「時」
俺は言葉とともに念をこめる。
文珠は反応して、その中には時という文字が浮かびあがる。
「間」
同じく次の文珠に念をこめていく。
間という文字が文珠に浮かびあがると同時に、皆の顔を思いだす。
最初に会いに行ったのは両親だ。
二人は元気だった。俺の顔を見て笑ってくれた。
でも別れる時は涙を流しながらだった。
わかってくれたかどうかはわからない。
でも自分の思いは伝えることができたと思う。
「移」
次に行ったのは学校だ。
彼らにはなぜ会えなくなるかは話さなかった。ただしばらく会えなくなるとだけ話した。
海外にでも行くのかよ、横島のくせに生意気だと殴られた。
殴られながら俺は笑った。友人は殴りながら笑った。
「動」
小鳩ちゃんは泣いていた。
彼女を思い浮かべる時はついつい泣き顔が浮かんでしまうのだが、そのイメージのどれよりも悲しそうな顔だった。
貧乏神(一応福の神)が彼女を慰めていた。思えばこいつのせいで・・・いや、おかげでか。俺は彼女と結婚までしたんだ。それがずっと遠い昔の出来事のように思える。
俺が隣の部屋に帰ってからも彼女は泣いていた。
「1」
教会に行った。
あいかわらず貧乏くさかった。
もちろんお祈りに来ている人などいない。
神父は空腹からかうつろに笑い。
隣にいるピートはきざなポーズをとりながら薔薇から栄養分を吸い取っている。
俺が事務所を辞める時、二人は心の底から心配してくれた。
そして今回のことを話した時、神父は言ってくれた。
「それが君にとって何よりも大事なことなんだね。それならばやりなさい。やって何が得られるかなど考える必要などないんだよ。」
初めてだった。この事を認めてくれた人は。
たぶん他の誰がこの言葉を発してもこんな気持ちにはならなかったと思う。
やっとこの人の凄さがわかったように思う。
ピートは神父の側でうつむいていた。
俺はピートに雪乃丞への伝言を頼んだ。あいつは仕事と修行の為に海外に行っていて会えなかったからだ。
教会を出る時にピートは必要以上に力をこめて握手をした。痛いと言っているのになかなか離さなかった。
「9」
妙神山に行った。
短期間にこれだけ力をつけることができたのは、彼女、小竜姫のおかげだ。
彼女は俺の目を見ながら言った。
「美神さんを見たらわかると思いますが、時間移動は決して万能ではありません。それどころか危険きわまるものです」
そこでいったん話を止め、そっぽを向く。
「もしそんなに万能で簡単なものが美神さんの力でできたとしたらどうなると思います。
はるか昔から人間は賭け事が好きなものですが、その結果がすべてわかっていたとしたら」
和製バック・トゥ・ザ・フューチャー2といったところか。未来の情報で結果のわかっているギャンブルで得た莫大な金で世界を支配する美神さん・・・まったく笑えない。
「あの美神さんが危険すぎてやらないことをあなたはやろうとしているのですよ」
そう言ってから再び俺の目をのぞきこんでくる。
だがそこに彼女の望むものがないことがわかったのだろう。
「おそらくあなたの今の力では9個の文殊を同時起動できる可能性は五分に達しません。ましてあなたの望んでいることといえば、目を閉じたまま糸を針の穴に通せる可能性より低いでしょう。
文珠は人間が使える術の中ではかなり強力ではあります。ですが決して万能ではありません。私とあなたが10度戦ったとしても、そのすべての戦いであなたは地に伏せることとなるでしょう。ましてあなたの相手はその私が100度挑もうとも勝てぬ相手なのですから」
「そうかもしんないっす。けど0だった可能性をそこまであげてくれたのは小竜姫様のおかげです」
「横島さん。いえ、それ・・・」
「この恩に報いる為には・・・
もーこの肉体をさしだすしか・・・!!」
本家に勝るスピードのルパンダイブで小竜姫にとびかかる。
その一瞬で上半身は裸だ。当然下はパンツ一枚のみ。自分で言うのもなんだがこれはまさに神技といえるのではないだろうか。
しかし俺のスピードすら追い抜くスピードで彼女のカウンターが顔面に入る。
轟音と共に体が壁に埋まる。
「な、なにをするんですか!!」
激昂する彼女に、
「最後の修行、ありがとうございました。気合入りました」
へろへろになりながらもなんとか笑みを浮かべて言った。
「9」
事務所に行った。
シロとタマモがいた。
相変わらず言い争いをしていた。
本当は結構仲がいいくせに。
俺が事務所を辞める時、シロは泣いて反対した。自分も辞めて俺の家に来ると言われた時には困った。困ったが少し嬉しかった。
タマモは好きにしたらと言った。だが、それからしばらくの間会っても喋ってくれなかった。
今日、二人はどんな反応をするのだろうか。
「7」
二人は力ずくでも行かせないと、シロが霊剣をふりまわし、タマモは妖火を放つ。
こんな時だけ二人の息はぴったりだ。
小竜姫様の修行を受けていなかったらここで計画は終わっていただろう。それくらい二人は強かった。
なんとか二人に「眠」の文珠をうちこんだ時、おキヌちゃんが部屋に入ってきた。
あまりの部屋の惨状にびっくりしている彼女にも二人と同じ様に俺の思いを伝えた。
話ながら彼女の事を考えていた。彼女は初めて会った時、幽霊だった。それがこうして今生きている。すごいことだと思う。
この仕事を始めてすぐの頃から一緒にいた。表情豊かな彼女と一緒にいるのは楽しかった。
彼女の作るご飯を何度も食べた。彼女は幽霊の時にもときどき俺の家に料理を作りにきてくれていた。おいしかった。とても・・・。
彼女は俺の話を全部聞いた後、言った。
「私、待ってます。待ってますから・・・」
抱きついてくる彼女が泣きつかれて寝てしまうまで俺は彼女を抱いていた。
「年」
俺は最後に美神さんに会った。
そこには隊長もいた。
「何か用?」
ぶっきらぼうに言う。辞めてから随分たつがまだ怒っているようだ。
俺は話した。何故事務所を辞めたのか。何故時間を移動するのか。そして何故・・・。
話終えた後、美神さんは俺から目をそらした。
そして何も話してはくれなかった。
隣にいる隊長はそんな美神さんを見て一つ大きくため息をついてから俺の方を見る。
「横島くん。私に対して怒っている?」
そう聞いてきた。
「もし未来の歴史を知っていた私が話していたら、ひょっとしたら彼女は死なずにすんだかもしれない。そう思ってない?」
「そ、そんな事思ってないっすよ。ほんとです」
嘘だった。
言われた瞬間、心の底からわきあがる気持ちを必死に抑える。
「そのとおりよ。その知識があればわずかとはいえ彼女が助かる可能性はあったわね」
必死にそう思うことを止めようとしていることを隊長はあっさりと認める。
やめろ・・・やめてくれ!
「別に否定することはないわ。未来の知識なんて便利なものがあったらそれは大きな武器になったはず・・・」
「やめろ!!」
思わずどなってしまう。そしてどなってしまった自分に愕然とする。首をふってから言った。
「そんなこと考えてませんよ。あなたのせいじゃないです。俺に、そう、その時俺にもっと力があったら、作戦を考える頭脳があったら。そう考えているだけですよ」
とても隊長の顔を見る事ができなかった。
拳を握りしめ、なんとか自制しようとする。
「横島クン」
隊長はまったくいつもどおりにそう呼びかけた。
「でもね、私はそうしなかったことを全く後悔していないわ。
私は神でも悪魔でもない、ただの人間よ。万能の超人じゃないわ」
そのとおりだ。
そしてもちろんそれは俺も同じことだ。隊長は俺がおこなおうとしていることは万能の超人でもなければ無理だといいたいのだろうか。それとも文珠を使うことで何でもできると俺が錯覚していると指摘したいのか。
「そんなただの人間の私にも守りたいものがあったの。その為にはなんでもする。ほんとうになんでもする。その覚悟だけはあったわ」
「隊長」
俺はようやく隊長のほう見ることができた。
「私は家族を守りたかった。夫のこと、そしてこのお馬鹿さんをね」
そう言ってそっぽを向いたままの美神さんの頭を抱き寄せる。
「そして私はほとんど奇跡にも近い可能性の中、守ることができた」
「・・・」
もしも彼女が体験した過去のとおりに現実が進まなければ。もしその流れを逸脱し、自分が未来の知識などを話したらならば・・・ひょっとすれば美神さんは死んでいたかもしれない。世界はアシュタロスの手で滅ぼされていたかもしれない。
そう、未来の知識というのは間違いなく大きな武器にはなっていただろう。しかしそれが本当に確実にアシュタロスを倒すことに結びつくか?
答えはもちろんNOだ。
それよりもその力を得たせいで不確定の未来になっていれば、確かにルシオラが助かる可能性もあったかもしれないが、それこそアシュタロスが勝利し、俺たち全員殺されているかもしれない。いやおそらくその方の可能性の方がはるかに高いのだ。それだけあいつはあの戦いの中で他の存在を圧倒していた。
今この世界はほんのわずかな細い、細い紐をたどってついたものだ。そしてたどりついた世界は隊長にとってみれば何よりも願っていたものなのだろう。
彼女は決して俺の気持ちを無視してこう言っているわけではないだろう。俺が今まで気づかなかったことの方がおかしいとさえいえる。自分の事以外にまったく目が向いていなかった。自分の事しか考えていなかった。
もし俺が彼女の立場だったら・・・。俺はどうしたか?
少しでもそれを想像したら彼女のとった行動をいったいどう責められるのだろう。
「だけどね。それであなたに私のことを怒るんじゃない、なんてことを言うつもりはないわ。私の行動を理解する必要なんてないの。
そしてこれからあなたがとる行動を私は止めることもしない」
その言葉は神父が言ってくれた言葉に似ていた。
隊長は美神さんの頭をもう一度抱きしめ、そして軽く2,3回叩く。そして手を離すと椅子から立ち上がった。
「がんばりなさい、横島クン。ほら男のコなんだから胸をはって。やることをやって・・・そして帰ってきなさい」
隊長は俺に手を突き出した。
俺は強く、強くその手を握った。
そして隊長はそっぽをむいたままの美神さんの方を見た。
「令子」
「・・・・・・」
隊長は美神さんを促すが、彼女はまったくの無反応だ。
「令子」
「・・・・・・」
もう一度呼ぶが、結果は同じだ。
「いえ、隊長いいっす。
美神さん!俺ちゃんと帰ってきますよ。
帰ってきたら一番にここに報告に来ます!」
そう言って俺は笑顔を浮かべた。
ガッツポーズをしてから俺はゆっくりとドアを開け部屋から出て行った。
美神さんは何も言ってはくれなかった。
いろいろな思いが胸をいっぱいにし、俺はドアの外で大きく頭を下げた。
「・・・・・・美神さん」
俺の目に初めて涙が浮かぶ。
殴られて痛いからといったものとはまったく違う涙だ。
ぐっと唇をかみしめる。血がでるほどかみしめ、そして再び歩きだした。
玄関付近でもう一度二人と会った。
シロとタマモだった。
文珠の眠りの効果はまだ続くはずだった。いくら人狼や妖狐といえどもこんなに短時間で効果を抜けるなど無理なはずだ。
とはいえこれは現実だ。
もう一度二人と戦わなければならない。
そんなことを望んでいるわけがない。シロに斬りかかられるのも、タマモに火を浴びせられるのも。そしてなによりも俺が彼女たちを傷つけることもだ。
だがそうしてでも俺にはやらなければならないことがある。
「悪いけど、そこを通してもらう!」
そういって身構える。
だが意外にも二人は首を振る。
そして言った。
「もう止めないでござるよ、先生。がんばってきてくだされ!」
シロがそう言って疲れたような笑みを浮かべる。いつもの彼女の力いっぱいの笑顔とはもちろん違うが、それでも笑みをみせてくれたのだ。
「ヨコシマ、あんたがどうしてもそうしたいっていうなら止めないよ。私達の時は人間よりもはるかに長い。その長い時間のほんのわずかの間だけなら待っててあげるわ」
タマモは壁によりかかったままそう言った。
「・・・・・・。
ありがとう。二人とも」
心の底からの感謝だ。
俺がそう言うと同時に二人とも糸のきれたあやつり人形のように地面に倒れこんだ。
「な!シロ!タマモ!」
あわててかけよるが、二人は寝ているだけだった。
文珠の効果がこんな短時間できれるわけがなかったのだ。
それをどうやったのか、俺にこの言葉を伝えるためだけにここに来たんだろう。
そんな二人の気持ちが伝わってくる。
「本当にありがとう・・・」
そして俺はきれいな夕日が見えるビルの屋上にいた。
「時間移動1997年」
俺の言葉に反応して9個の文珠が光り輝く。その光の中に俺の体が呑み込まれていく。
あの時に戻りたいと強く願う。
あの過去をやり直したいと強く願う。
そしてここに帰ってきたいと・・・強く願う。
その気持ちとともに俺の体はこの時代から消えていく。あの時見たのと同じくらいきれいな夕日をもう一度見たいと顔をあげる。
・・・そこには・・・
「み・・・美神さん・・・」
そう何もしゃべってはくれなかった美神令子がそこに立っていた。
俺はここで時間移動をおこなうなんて彼女に言ってはいない。
でも彼女にはわかっていたのだろう。
当たり前だ・・・・・・彼女は美神令子なのだから。
「横島っ!!!」
何度呼ばれたかこの声で・・・。
「あんまり遅かったら給料さげるからね!!!」
何度嘆いたかこのセリフで・・・。
「行ってこぉ〜〜〜〜いっ!!このバカぁ〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
一番聞きたかった言葉を最後に俺の体が完全にこの時代から消え去った。
「行ってこい・・・このバカ・・・」
一人になったビルの屋上でそうつぶやいた彼女の瞳に浮かんでいたのは・・・・・・。
俺がいるのは暗闇の中だ。
海の中のように感じる。体が闇の中で漂う。
俺は最初の時間移動を思いだす。あの時は感電した俺が美神さんに触れ、そして次の瞬間そこは中世だった。
そうほんの一瞬でついたはずだ。
だが俺はずっとこの闇の中で身動きすらできない。
どうにもならないこの無力感。
文珠をだそうとしても出すことができない。それどころか指先一つ動かせない。
俺は失敗したのだ。
そう悟る。
文珠の制御に失敗したのか。それともそもそも文珠の力では時間移動などできないのか。それはわからない。
だが、そう・・・・・・俺は失敗したんだ。
なんとなく思う。
ここは時の流れそのものなのではないのだろうか。
俺は時間の流れを越えようとした犯罪者。だから時の監獄にいれられている。
・・・・・・そうなのかもしれない。
・・・・・・・・おやじ・・・おふくろ・・・美神さん・・・おキヌちゃん・・・シロ・・・タマモ・・・小竜姫様・・・小鳩ちゃん・・・神父・・・ピート・・・雪乃丞・・・学校のやつら・・・・・・・・・。
「みんな・・・・・・ごめん」
動かない口で謝りの言葉を発した瞬間・・・俺の体はこの闇の中からも消え去った。
○○○! 序章 完!!
・・・・・・で終わるわけはない。
突然この闇から俺の体は消えた。それはすさまじい力でひっぱられたからだ。
海の底から足首をつかまれたような恐怖感。そしてビルの屋上から落ちていくような感覚を味わいながら俺は悲鳴すらあげられずどこまでも落ちていく。
辺りが急に光があふれ・・・そして俺はここにいた。
かすむ目をこすりまわりを見る。
ようやく目の前に人がいるのがわかる。
白く長い髭の老人、黒いローブを着、手には杖を持っている。その姿は映画などで見る、まさに魔法使いだった・・・。
ふと足元を見るとそこには変な模様がある。
三角形を二つ重ねた星・・・六芒星?
「って一体俺はどうなったんだ?ここはどこなんだ?」
今まででなかった声がでた。
そして老人が髭をこすりながら言った。
「麻帆良学園にようこそ!霊能先生ただマ!
歓迎するぞ」
「・・・・・・何じゃそりゃぁ〜〜〜〜〜!!!!!!」
ただマ! 序章 完
あとがき
というわけで序章三部作完結になります。
この作品にお付き合いくださったことに山よりも深く、そして海よりも高く感謝しております。突っこんで下さい。スルーはノーサンキューな方向でレッツゴーしてください・・・・・・私は病んでます。
一応ほぼ書きたい流れで書くことができましたので自分としては満足しております。序章1,2にいくつか伏線をはっていたのですが、皆様いくつわかっていただけたでしょうか?もし1,2を読まれてからこの3を読んだ時、「なに!」と驚いて頂けていたら作者として感無量です。
前話のレス返しをさせていただきます。レスありがとうございました。
ウロボラスさん
はじめまして。あっさり最初のレスで大当たりです。ばればれでしたか。一応生徒たちの罠にひっかかるところは○○☆やつらの花○先生のシーンのイメージで書いてみたんですけど(爆)
ファルケさん
ぬーべーもいいですね〜。むこうも幽霊ものなのでむしろこちらの方がスムーズにいけたかも。
tetuさん
なつかし〜ですね〜。今回は霊ものじゃなかったりするんで。
坊主さん
はじめまして。
ごめんなさい。あの次回予告はなんちゃって予告なんで今回の話と全く違うものです。
予想は大正解です。あっさりばれちゃいました。
binさん
横島がジーサスの世界か〜。難しいっすね。読みたい気もしますけど。
続きもがんばりますのでよろしくお願いします。
水カラスさん
>学校と言うことは女子高(横島のなかではそうなっているはず)。
実はこの感想を見た瞬間プロット全部放棄して水カラスさんの推理したあずまんがにしよっかなと思ったのはここだけの秘密です。もしそうするなら横島を木村先生の位置にするよりも木村先生と2大巨頭(なんのだ)になってほしいですね〜。
それでは最後にGS美神極楽大作戦!!をこよなく愛する方々に
「ありがとうございました!!」
そして最初に魔法先生ネギま!をこよなく愛する方々に
「こんにちは!!!!」
たぶん本気で続き書きます。というかネギま!とのクロスオーバーを書きたいと思いつき、どういう理由づけで横島をネギま!の世界にひっぱりこもうか考えていたら突然電波がやってきて、こうなってしまいました。まあつまりこの3などは書く当初、全くプロットに入ってなかったものだったりします。それがここまで長くなるとは・・・。自分の力量不足に嘆く前に笑ってしまいます。
次の話からは本当にクロスオーバー作品としてネギま!の舞台の上で横島が悪戦苦闘することになると思いますが、まだまったく書いていないのでもうしばらくお待ちいただけると幸いです。
以上 作者 お!?でした
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