▽レス始▼レス末
「魂の在処は?3 (GS)」小町の国から (2004.10.14 19:42)



魔界にある第3教育大隊。その第1教育中隊第2分隊(通称312分隊)にベスパは所属し、軍隊の基本教育課程を受けていた。

「ベスパ上等兵!」

そう、ベスパの階級は上等兵である。高い魔力と戦闘能力を持っているベスパとて、新米のうちから将校には成れない。むしろ二等兵から始めなくて良かっただけでも幸運であろう。

「は! 何でありましょうか、中隊長殿」

ベスパは気を付けの姿勢で、中隊長の命令を待つ。

「命令を伝える。312分隊ベスパ上等兵は本日ヒトヨンマルマル時から第2特殊戦技研究大隊第6特殊作戦中隊長ワルキューレ大尉の指揮下に入り、人間界において特別任務に就く。自室に戻り、装備を整え、ヒトサンサンマル時までにワルキューレ大尉の執務室へ出頭せよ。以上だ!。判ったか。」

「サー! イエッサー! 自分はこれよりワルキューレ大尉の指揮下に入り、特別任務を遂行します!」

「うむ、よろしい。では、行きたまえ。」

「サー! それでは失礼します。」

敬礼をした後、まわれ右をし、ベスパは自室に向かい早足で進んだ。

(ワルキューレ大尉の指揮下に入って、人間界での特別任務? いったいどんな任務なんだ?)




魂の在処は? 3




ベスパは、自室で装備を整え、ワルキューレ大尉の執務室へ向かった。

「ベスパ上等兵であります。命令によりワルキューレ大尉のもとへ出頭しました。」

大尉の執務室の前に陣取る秘書官に向かい、そう告げる。

「はい、今確認しますので、そのままお待ち下さい。」

秘書官はそう告げ、インターホンを操作する。

「……はい、了解しました、それでは。」

連絡を終えた秘書官がベスパの方に顔を上げ、

「ベスパ上等兵、中で大尉がお待ちです。どうぞお進み下さい。」

と笑顔で話す。

「はい、ありがとうございました。」

ベスパは礼を言い、執務室のドアまで進んだ。

ノックを2回し、「ベスパ上等兵! 入ります!」と声を掛け、ドアを開ける。

正面に見える大きな机の所にワルキューレが立っており、机の横にはジーク少尉が立っていた。

ベスパはワルキューレに向かい敬礼しながら、

「ベスパ上等兵! 命よりワルキューレ大尉のもとへ出頭しました!」

と告げる。

「うむ、よく来てくれたベスパ上等兵。急な命令で悪かったな。」

答礼しながらワルキューレが応える。

「いえ! けしてそのようなことは。」

「まあいいベスパ上等兵、では任務について話そうではないか。ソファーに座ってくれ。コーヒーがいいか? それとも紅茶?」

「それでは紅茶をお願いします。」

「うむ、ジーク少尉! 紅茶を3つだ。」

「た、大尉! 少尉にそのようなことをさせては! 」

「いいのだベスパ上等兵。それと、ただ今、この時点をもって敬語は不要だ、良いなベスパ。」

「了解しました。」

「だから敬語は不要だ。共にあの事件に関わった者同士だからな。」

「わ、わかったよ。」

「まあそれにこれから話す内容には、横島忠夫が関係有るのだからな。」

「ポチ…い、いやヨコシマが? ヨコシマが関係有るなんて、一体どんな任務なんだい?」

ベスパは首を傾げる。

「まあそれはゆっくりお茶でも楽しんでから話そう。」

「どうぞ。」

そこへジークが紅茶とクッキーを持ってくる。

「うん、すまんなジーク。まあ、お前も座れ。」

「はい。」

午後の紅茶タイムが始まる。いつも張りつめた表情をしている3人も顔も、こころなし穏やかになる。

「うん、このクッキーは紅茶によく合うな、美味い。」

「ほんとだねえ。何処から手に入れたんだい? 人間界?」

堅苦しい言葉遣いを止めたベスパがジークに尋ねる。

「いいえ、そのクッキーは私の手作りです。」

「「えっ!」」

驚く二人。

「ジーク、お前お菓子づくりの趣味でもあったのか?」

ワルキューレが尋ねる。

「まあ、昔から姉上の料理の手伝いをして、慣れてはいましたけど、お菓子が作れるようになったのは、妙神山に交換留学生として赴任したときに、小竜姫様に教わったからです。」

「小竜姫に? しかしまた何で?」

「はあ、斉天大聖老師は、お茶の時間にお茶菓子を出さないと機嫌が悪くなるんです。」

「そ、そうか。それで小竜姫に習ったのか。」

「はい。『まったく老師はわがままなんだから……』等と、愚痴りながら教えてくださいました。」

にこやかにジークは話す。

((小竜姫って、上司には恵まれていないな))

と思う女性陣であった。




紅茶タイムも終わり、本題に移る3人

「でさ、ワルキューレ。ヨコシマの関係する任務って何だい?」

ベスパが尋ねる。

「うむ、今日の朝届けられた妙神山に駐留する魔族からの報告書に、現在横島忠夫が妙神山に来ているとの記述があった。」

性格なのだろうか、堅苦しい軍隊用語で話すワルキューレ。

「はあー! それってつまりパピリオの絵日記帳が送られてきたって事だろう。」

「うむ。また信頼できる神族からの情報により、横島忠夫の肉体及び精神にとてつもない危機が迫っていることが判明した。」

「あのポチにとてつもない危機が?」

「あ、姉上それは本当ですか?」

驚くベスパとジークの二人。

「その通りだ。よって、我々3名はこれより妙神山に向かい、戦友横島忠夫を危機から救うべく、全力を尽くすことにした。」

そう言明するワルキューレ。

「わかったよ、ポチのためだからね。」

「はい、友人を助けるために全力を尽くします。」

うなずく二人。

ワルキューレはインターホンを操作し、

「私だ、これより任務に就く。帰還予定日は不明だが、緊急の場合は通信鬼にて連絡しろ。」

と秘書官に告げた。

「よし、では行くか!」

ワルキューレの言葉により、3人は妙神山に向かいテレポートした。





一方こちらは妙神山である。

朝食を終えた小竜姫、パピリオ、横島の3人は精神面を鍛える修行に入っていた。

「小竜姫様、具体的なやり方を教えてもらえますか?」

横島が尋ねる。

「そうですね。まずは心を落ち着かせます。それから自分の心の奥底へと意識を向けて行き、心に潜む自分の弱さと向かい会い、それを克服していくのです。心の弱さは時に肉体を自由に動かす為の弊害にもなりますから。」

小竜姫の説明を聞いた横島は顔を曇らせる。

「む、難しそうっスねー、心に潜む自分の弱さって、どうやって見つけるんかな? 俺に出来ますかねー?」

「そうですね、今の横島さんは精神の安定状態が決して良いとは言えません。よって最初はいかにして精神を落ち着かせるかに重点を置き修行を始めましょう。」

「はあ、分かりました小竜姫様。」

横島は小さな声でパピリオに話しかける。

「なあパピ、パピはどんな自分の弱さと向かい会っているんだ?」

「そうでちゅね、ベスパちゃんに会いたい! とか、ゲームが1日2時間までは嫌! とか、にんじんは嫌いでちゅ! とかでちゅね。」

(…………そ、それは小竜姫様の言っていた修行とは違うような…………)

「そ、そうかパピ、でも今度もう一度小竜姫様と修行の方法について話をした方がいいと思うぞ。」

パピリオの頭を撫でながら、引きつった笑顔でそうとしか言えない横島だった。

「では、始めましょうか横島さん。」

小竜姫が促す。

「分かりました、小竜姫様。えーとまずは…」

その時修行場の隅の空間が歪み始め、ワルキューレ、ジーク、ベスパの魔族3人が現れた。

「横島!」
「横島さん大丈夫ですか?」
「ポチ! いったいどうしたんだい?」

「み、みなさん! どうしたんですか?」
「わーいベスパちゃん! 会いたかったでちゅ。」
「ワルキューレ、ジークにベスパ! 久しぶりだけど、どうした?」

焦って尋ねる魔族組に対し、ただ驚くばかりの妙神山組

………………………

「ま、まあ場所を移して話しましょうか。」

という小竜姫の提案に、

「そうだな、そうしよう。」

賛成するワルキューレ。

全員修行場を出て、居間に向かう。

パピリオはベスパ・横島と両手を繋ぎ、ご機嫌だった。



場所を居間に移して、6人は話し始める。

「それで横島、肉体及び精神の危機とは一体どのようなことなんだ?」

「そうだよポチ、どうしたって言うんだい?」

ワルキューレとベスパが尋ねる。

「まさか、あの事件の後、誰かから命を狙われたりしたのですか?」

ジークは真剣な表情である。

「えっ、危機? 命を狙われる? いったい何のことだ?」

横島は引いた表情で尋ね返す。

「そうです。どういうことなんですか?」

小竜姫も首をかしげる。

「さっぱり、わからないでちゅ。」

パピリオもポカンとした表情をしている。

「だが神族のヒャクメから、横島の肉体及び精神が非常に危険な状態にあるとの連絡が入ったのだ。我々も何らかの支援をしようとして駆けつけたのだぞ。」

妙神山に来た事情をワルキューレが話す。

それを聞いた小竜姫は、

「はー! またヒャクメの悪い癖が出ましたね。横島さん関係の話となると、他人に話して広めるのを我慢できなくなるんですから、しかも今回は魔界にいたワルキューレの所にまで。」

ため息をつきながら、呆れたように話す。

「ふっふっふっ、そうかヒャクメのやつ…。そんなに俺の苦悩が楽しいか。ふっふっふっ………、あーはっはっはっは……………」

椅子から立ち上がり、笑う横島。ただし目だけが笑っていない。

「ヨコシマ、どうしたんでちゅか?」

焦った声でパピリオが話しかけるが、横島には聞こえていない。ただ宙を見上げて笑っている。

「なあ、ポチのやつちょっと危なくないか?」

小声で話すベスパ。

「ああ、危険な状態だな。もし今ここにヒャクメが現れたら、命の保証はできんな。」

同じく小声のワルキューレ。

「そうですね、横島さんが落ち着くのを待つしかありませんね。。」

小竜姫の意見に全員がうなずく。

「ところで小竜姫、さっきポチが言っていた苦悩ってのは何のことだい?」

小声で尋ねるベスパ。

「そ、それは…………」

話すのを躊躇う小竜姫。

「ヒャクメのせいとはいえ、我々もわざわざ魔界から来たのだ。せめてこの騒ぎの原因くらいは説明してもらいたい。」

ワルキューレが要求する。どうやら横島はかなり遠くまでイってしまっていて、周りの話し声は聞こえていないらしい。

「………分かりました。それでは……」

小竜姫が話し始める

横島の中にあるルシオラの魂について、
ルシオラの転生先が横島の子供になる可能性、
横島の精液にはルシオラの魂や、霊基構造が含まれている可能性があること
その魂が含まれている可能性のために、横島が自慰等で排泄することに罪悪感を感じていること、
そして、ソレが溜まってしまい限界が近いこと、
そこで、精液に霊基構造等が含まれているかどうかをヒャクメに調べてもらいに来たこと、
性欲や排泄欲を抑制する方法を、老師ならば知っているかもしれないと思い、尋ねに来たこと、
そして煩悩に頼らずに霊力を安定して出せる方法を習いに来たこと等をである。



「…馬鹿だねポチは……」

ぽつりとベスパが呟く。

「何もそこまで姉さんのことを想わなくても……」

そう呟きながらも、ベスパの瞳からうっすら涙が滲み始める。

「女には見境のない煩悩まみれの人間だと思っていたが、あの事件が奴をそこまで変えるとわな。」

ワルキューレは感慨深げだ。

「全くヨコシマは。あたちには何も話してくれなかったでちゅ。」

パピリオは少し不満げだ。

突然ジークが立ち上がり、涙を流しながら

「よ、横島君! わっ、判るよ。溜まった時の辛さ、出せない苦しさ。お、男なら当然の……「「「「黙ってろ!」」」」

吹っ飛ぶジーク。言動は時と場合を選んだ方がいいぞ……、雰囲気ぶち壊しである。



しかし先程からこれだけ騒いでいるのに、まだ横島は帰ってこない。そろそろ大気圏を出た頃であろうか?

「なあ、横島はどうする?」

「そう言われても、戻す方法が分からんぞ?」

相談する女性陣、ジークは………………まあ生きてはいるようである。

「「「「うーん……」」」」

悩む女性陣、そこへ

「こんにちはなのねー」

良い(?)タイミングで現れるヒャクメ。

((((やばい))))

冷や汗が頬を伝う他の面々…………ジークは反応できず。

そんな中、いつの間にかアッチ方面から戻ってきた横島は

「やあヒャクメ、会いたかったよ。」

笑顔でそう言いながらヒャクメに歩み寄り、抱きしめた。

「よっ、横島さん突然何を。それに他人(ひと)の目が。」

真っ赤な顔で、横島を振り解きもせずヒャクメが応える。

「そうだね、ここは人が多い。俺はヒャクメと二人だけになりたいんだ……。さあ! 修行場へ行こう。」

横島はそう言いながら、笑顔でヒャクメを【お姫様抱っこ】する。

「そんな、私まだ心の準備が………………修行場? 横島さんの部屋じゃないの?」

うっとりした顔から一転し、首を傾げるヒャクメ。

「ぜひヒャクメに受け取ってもらいたい物があるんだ、それには俺の部屋じゃ狭いんだよ。」

相変わらず笑顔の横島、しかし少しずつ氣が漏れだしている。

その氣を感じ、震えている4人…………ジークは感覚が麻痺しているようである。

「受け取ってもらいたい物? 何か照れちゃうのねー」

感覚器官を百も持つ割には、横島の氣の高まりに気が付かないヒャクメ。しかも、

「一体何をもらえるのか知りたいのねー」

なんて笑顔で話す。

こちらも笑顔の横島が、

「そんな大した物じゃないよヒャクメ。ただ『超』『爆』と、『激』『爆』と、『猛』『爆』の文珠を君に送りたいのさ♪ どれが一番威力が強いのかなーなんて思ってたのさー♪」

と、のたまった。

一気に青ざめるヒャクメ

「な、何でなの? 何でそんなことするの!」

慌てて質問するヒャクメ。

「自分の胸に聞いてみたら♪ だいじょーぶ! 死なないとは思うから。さー、行こうかヒャクメ♪」

ヒャクメを抱き、笑顔のまま居間から出ていく横島。

「待ってー! やーめーてー! み、みんなー、たーすーけーてー……………………………」

遠ざかっていくヒャクメの絶叫。

((((死ぬなよヒャクメ(ペス)))))…………ジークは相変わらず反応できない。

後に残された4人は、それぞれの信じるものに祈った。




その後、


ドドーン!!!

この空間全てを揺るがすような振動が、何度か伝わってきたという。






「ううー、ひどいのねー。でも、神族にも三途の川が見えるとは知らなかったのねー」

横島の文珠と、小竜姫のヒーリングで口がきけるようになったと思ったらこの発言である。やはりヒャクメの感性は何処かが違うようだ。

「まったく! 俺で遊ぶのにもほどがあるぞ!」

横島はまだ怒っている。

「うー、ごめんなさいなのねー。でも、もしかしたら魔族の方には良い解決策があるかもしれないと思ったから。」

「またヒャクメは。本当に言い訳を考えるのが上手ですね。ほとんど嘘でしょうけど。」

ヒャクメの意見を小竜姫が一刀両断する。うーん素晴らしきかな友情。

「小竜姫って、親友に対して冷たいのねー。」

「何が冷たいですか! 本当に冷たかったら、ヒーリングなんてしてあげてるわけがないでしょう!」

口論を始める二人。

「ああもう止めろ。話がちっとも進まん!」

ワルキューレが止めさせる。

「…分かりました。」

「分かったのねー」

ようやく話が進みそうである。



「でもポチも一途と言えばいいのか、本当に馬鹿だねー。死んだ姉さんに操でも立てているつもりかい?」

先程小竜姫から話を聞いた時とは違い、からかうような口調でベスパが話す。

「ぐっ、ベスパ、お前までからかうのか。まあ、それはそうとしてだ、いいかげんポチは止めてくれよ。」

「うーん、でもあたしにはそっちの印象の方が強くてねー」

「なあ頼むよ。義兄からのお願いだ。」

それを聞いたベスパは明らかに動揺し、

「に、義兄だって! お前があたしのか? そ、そんなの認めないよ!」

言葉は詰まるし、顔も赤い。普段のクールさは何処へやら。

「パピー! パピは俺が義兄さんなのは嫌か?」

横島はパピリオに同意を求める。

「そうでちゅね、ヨコシマが義兄さんになれば、あたちとは家族と言うことでちゅから…、嬉しいでちゅ。」

パピリオは素直に同意する。

「うー、パピはえー子やなー」

涙を流し横島はパピリオの頭を撫でる。

チラッ

「それに比べて姉の方は…、全く素直じゃないし…」

チラッ

「な、何だよその目は。」

動揺し、引くベスパ。

「全くパピより素直じゃないってのはなー、姉さんなんだから少しはパピより大人になれよ。ほーんと胸だけ大人になって…………やば!」

余計なことまで口走ってしまう横島。

「こっ、このスケベがー!!」

ベスパの回し蹴りが炸裂し(ちなみに手は胸を隠していた。)吹っ飛ぶ横島。

「「「はー!」」」

呆れてため息をつく三人…………ジークは未だ復活できていないし、ヒャクメは笑っている。




「そろそろ話を再開しても良いか?」

横島が吹っ飛んでから2分が経過し、ワルキューレが一同に聞く。(横島は復活済)

「ええ、このままではろくに話が進まないまま、お昼になってしまいます。」

小竜姫も同意する。

「そうねー。おいしくお昼ご飯を食べるためには、難しい話はとっとと片づけるのねー」

おおっ、ヒャクメまでが建設的な意見を。

「ああ、いいよ。」

「いいでちゅ。」

「そうスね。早めに終わらせちゃいましょう。」

3兄妹(ベスパは否定)も納得する。

「それでポ…ヨコシマ、これからどうするんだい?」

ベスパが訊く

「まあ、ヒャクメが神界に持ち帰ったデータの解析結果待ち…ってヒャクメ! 結果は出たのか?」

始めは暢気に話していた横島だが、急にヒャクメに詰め寄る。

「まだなのねー。もう少し時間が掛かるみたいなのねー」

「そうか……。いつまで我慢が続くかな…。」

横島は肩を落とす。

「なあ横島、確かにルシオラの件は残念だったと思うが、だからといってその………そっちの方まで我慢するというのは、考え過ぎなのではないか?」

と、ワルキューレ。

「そうなのかもしれない。でも、俺が生まれて初めて相思相愛になり、最後は俺に命を与えて消えていったあいつの想いを大事にしたいし、生まれ変われる可能性が少しでも高い条件となるモノが俺の中にあるそのー…アレなら、それを排泄するというのはどうも…」

と、横島。

「横島さんのその気持ちはとても大事なことだと思いますが、現実問題として横島さんとそのような関係になり、しかも生まれてくる子供が、過去に夫の愛した女性の生まれ変わりかもしれないことを納得してくれる女性が居るかどうか。」

小竜姫が悲観的な意見を述べる。

「はい、それは俺も考えました。それに、あいつが居なくなってからまだ一月も経ってないんです。俺としても他の女性のことを考える余裕はありません。」

横島も今の心境を話す。

「そうでちゅね、ルシオラちゃんが居なくなってからまだ少ししか経っていまちぇんね。」

パピリオも寂しそうだ。

「そうだね。……………(そしてアシュ様が居なくなってからも)」

ベスパもそれしか言えない。


…………………………………


長い沈黙が場を支配する。






「あっ! そういえば忘れてたけど、神界で老師と会って横島さんのことを話したら、その後で横島さん宛の手紙を渡されたのねー」

驚く横島。

「ヒャクメー、そういうのは早く教えろ!」

怒鳴りながらヒャクメを睨む。

しかしヒャクメは平然と、

「直ぐに話せなくしたのは誰だったかしらー? 急いで持ってきてあげたのにー」

言いながら横目で横島を見る。

それに「うっ!」と怯んだ横島は、

「俺が悪かったヒャクメ。気が立っていたとはいえ本当に申し訳ない。」

と謝る。


「えーと、ですからヒャクメ様。何とぞ機嫌をお直しになって、老師の手紙を私めに下さいませんでしょうか?」

えらく下手に出る横島。

それを見た一同は、

「はー、情けないそれでも戦士か。」
「ヨコシマって、やけにあのポーズが似合ってまちゅ。」
「きっと雇い主の影響なんじゃないか。」

好き勝手なことを言っている。

しばらく横島に煽てられ気分を良くしたヒャクメは、

「まあ、そこまで言われちゃしょうがないのねー。じゃあ、はいこれ。」

手紙を横島に渡す。

「ありがとうございますヒャクメ様」

恭しく手紙を受け取る横島であった。

封を開き、手紙を読む。

……………………………何故か横島は震え出す。

疑問に思った一同は、横島に近づき手紙を覗き込み(パピリオはベスパにおんぶされて)、絶句する。

そこには………………『忍耐』とだけ書かれていた。

「なに考えとんじゃー! あのサルー!!!」

キレた横島が暴れ始め、皆で宥めたがなかなか治まらず、結局小竜姫の神剣(峰打ち)で治まった。

「はー、横島さんの暴れっぷりすごかったですねー。」
「うむ、これほど冷静さを失うとはな。」
「あの猿、今度ゲームでとっちめてやりまちゅ。」
「ポチにしたら当てが思いっきり外れたようなもんだからねー。」
「今日2度目のキレた横島さん、修行場での恐怖が蘇ったのねー。」

口々に話す女性陣。

「とにかく横島をベットに運ぶか。」

と言いながら、肩に担ぐワルキューレ。

「そうですね。では案内します。」

先導する小竜姫。

残った3人は、…………ジークはいつの間にか居間から姿を消していた。

「なあヒャクメ、横島がキレた原因は確かに老師の手紙の内容だけど、運んできたあんたにとばっちりが行かなきゃ良いね。」

哀れむような顔でヒャクメを見ながらベスパが言う。

顔が青くなるヒャクメ。

「止めてなのねー、確かに運んだのは私だけど内容は知らなかったのねー。」

怯えながらも弁明をする。

「でも近くに猿がいまちぇんから、手近な目標はきっとペスになりまちゅね。」

パピリオもベスパに同意する。

「あ、あー! 私ってば大切な用事を思い出したのねー。今日はこれで帰るのねー。」

何やら言い訳をしてヒャクメがテレポートして行った。

「逃げたな。」
「逃げまちたね。」

冷ややかなことを言う姉妹であった。







横島が目を覚ましたのは夕方になってからで、横島は夕日を見るために外に出た。

夕日が徐々に山並みに消えていくのを眺めていると、後ろから足音が聞こえてきた。

「ポチ…。」

「義兄さん、又はせめて横島と呼んでくれ。」

夕日から目を離さず横島は返事を返す。

「だ、誰が義兄さんだ!!」

怒鳴るベスパ。

「まあまあ、もう少し待ってくれ。あいつの好きだった光景が続いている間は。」

「………………………」

横島のその返事にベスパは何も言い返せない。




やがて夕日が完全に山並みに沈むと、横島はベスパの方を振り返り、

「少し座って話すか。」

と誘う。

「ああ、いいよ。」

頷くベスパ。

二人はかろうじて盛り上がっている岩を見つけ、腰を下ろす。


………………………


「なあベスパ俺達ってさ、あの戦いでずいぶん大事な者を失ってしまったな。」

「……そうだね。」

「二人して最愛の人を失った。悲しいなんて言葉じゃ表せないくらいの喪失感だ。」

「………」

「でも考えてみれば、俺はまだましな方だった。」

「えっ?」

「俺は愛する女だけだ。でもベスパは愛する男アシュタロスと大事な姉を失った。しかも俺のせいで。」

「ち、違う! あの東京タワーでの姉さんとの戦いは、本当に相手を殺すつもりで戦っていたんだ。ヨコシマのせいじゃない。」

「………でもさ、あの時俺が間に割り込まなければ、例えルシオラがお前にやられたとしても、霊体の破片はもっと集まってルシオラが消えることはなかったんじゃないか。」

「………」

「あの時はお互いに必死だったからな、でも今になって考えると、そんな後悔も浮かんでくるのさ。」

「…そうかい。」

「ベスパ俺はさ、ルシオラを失っていなかったら、きっとルシオラと結婚したと思う。」

「だろうね。」

「そうすればベスパとパピリオは、俺の義妹で、家族になったんだ。」

「……家族…か。」

「だからさ、確かにルシオラが居ないんで変な話だけど、ごっこでもいいから兄妹にならないか? 一人欠けてしまったところに俺を加えてくれないか?」

「い、いったい何で?」

「離ればなれになっていても、何処かで兄妹も頑張っているんだと思えば強くなれるだろう? 例えごっこだとしても本人達の思い込みで絆は強くなっていくと思うから。」

「…絆…か。」

「ああ、絆だ!」

「………」

「だめかな? ベスパ。」

「いや。にしてもあんた変わったねえ。普段人前ではあんまり見せないけどさ。」

「俺? 俺は相変わらず情けないやつだよ。ただ、今回のことで少しだけ考えるようになったかな?」

「まあいいさ。それに、いつか姉さんの生まれ変わりに会わせてくれるんだろう?」

「ああ、きっと! まあ本当にいつかだけどな。なんせ俺って生まれてから17年間、もてたのはルシオラ一人にだけだから。はっはっは…………」

「ふーん、次にもてるのも17年後じゃないだろうね。」

「べ、ベスパ! それキツイわ。しゃれになってないぞ。」

「まあ、いくら魔族で寿命の心配はないとはいえ、早く姉さんの生まれ変わりに会いたいからね。そしたら家族も増えるって事だし。頑張りなヨコシマ、いや義兄さん!」

「あ、ありがとうベスパ。でもお前照れてるだろ、顔真っ赤だぞ。」

「うるさいね! あんただって赤いよ!」

………………………

「ふっふっふっふ」
「はっはっはっは」


二人はうち解け、笑顔で夕日の沈んだ山並みを眺めていた。



どのくらい時間が経った頃だろうか、二人を呼ぶ声が聞こえた。

「横島さーん! ベスパさーん! 晩ご飯の時間ですよー!」

「ジークの声だな。」

「そうだね。あいつ生きていたんだ。」

「えっ! 何かあったのか?」

驚く横島。

「まあちょっとね。」

口を濁すベスパ。


「横島さーん! ベスパさーん!」

「おーい! ジーク、こっちだー! 今行くよー!」

大声で返事をする横島。

「じゃあ行くかベスパ。」

「ああ、義兄さん。」

ど○でもドアの方に向かって歩き出す二人。





夕食時、ベスパの『義兄さん』発言でまたもや揉める面々であった








終わり



『あとがき』
どうも、「小町の国から」です。
今回も拙作を読んで下さった方々、どうもありがとうございます。
今回は上手いギャグが思いつかず、何やらほのぼのしたままになってしまいました。
何だかんだで横島忠夫のあそこもテンパイ状態(笑)でしょうから、次回には自分なりの結論を出したいと考えています。
また、感想等を書いてくれた方々どうもありがとうございます。
それを励みにして頑張りますのでよろしくお願いします。



レス返しです


片やマンさん

2話連続の感想ありがとうございます。笑っていただいて作者もニヤリです。「第2話のとどめはこれしかない!」と気合いを入れて考えたギャグなので、うけてほっとしています。でも確かに大きくした後のことまでは考えていませんでした。うーん読みが深い。


九尾さま

2話連続の感想ありがとうございます。小竜姫って生真面目な性格なもので、横島のちょっとした言動にも流さずに反応するんだろうなと考え、こんなやりとりになりました。


キャメラン&大魔球さま

今回の話でも書きましたが、うちの横島はベスパとパピリオを家族にしたいと考えています。だから兄として、これ位はしても良いかなと。またうちのヒャクメは主にギャグ担当(笑)です。


高沢誠一さま

高沢さまも2話続けての感想ありがとうございます。私のようなヘボ作者が考えた展開に理解を示していただき、ありがとうございます。


かなりあさま

やはり鬼門にはこういうシュールさが似合うかと。本人達は大真面目(笑)なんでしょうね。


偽バルタンさま

2話連続の感想ありがとうございます。横島もそれを想像し絶叫したのでしょうから。やはり男としては逆が大きければねえ。


武者丸さま

武者丸さまも2話連続の感想ありがとうございます。私の好みが、本人達は真剣でも端から見るとギャグなんです。ですから、そう感じていただけたのなら多少は成功したのでしょう。


雑魚さま

いや! そ、それはちょっと。タイトルの横に色んな注略記号が付きそうで…。


水カラスさま

水カラスさまも2話連続の感想ありがとうございます。えーと他の人のレス返しにも書きましたが、横島にとっては本当に妹のつもりなんです。ですからかなり特殊な作品の場合と違い、そのような状況になったと作者は想定していませんでした。あと好きなんですよ、SSの中に出てくる【お姫様抱っこ】。SS書きのロマンというか、現実だとあまりかっこよく抱っこはできないもんで。





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△記事頭
  1. 横島よ〜。もてたことがないって・・お姫様抱っこされていやがられない男が好感持たれてないわけなかろう。おキヌちゃんの渾身の告白だってされとるのに。・・・まあしょうがないけどね。
    人間以外には理解してもらいやすいみたいですね。意見はいろいろだけどあきれたりする人はいない。横島が妙神山に相談しにきたのは正解だったな。ヒャクメやサルみたいにからかうやつもおるが。そのぶん怒りで鬱憤を晴らせてるから煩悩が昇華できていいかもしれない。
    今のところ解決策はまだ見出せてないですね。はやいとこなんとかせんと、噴出した時はこわいかな〜ってびくりつつ続きを待ってます。
    九尾(2004.10.14 20:23)】
  2.  すわ、横島の危機と、勢い込んで駆け付けてみれば、当の本人は危機なんだかよくわからん状況で、折角の意気込みも空回りって感じですね。
     しかしまあ、こんなに広まってしまうとは、恥ずかしいやら何やらで、横島はもうお婿にいけないかも?もしかして、人間界にも広まってたりして(^^)。義兄さんか・・・そうなると、横島の両親にも紹介すべきかも。なんたって、“家族”なんですから。
    武者丸(2004.10.14 20:46)】
  3. 義兄さん・・・なんて横島は贅沢な奴なんだ。
    それとヒャクメの態度が可愛いと思ったりして。
    かなりあ(2004.10.14 21:03)】
  4. 当の本人は、シリアスに、本当に真剣に困ってるんでしょうけど…
    やっぱりコトがコトだけに、どこかユルい雰囲気が漂ってしまいますなぁ…(笑
    偽バルタン(2004.10.16 02:59)】

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