ポチはレイヴンズ・アーク直営の工房…俗に言うガレージの廊下を苛々しながら歩いていた。
普通なら、ある程度経験を積んだレイヴンなら直営のガレージは使用せず、一般の技術者による個人経営の私設ガレージと契約を結ぶ事が多い。
レイヴンは恨みを買いやすい職業である。
そして彼らにとってもっとも恐ろしい敵の一つが、同業者であるレイヴンなのだ。
だからレイヴンは同業者に自分の個人情報を知られる事を極度に恐れる。
そういうわけで、普通のレイヴンは多少金銭的に無理をしても、他のレイヴンに情報が流れにくい私設のガレージと契約を結ぶのだ。
だがポチはそろそろ新人を卒業する頃合になっても、いまだに直営ガレージを利用し続けていた。
その理由はただひとつ…金が無いのである。
「あ〜…新しい頭かレーダー買おうと思ってたのに…」
ポチはしょんぼりと肩を落す。
彼は前回のミッションで、彼はやむをえなかったとは言え防衛対象である物資集積所内で乱戦を繰り広げた。
そのため、依頼自体は成功と判断されたものの、破壊された物資があまりに多かったために報酬が減額されてしまったのである。
更に言えば、彼はバーストライフルを乱射し、ミサイルを撃ちまくり、弾代もバカにならない。
とどめに彼の機体は戦闘終了時もう全身からぷすんぷすん火花を散らしているような状態であった。
ぶっちゃけ修理代で報酬から足が出たのである。
彼の貯金は、一気に吹き飛んでしまった。
アークの補助が出ない私設ガレージと契約するどころではない。
「…ちっくしょー。あんのブルジョア野郎め…」
ポチは前回戦った、純白のボディに頭部が紅く塗られた軽量ACの姿を思い浮かべる。
そのACは比較的安価なパーツで構成された彼の栄光Ver.2とは異なり、ぱっと見だけでも相当高価なパーツで構成されていた。
彼の心の中に、めらめらと憤怒の炎が燃え盛る。
「今度会ったら…っ!」
「きゃんっ!?」
「でぇっ!?」
怒りに前が見えていなかったポチは、ガレージの廊下で誰かとぶつかってしまった。
相手は両手いっぱいに抱えていた荷物を取り落とし、尻餅をつく。
声からすると、ぶつかったのは女性のようだ。
ポチはあわてて謝罪した。
「ああっ!済んませんお嬢さんっ!」
「いたた…」
「だ、大丈夫っすか?痛いトコさすりましょーか!?」
彼はその相手を助け起こそうとした。
ちなみにその手は相手の身体のビミョーな部分に伸ばされていたりする。
彼の鼻の下もびろ〜んと伸びているのは言うまでも無い。
だが、彼の手はあやうい所で止まる。
彼は口の中だけで残念そうに呟いた。
「な〜んだ、ガキぢゃん…」
「は?なんでござるか?」
「あ、いやっ!何も言っとらんぞっ!あ、それよか大丈夫か?ちょっと考え事しとってな。わるかったな」
ポチがぶつかった相手は、まだ10代半ばの少女であったのだ。
将来的にはポチ好みの美女に成長しそうな素質たっぷりの美少女ではあったが、この年代ではまだ彼の射程範囲外である。
ポチは相手の尻を触ろうとしていた手の軌道を修正し、相手の手を掴んで助け起こした。
「あ、どうも申し訳ないでござる。拙者こそ前が見えてなかったでござる故…」
「…あー、どっかで会ったことあるか?」
「は?」
「あ、いやいいんだ。気にせんでくれ。どれ、ぶつかったおわびだ。半分持ってってやるよ」
「そ、そんな!申し訳ないでござるよ!」
「いいって、いいって」
ポチは相手に有無を言わせず、散らばった荷物を集めると抱え込む。
当初少女は申し訳なさそうにしていたが、やがて自分も荷物を持ち先に立って歩き出した。
作業用のツナギ服など着ているからには彼女は整備技師見習か何かであろう、とポチは考える。
「んで?どっち行くんだ?」
「あ、こっちの第三ガレージでござる」
「ほいほい第三…と…え゛!?」
ポチは第三ガレージに入るやいなや、抱えていた荷物を取り落とした。
そこにあったのは、真っ白なボディに頭部だけが真紅に染め抜かれた高機動軽量級の機体である。
ぶっちゃけた話、先日ポチの機体をズッタボロにしてくれたあのAC『雪狼』の姿があったのだ。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛〜〜〜っ!?あンのACはあああぁぁぁっ!!」
「拙者のACがどうかしたでござるか?」
「何いっ!お前のっAC!?んじゃあお前が先日とんだ勘違いで俺のACをブチ壊してくれた『ホワイトウルフ』だっつうのかっ!?」
「ええっ!?そ、それじゃ貴殿が先日の『ポチ』殿でござったかっ!?」
衝撃の出会いであった。
というか、彼女の外見が『白銀の長髪に前髪の一部だけが紅』というシロモノであり、さらに喋り口調が前回のレイヴンが使っていた古臭い武士言葉である。
最初っから気づけよと言いたい。
まあこういう事が無いとは言い切れないから、下手なトラブルを避けるために金があるレイヴンは直営ガレージを避ける物なのである。
ひとしきり荒れ狂っていたポチだったが、そうそういつまでも咆えてはいられない。
彼はまだ苛々した様子ではあったものの、徐に口を開いた。
「…ったく、こんなガキだとは思ってもみなかったぜ。けど、なんでお前金持ちのくせしてこんな所で、しかも自前で修理してんだ」
「?…拙者金持ちではござらんよ?」
「何言ってやがんだ、あんな高級パーツばっか使いやがって」
ポチはホワイトウルフの台詞を金持ちゆえの謙遜…それも鼻につくタイプの…だと受け取った。
だが彼女は苦笑いして彼の台詞に応える。
「あれは…ほとんど全部が父上の機体でござる故…」
「!」
ポチは、まずい事を言ったという気になった。
ホワイトウルフの父親が何者かに殺されていることは、前回の戦いの中のやり取りで容易に推測がつく。
ホワイトウルフは言葉を続ける。
「拙者が付け加えたのはあの両腕の武器腕だけでござるし、それを買ったら父の遺金はすっかり使い果たしてしまったでござる」
「おま…なんてモッタイナイ…。もっと安いパーツもあったろーに…」
「父の仇を討つため、できるだけ強い武器が欲しかったんでござる…。拙者、どちらかと言うと手数で勝負する質だし…。だから両手ブレードを見た途端、衝動的に…」
あははと笑うホワイトウルフを見てポチは、ああコイツおバカさんなんだ…と心の中で感慨深げに頷いた。
ポチの内心も知らず、彼女は言葉を続ける。
「それで今はもう素寒貧でござる。正直補修部品買ったら作業員の工賃どころか今日の晩御飯もどうしようかと思うほどで…」
「そんで自分で修理してたっつーのか…。俺よりひでぇ赤字体質じゃんか…。高ぇ機体使うからだ…。値段の高いパーツとか売って安いのに換えたらどーなんだ?」
「だっ!ダメでござるようっ!仇の犬飼は拙者はよく知らぬ輩でござるが、父上の話ではかなりの強豪レイヴンっ!拙者まだまだ未熟者故、せめて機体の力ぐらいは落したくないでござるっ!それにあの機体はパーツ一つとっても父上の大事な形見でござる故っ!」
そうは言っても、現実問題としてこの機体扱いきれてねーじゃん、とポチは内心で独白する。
だがこの強情者は言っても聞きそうにない。
ポチは深々と溜息をついた。
「あーったく。…。……。………。だーーーっ!!ちっくしょ、わーったっ!なら俺が修理手伝ってやるわいっ!ったく何で俺がこんなこと…」
「え、ええっ!?悪いでござるよっ!」
「だーってろっ!そのかわりこの貸しは後から身体で返してもらうわいっ!」
「ええっ!?」
ホワイトウルフは、え、でも、その、あの、けど拙者、だけど…などとモジモジしている。
ポチは怒声を上げた。
「働いて返せ言うとんじゃっ!お約束な勘違いしおってっ!」
「な、なーんだ…拙者てっきり…。だ、だけど言い方自体もまずかったと思うでござるが…」
「しゃーらっぷ!…けど終わったらきちんと専門の整備工に見てもらえよ?知識はあっても素人なんだからな。そのぐらいの金額なら利子無しで貸してやっから」
ちなみにポチは昔、修理費を浮かそうと自分で修理してそのまま出撃し、戦場で機体が動作不良を起こしてエラい目にあった事がある。
なんとか生きて帰れはしたものの、彼はその後金銭的にかなり厳しい思いをした。
ちょっとの金をケチって余計に吐き出すハメになったのである。
まあ今となっては、それも彼にとってはいい思い出だ。
…そう思っておかないと、涙が止まらなくなるのである。
ソレはおいといて、ホワイトウルフは感極まったのか涙ぐんでいる。
「ひ、人違いでさんざん迷惑をかけたというのに…。なんと心の広い…。拙者…拙者…」
ポチは彼女のそんな様子に、最初怒り狂っていたことも忘れて苦笑する。
彼はホワイトウルフの頭をぽんぽんと掌で軽く叩きながらフォローの言葉を入れた。
「あー、もーいいっていいって。第一、そっちも襲撃任務の依頼だったんだろ?結局仇だろうが違かろーが戦りあわなきゃならなかったんだからよ。お互いレイヴンなんだからよ、仕方ねーって」
「でも…でも拙者…。『ポチ』というレイヴンが防衛任務を受けたと言う話を聞いて、無理矢理ねじ込んでミッション受けたでござるに…」
…。
……。
………。
フォロー台無し。
「こぉんのバカ犬があああぁぁぁっ!!!」
「きゃいんきゃいんきゃい〜〜〜ん!?」
ポチはホワイトウルフのこめかみに、全身全霊の力をこめてウメボシをくらわせた。
本日のレイヴン情報ならぬオペさん情報:
あだ名:ペス
本名:何故か(笑)不明
備考:レイヴンズ・アークはオペレータ名を公開していない。
というかゲームがそういう仕様になっているので仕方ない。
そういうわけで、ポチにより勝手に『ペス』というあだ名をつけられた。
オペレータとしての能力は高い方なのだが、ここぞという所でポカをやる癖がある。
そのため『役立たず』『頼りにならない』などとご近所の奥様方に大評判。
現在も前回の戦闘(第一話)において本部レーダーを見忘れていたという大ポカにより、減俸をくらった。
ポチとは直接の面識は無いが、そこそこ付き合いが長くなっているのでメル友レベルの友人関係ではある。
(あとがき)
えー、ま〜た何も考えてません(笑)
AC−NB買いました。
で、技量を上げるため日々いそしもうとして…その前にNEXUSで全パーツ集めたセーブデータ作ろうと頑張るハメになりました。
なのでNB、まだサワリ程度しか試してません(^^;
ポチ(仮名)やホワイトウルフ(仮名)も、このトレーニングメニューみたいなシミュレータでさんざん頑張ったんだろうなあ。
あ、ちなみに本作中での直営ガレージ、私設ガレージ云々はぜんぶ私の勝手なでっちあげ設定です。
ということで、レス返しです。
>九尾さん
ポチ違いでえええええす!!!!!!!
あははは。
レイヴン情報にも書いてあったとおり、ホワイトウルフはちょっとおバカさんなのです。
ちなみにPOCHIを投稿しているサイトは「Canis Major」様です。
今、諸般の事情により一時消滅中で、復旧作業中とのことです。
復旧した時にはURLが変わっている(ジオシティーズから別の所へ行っている)可能性大だそうです。
>D,さん
ブルジョア犬だったのは親父さんです(笑)
ホワイトウルフ(仮名)さんはちょっとおバカさん♪なだけです。
>Pr.Kさん
やってみようとしました…。
腕が三流だったので無理でした…(涙)
せ、せめてジェネレータとブースター、そして火器は強力な物に換装しないと(涙)
>朧霞さん
シロはエクステンション使う事なんかスポーンと忘れますから。
タマモがいくら言っても、彼女おバカさん♪ですんで。
腕『だけ』はいいんですけどね、操縦と射撃『だけ』は。
ちなみにNEXUSだとハンガー付きコアで指マシンガンを格納しておくと、保険にいいですね。
でも普通のマシンガンは使いづらいですね(^^;
>極楽鳥さん
ええ、シロはペース配分苦手ですねぇ。
熱暴走もしかけてるでしょうね多分。
エクステンションに電池積んでるんですけどねぇ…。
使うの忘れちゃあただのデッドウェイト(爆)
ちなみに私はガチタン乗りです。
操縦苦手で回避苦手なので(^^;;;
グレネードや特大レーザー砲やらプラズマライフルやらEOコアやら駆使して足止めて装甲の削り合いに持ち込んで…。
横島君に滅茶苦茶言われる戦法ですねぇ…。
>無貌の仮面さん
私は逆にNEXUSから入ったヒトなんですよ(笑)
逆に3までは二次小説とかネットでの情報とかでしか知らないですけど、ストーリー的な面ではNEXUSよりも深いかもしれませんと感じましたね。
ちなみにNEXUSでは機動戦は不利になってるという感想を聞いた事がありますね。
>NEXT