第1話「激動の予感」
皇国暦409年
災厄は辺境からやって来た。
ある日トランスバール皇国軍第一方面軍所属の偵察艦が正体不明の艦隊と遭遇。
情報収集のためその艦隊に接近した偵察艦は攻撃を受ける。
偵察艦は撃破されるその瞬間まで職務を遂行し、その犠牲を引き換えに皇国軍は非常に重要な情報を得ることができた。
最低でも500隻を超える艦隊であること
艦艇の外観が皇国軍の艦艇と非常に酷似していること
艦隊内の通信の集中から見て、大半が無人艦であること等・・・
皇国軍総司令部はこの艦隊に「黒の艦隊」と名付け『敵』と認識した。
直ちに第一方面軍主力艦隊に出撃命令が下る。
第一方面軍主力艦隊はおよそ1000隻で編成されている。
単独でも「黒の艦隊」は撃破可能かと思われたが、敵の総数が断定できないため、第一方面に駐屯する8個の機動艦隊(各100〜150隻)も合流する事になった。
「黒の艦隊」討伐艦隊は総数2000隻を数え、近年に類をみない大艦隊となった。
2000を超える戦舟(いくさぶね)が堂々たる布陣で一路辺境に向かう。
討伐艦隊を送り出した事で皇国軍総司令部は勝利を確信し、後は「黒の艦隊」の背景を調査するのが次の仕事だと考えた。
だから、数日後に届いた一通の通信は誤報だと皆思った。
否、思わなければならなかった。
己の精神の平衡を保つために・・・
討伐艦隊 壊滅
第一方面軍総司令官にして討伐艦隊司令長官のガルシア・ゴップ・ワイアット大将は乗艦である戦艦「バーミンガム」共々宇宙の塵と化し、艦隊の半数は撃破され、残存する艦艇も多くが損傷していた。
辛うじて本星に生還した艦が報告したのは、信じられない、しかし覆せない真実だった。
戦闘開始時「黒の艦隊」の総数は800隻程に膨れ上がっており、討伐艦隊が増強されていなければ微妙な結果になったかも知れない数だった。
ワイアット大将は総司令部の判断が正しかったのを安堵し、改めて戦闘に突入した。
当初は圧倒的に討伐艦隊が有利だったのだ。「黒の艦隊」は数に押され、後退を繰り返したのだった。
しかし、ここで調子に乗って追撃したのが破局の始まりである。
事態の発端となった、偵察艦が撃破された宙域まで進軍した討伐艦隊は悪夢をみることになる。
見渡す限りの
「敵」「敵」「敵」「敵」「敵」「敵」「敵」「敵」
「敵」「敵」「敵」「敵」「敵」「敵」「敵」「敵」
「敵」「敵」「敵」「敵」「敵」「敵」「敵」「敵」
「敵」「敵」「敵」「敵」「敵」「敵」「敵」「敵」
「敵」「敵」「敵」「敵」「敵」「敵」「敵」「敵」
10000隻を数えるかと言う、宇宙を覆う大艦隊。
その洗礼を彼ら討伐艦隊は受ける。
障害を排除し、無人の荒野に等しい第一方面を「黒の艦隊」が疾風のごとく駆け抜け、「黒の艦隊」は真っ直ぐにトランスバール本星を目指していた。
皇国軍総司令部は恐慌状態に陥った。
まさか討伐艦隊が敗退するとは想像だにしていなかったので、各方面軍主力艦隊や各機動艦隊には警戒態勢を取らせただけであって、各拠点を動いていない。
「黒の艦隊」がトランスバール本星をその眼前に捕らえたとき、その宙域には本星を守護する近衛艦隊と、急遽かき集められた7個機動艦隊が布陣していた。
総数はおよそ1800隻。
対する「黒の艦隊」は前衛だけで5000隻。
まさに鎧袖一触
本星の皇族ですら退避する時間を与えられなかった。
皇国軍は攻撃衛星や防御施設の存在もあり、数の割りには善戦と称して良い戦いをしたが、無尽蔵に戦力を送り込んで来る「黒の艦隊」に戦線を突破されついには壊滅。
制宙権を確保し、トランスバール本星を封鎖した「黒の艦隊」は次の行動に出た。
「黒の艦隊」から無数の惑星強襲艦が進み出て、トランスバール本星に直接降下したのだ。
電光石火の勢いで重要拠点は制圧され、首都トランシアの皇宮も陥落。
見慣れぬ軍隊に人々は怯え、ただ状況を見守るしかなかった。
やがて占領軍がありとあらゆる情報媒体で人々に名乗りを上げた。その名は・・・
正統トランスバール皇国
続いて主導者が人々の前に姿を現した。
エオニア・ティオス=ヴィレ・トランスバール
かつて「皇子」と呼ばれ、第一皇位継承者だった男である。
第二方面イラエス星系
トランスバール本星から遠く離れたこの星系から物語は本格的に始まる。
イラエス星系には50数隻の艦艇が集まっていた。
トランスバール本星の事変に不安を感じて、近辺の艦が集結して身を寄せ合っているのだ。
大半が駆逐艦であり、軽巡航艦や重巡航艦の姿はほとんど見えず、戦艦にいたっては一隻だけだ。
第二方面軍クリオム星系駐留艦隊旗艦 戦艦『アストライア』
「ですからっ!」
艦橋に響き渡る女性の声。
オペレーター達は普段からは想像できない司令官の激昂した声に顔を見合わせる。
彼らの敬愛する司令官は普段は穏やかに、そして不敵に微笑んでるべきなのだ。
肩にかかる黒髪をかき上げながら彼女は言った。
「可及的速やかにイラエスからウィンブルまでの各星系に機動艦隊を派遣し、エオニア軍の動きを牽制すべきです」
正面のモニターには司令官の激昂の原因が写っていた。
第二方面軍総司令官 ベルナルド・フォン・クリフト大将。
「白き月」飛来以前からの貴族階級に与えられる「フォン」の称号を持つ男は言った。
「准将、君の言いたい事も解らないでもない」
しかし、とクリフト大将は執務室の椅子に座りながら言う。
この非常時に、司令部にすら詰めていないのだ。この男は。
「エオニアは皇国軍全体に投降を呼びかけている。いま不要な動きでエオニアを刺激すべきではない。
現に第四方面でイザコザが起こって、無用な犠牲が出ている。
状況が落ち着き、向こうから交渉してくるのを待つべきだ」
エオニアは本星制圧後、新政権の樹立を発表して各地の皇国軍に新政権への恭順を促している。
クリフト大将は第二軍の戦力を背景にエオニアとの交渉を行うつもりなのだろう。
反皇国感情が薄く宇宙海賊も駆逐されきった第一方面とは違い、第二方面では海賊対策のため第一軍に倍する戦力を保有していた。
主力艦隊だけで2200隻。第二方面の各重要拠点に駐屯する機動艦隊を合わせれば4000隻に届くだろう。
エオニアとてこれだけの戦力に無闇に戦いを挑みもしまい。
数的に優位とはいえ、決して軽い損害では済まない。また、全戦力を第二方面だけに向ける事は無いはずだ。
電撃作戦で本星を制圧したとはいえ、第二・第三・第四方面の艦隊は未だ無傷なのだから。
「本星陥落直前に近衛艦隊が貴人を伴って突破を試みたのは確かです。
彼らを援護する意味でも、皇国軍が無力でない事を示すためにも出撃すべきです」
いざとなったら自分が指揮を。と、彼女の目は語っていた。
准将といえば一個機動艦隊の指揮官を務める階級だが、准将に成りたての彼女の艦隊は目下編成の途中である。
それまでのツナギとして、辺境の星系駐留艦隊司令を勤めているのだ。
「しかしマイヤーズ准将・・・その情報の出所は確かなのかね?未確認情報では艦隊を動かす事はできんよ」
「情報部に所属する知人からの確固たる情報です」
マイヤーズと呼ばれた女性は、怒鳴りたい衝動を必死に堪えながら言った。
171cmの均整の取れた体を司令席にもたれかかせて続ける。
「エオニア『元』皇子がどう言おうと今回の騒ぎはクーデター、もしくは叛乱です。
その結果できた政権に軍が頭を垂れることは、皇国国民に対する裏切りだけではなく、反体制派を勢い付かせる事にもなり、皇国の治安が一気に悪化する恐れがあります」
エオニアは力で事を成した。それが問題だと、彼女は言った。
「近衛艦隊が保護した貴人が皇族の方であれば、我々は反撃の旗頭を得る事ができます。
皇族に率いられた軍が叛乱を速やかに鎮圧すれば、反体制派も大人しくしているでしょう。
皇国の未来と軍の名誉を考えるならば、エオニアに降るべきではありません」
彼女は淡々と自分の考えを述べる。
しかし内面は、いかに自分をエオニアに高く売り込むか考えているだろうクリフト大将を説得するかで必死だった。
彼女の説得にクリフト大将はじっと耳を傾けていた。
エオニアに降り安穏な生活を送るか、苦難の道を選び英雄の称号を得るか。
名誉欲が強い事で有名な男はしばしの沈黙の後こう言った。
「・・・マイヤーズ准将。君に第33打撃艦隊と、第35機動艦隊の二個艦隊を預ける。
君の判断で最良と思える行動をしたまえ」
「・・・了解しました」
艦隊との合流時間等の調整を話し合い、通信を終える。
「・・・ふぅ」
力を抜いて眉間を軽く揉む。
精神的に疲れる会話だった。
「日和見主義者の気持ちも解らないではないけど・・・」
そんなふうに呟く彼女に、スッと紅茶の入ったカップが差し出される。
「お疲れさん。タクト」
「あら、気が利くわねレスター」
さっきまで遣り取りを黙って聞いていた副官──レスター・クールダラスが呆れたように言う。
「よくもまぁ皇国でも四人しか居ない大将にああまで強気に出られるもんだ」
自分の分のカップに口を付けながらレスターは肩を竦める。
ここ数年で、すっかり紅茶の淹れ方が上手くなった友人にタクトと呼ばれた女性は不敵に笑う。
「宮中序列を持つ貴族将官の悲しき習性ってやつかしら?でも相手もちゃっかりと責任回避の布石は打ってたけど・・・」
しっかりと「君の判断で」と言ったクリフト大将を思い出す。
「事態がうまく運べば自分の功績。悪くなればオマエの責任か?」
「解りやす過ぎて、逆に好感が持てる言い方だったわ」
ニヤリ
口の端を片方だけ吊り上げて微笑む。
士官学校に入る前から付き合いがあるレスターはクリフト大将に同情した。
この笑みを向けられて幸せになった者を、彼は、シラナイ。
「しかしクリフト大将も言っていたが、近衛艦隊云々は確かな情報なのか?
本星が制圧された経緯から言って、一度敗退した艦隊が包囲網を突破出来るとはおもえんが・・・」
ふと、レスターが言う。
「近衛艦隊に居るでしょ。不可能を可能にする名将・・・と言うより猛将が。
もっとも、最近は冷や飯食べさせられてるみたいだけど・・・」
タクトがそう言うと、レスターは何か思い付いたらしく「あっ!」と声を上げた。
「『辺境の荒獅子』・・・久しぶりに本領発揮といったところかしらね・・・」
タクトがそう呟き、カップを飲み干すのと同時にオペレーターが緊張した声を上げる。
「哨戒中の偵察機から入電。所属不明の艦隊を発見したとの事です。
数は約120隻!戦艦、重巡を複数確認。このままではあと二時間後には接触します」
それを聞いたタクトは紅茶のカップをレスターに渡すと、静かに問いかけた。
「どう思う?」
カップを片付けながらレスターは言う。
「エオニア軍の偵察艦隊といったところじゃ無いか?」
「ま、そんなところでしょうね」
相手に牽制を掛けたいのはどっちも一緒という訳だ。
ここイラエス星系は、第二軍本部のティターニ星系より本星に近い。
先程タクトが艦隊の派遣を主張した星系と同じくらいの距離だ。
ともかく、独自行動の許可を貰ったからにはかなり好き勝手に動く事が出来る。
「レスター、第33打撃艦隊と第35機動艦隊との合流時間まであと何時間?」
「あと五時間と言った所だが・・・
まさかこちらから仕掛けるつもりじゃあるまいな?」
「まさか・・・」
タクトはそう言うが、レスターは疑うような視線変わらない。
「ギリギリまで引き付けて、一撃加えたらとっとと逃げるわ」
「その一撃が余計なんだ・・・」
レスターがそう言ってコメカミを押さえる。
とは言え、敵は友軍との合流地点までの進路を遮る様に進路をとっている。
友軍との合流を考えれば一戦は避けられないだろう。
「大丈夫よ。この艦(こ)の奥の手で道を切り開いたら、後は逃げに徹するわ」
そう言ってタクトは──皇国貴族の中でも名門の誉が高いマイヤーズ公爵家の長女は笑った。
「・・・もっとも」
ニヤリと。
「この、タクレティア・S・フォン・マイヤーズが何時までも敵に背中を見せる事は無いけどね」
そして艦橋に戦女神の号令が響く。
「総員第一級臨戦態勢っ!」
この時タクトことタクレティアは二十一歳。
後に「エオニアの乱」と呼ばれた皇国史上最大の内乱に、最初の一歩を踏み込んだ瞬間だった。
後書き
思わず自虐的なアイサツをしそうなアーベンです。
途中、尻尾巻いて逃げようとしたのは秘密です。
1話だけで四回位書き直しましたよ・・・それでもコレか(汗)
改めて思いました・・・
SSを書くって難しい!
さて、次回からは動きが激しくなります。(予定)
もう説明文とはオサラバだっ!(予定)
タクトの指揮が冴える艦隊戦が主軸の次回にご期待下さい。(予定)
キャラ補足
タクレティア・S・フォン・マイヤーズ
・ある事情で原作より(は)仕事熱心。
・准将で公爵令嬢と、原作よりランクアップしている。
・ビジュアル的には「空○境界」の両○ 式。表情が豊かで髪はもう少し長い。(難しいな・・・)
・愉快犯的な行動を取る。
・服装的には黒のスカートとストッキングが相違点。(マントは変かな?)
・エオニアと同じく名前が長くなったのは、高貴な者の義務(笑)
・ポニーテール案は諸々の事情により没
レスター・クールダラス
・タクトが女性な分、気を使ってる。
・紅茶を淹れるのが上手い。
レス返しです
九尾さん
ヴァンドレットですか〜。
1st、2nd共に数話見ただけですわ・・・おもしろかったですけどね。
戦闘シーンはGAに乱入させても違和感が少ないでしょうね(人型兵器がネックかな?)
え〜と、クロスワールドって言ったせいで誤解したのなら申し訳ありません。
この作品は、『GAの世界』に他作品のキャラが、違和感の少ない立場で参加する事を考えております。今の所大掛かりな世界融合は考えておりません。ご意見ありがとうございました。
また、期待してくださるのは本当にうれしいです。
SSともいえないモノですが、辛抱強く見守っていて下さい。
あと・・・はい。まさかです(笑)あ〜余計な事書いちゃったなぁ。
・・・はっ!シヴァの方かもしれないじゃないかっ!(爆)
シンペイさん
大宇宙の摂理に従ってタクトです(笑)
せめてSSとして読めるようにがんばります。
D,さん
真面目っつーよりスレた感じになりましたが・・・
SRW MXで、タクト(中味)が大活躍(笑)でも、黒タクトねぇ・・・ククッ(謎)
デルムリンさん
期待外れになりそうな予感(汗)
次はっ、次はガンガルから〜!
能力的にはかなり戦闘面に偏らせるつもりです。
貴族の嗜み系の技能はありそうですが・・・
無虚さん
艦名はパクろうかな?(笑)
ノーマッド(出演未定)がロステクならキャルだって!!!
豪さん
アニメですか〜(遠い目)
ウォルコットは異名通りの活躍を!
・・・させたいな〜。
スクーター乗って変形合体等はしませんが(苦笑)
出番は考えてあります。
ウチのタクレティアちゃん、一筋縄ではいきませんよ〜?
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