アシュタロス事件から1年近くの歳月が流れた。
横島忠夫は、あと3ヶ月程で高校を卒業(?)する。
GSとしてはトップクラスの実力を持っているが、横島の美神除霊事務所での扱いはバイトのままであった。
まだ“学生”だからという理由だけで……。
そんな横島の進路について、様々な憶測が飛び交っていたのである。
――独立か?
――残留か?
それも横島自身の知らないところで……。
つまり、それだけ多くのGS関係者から注目されていたのだ。
そんなある日の事……。
小竜姫とワルキューレが美神除霊事務所を訪問してきたのだ。
この時、事務所には初期メンバーともいえる令子・おキヌ・横島の3人しかいなかった。
ちなみにシロ&タマモはオカGの手伝いにより不在であった。
令子はこの2人の訪問に対し、あまりいい表情をしなかったのである。
何故ならかつては貴重な“金づる”であったが、小竜姫が令子ではなく、横島に頼る傾向が見受けられるようになったからである。
それに対する不快感を令子は隠す事が出来なかったのだ。
「こんにちは」
上機嫌な口調で挨拶をする小竜姫。
「邪魔をする」
冷静沈着な口調で挨拶をするワルキューレ。
そんな2人に対し、令子が話しかけてきたのである。
「本日の“ご用件”は……?」
皮肉交じりの声であったが、小竜姫達はあまり気にならなかったようだ。
「今日は美神さんではなく、横島さんに用があって来たのですが……」
そんな小竜姫の言葉に、横島はいつもの“アレ”を敢行しようとしたが……。
――神族と人間との“禁断”の恋を〜!
小竜姫の表情があまりに真剣だった為、横島も真剣にならざるを得なかったのである。
「えっ?! 俺にですか?」
「はい! いきなりですが、人生をやり直すつもりはありませんか?」
「はい?」
横島は、小竜姫の言葉の意味を理解する事ができなかった。
よって小竜姫は、横島に再度問いかけた。
「人生をやり直すつもりはありませんか?」
「……」
黙り込んでしまった横島に代わり、令子が話しかけてきた。
「人生をやり直すって、一体どういう意味なの!?」
「そのままの意味だが?」
令子の発言に対し、小竜姫ではなくワルキューレが回答した。
「神・魔両界上層部が、先の事件において多大なる貢献をした横島さんがあまりに不憫だと……」
ちらっと令子の方を見ながら、小竜姫は話を続けた。
「何で私の方を見るのよ? それに誰が不憫だって?」
小竜姫の発言に令子は思わずむっとし、暗に自分の所為ではないと言い返したのだが……。
「誰も美神さんの所為で、とは言っていませんよ? それとも何か心当たりでもあるんですか?」
逆に小竜姫はこう言い返したのである。
「ぐぐ……」
令子は小竜姫を睨みつける以外、何も出来なかった。
「え〜と小竜姫様? やり直すってつまり……」
そこへ硬直状態から立ち直った横島が、小竜姫に尋ねたのである。
「過去に戻ってルシオラさんを救ってみませんか?」
小竜姫は横島の質問にこう答えるのであった。
しばらく考え込んでいた横島だったが、次のように言った。
「折角ですが、お断りします」
思いも寄らぬ横島の発言に、その場にいた女性陣一同は驚きを隠せなかった。
「横島さん、どうして断るんですか?!」
小竜姫が横島に問い詰めた。
――最愛の女性であるルシオラに再び逢えるチャンスなのだ。
――どうしてそれをあっさりと断るのか?!
「どうしてって? では逆に聞きますが、神族や魔族の寿命ってどれくらいなのですか?」
「例外はあるが、数百年から数千年と考えた方がいいだろう」
小竜姫の代わりに、ワルキューレが横島の質問に答えた。
「そうか……」
横島は暫らく黙っていたが、やがてポツリポツリと話し始めた。
「今にして思えば、アイツは生真面目すぎて多少融通の利かないところがあった」
初めて会った時の印象は、典型的な優等生であった。
「尋常ならざる力の代償として、アイツの寿命は1年しかなかった」
妹の我侭を聞いてくれた事への礼と同時に聞いた言葉が忘れられなかった。
「アイツの尋常ならざる強さと対照的な儚さが見え隠れしていたんだ」
夕日を見ていた彼女の横顔に心を奪われた。
「そんなアイツを俺は見捨てられなかった」
美智恵の術中に嵌り、逆天号から吹き飛ばされそうになった彼女の手を離す事が出来なかった。
「こんな俺をアイツは好きだと言ってくれた」
――下っ端魔族はね、惚れっぽいのよ……。
「後先考えない行動は、俺の専売特許だと思っていたのに……」
南極の戦いでの、創造主アシュタロスに立ち向かう姿が鮮明に思い出された。
「ほんの僅かだったけど、楽しい日常だった」
彼女との何気ない会話がとても新鮮なものに感じられた。
「あの笑顔の意味を俺には理解出来なかった」
あのときに感じた不安を気のせいと一蹴した事が今でも悔やまれてならなかった。
「俺達、人間以上に短い寿命をアイツは精一杯駆け抜けてきた」
「横島さん」
小竜姫達は黙って、横島の話を聞くだけだった。
「寿命が長ければ、腰をすえて行動する。それは、たとえ失敗しても十分にやり直せる時間があるからだ。
しかし俺達“人間”に与えられた時間は、あまりにも少ない……。だから必死に足掻くんだよ……」
――周りが呆れるほどにな……。
「……」
「アイツの生き様は正に“閃光”そのものだった。そしてその輝きは俺の心に強く焼き付いている」
「……」
「確かに人生をやり直す事が許されるんだったら、もう一度アイツに会いたいと思う。しかしそれでは、アイツが命を懸けてまで救った“世界”を否定する事になる」
「……」
「それは出来ない。そうすれば、アイツそのものを“否定”する事になる」
黙り込んでしまった横島に対し、誰も口を挟む事が出来なかった。
やがて横島が顔を上げた。
「横島さん!?」
横島の表情を見て、この場にいた全ての人達が愕然としたのである。
何故なら、横島の頬に一筋の涙が流れていたからだ。
「だから俺は現在(いま)を生きる事を選びます。そしてアイツが守った世界を失わない為に戦い続けます」
その表情に迷いはなかった。
「横島さん」
そんな横島の表情に思わず見とれてしまう女性陣であった。
一人だけ見とれた事を否定する女性がいたのだが……。
そしてこの日を境に、横島の“日常”が一変していくのである。
〜あとがき(もどき)〜
wald(ヴァルド)といいます。
一応、このSSは「夜に咲く話の華」に投稿していたものです。
過去に投稿したものを訂正した上で、小ネタ掲示板へと考えています。
正式に投稿するかどうかは、今後の状況次第です^^;;;
何と言っても転職活動中ですから……。(現在失業中です)
ではこれにて^^
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