、
聞いていたらしい。
真剣な顔つきでおそるおそる話し出すピートを、
「えっと、僕は・・・」
「ブラドー伯爵の息子っす」
思いっきり邪魔するジャンヌ。
「まあ、反対派っていうか、止めようとしてるんっすよ」
だから、味方ですよ〜、と、
けらけら笑いながら、ばんばんとピートの背を叩く。
「えっと、誤解のないように唐巣先生に会うまで、
伏せておく方がよいかと思ったんですが・・・。
島にいるのはみんな吸血鬼かハーフで、純血の人間はいません。
皆、人を襲うことなく普通に暮らしてきたし、
これからも、そうありたいんです。
なのに、あの親父、十三世紀のノリで世界を支配するとかいって、
めちゃくちゃにする気なんです」
拳を握って話すピートと、
「まあ、そういうことなんで、ヴァチカンの穏健派が、
ブラドー島を中立地帯っていうか、
不干渉の場所にしようとしてるんっすよ、吸血鬼さんたちの保護のために。
ま、この件が無事終わればっすけどね」
あくびをしながらジャンヌ。
「事情はわかったわ」
「私は最初っから、ピートの味方なわけ」
「でも、そういうことは最初に言っておいてよね」
「すみません」
申し訳なさそうな、でもちょっと嬉しそうな、そんな顔。
「じゃ、これから突入っすけど、異議なしってことでいいんっすね?」
そう士気が高まったところに、水を差される。
ズガガガガガガッ
ガタガタガタガタガタ
ザザザザザザッ
「うわっ、なんすか?」
「なんなのこれ」
コウモリの大群が、飛行機を落とさんと襲いかかってきていた。
「くそっ、昼間だからと油断した」
墜落していく飛行機。
敵地目前。
戦いはすでに始まっていた。
〔あとがき〕
ブラドー島編プロローグ。
敵キャラが原作よりも増えます。強いかどうかは別にして。
今回、キャラが多いので、並列処理しようと思っています。
要は、数グループに分けて、複数地点での同時進行。
今後のための練習をかねて。
ただなにぶん、初挑戦なので少し読みづらくなってしまうかも。
先にお詫びしておきます、ごめんなさいね?
因幡、今回の話では出てきません。
現在熟成中。
超能力発現薬を飲み、マコラを一部消化し、
さて、どう進化するのでしょうね?
因幡に噛まれ、みんなにボコられ、さんざんな作者、ひかるより。
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