東京都某所にある、五階建てのテナントビルの前にて。
「…事務所前にとりあえず一枚…! あとは、求人情報誌にでも……」
一人の女性がそんな事を言いながら、壁に一枚の紙を貼っている。
彼女が今しがた貼った紙には、「アルバイト募集」と書かれている。つまりは、その通りである。
ビルの前を行きかう人々が、ちらちらとその女性に視線をやっている。
…それもそのはず。
腰まで伸びた亜麻色の髪。モデルも顔負けのスタイルに、時代錯誤なボディコンシャスを着込んでいる。
そして、整った顔立ち。
女性でも目をやらずにすまないのだ。道を行きかう男性の視線が彼女を嘗め回す…のも仕方ないといったところか。
…まあ、当人はそんな物も気にせず、腰に手を当ててそのビルを眺めていた。
――彼女の名前は、美神令子。GS資格を取得後、師匠の下から独立したばかりである。
彼女はやっと念願の個人事務所を手に入れ、満足そうな笑みを浮かべていた――。
…と、そこへ。
「一生ついていきます、おねえさま―――ッ!!」
彼女の背中に、飛びつく人影がある。
「わあああっ!? 何すんのよ変質者っ!!」
彼女―美神―は、持ち前の運動神経でしっかりと抱き付かれる寸前に、人影を払い落とした。
どしゃっ、と何かが地面に落ちる音が聞こえ、美神はくるりと音の方向を振り向いた。そして、視線を足元にやる。
美神の足元には、高校生くらいの女の子が倒れていた。
「ちょっと、あんた…」
大丈夫、と声をかけようとすると、いきなりその子が起き上がり、こう言い出した。
「すいません、違うんです! 『雇ってください』と言うはずが、近づいたら余りのフェロモンで我を忘れて!!」
…ぶっ飛んでいる。というか、女性でもフェロモンに当てられるのだろうか。
……まあ、こんな突っ込みはおいといて。
「どーゆう自我の構造を―――……! 雇うって…あんたを?」
反射的に言い返した美神は、少し思考をめぐらした後、ぽつり、と歪んだ目のままで尋ねた。
「も…「あとでこっちから連絡するから!」
それに反応して、立ち上がった女の子は口を開いた…が、美神の台詞によって、次の言葉をふさがれた。しかも、台詞をふさいだ本人は、軽く手を上げその場から立ち去ろうとしている。
女の子は、焦ったように声を出した。
「ああっ!? 連絡先もきかず、あからさまに不採用ですか!?」
「いきなり同性にセクハラかますよーな子、不採用に決まってんでしょ!? 帰って!」
額に怒りマークを浮かべて、一喝する美神。相当頭にきているらしい。初対面の人間にでも容赦ない。
だが、女の子のほうもひるまず反論…もといアピールする。
「ま…待ってくださいっ!! 私、本当に今丁度バイトを探してたんですよ…! そこにこんなに綺麗な人が募集をかけてるでしょう!? つ、つい…!」
どこから取り出したのか、バイトの情報誌を手に持って指差している。挙句の果てには、頭まで下げだした。
「お願いします! 今まで、おねーさんみたいなものすごい美人見たことなくてっ!! どーしていいかわからないくらい綺麗ですっ!! バイトしてみたいんです、こんなチャンス二度とないかも知れないし…!!」
「……ふーん」
美神の方とて、褒められれば悪い気はしないらしい。少し照れたように声を零した。
「…ま、素直さに免じてセクハラは許すとしても、ウチの事務所は、私の美貌と華麗な除霊テクニックが売りなのよ」
さらり、と髪の毛をかきあげながら、女の子の方に向かっていう。極論のような気もするが、彼女の言うことに少なくとも冗談は入っていないだろう。…ここで済めばまだそれですんだのだろうが。
「私としてはすごくもったいないけど、ここはやはり身を切る思いでバイト料をはずんで、それに見合うモデル系の美少女か美青年を――」
拳を握って、『でも本当は金がおしいっ! おしいわー』と体全体で表現しているのは、周りから見れば少し引けるであろう。だが、女の子はそこでも押しに入る。
「給料なんか、いくらでもかまいませんっ!! どんなキツい仕事もやりますっ!! 悪霊も平気ですしっ!」
駄目押しの一言が女の子の口から発せられた。美神の視線が女の子をしっかりと捕らえる。
「………」
少しの沈黙。
…そして。
「時給300円!!」
「やりますっ!!」
ガッツポーズをして、女の子。
かくして、美神除霊事務所にアルバイトが一人入ったのであった。
その女の子の名前は――横島忠代。
彼女がその後、世界を救うという重大な使命を負わされるとは、誰もまだ知らない――。
FIN?
初めまして。明というしがないSS書きです。
昨日の夜、唐突に『横島だけを女にしたらどーだろうか』という電波が飛んできまして、がーっと書き上げたものです。
結局は原作とあんまり変わらなかったりするのですが、美神の扱いが良くなってたりすることに自分でも驚いていたりします。
皆さんの反応がよければ、続きを書くかも知れません。
まあ、それはともかく。
これから、ちょくちょく書かせて頂くかもしれませんので、その時はよろしくお願いします。
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