――どわ〜〜〜〜〜!!
第8X回天皇賞・春が開催されている京都競馬場に大歓声が上がる。その歓声の理由は、本命グレートネイティブが残り1ファロン(約200メートル)の地点で先頭に立ったからである。
『グレートネイティブがイーストランナーを振り切った!!鞍上・西条武彦の鞭が飛ぶ!!グレートネイティブが完全に先頭!!天皇賞のゴールは目前であります!!』
だが、そんな場内アナウンスを無視する事態が起こった。なお、大きくなる歓声。その理由は――、
『――!!いや、大外から伏兵スマートダンサーが凄い脚で追い込んでくる!!現在三番手!!鞍上は天才、神永遼一!!やはり神永、怖い怖い!!』
その脚色は、スマートダンサーがはるかに勝っていた。これまで、凡走を繰り返しいたスマートダンサーでは信じられない激走だった。
――スマートダンサーが天皇賞制覇だ。
誰もがそう思った瞬間だった。
――ドカラ、ドカラ……
すでに脚を使い切っていたイーストランナーがふらふらな足取りで、イーストランナーを抜こうとしていたスマートダンサーの方に寄ってきた。
――な、何や!?
神永がそう思う暇もないうちに――、
――ドカ!!
スマートダンサーとイーストランナーが衝突した。その瞬間、神永はスマートダンサーの鞍上から放り出された。
――ドサ!!
と、神永が地面に叩きつけられた。その瞬間、スマートダンサーの蹄が、神永の面前に迫っていた。
――あ、あかん……
神永がそう思った瞬間――、
――グシャ
と、競馬場に鈍い音が響いた――。
――即死だった。
神永遼一。10年連続の日本中央競馬の年間最多勝騎手だった。彼が乗る馬は、どんなに連敗が続いた馬でも不思議と激走した。
先行し逃げてバテる馬ですさまじい追い込みを決めたり、追い込んで勝てない馬で鮮やかな逃げ切り勝ちを決めたりした。どんな馬も彼が乗ったときは、実力以上のレースをした。そのさまは、釣り上げられた魚が、釣り針を抜かれて、踊るようにようだった。
関係者は口々にたずねた。
「どうして、お前は馬をそこまでは知らせることができるのか?」
と。
そんな問いに、神永は、ただ口をにやりとゆがめるだけだった。
人は、そんな彼のレース振りから、彼を「天才」と呼んだ。
そしてこう噂しあった。
――神永は馬と会話が出来る。
――神永が乗る馬が走るのは、神永は馬に選ばれる騎手だからだ。
そんな日本競馬史上最高の騎手の姿はもう見れなくなった――。
――その惨劇の悲しみを薄れさせるように月日は流れた――
――199X年――
「――お〜〜い、横島!!」
と、一人の少年を呼ぶ声が遠くから響く。
「ああ?」
と、その少年は、覇気のない声でその声に答えた。
――to be continue....?
(オリキャラ紹介)
神永遼一
1970年代に活躍した伝説の天才騎手。別名「馬と会話できる騎手」。日本ダービー・天皇賞など数々のビッグレースを制覇し、日本人騎手として初めて海外のビッグレース(英チャンピオンステークス)を制覇。落馬事故で死亡。
西条武彦
スター騎手の西条輝彦の父で、元騎手。現在は調教師。騎手現役時代は「魔術師」と呼ばれた神永のライバルだった。
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【競馬用語解説】
天皇賞
春(四歳以上の馬が出走)は京都競馬場で、秋(三歳以上の馬が出走)は東京競馬場で開催され、戦前の「帝室御賞典」というレースに由来する日本中央競馬で最高の権威をもつビッグレース。
逃げ・先行・差し・追込
競馬のレースでの戦法。「逃げ」は、レース中最初から先頭、若しくは二番手に位置して、そのまま勝つ戦法。「先行」は、馬群の前寄りに位置しつづけ、直線で逃げた馬を交わして勝つ戦法。「差し」は馬群の中ほどかやや後方気味の場所に位置しつづけ、三コーナーから直線で一気に前にいる馬をかわす戦法。「追込」は、レース中、常に最後方に位置しつづけ、三コーナーから直線で全部の馬をかわす戦法
馬群
レース中、形成される馬の集団。
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後書き
このシリーズもずいぶん久しぶりですなあ。まあ、長い目で見てやってくださいませ。
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