「えっ!」
周囲の山々が、日が沈む直前のため紅く染まった渓谷で前方の集団から隠れながら、来る決戦のための銃火器や魔術道具等の武装を点検する和樹にその師である和麻は突然話しかけた。
「“力”ですか?」
「他人より“力”のある人間は責務や義務を負わなければならないか?と、言うべきだったかもな」
だったら最初からそう言え!と普通なら思いそうだが、この時まだ純粋だった和樹は素直に考えて答えた。
「え〜と……状況によると思います」
うーんと、唸りながら頭を悩ませている愛弟子の姿に、和麻は緩みそうになる頬を引き締めながらその当時和樹以外の者に使うことはまず無い優しい口調で
「例えば?」
「はい。例えば、突然不思議な力を持ったとか、自分は望んでないのに他人に無理矢理ねじ込まれた人達が周りに無理矢理その力を使わせられる時は、責務や義務を負う必要なんか無いと思います」
一生懸命に言い切った和樹の頭を、和麻は撫でながら頷くと
「その通りだ、和樹……」
「はい」
気持よさそうに目を細めながら頷く和樹に、和麻は少し微笑みながら
「“力”なんて物は、お前が言った通り自分の意思で使うもんだ。他人に言われたからだとか、特に考えもせず使うもんじゃない――特に俺らの使う魔術とかは、生身の人間がその手で持って使える物の中じゃ間違いなく最強だからな。あっさりとモノを壊す……だからといって、使うなってことじゃないぞ。ただ、後先や状況も考えないで使うのは馬鹿の証明だってことだからな」
「はい。先生よく言っていますよね、「世界全体に通じるルールなんて何も無い、自分の定めたルールに従って、自分を守るときか自分が決めたときに“力”を使え」って」
「ああそうだ。そろそろ準備しとけよ」
「はい………先生、ありがとうございます」
「何が?」
「僕を巻き込まないなんて言って、ハーレムに僕を置いていかないでくれて」
満面の笑みを浮かべる自分に師は笑って
「今までで一番危ないって分かってんのに、当然のようについてきといて何言ってんだお前は。全く、誰に似たんだか知らんが、他人の戦いに準備万端で出てきやがって、そういうのを馬鹿って言うんだぞ」
そう言いながらも、最初から和樹が参加する前提で作戦を練っていた和麻に
「アルマゲストは僕にとっても敵です。それに僕のそういう所は先生に似たんです、助ける必要もない子供を助けて育ててくれてる先生に〜〜ってい、ひひゃい」
「………なかなか言うようになったじゃねえか。んー」
和樹の言葉で少し照れたことを誤魔化そうと、和麻の腕をギブアップというように叩きながらもごもごと謝る和樹の頬をぐにぐにと弄びながら楽しそうに笑う和麻は―――突然手を離し耳に手を当てた。
急に手を離した和麻に少し膨れた和樹だったが、共同戦線を組んだ人達からの連絡だと分かり表情を引き締めて口をつぐんだ。
「配置についたか………ああ、手はず通りに………ああ?それが終わったらどうするか?決まってんだろ、お互い対アルマゲスト戦だけの共同戦線なんだ、お互いの邪魔をしないように好き勝手に動けばいい………はあ?その後も俺の指示で動くから、指揮を頼むだ!?………分かった、くだらん混乱は避けるべきだな。俺がその後もやる………ああ、合図を待ってくれ」
呼霊法による会話を終えた和麻は、虚空を見ながら
「何で、俺があいつらの指揮までしなくちゃなんねーんだよ」
ぼやく師に
(先生が指揮をとると相手に勝ってこっちに死者が出ないから、信頼しているんですよ)
世界最高の風術師ということも有るが、和麻が指揮を取ると盾にされたり囮にされたりするが、どんな絶望的な状況でも最後には全員生存という結果になるため、今では実質師の部下のような態度を取り師に全幅の信頼を置いている人々を和樹は思い浮かべながら内心で呟いた。
少し前に、自分でさえ気が付いた彼らの気持に、師が全く気付かないので首を捻りながら朧に聞くと『和麻は、虐待とかされて周囲から蔑まれていたから他人からの信頼とか尊敬とかの感情に鈍い』と言われたので、納得して何度も頷いたことがある。
そしてそのことは、師には黙っておく事になった。
―――師が照れて、彼らとの関係が複雑になりそうだからだ。
弟子の心境に気付かず、和麻は集団の方向を見ると呟くように
「偵察の朧が帰ってきたな」
「はい」
近くに朧の気配を感じたので頷く和樹の頭をもう一度撫で
「援護をする余裕は俺には無いから……」
「はい、自分の身は自分で守ります……先生、1つお願いがあるんですけど」
「なんだ」
「終わったら、シスターアリアのミートパイが食べたいです。みんなで」
全員で生き残ろうという和樹に
「ああ、一緒に食おうな」
和麻は笑いながら言った。
全ての拠点を破壊されるか占拠された、アーウィン・レスザールを主とするアルマゲストの残党の魔術師百二十七名との決戦直前の式森和樹十歳、八神和麻十六歳の秋のことだった。
麻衣香との会話という名の拷問が終わるとすぐに、仕替えしをしようとしたが玖里子という目撃者が居たので断念しチャンスを待つことにして、帰路についた和樹だった。
その途中寮の前に引越しトラックが居たが、あまり気にしないで自分の部屋に向かい―――猫形態のエリスと猫じゃらしを持って遊んでいる夕菜を見て引き返したくなった。
が、そうもいかないし、夕菜の傍にあるいくつものダンボール箱のこともあるので一歩踏み出すと
「あっ!ますたー♪」
自分の言いつけを守らず、とっても華麗に素敵に猫の姿で人間の声を出すエリスに頭を抱えたくなったが
「おかえりーますたー、どこ行ってたの?」
寂しかったよ〜とその目一杯で叫ぶエリスを見て、とりあえず―――頭を撫でて微笑んだ。
「ただいまエリス、ちょっとね」
そうしたら、満面の笑みを浮かべた夕菜が
「おはようございます、和樹さん。エリスさんって喋れるんですね、それと昨日は、助けてくれてありがとうございます。」
と言ったので
「ああ、おはよう夕菜。あんまり喋らないでくれよ、猫が喋れるってことが知られたら変なやつが来るから」
あいさつを返しながら、釘をさした。すると
「わかりました、内緒にしておきます」
(和樹との秘密ごとをもてて)何だか嬉しそうな夕菜の声と
「う〜、ごめんなさい。ますたー」
自分の言いつけを思い出した、エリスの謝罪が同時に聞こえた。
夕菜に頼むと言い、エリスに気を付けるように言った後、ダンボール箱の方を指差した。
「所でこれは?」
「私の荷物です」
「へえ、何でこんな所に置いてあるんだ?女子寮は向うだろ」
嫌な予感がしながら、朝霜寮等の女子寮の方向を指しながら言う和樹に
「ここに住むからです」
と、夕菜は和樹の部屋を見ながらにこやかに言った。
「誰が?」
「私が、です」
「………管理人の許可は、貰ったのか?」
「いえ」
「帰れ」
きっぱりという和樹に
「「え〜」」
何故か、エリスも一緒に拗ねたように言ったことに頭痛がしてきた。
「どうしてですか?」
「お姉ちゃんと一緒がいい」
全くの同時に返す1人と1匹に
「駄目だから」
「俺は嫌だ、これ以上部屋を狭くしたくない」
律儀に返答した和樹に、二人は目をウルウルさせ見つめてきた。が、当然ながら和樹は小揺るぎもせずに廊下の隅で話をすることにした(部屋に入れたらその時点でゲームオーバーになりそうだからだ)
「夕菜、何で君を俺の部屋に入れなければならないんだ。それと、エリス少し静かに、ここは端だし二階は今誰も居ないけど誰かに聞こえるかもしれない」
とりあえずエリスを黙らせて各個撃破することにした。
「どうしてって、夫婦ですから」
「誰と誰が」
「私と和樹さんが」
「何で」
「夫婦だからです」
「………精霊コンチィグは、アキレス腱に宿っているらしいぞ」
「そうなんですか!?私そんなこと初めて聞きました!」
口からでまかせを本気で信じている夕菜を見て
(どうやらこちらの話は通じているらしいな)
それは分かったが、個人的には通じていないほうが病院に叩き込んで終わりに出来てよかった。と、思いながら
「夕菜、君は他人から人の話を聞かないとか常識の代わりに炸薬が詰まっているとか斜め向うに向かって走るバッファロー娘とか言われたことないか?」
「無いですよ、如何してそんなこと聞くんですか」
心底不思議そうに聞く少女に頭痛を感じたが
「夕菜、玖里子さんから聞いたんだけど、君は帰国子女だったよな」
「はい、そうですけど」
「どこから来たんだ?って言うかそこじゃ君のような子は普通だったのか?」
「私は、引っ越してばかりだったから………周りからは、その、浮いて」
俯き始めて小さな声になった夕菜を見て、どうやら彼女の行動は外国での文化に影響されたものではないと理解し
「ああ、分かった。悪かったね、思い出したくないこと思い出させちゃって」
「いえ、そんな」
「………夕菜は、恋愛について誰から何か言われたことある?」
そう言った瞬間何故かもじもじやりだした夕菜だったが、「早く教えてくれ」と言うとすぐに
「あ、はい。母から」
「なんて」
「愛は社会性とは相容れない。もっと純粋で暴力的なものだと」
「な、なるほど母親の………ちょっと考えさせてくれ」
「え?はい、分かりました」
少し不思議そうにした夕菜だったが、エリスが足元にじゃれつくと和樹に微笑んでから猫じゃらしを取り出した。
それを見ながら和樹は、夕菜の母親とやらに文句を言いたくなった。が、ここに居ないのでそれは後回しにして、今のことを考える
(母親が、夕菜にそう教えたんなら夕菜をそこまで責められないな)
引越ししてばっかりで友人もできないどころかろくに言葉も通じず、寂しく心細かった夕菜が近くに居たはずの母親に似るのはよく分かるし、納得できる。
(………他人事ならだけど)
だが、今その厄介な恋愛感をぶつけられるのは、他でもない自分なのだ。
(しゃれにならん。取り敢えず、夕菜に一言言うか)
「夕菜」
そう言うと、和樹の方に注意を向けていた夕菜はすぐに振り向いた。
「はい、何ですか」
「君はさっき夫婦だから一緒に住むと言ったな、でも俺たちは夫婦じゃない」
「え、そんな、和樹さん」
「まあ、話を聞いてくれ。何故なら、俺達はまだ会ってから2日しか経っていないしお互いを碌に知りもしないんだ。そんな俺達がいきなり夫婦なんていうのは、普通は変だ」
「それは、そうかもしれないですけど、でも私は」
何か言いそうな夕菜を遮るように
「そうだろう。だから、俺達はまずお互い友人から始めるべきだ。恋人とか夫婦とかはその後の話だ。だから、とりあえず帰ってこれからどうするか考えてくれないか」
(その間で何とか方法を考えよう)
時間稼ぎを企む和樹に、手を前に組みながら目をきらめかせた夕菜が言った。
「和樹さん、分かりました」
「分かってくれたか」
「はい、お互いを知る必要があるってことですね」
「ああ」
「じゃあ、一緒に暮らすのが一番です。だから、一緒に暮らしましょう♪」
「……………………」
和樹の内なる世界が、突然静寂に包まれた。
そして、一人の悪魔(エリスの顔だった)が出てきて
「なぐって気絶させて、どこかにほうり捨てましょう、ますたー」
悪魔の笑みで普段言わないことを言うと
一人の天使(和麻の顔だった)が、天使の笑顔を浮かべながら(ものすごく恐かった)出てくると
「殴って気絶させて何処かに捨てたりしたら、後々厄介なことになるぞ。だから、お前の部屋の前の空き部屋に結界を張って監禁してから、○○○したり、☓☓☓☓したり、○○☓☓したりして調教してしまえ。そうすれば一ヶ月もすれば」
ドスッ
………とりあえず和樹は、天使より悪魔の言うことを聞くことにした。悪魔の言うことに従い今夕菜に手を出せば、一生逃れられなくなりそうだからだ。
「ま、ますたー。お姉ちゃんに何を」
「エリス………ごめん」
何か言おうとするエリスの魔力供給量を下げて眠らせ、気絶させ両手を縛った夕菜の腹部を左肩に置いて担ぎ、とりあえず前の空き部屋に捨てようとしてドアノブに手をかけた和樹の耳に
「ゆ、夕菜さん!貴様!夕菜さんをどうする気だ!」
義憤と殺意に満ちた声が聞こえた。
神城凛は、自分が昨日から一人の男の事を考えているのが不思議で仕方なかった。
(どうしたんだ、私は)
最初は、どこか惚けたところがある男らしさを感じさせない奴に見えた、がその男は自分が考えもしなかった子供の事をすぐに考えることができ、信じられないほどの威圧感でこちらを叱りつけることができる強靭な男であり。それに加えて
(何だというんだ、式森のあの強さは)
確認できる亜人最強の山の貴人を倒した時の、式森を思い出す。
敵を屠るという意思を込めた鋼のような鋭い緑の瞳、隙が全く無い自然体に構えた双剣、そしてその流れるような技量は自分が見た中で最高のものだった………ひょっとすると、義兄よりも
(そんなわけあるか!奴の剣技など駿司に比べれば、汲み出し豆腐の様に形にもなってない軟弱で、強靭さのかけらも無いものだ!って、何で私は駿司の味方を)
………朝食の席の食堂で、神城凛に同級生が挨拶をするまで、彼女は顔を赤くしてブンブンと振っていた。
比較的落ち着いて朝食を終えた後自室に戻った凛は十分以上の瞑目の後、「そうだな。まずはあって見なければ」と呟き和樹に会うことを決意して日本刀片手に飛び出した。
………和樹が見ていたら「もう少し落ち着くか、せめて日本刀を持ってくるな」と言っただろう。
そして彼女は、和樹が両手を縛った夕菜を担いで部屋のドアノブに手をかけているところを目撃する。
(さて、現状は)
式森和樹は、ゆっくりと周りを見た。幸か不幸か、この階には自分たち以外誰も居ない。
自分の部屋の前にあるダンボール箱の群れは、後で業者に言って持っていって貰わなければならないもので、気絶しているエリスは、後で部屋に入れる必要がある。
(ここまでは、いいんだ。問題は)
自分の左肩に担がれている夕菜をチラッと見て、すでに刀を鞘から抜き正眼に構えている凛を見つめた。
(まあ、勘違いするよな)
誰が見ても今自分がやっていることは、夕菜を気絶させ部屋に連れ込もうとしているようにしか見えないだろう。
(なんというか、またかー)
いきなり花嫁と名乗る三人が押しかけ、その後山の貴人と戦いその情報操作をするための借りを作り、休もうと思った今日は朝一で叩き起こされ自分勝手な台詞を延々と言われる、帰ったら夕菜が一緒に暮らそうといいエリスが寝返る。そして今、真剣をこちらに構えた凛と正対している。
(何で、こんなことになるんだ)
いつも厄介ごとが押し寄せてくる自分の人生に悲観して神に祈りたくなったが、その時、祈る対象である自分の守護神の立場にある龍の王とドラゴンの王のことを思い出した。
[ケースT:お兄ちゃん、お姉ちゃん事件]
朝目覚めると、年上の男性と女性のことを「お兄ちゃん」「お姉ちゃん」としか呼べないようになる。直ちに解呪しようとしたが、自分とは段違いの術者がかけたらしくどうしようもなかった。
「先生でさえ呼んだことないのにー!!」
の絶叫が指すように今まで師である和麻さえそう呼んだことがないのに、見知らぬ通行人やベナウィさん達や朧をそんな風に呼んだことだけでさえ首を括りたくなった。
それだけでも泣きたいのに、さらに止めとして、肝心の師だけは「お兄ちゃん」と呼ぼうとしても「先生」としか呼べなかったのだ―――周りを「お兄ちゃん」だの「お姉ちゃん」だの呼んでいるのに、師だけ呼ばなかった(呼べなかったのだが)時の師の「喧嘩売ってんのか」という笑みに正直死を覚悟したし寿命も縮んだ。
そのため、朧曰く“拗ねた”師は助けてくれないし周りは生暖かい目で見てくるので独力で調査せざるを得なかった。
四日後、龍の王とドラゴンの王の“いたずら”だと判明し―――殴りこんだ。
[ケースU:和樹ちゃん事件]
朝目覚めると女の子になっていた。
最初は呆然としていたが、これが現実だと理解すると必死で解呪しようとしたがまたも破れなかったので泣きたくなったが、こんな姿を周りに知られるわけにはいかないと決心した。
直ちに何処かに逃げようとして窓から飛び出そうとしたときに、一軒家で師と自分とエリスを含めた四人(朧も含めれば五人)の同居人のうちの一人であり師の恋人でもあり自分にとって姉のような立場にある、自分を起こしにきてくれた翠鈴さんに見つかった。
その後自分を心配する翠鈴さんの勢い(和樹が自分たちに気を使って出て行ってしまうと思った)に押されてしまい、女の子になってしまったことを言うと、直ちにまだ寝ていた師が呼ばれた。
自分を見て大笑いした師だったが、翠鈴さんに叱られてすぐに風術で調べ始めてくれたが、相手の腕がかなりいいので時間がかかるといって、ベナウィさんに仕事の指示を出すと出て行った。
師の結果を待つ間、翠鈴さんをはじめとする女性陣達の着せ替え人形(水着やチャイナ服や日本の学生服やエプロンドレス等)となり、一生のトラウマになった。
2日後師がまたあの二頭の仕業だと突き止めてくれたので、師が突き止めた隠れ場所に殴りこんだ。
[ケースV:コウノトリ事件]
翠鈴さんが、朝朝食の席で顔面蒼白になっているので「どうしました」と言ったら「和樹君、和麻を起こして!すぐに探し出して会いに行くわよ!」血相変えて自分に叫んだので、混乱していると―――1人の赤ん坊と1枚の紙切れを突き出された。
そしてそこには、こう書いてあった。
〔和樹へ
あなたと、私の子供です。私はご存知のように死病に侵されているため、育てることができません。行きずりの女の最後の願いです、この子には「ウルト」と名づけてください〕
それからが大変だった。翠鈴さんは、その女性になんとしても会いにいくといい。エリスは
「ますたー、パパになるの?それじゃあ、私はもういらないの?」
と泣きながら絶叫し、「どうしてそうなるんだ!?」と言いたくなったが翠鈴さんの
「こんな小さなエリスちゃんを捨てるなんて!?和樹君あなた、それでも人間なの!!」
エリスを抱きしめながらの悲痛な叫びに「味方はいないのか」と泣きたくなった時、自分たちの煩さに赤ん坊が泣きはじめた。
その赤ん坊をあやしている時師が起きてきて、またも大混乱になりかけたが師が少し赤ん坊を見た後に「その子、和樹の子じゃないぞ」という天使の一声(このときはそう聞こえた)を言ってくれたので納まった。
調べると、その子の血液型等は自分の子供ではあり得ないものだった。
さらにその子のことを師が風に“聞く”と離れた場所に捨てられた捨て子で、その子供を人間体になってうろついていた龍の王とドラゴンの王が見つけてここに送り込んだのだ。
―――直ちに、人間体の二人を強襲した。
ちなみにその子は話し合い―<育てる>派の翠鈴・エリスと<預ける>派の和麻・和樹の戦いで終始<育てる>派が圧倒的に優勢だった―の結果、「シスターアリアの孤児院ならば」という条件でお互いに納得―膨れた翠鈴・エリスを後一歩で土下座しそうだった和麻・和樹が説得した―したので、現在孤児院ですくすく育っている。
それ以外にも[ワンワンパニック事件]や[お空の一番星事件]や[トカゲの尻尾きり事件]等様々なものがあった。
そして、その都度その都度殴りこむのだが<最も神に近い獣><幻想種の王>である龍とドラゴンの王である二頭に適うはずもなく、正々堂々と戦い(相手の詳しい情報をできるだけ得て、幼竜や彼らの人間の愛人を人質にしたり毒ガス等の化学兵器や魔術道具を使って罠を用意する等の様々な準備をしてから、奇襲闇討をして相手にダメージを与えてから、強制的に眠らせたエリスを盾にしたりして相手の攻撃を逸らしながら戦うことを和麻と和樹の師弟はこう呼ぶ)一矢を報いるも返り討ちされるのだが、その後彼らの初孫であり愛孫であるエリスが
「おじいちゃん、ますたーにひどいことしないでよー!」
と泣きながら哀願すると孫馬鹿二頭がいつも
「ああ、エリスちゃん!泣かないでくれ、おじいちゃんが悪かった、すぐに止めるから。かわいくなったな〜、さすが私の孫。特にここらへんの………」
そう言いながら倒れた自分に乗せていた足を勢いよくどけエリスに突進するため、その動作によって止めを刺されてボロボロになった瀕死の自分にかけられた呪や傷を二頭にエリスが頼んで解いてもらったり治してもらったりして、終わるのである。
それらを思い出した和樹は直ちに祈るのを止め
(奴らは――――敵だ)
と、何処かの聖杯をめぐる戦争の剣士の位である少女以上の抗魔力等の様々な“加護”を貰っているが、自分を“孫を奪った男”や“面白すぎるおもちゃ”と呼んで普段は犬猿の関係にあるのに自分で遊ぶときだけ仲の良い二頭にあらん限りの敵意と殺意を込めて和樹はそう断言した。
気をとりなおした和樹は、目前の凛の相手をすることにした。
「君は、どうすると思うんだい」
凛は和樹の冷静な口調に面食らったらしく、ひるんだ。そしてその機を逃さずに
「確かに俺は、夕菜を担いでいるな。それは、認めよう。だが、君はそれからどういう想像をしたんだい?」
「え、いや、それは」
口ごもる凛を見て、さらにたたみかけることにした。
「とりあえず、君がどういう想像をしたのかは、いいとしよう………だが、何で刀を抜くんだ」
「そ、それは」
「そう、抜く必要なんてないんだ。それなのに君は………まあ、それはすぐにお互いに笑ってなかったことにできる。君が刀を鞘にしまってこのまま帰れば」
「……………」
視線を迷わせて鞘に手を当てる凛を見て
「じゃ」
和樹は夕菜を担いだまま、凛の横を過ぎようとしたが
「ちょっと待て、何で夕菜さんを連れて行くんだ!」
その叫び声に
(やっぱり誤魔化せないよなー)
と、思いながらも諦めずに誤魔化すことにした。
「何でだと思う?」
この期に及んでも、冷静な口調の和樹の声に
「な、何でって」
どもる凛を見て
「つまり、君には俺が夕菜を如何しようとしているように見えるんだ?」
「い、いや、その、つまり」
真っ赤になる凛を見て、悪戯心がわいた和樹は
「早く言ってくれ、凛ちゃんは何をする前に見えたんだ?」
「う、うぐ」
真っ赤染まった表情を百面相に変えながらうめく凛を見て、生真面目な子をからかうことの楽しさを全身で味わいながら表面的には冷静に
「どうなんだい、凛ちゃん。さあ、言ってごらん」
「い、いかがわしいことを」
後半は小声だったが、仙法で強化している和樹の耳には充分聞こえたが、真っ赤になりながら唇を尖らせて呟く凛に快感という名の暖かいものを感じて
「い、しか聞こえないぞ、凛ちゃん。だから、三、二、一の合図に従ってもう一度大きな声で言ってみよう」
肩を震わせる凛を見て「止めたほうがいい」という心の声が聞こえたが、ここまで来て止められるわけがない!
「さあ、いくよ。三、二」
恍惚とした心境の和樹に顔に
「殺す」
惚れ惚れするくらいの突きが、殺意に満ちた声と共に放たれた。
それから、突きから斜め下に向けた斬撃から始まる凛の猛攻が始まった。
それらは文句なしに一流の剣技がなせるもので、この狭い廊下では並みの剣士では最初の突きで終わっているに違いなく、凛と同等の技量を誇るものでも最初の一撃の好機を奪われたことによって敗北しただろう。
故に少女とはいえ、人一人担いで斬撃をひょいひょいというようにかわす和樹は、人外魔境の存在だった―――凛からしてみれば
「何で、あたらないんだ」
和樹に対する怒りのため、ペースを考えずに攻撃し肩で息を始めた凛に対して和樹はあっさりと理由を話し始めた。
「何でって?そりゃあ、斬る方向が限られて」
「夕菜さんを盾にしておいて何を言うか!貴様は!」
凛を実力でも上回るのに、和樹は右足を僅かに引いて左肩を心持前にする構えで攻撃しようとする凛が夕菜の後頭部や背中を真っ先に見るようにして攻撃をためらわせたりしているのである。加えて
「第一、こんな室内で刀振り回して簡単にあたるわけないだろ」
和樹の言う通り、狭い廊下では攻撃の向きの選択肢が減ってしまう。通常なら、回避の選択肢も減るのだが
「君も言ったように担いでいる夕菜を避けようとするから、さらに攻撃の方向が限られるし………それに」
その“担いでいる”という言葉にヒントを得、隙を見つけた凛は攻撃した。
夕菜の頭が届いていない和樹の足を、自身の体ごと落とした勢いを利用して下から斜めに斬り上げるのである。
これなら夕菜を傷つけないばかりか、夕菜の体によって生まれる和樹の死角に潜り込めるという、一石二鳥の作戦である。
(もらった!)
峰打ちとはいえ、自分より格上の技量を持ちながら卑劣な手段をとった男に会心の一撃を見舞えることに凛は内心で歓喜の声を上げた。
――――八神和麻が式森和樹に「うまい罠ってのは、相手が喜んで喰らいつくもの」と言ったことを神城凛は知らない。
その刃の軌道上に―――夕菜の後頭部が突然現れた。
「なあっ!?」
全身の勢いをつけた刃を逸らせるために体勢を崩したため、その勢いのまま体ごとゴロゴロと後ろに転がる凛の背中に
「それに、素直すぎるんだよ、凛ちゃんは。だから次が読みやすいし、こんな手にあっさりと引っかかる」
(先程の言葉は、罠か!?)
何事もなかったのように夕菜を元の位置に戻しながら穏やかに呟く和樹に、凛は立ち上がりながらも戦慄していた。
さっきの死角からの攻撃をああいう手でかわすには、凛の体が沈んでからでは遅すぎて攻撃にあたるし、その前では早すぎて凛に警戒されてがら空きになった他の場所を攻撃されてしまう。
つまり、先程の離れ業を実現するには、本人の技量も必要だがそれ以上に相手の動きを読みながら自分の思い通りに動かして状況を作るような非常識な真似をしなければならない。
(なんて、奴だ)
刀を正眼に構えて戦慄しながら、魂が震えるほどの感動という矛盾した感情を味わう凛に和樹は
「まあ、素直なのは良いことだし性格だろうから俺が何か言うことじゃないけど、もう少しずるくなったほうがいいと思うよ」
「ずるく、だと」
「そう、例えば」
そう言うと同時に和樹はほとんど体を動かさずに、左肩に担いでいる夕菜を和樹の言葉に気を取られて他がおろそかになっている凛に向かって―――投げた。
「何ぃ!?」
高速で迫る夕菜を目にした凛は、刀を放して受け止めるか刀を持ったまま受け止めるか迷い―――何もできなくなった。
迷う凛の目前で夕菜が空中で急停止すると同時に、強烈な足払いを受け受身を取ろうとしたところを急停止した夕菜が凛の胸と二の腕を覆うように置かれたため、受身を取れず床に倒れると同時に上半身の動きが完全に封じられ、目前に自分の刀の切っ先が突き出されたからだ。
(ま、まさか、そんな)
頭では、和樹が夕菜を投げたと同時に自分に気付かれないように夕菜の体に隠れながら走って、自らの視界を完全に埋める所まで来た空中の夕菜を掴むと同時に自分に足払いをかけて手に持っていた夕菜を絶妙な場所に落とし自分の身動きを封じたということはなんとか理解できた。
が、感情では理解など出来るはずがないし、何より自分の刀を何時盗ったのかは全く分からなかった。
和樹の作戦は、囮を出して相手が気を取られているうちに攻撃するというどこにでもある簡単なものだ。
ただ、直前のせりふや行動によって相手をこちらの術中に引き込んだ上に、その攻撃自体の技巧やタイミングが化け物じみているため、他者に自分が魔法にかけられたような錯覚を起こさせる。
―――タネが、分かっても未だに呆然としている凛のように
呆然としている凛に
「ところで、凛ちゃんは刀持つ許可持ってんの?」
凛の刀を鞘にしまいながら、職業(退魔師や魔術師等)によってはもらえる許可を持っているのかと、先程の化け物じみた身のこなしなどお遊びとでもいうように気にもしていない和樹が聞いた。
「え!?ああ、それはもちろん」
呆然としているところに、関係ないように思える話を振られて少しどもりながら凛が言うと、和樹は少し遠い目をし
「………それじゃあ、骨董屋に持っていけないな………国と喧嘩するの面倒だし」
「貴様!許可を持ってなかったら売り飛ばしたのか!」
「ああ、君のようにすぐに振り回す奴が持っていたら危ないからね」
すぐに起き上がって取り返そうとした凛だったが、うつ伏せ状態で横向きに置かれた夕菜のおかげで上半身どころか下半身でさえも封じられ、もぞもぞとしか動かせないところに、和樹の言葉が突き刺さったため、ただ呻くだけだった。
呻く凛が、自分の上にのる夕菜に起きてくれと言い始めたとき
「それじゃ、凛ちゃんまたね」
と言って、あっさりと和樹が消えようとしたので
「ちょっと待て!どこに行く!?」
「お出かけ」
即答されてたじろいだ凛に
「夕菜はあと少ししたら起きると思う。それとそこでうたた寝している猫もよろしくね、名前はエリスって言うから」
自分が強制的に眠らせた二人の世話を頼むと、階段を降りていった。
その後、引越し業者が来て荷物を回収し終わると同時に夕菜が目覚め凛に和樹がどこに行ったのかを聞いたが、引越し業者に生暖かい目と引きつった笑みで見られながら「兄ちゃんから聞いたけどダンスの特訓なんだってね、がんばれよ」と言われたショックで呆然としている凛は何も答えられなかった。と、いうより知らなかった。
引越し業者に和樹が渡していた、荷物の場所とこれからのことについて書かれた伝言用紙を、喧騒の中起きたエリスが床の上で見つけたのは、十五分後だった。
そして、和樹の伝言に従い夕菜はエリスを連れホテルに戻り凛は寮に戻った。その時、エリスが喋れることに凛が驚き、一悶着起こりそうになったが“和樹の飼い猫”という理由(あの男ならありえる)で納得した。
色々あって午前四時に戻ってきて、今日こそだらだらしようと心に決めていた和樹だった―――自分でも無理だとは分かっていたが………
そしてその決意は、朝八時にエリスを連れてきた夕菜によって予想通り崩壊した。
「「おはようございます。和樹さん(ますたー)」」
ドアを開けると同時に満面の笑顔で言う二人に
「おはよう」
和樹は、しっかりとあいさつを返した。
そして、夕菜に目を向けると
「で、その荷物は」
半眼で、夕菜が持つ旅行鞄を見た。
「これから、よろしくお願いします」
和樹の視線に目を逸らさずに、想像通りのことを言う夕菜に
「………夕菜1つ聞いていいか?」
「帰れ」と言いたくなったが、それでは昨日の焼き直しになってしまうので、昨日から感じていた疑問を夕菜にぶつけることにした。
「はい、何ですか」
「何で、俺を夫と呼ぶんだ?」
昨日の話からこの少女が、思い込んだらどんなことがあっても一直線ということは分かった。
だが、自分を夫と思い込ませるようなことをした事は記憶にない。だから、自分のことを夫などと夕菜が思い込めることはない。
(親から言われた相手だからって理由で、そこまで思い込めそうにそうにないんだよな、夕菜って)
知り合ってから僅かだが、この少女がしっかりした人間だということぐらいは分かる。それに、かなり想像力が豊かのようだが、妄想の気配はない(多分)ことも分かる。そんな夕菜が自分を夫などという理由が、魚の骨のようにのどに引っかかっているので聞くと
「約束したからです」
当たり前のように言う夕菜に
「約束?って何?」
和樹が不思議そうに聞くと、夕菜は突然表情を暗くして
「覚えてないんですか?」
コクリと和樹がうなずくと
「そう、ですか」
と言うと夕菜は、腕の中でじゃれるエリスを和樹に渡すと
「ごめんなさい和樹さん。私、最低ですよね………勝手に押しかけて奥さん面しちゃって………すぐに帰ります」
泣きそうな口調で言った。
その目に涙が溜まっているのと、全身から申し訳なさと悲しさを漂わせている夕菜を見て和樹は
「一人で脳内完結して帰る前に、何時、何処で、どんな約束をしたのか教えてくれないか」
いつもと同じ声音(内心の疲労を出さずに)で言った。
その声を聞いた夕菜がうなずくと同時に、和樹の腕の中に移動したエリスの
「ますたー。お家の中で話をしたほうがいいよ。昨日と違って周りの家の人達も居るし」
という言葉に従い、二人と一匹は家に入りおとといのテーブルを挟んで座った。
和樹が、お茶を入れようと立ち上がった時、夕菜が「自分がやる」と言って和樹が「君は、今日客なんだから座ってろ」と言ったら、先程の言葉が聞いたのか夕菜は「和樹の妻」などの発言をせずおとなしくエリスを乗せながら正座で座った。
ぬるめに淹れたお茶を一口すすり、お茶に口をつけた後黙っている夕菜を見てこのままじゃ何時になっても話が進まないと判断した和樹が促すと夕菜は語り始めた。
十年前とある空き地で引越しが嫌だと泣いていた自分に「せかいいちのまじゅつし」と言った少年のことを。
「……魔術師じゃないっていって拗ねる私に和樹さんは魔法を使ってくれたんです」
自分にとって宝石のような思い出を話しているため自然と表情が柔らかくなった夕菜に
「どういう魔法を使ったんだい」
自分がのどから手が出るほど知りたかった事柄なので、僅かに声を弾ませた和樹が聞いた。
「雪を見せてくれたんです」
「雪を……なんで、また」
「私が見たことがなかったからお願いしたんです。そしたら和樹さん「大丈夫だよ」っていってくれて、みせて、くれたんです」
よほどそのことが嬉しかったのか涙ぐみさえする夕菜を見ながら、和樹は自分の記憶の空洞が暖かいもので満たされていくのを感じていた。
こちらの世界に来てから、探し出した自分の生家やその時見つけて今も持っている家族の写真を見ても他人事のように感じていた自分。
だから、自分がこの世界の出身だということが、写真や遠い親戚や生家の近所の人の話やこちらの世界に連れてきてくれたドラゴンの王の臣下である幻獣“渡り草子”の保障等の様々な証拠があっても感覚で理解できず空虚な気分だった。
そのため、この世界に訪れた異邦人のような気分でどこか一歩この世界の住人から距離をとっていた自分が――初めてここが自分の生まれた場所だと肌で感じることができたのでこの世界で居場所を得ることができたような気がした。
だから
「ただいま」
と呟くような声とはにかんだ表情で、安らぎ・喜び・郷愁・安堵等の万感を込めた一言を言った
「え?」
その言葉を聞きつけ怪訝そうな夕菜に
「いや、なんでもない……それよりその時に約束したことを教えてくれないか」
和樹は、微笑みながら穏やかに言った。
現在の和樹の表情と声と昔の和樹との約束によって、紅くなって頬を押さえる夕菜だったが和樹とエリスが違うニュアンスだがほぼ同時に「早く」と言ったため膨れてはいたが
「お嫁さんになるって言ったんです。だから、私嬉しくて……浮かれちゃったんです……やっぱりおぼえてないですか?」
前半は生き生きとしていたが、後半はまるで死人のような口調の夕菜を見ながら、和樹は十年前の口約束を覚えて果たそうとした夕菜の純粋さ(執念深さとも一瞬思ったが、夕菜の性格にその単語はあまり当てはまらないと考えたので取り消した)にオーバーに言えば感動していたが、口からは
「ああ、だって俺記憶喪失だからね」
事実には違いないが、真実からは少し遠い事を話していた。あまり聞かせて楽しい話ではないし、正直あまり言いたくないからだ。
「え!?」
驚愕の表情をする夕菜に
「俺は、ちょっとした事故で六歳のある時期以前の記憶を全部なくしているんだ」
「ぜんぶですか?」
呆然として惚けたような夕菜に
「ああ。どういう事故だったかは小さかったし、両親もその事故で死んでしまったから覚えてない」
「ご両親も」
「そう。それに事故が起きたところが外国だったから、自分の昔のこと知っている人が誰も居なくてさ。だから、なくした記憶のこと誰にも聞けなかったんだ……別にそんな顔しなくてもいいよ、もうあんまり気にしてないし昔のことだからね」
話しているうちに泣きそうな表情になっていった夕菜は、和樹の最後の言葉を聞くと顔を怒らせて
「和樹さん!酷いです!」
と叫んできたので和樹は
「そんなに君との約束を覚えてなかったことが」
白けた表情と冷たい目で言いかけたが
「そうじゃありません!」
と夕菜がまたも叫んだため中断させられた。
「和樹さんが覚えてないのは悲しいですけど、それは、仕方がないって言えることです。でも、和樹さんのお父さんとお母さんが亡くなった事を、昔の事だからあまり気にしてないなんて、いっちゃだめです。そんなのだめ です。だめですよ。そんなのかなし すぎるし、ひど すぎます」
後半は嗚咽交じりに言われた言葉を聞いて、式森和樹は殴られたような衝撃を受けた。
夕菜に言った話は真実ではない。だが、自分の両親が自分を守ろうとしていたことを、和樹は覚えてないが、アルマゲストの魔術師達の会話から知っていた。
その両親のことを自分は、覚えてないとはいえあまりにも軽く見ていた。
両親の遺灰も師が取ってきてくれたものだし、向うの世界では師が親代わりだったこともありろくに思い出しもしなかったし、こちらに戻ってからも自分の記憶の手がかりとしか捕らえてなかったから墓に遺灰を入れるだけで済ましてしまった。
だから、両親がどういう人間だったかを調べるどころか知ろうとも思わなかった。
自分をその身で守ってくれた人達に対する態度としては、最悪のものだ。
そして、その事に自分は気付いてなかった。だから
(気にしてないなんて言葉が、あっさりと出たんだな)
自分に対して嘲笑しながら、和樹はゆっくりと前を見た。
そして、目前で泣きながら「そんなこと言っちゃだめです」とつかえながらほとんど聞き取れない言葉を言う、自分が気付きもしなかったことに気付きその事に対して泣いている少女を見て
―――和樹は衝動的に少女の頭を自らの胸に抱きしめた
突然目の前が真っ暗になりきょとんとしていた夕菜だったが、自分が和樹に抱きしめられていることを認知しパニックに陥った。
「え、え、え、えええええー!?か、か、か、かかずずきさん!?わ、わたし、その、急に……」
その後は、自分でも理解できない言葉を言い続けたが、和樹が右手で頭を撫で始めたことにより少し落ち着いた。
「あうあうあうあう……」
と和樹の胸に埋もれながら真っ赤になりながら言うなどの混乱の残滓を残しながら、和樹に頭を撫でられながら抱きしめられるという、夢のような出来事を堪能し始めたのだ。その夕菜に
「ありがとう」
と和樹は言った。
自分に思い出させてくれたことと、両親のために泣いてくれたことに対して
穏やかな表情を浮かべた少年が頬を赤く染めた美少女の頭に右手を乗せて撫でながら抱きしめていて、その二人の間には丸くなった純白の猫が佇むという一枚の絵画のように美しい光景だった。
……少年の左手と頭の中を除けば
(スリーサイズは、上から81・57・83って所か、見た目を裏切らないいいスタイルだな)
どれだけ感動していても、やるべき事(この場合は、自分の上半身と左手で夕菜の体を堪能すること)を忘れずにしっかりとやっておくのが、式森和樹という少年の真骨頂だった。
昨日、電波を受信した勢いのとき書き忘れましたが、こちらにお邪魔させていただきますので、よろしくお願いいたします。
前回もレスありがとうございました
夕菜が一歩前進しました。
エリス夕菜に懐きました。
凛は、おもちゃです。
と、いうのが今回の話の大筋です。
ではレスを
>D,様
ハーレムの大藩王とMMMの老人は、外見が双子のように似ているのでもしかしたら……
>紫苑様
麻衣香は、家第一の嫌な女だと原作からそう感じたので、それを前面に押してみました。後一度は出てきます。
>Mk-2様
ご指摘いただき有難うございます。
これから長いものは外伝として別途に投稿させていただきます。
前半の方が長いなんてやっぱりまずいですし
>ぴええる様
術の呼称を使う許可を頂きありがとうございます。
純真さは消えていくものです。煉はまだ消えそうにないですけど
>アポフィス様
確かに魔術師のことがすべて当てはまりますね。
和樹が十六歳の現在は、星条旗の国と仲直りしています。
>柳野雫様
和樹が言った言葉の内の一言なんですが
「あんたは、他者にいいことをしていると思いながら言っているんだろうが、こっちからしてみれば、塔によじ登ってわけわかんないことほざいている奴と同じにしか見えないんだよ」
と最初のジャブで言ってました。
>猫炬燵様
本気になる前に麻衣香が気絶しちゃってフラストレーション溜めていましたが、その分はきっちり麻衣香と秘書にぶつけました
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