第二話 闇色の瞳
雨の降る午後、将軍の葬式がしめやかに行われた。参列者は皆、生前の将軍を慕うものばかりだった。壇上では、東方司令部から代表としてゼフィランサス将軍が答辞を述べていた。
「なあ・・・サイサリス。私は、お前が死んだなんてまだ信じられないよ・・・
お互い大戦で辛い思いをして、今度こそ新しい時代の幕をあけよう!!・・・そう言って手を取り合ったのが、まるで昨日のようだ。
サイサリス・・・・何故死んだ!!ステイメンも俺も、まだお前とやり遂げたいことがたくさんあったんだぞ!!何故だ!!」
ゼフィランサスの言葉が、刃となってリリィの心に突き刺さった。
あの時・・・何故違和感を感じなかった・・・
何故、緊張を解いた!!
何故、休暇など考えた!!
何故・・・・!!
考えれば考えるほど、頭の中で勤務室の光景が目に浮かんだ。爆発を察知して駆けつけたとき、将軍はすでに死んでいた。黒い血だまりの中、バラバラに吹き飛んだ手足が散乱し、数分前の面影などどこにもなかった。
ただ・・後悔だけが残った・・・・
「准将・・・リリィ准将・・・」
「はっ!!こ、これは・・・奥様」
リリィは、ふと我に返った。あまり思案しすぎて、思考の沼にはまってしまっていたらしい。おかげで、将軍夫人・ガーベラが傍にいたことさえ気がつかなかった。
「申し訳ありません!!自分のミスです!!私がもっと早く気づいていたなら・・」
「いいのです。将軍の妻として、いずれこのような日が来ると思っていました。
・・・・あの人ったら、家に帰ってくるとよく貴方のことを話していたわ。射撃がうまいとか、絶対素晴らしい女性になるとか・・・そんなことばかり・・・」
「奥様、私は・・・私は必ずや!!将軍の仇を取ります!!」
しかし、夫人はリリィを優しくいさめた。
「よくお聞きなさい。将軍などという任務についていれば、必ず誰かの恨みを買うものです。あの人も、それを常に言っていました。それが軍人の仕事であり、責任であると・・・
貴方が、復讐を思い立ちそれを遂げようとすればどれだけの血が流されることか。誰よりも平和を願ったあの人が、喜ぶとでも?」
夫人の言葉は正論だった。復讐は、別の復讐を生み出すだけで何も良いことはない。
だが、それでもリリィは言いたかった。
「夫人・・・・自分は軍人です。いつでも死ぬ覚悟はできています。将軍は神魔の共存の道を模索し、部下の働きを労っていました。その将軍が・・・・その将軍が恨みを買うなど!!」
『買ってるから死んだのだろう?』
「な、何だと?!貴様誰に向かって!!」
リリィは、激しい憤りを感じて振り向いた。そこに立っていたのは、皮の黒コートを着た青年というには少し若い男が立っていた。ロイドめがねのサングラスをしていて、表情は見えないが一言で言って“異様”だった。いや・・・・“異常”言ったほうが正しいかもしれない。
霊的因子をまったく感じない
自分が気圧されている
霊的因子を持たない生物
すなわち・・・“人間”・・・・
会場も異様な雰囲気に包まれているが、誰も身動きが取れない。
圧倒されているのだ!!
こいつがかもし出す、この異常な雰囲気に!!
たかが、人間に!!
「はあ・・・・どこのどいつだ?人のターゲットを殺してくれるとは・・」
「何!!貴様、それはどう言う意味だ!!」
「ふん・・・そのままの意味だ。依頼人は明かせないが、そいつに大戦で家族を殺された。それで、俺に殺しを依頼してきた」
「貴様・・・いったい何者だぁ!!そのサングラスを取って、顔を見せろ!!」
「はあ・・・・何の権限でそんなことするのか知らんが、いいだろう」
サングラスの下から現れたのは、闇色の瞳だった。何も映さず、光さえも吸収してしまいそうなその瞳に、リリィはただ息を呑むだけだった・・・・
続く・・・・
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