人工幽霊壱号、幽壱は口付けされながら、その言葉の意味を体感していた。横島の溢れんばかりの優しさを、愛情を、そしてほんの少しの悲しみを体中で感じていた。
(これが・・・愛?マスター、これがあなたの言っていた愛なのですか?)
彼女は人外の存在でありながら人格を持つ。ないのは『心』だけだった。その小さな胸の内は、戸惑いと、今まで感じた事のない『愛しい』という感情でいっぱいになっていた。普段明敏な思考を発揮している彼女だが、今は完全に思考を停止させていた。しかしそれがなんとも心地良い。
「はぁ・・・・うぅん」
横島の唇が離れると彼女は小さく吐息を漏らす。横島は右手を彼女の頬に添えて、その感情のあまりない目をジッと見つめた。そしてわずかに表情を曇らせた。
「?」
幽壱がそんな横島の変化に気づき首をかしげてしまったため、横島は慌てて表情を戻した。
横島は優しい表情とはうらはらに、怒っていた。館の記憶を、そして渋鯖男爵の気持ちを知らされて怒っていた。男爵は『祥子』を愛するあまり、祥子を創ろうとした。しかしその結果はどうだろう?別人の幽壱ができてしまった。創られてしまった幽壱とは何なのだろうか?
そして横島は先ほどの口付けで分かってしまった事がある。幽壱の人工霊魂の中には『祥子』の魂が確かに存在していた。それはまるで不純物のように人工霊魂に混ざり、干渉していた。おそらく幽壱に『祥子』の記憶が存在しているのはそのためだろう。
『祥子』は死んでしまったが、本来ならいずれは転生して新たに生まれ変われるはずだった。しかし渋鯖はこの体に閉じ込めてしまったのだ。なんと自分勝手な愛情だろう。
しかし横島には渋鯖の思いが痛いほど理解できていた。横島の魂には彼の愛したルシオラがいる。しかも分離が不可能な状態で混じりあって。あらゆる方法を考えたが実現せず、そして最終的には『自分の娘として転生させる』という手段だけが残った。彼はその事に苦悩し、罪悪感を持ち続けていた。
横島の渋鯖に対する怒りは・・・・そのまま自分に対する怒りだった。
横島はもう一度幽壱の目を見つめた。彼にはいくつかの結論が出ていた。『祥子』の魂を救うには、この体と人工霊魂から助け出し、輪廻転生の輪の中に戻してやれば良い。文珠使いの自分なら不可能ではない。しかしその場合、幽壱はどうなってしまうのか?
幽壱の事は自分が責任を持って決断しなければならない。優しすぎる彼にはその思いがあった。しかしなんと重い決断をしなくてはならないのだ。まるでルシオラの時のように・・・・。
横島は幽壱の体をきつく抱きしめた。いつもにも増して優しい笑顔で。しかしその目からはとめどなく涙が零れ落ちていた・・・・・・・。
そして・・・・・・・
横島は文珠を発動させた・・・・・・・・・・・
続く
あとがき
すみません。横島と同様に、次の方にもつらい決断をさせそうですw。18禁は私には無理なので許してくださいw次の方がんばってくださいね♪
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